ビビはロングリングロングランドでの失態について、責任を取る必要があった。本日からホタルによる特別訓練が始まる。朝昼晩の訓練尽くしに加え、就寝時の特別訓練。寝る暇もなく鍛える事を強要されたビビは、流石に涙目だった。
「ビビ、貴方が船長になり二か月が経過しました。二か月の貴方の成長は、確かに素晴らしいと思います。兄様も褒めるほどに・・・。ですが、能力ばかり鍛えていても早死にします。以前にも言いましたよね。能力者の能力が強いのは当たり前、最後に物を言うのは己の肉体と覇気です」
「でも、ホタルさん。私も覇気を3分も継続できるようになったんですよ。最初より大分良くなったと思いませんか」
船長室の椅子に腰かけるホタルに、この二か月の成果をアピールするビビ。実際、二か月で覇気の継続時間を3分にしたのは、凄い事だった。ソラが出したレッスン1は、本来レッスン3に相当する。30分の覇気継続など半年以上かかる訓練だ。
だが、それではソラは間に合わないと考えている。
「そうね、ビビの努力も認めてあげるわ。だから、もっと強くなりましょう。兄様からも許可をいただいております。武士の情けです・・・この部屋の防音は抜群です。そして、どうしても耐えられない場合は私を呼びなさい。一度気絶させてリセットしてあげるから」
「ねぇ、ホタルさん。一体何をする気ですか?」
嫌な予感がするビビ。もし見聞色の覇気を鍛えていれば、少し先の未来が見えて逃げられたかもしれない。もし武装色の覇気をもっと鍛えていれば、耐えられたかもしれない。
ホタルはビビをそっと抱きしめた。そして、耳元で一言囁く。
「”ムラムラビーム”」
「っ!!?? 一体何をっ・・・あっ♡」
ビビの性的興奮が臨界点を突破してしまう。動悸が激しくなり、言いようのない感情が彼女の中を駆け巡る。その感情とは、性欲だ。押しとどめる事が出来ないほどの欲情。これが、ムラムラの実の圧倒的な能力。
「ビビ、覇気は全てを凌駕する。私の”ムラムラビーム”も覇気を維持する事で平常心を取り戻す事が出来ます。さぁ、集中しなさい」
「しゅ、集中・・・はぁはぁはぁ、無理。これは、無理。覇気で全身を覆っても、止まらないじゃない」
「おかしいですね。もっと、覇気を込めなさい。もしくは、圧倒的な覇気を込める事で、ムラムラを吹き飛ばすこともできます。そうしないと、朝までそのムラムラはとれません。まぁ、覇気で一時的に多少楽になるなら良いですね。それじゃあ、私は部屋の扉の前で寝ていますから、どうしてもの時は呼んでください」
「鬼、悪魔、ブラコン」
覇気を維持しなければ、眠る事すらできない環境を作る事で強制的に成長を促すプログラム。有限のエネルギーである覇気は、鍛えるほどその総量は増す。それを効率よく維持し、回復する方法を体をもって覚えさせる、誰にも真似できないプログラムだ。
その夜、ホタルはビビに一時間ごとに呼び出された。その度に殴って気絶させられ、再びムラムラにさせられる。眠る為には、圧倒的な覇気でホタルの能力を吹き飛ばすか、覇気を維持してムラムラを抑え込むしかなかった。
朝を迎えて朝食の席に現れたビビは、王女に相応しい雰囲気を出している。昨晩は何も起こらなかったという風に見えるほど自然体だ。だから、ソラはちょっとだけいたずらしたくなってしまう。
ソラとホタルは双子だ。つまり、真似ようと思えば雰囲気や声真似程度はできる。だから、気配を消してビビの背後に近づく。そして耳元でソラが囁いた。
「ムラムラビーム」
「きゃ!!」
顔を真っ赤にさせたビビ。その犯人がソラだとわかると、この睡眠不足の恨みをぶつけてやると睨みつける。そして、徐々にその目に覇王色の覇気が宿った。
「昨晩は、お楽しみでしたね。あまりホタルの睡眠時間を削らせないでください。睡眠時間は美容に直結する問題です。ホタルの美貌が崩れたらどうするんですか?」
「私が、昨日どんな思いで過ごしたと思っているんですか、ソラぁぁぁぁ!! 貴方がホタルに許可を出したんでしょ。貴方は、王女の貞操を何だと思っているんですか!!」
ソラは「止めろ、誤解されるだろう」と言いたかった。イーロン達は分かっているが、一般船員達がそれを聞いたら間違いなく誤解する。今もヒソヒソと言われている。
「そうですね・・・考えた事などありません」
「見てなさいよ。いつか、跪かせてあげるわ。その時は、三回回ってワンと言わせてあげるんだから」
ビビ王女が年下の男性に対して、三回回ってワンを言わせる趣味がある事を知り、ソラはその場で実演する。その事にご立腹したビビが、朝飯前だというのにソラに殴りかかり、返り討ちにあう。怒りに任せた攻撃など無意味だった。
◇◆◇◆
インペルダウンのレベル6の牢獄にいるクロコダイル。彼は、アラバスタの英雄としてある程度配慮された扱いを受けている。海楼石の手錠はされているが、タバコが配給され、新聞まで届けられる。
そして、彼にはいつも特別な贈り物が定期的に届く。アラバスタの王女であるネフェルタリ・ビビから愛を込めた立派なキノコだ。しかも、インペルダウンでは本来食べる事も難しいマツタケといった高級品。
そのすべてに、これを「貴方だと思っています♡」という、愛のメッセージプレートまで付けてくる。当然、看守や囚人達からネタにされ遊ばれる。看守達もその愛のメッセージプレートを囚人達全員に聞こえるように読み上げていた。
娯楽の少ないインペルダウンには、良い刺激になっている。
「おぃ、聞いたか。ご立派なマツタケを貴方だと思っていますだってよ。色男は違うね。流石は、アラバスタの白濁色の英雄!!」
「おぃバカちげーよ。アラバスタのヤリチンの間違いだろう」
「ちげーねーな。良かったじゃねーか。そのマツタケ、あの綺麗な顔をしたお姫様が育てたって話じゃねーか」
ブチブチとクロコダイルの毛細血管が切れる。アラバスタを支配する為、何年も耐え忍んできた彼だったが、我慢の限界はとうに超えていた。
「おまえら、絶対に殺す!! ここから出たら、真っ先に殺す!! 言い訳なんて聞かねェ!! 生きてきたことを後悔させてやる!! そして、俺をここまでコケにしたあの女もだ!! 絶対に許さねぇぇぇぇぇ!!」
「そりゃ、お前はそのうち出れるだろうな。なんせ、アラバスタの王女様・・・お前の婚約者様が保釈金を稼いでいるって話だ。泣けるね~。どうやったら王女様を落とせるか、ぜひご教授して欲しいね」
インペルダウンのレベル6は、今日も愉快だった。
ウォーターセブン編に入る予定です。