28:水の都ウォーターセブン
世界最高の船大工が集まる水の都ウォーターセブン。
海で命を預ける船なのだから、金で安全を買えるなら安い物だ。
「兄様。どうやら、1番ドックがこの町で最高の船大工が揃っているらしいです」
「なるほど、では1番は避けましょう。先に到着したルフィ達が必ず一番に行く。トラブルメーカーである彼と同じ場所では、私達も巻き込まれる可能性があります」
ホタルが調べた情報を活用して、ソラ達は1番ドックを避けた。そして、二番手のドックに船の修繕を依頼する。外部から内部までのフルメンテナンス。また、懐に余裕があったので、各船員から追加したい設備などの要望なども纏める。
船のメンテナンスが終わるまでは、船員達にお休みを出す事も忘れない。陸地での大事な休暇を楽しんでくれと、給料にプラスして宿泊費とボーナスを出した。ここ最近、山の幸であるキノコの売り上げがうなぎ登りで、この程度の出費はソラ達には痛くなかった。
「ソラも心配しすぎですよ。この町は、政府軍艦も作っていて海兵達も駐在しているんですよ。海軍本部も近いから、いくらルフィさん達でも大人しくしていますよ」
「じゃあ、ビビ。私と賭けをしますか?もし、賭けに勝てたらホタルとの夜の特別訓練・・・一週間休みにしてあげます。負けたら、今後、私も特別訓練に参加します。今まで以上に覇気を維持しないと、頭が馬鹿になるかもしれませんが、どうします?」
ソラが提示した賭けは、今のビビにとって魅力的だった。一週間も安眠できる。だが、負けた場合には、ソラがビビにアレを生やすという事になるので、ビビの特訓は単純比で二倍以上きつくなる。
「ソラ、賭けの条件は?」
「当然、気にしますよね。そうですね、”麦わらの一味”に水の都ウォーターセブンのアイスバーグ氏暗殺の嫌疑が掛けられ、仲間の一人ニコ・ロビンがエニエス・ロビーに連れていかれる。この島で、ウソップが仲間を一時脱退する。そして、ルフィ達が仲間を助ける為にエニエス・ロビーに乗り込むか、否か」
「兄様、流石にその条件はビビに優しすぎます」
ホタルもそこまで問題を起こせば、奇跡に近い確率だと思っている。”麦わらの一味”の結束を知っているからこそ言える。そんな奇跡的な確率の現象など起こらないと。その上に市長の暗殺嫌疑など、
よって、それらを総合してビビは、ソラの優しさを理解する。気を使ってくれていたんだと。こんな無茶苦茶な条件なんて成立するはずがない。勝負と言う形を取るという、ソラなりの不器用な優しさなんだと。
「仕方ありません、ソラ。その勝負、受けてあげますよ。・・・ありがとうございます」
「いえ、お礼を言われるほどの事はありません。さて、首の換金と荷物を業者に卸しましょうか」
フォクシー海賊団の懸賞金のほぼ全額が船の改築修繕費用で消えてなくなる。商船とは言え、大型になるとバカにならない維持経費が掛かる。だが、島から島へ航海できる事もあるので、他国の珍しい商品というのは、仕入れの何倍もの値段で売り捌くことができる。
特に、この水の都の人達には、山の
他にもアラバスタの特産品である香水なんて、どんな品物でも10倍以上の値段で売れる。ビビが普段使用している王室御用達の香水なんて一瓶200万ベリー以上だ。そんな大繁盛のお店は当然注目を集めた。
アラバスタの王女であるビビが来ている事もあり、水の都ウォーターセブンの市長であるアイスバーグも挨拶に来る。流石に、王族が来ているのに市長が挨拶に来ないわけにはいかなかった。
ビビは、王室育ちでありそつのない対応を行っている。世間話に加えて、旅の目的など、更には二番ドックを選んだ理由などだ。普通に考えれば、王女の立場があれば一番ドックの整備に捻じ込む事もできる。船大工のトップが集まる場所ならより良い整備ができると。
「いいえ、一番ドックは先客もいらっしゃる事を聞いております。こちらの都合で割り込むわけにはいきません」
「カリファ、二番ドックに他から余剰な人材を集めておきなさい。そのくらいなら構わないでしょう」
「既に手配済みです、アイスバーグさん」
カリファの視線の先にいるのは、ビビではなくソラとホタルだった。双子の鍛え抜かれたその肉体とビビを傍でそれとなく護衛するその様子はCPでなければ見抜けない。カリファがビビを殺そうと思って動けば、一人が防いで、もう一人がカリファの命を狩る。
アラバスタ王家が王女につけた護衛・・・それがカリファの見解だ。常識的に考えれば、一国の王女であり一人娘のビビを、クロコダイルの保釈金を稼ぐためとはいえ、
あいさつに来た市長と秘書を見送る。ビビは、カリファの雰囲気が少し後ろ暗いなと感じていた。どこか裏がありそうな気がするといった程度だ。その事をソラとホタルに言うと、なぜか一日休暇を貰える事になった。
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ソラとホタルは、休日を満喫するビビの護衛についていた。本当なら一人で自由にさせてあげたいところだが、水の都ウォーターセブンにCPがいるとなればそうもいかない。カリファという女性の正体は、ソラから答えを聞かずともホタルも理解していた。秘書にしては、鍛えすぎた肉体・・・間違いなく六式使いだと。
「久しぶりの休日!! それにしても、水の都って凄いわ。アラバスタでは考えられないくらい豊富な水。少し分けて欲しいくらい」
「色々な海を回りましたが、水源が極端に少ないのはアラバスタくらいですよ。ですが、それも近い将来には改善されると思います。ビビ、その中核を担うのは貴方なんですよ。
本来であれば、海水を真水に変えたいが悪魔の実の能力はどうしても海水との相性が悪い。
「そうですね、私の・・・ちがぁぁう。ソラの保管庫でしょ」
「兄様、ビビで遊ぶのもいいですが、ビビの休日を邪魔してはダメですよ。今日は、黙って彼女に付き合う約束です」
今日はビビが羽を伸ばす為に、ソラとホタルで取り決めた彼女の休暇。日頃の訓練を忘れて、楽しんでもらう。船長のメンタルケアもソラとホタルの大事な仕事だ。
美味しいものを食べて、買い物をして、カフェで休憩する。そして、ホタルを着せ替え人形にして遊ぶ。ビビは、当然のごとくソラにお会計をさせていた。妹の服を買うついでに自分の服まで上乗せするなど、ソラは都合の良い男として使われている。
今までの鬱憤もあったので、普段以上に買い物をするビビ。しかも、これから一週間は夜の特別訓練もお休みだと思うと、ビビは今から夜が待ち遠しかった。人間の三大欲求の一つである睡眠欲を満たせるのだから。
「号外!! 号外だよ!! アイスバーグ氏の暗殺未遂事件だ!!」
「えっ?嘘・・・でしょ!!」
昨日挨拶した市長のアイスバーグが、今日になり暗殺されかけるという事態にビビは耳を疑った。この状況は、まるでソラが昨日賭けで言ってた事が現実になったかの様だった。この島でアイスバーグの暗殺などやろうものなら船大工全員を敵に回すのと同義。生きて島から出る事はできない。
「賭けは、兄様の勝利になりそうですね。ビビ、さっきのお店であと何着か下着を見繕いましょう。たぶん足りなくなるので」
「ビビ、この世の終わりみたいな顔をしないでください。道のど真ん中で通行人の邪魔になってますよ」
ソラはビビを引きずって行く。彼女は手に持った号外を読み、どうしてこうなったと絶望するばかりだ。だが、”麦わらの一味”に嫌疑がかかっているという情報はないため、可能性を信じていた。
◆◇◆◇
ソラは、水の都ウォーターセブンでのゴミ掃除をどうしようか悩んでいた。船大工達にメンテナンスを頼んでいる都合上、しばらく滞在する必要がある。だが、ここの船大工達は、海軍だけでなく海賊達の船の修繕も請け負っている。
現在、各ドックにて何名かの海賊が船大工の世話になっている事がわかっていた。
「船大工達は、海賊ではない。造船所に支払いを終え、出港と同時に皆殺しにする。首は換金し、修繕された船は造船所に買い取ってもらおう」
「それが妥当な線ですね、兄様。ここまで来られた海賊達ですから、多少良いお金になりそうです」
「儂も賛成だ。支払い前に殺してしまうと、造船所への支払いが有耶無耶になってしまうからの」
「僕も賛成だけど、ビビが居ない場で決めちゃっていいの?船長でしょ、彼女」
せめて今日くらいは、安眠させてあげようというソラとホタルの心配りだった。目が覚めたら、アイスバーグ暗殺事件なんて夢だったとビビは信じたかっただろう。だが、現実はもっとひどい。
彼女が寝ている今この時間もこの町は大事件の渦中にある。”麦わらの一味”への嫌疑がより濃厚になり、ガレーラカンパニーが大変な事になっている。
「それと、この町にCPがいますので油断しないでくださいね。相手もこちらが何もしなければ無視するでしょうから、積極的に関わらないように。特に、ガレーラカンパニーのカリファという秘書は、確定です。後、1番ドックの連中にも極力近づかないように」
「世界政府直属の情報機関が、水の都に何の用事なんでしょうね? 秘書をしている彼女がCPという事は、何年かの潜伏任務だと思います。ですが、兄様の言う通り、関わるとろくな事にならないので放置ですね」
この水の都に集まる海賊達は、次の島にたどり着く事が出来ない。この島にいる『海賊狩りの王女』が彼らを決して見逃さないだろう。明日の朝刊で”麦わらの一味”に嫌疑が掛かった事を知り、ソラとの約束が現実になるかもしれないと絶望してしまう。その不安をごまかすため誰かに八つ当たりしたいビビ。不機嫌な彼女を前にした海賊達に未来はない。