CP9の長官にして、水の都ウォーターセブンと何かと縁のある男スパンダム。彼の大好きな物は、出世と権力。その為、現在の地位まであの手この手で上り詰めた。武力はないが、社内政治が得意なタイプであり、人を使う事に関しては才能があった。
今、彼の元には二つのピースが揃おうとしていた。
一つは、ニコ・ロビン。バスターコールで滅んだ考古学の聖地オハラの唯一の生き残り。ポーネグリフを解読し、古代兵器をこの世に蘇らせる事が出来る存在。子供の頃から懸賞金を懸けられて生き延びる為、各地を転々としていた。そして、”麦わらの一味”の真の仲間になりCP9の魔の手から仲間を守る為、政府に投降した。
もう一つは、フランキー改めカティ・フラム。水の都ウォーターセブンの船大工達に代々引き継がれている古代兵器プルトンの設計図を保有している。他の古代兵器が復活した時の対抗策として用意されている物だ。これがあれば、大海賊時代を終わらせる可能性がある程の兵器だ。
その二つをスパンダムは、政府に渡そうとしている。その結果で得られるのは、彼に対する莫大な恩賞と確約された地位だ。今から二つの到着が待ち遠しい彼の元に一通の電話がかかってくる。
スパンダムの立場的に、彼への直通電話を知る者は多くない。政府関係者が本件をどこからか聞き、媚を売りに来たかと思った。甘い蜜には蟻が群がる。目ざとい連中は、どこにでもいる。
『はい、こちらスパンダム。どちら様だぁ?』
『初めまして、CP9長官のスパンダム様。私は、アラバスタ王家ネフェルタリ・ビビです。少し、貴方とお話をさせていただきたくお電話をしました』
出世する為に蓄えたスパンダムの知識がフル活用される。
昨今発生したアラバスタの大事件は、政府への報告書にも詳細が記載されていた。本件で英雄とされていたクロコダイルは、海軍が捕らえてエニエス・ロビーからインペルダウンに収監された。
そして、定期的に王女から届けられるクロコダイルへの贈り物もここを経由している。流石に王家の贈り物に手を出す事が出来ないので、スパンダムも悔しい思いをしていた。だが、このタイミングでその王家から電話が掛かってくるという事は、何が目的かをスパンダムは察していた。
『これはこれは、悲劇のビビ王女ではありませんか。一体、どのようなご用件で? 世界政府経由で王家の方のお話ともなればお伺いしたいのですが、立場上忙しい身でしてね』
『失礼しました。実は、少し面白い情報を耳にしまして。アラバスタにて狼藉を働いていたニコ・ロビンが海軍に捕まって、貴方の元に護送されていると。インペルダウンに連れていかれては、私でも彼女と話す機会がありません。ですが、貴方の権力下であるエニエス・ロビーならば話は別です』
出世において大事な事は、恩を売る事だ。その恩を高く売りつける事が大事だ。売る恩は、自分にとって安価であれば差額が丸儲けになる。
今のスパンダムにとって、これから死にゆくニコ・ロビンを使ってアラバスタ王家に恩を売れるのならば良い買い物だ。間もなく、CP9が勢揃いする。アクア・ラグナの影響でニコ・ロビンの仲間である”麦わらの一味”は来ない。
これは、ちょっとだけ王女の気を済むまで会話をさせる簡単な事だ。つまり、スパンダムとしては、棚から牡丹餅だ。
『えぇ、その通りです。本来なら、護送される罪人と会話など無理です。ですが、アラバスタ王家の王女からの頼みとなれば一考する価値はありますね~。ですが、人に物を頼む時は、お分かりですよね?』
『・・・そうでしたね。直接面会させていただけるのでしたら、1億ベリー。電話で会話をさせて頂けるのでしたら、3,000万ベリーをお支払いしましょう』
『い、一億ベリー!!??』
『えぇ。私は、『海賊狩りの王女』と言われています。今までの稼ぎは、政府もご存じでしょう? 。私が万が一、殺してしまった場合に備えた保険金として、その程度をお渡しする準備はあります。なんせ、彼女はアラバスタで犯罪を行っていたのですから、事故が起きる可能性もあります』
『海賊狩り王女』が今まで海軍に持ってきた賞金首は、全て死んでいた。生存していた例は存在しない。つまり、ニコ・ロビンとビビを会わせてしまえば、苦労して捕らえた古代兵器復活のキーが死んでしまう。
スパンダムは、損得を計算した結果、ビビとニコ・ロビンの電話でのやり取りを許可した。それだけで3,000万ベリーという大金が手に入る。美味しい取引だ。
『分かった。ニコ・ロビンが到着次第。特別に!! 会話を許可する。感謝してください。後、約束の金は後日必ず届けるように』
『王家の名に誓って』
電話が切れて、思わぬ副収入に高笑いをするスパンダム。その反対側では、ビビが安堵している事を彼が知る事はなかった。
◆◇◆◇
電伝虫を使った会話を終えたビビ。これで一安心と安堵する。
海列車がエニエス・ロビーに到着して、スパンダムからの連絡を待つばかり。これで、”麦わらの一味”との約束を果たせる。その上で、夜の特別訓練の時間を減らせると喜んでいた。
この電話を傍で聞いていたソラ達は、約束を果たす最低条件は整った。
「第一段階はクリアしましたね、ビビ。王家の看板は、伊達じゃなかったという事ですか。それにしてもアラバスタの威光・・・ですか」
「なんですか、ソラ?アラバスタ王家の威光は、世界政府にも通じるんですからね。だから、その王女に特別訓練なんてしている事がばれたら打ち首ですよ。う・ち・く・び」
久しぶりに王女らしい事をしたビビ。外面が良いだけに、外交でさぞ役に立つだろう。だが、それが通じない世界も存在する。
「兄様。ビビは、頭をバカにして欲しいみたいです。この状況でそれを口にする度胸だけは認めてあげます。精々、ニコ・ロビンとの電話の際には、覇気の維持を頑張りなさい。大恥をかきたくなければ」
「多少、汚れ系王女様の方が庶民派として受けがいい。なーに、世界政府に対してアラバスタ王家の威光が通じるなら、口止めもできるでしょう。ですが、私もホタルも鬼じゃありません。覇気はすべてを凌駕する。貴方の尊厳を守れるのは、覇気だけです」
ビビは、知った。口は禍の元だと。
彼女が自分を追い詰めていくスタイルは、ソラ達も嫌いではない。人は追い詰められなければ力を発揮できないタイプもいる。
・・・
・・
・
スパンダムからの電話を待つ時間。ソラ達は暇を持て余している。アクア・ラグナが終わらない限り外出もできない。イーロンとワズキャンは明日に備えて就寝しており、残されているのはソラ、ホタル、ビビの三人だ。
「兄様。この町にCPが居ましたが、彼等は何を探していたのでしょうか?私も数日色々と情報を纏めたのですが、分からなくて」
「それは私も気になっていました。CPといえば、世界政府直下の情報機関。詳しくは言えませんが、アラバスタでも一時期CPが王宮に潜入する事件もあったんです」
ソラも詳しい背景までは知らない。だが、妹の疑問に答えるのも兄の務めだ。
「この町の船大工には、古代兵器プルトンの設計図が受け継がれているんです。アラバスタにあるポーネグリフに書かれている古代兵器プルトンの設計図ですよ。過去の偉人があれを図面にした現物がね。だから世界政府はCPを使って入手しようと、あの手この手を使いました」
「また、古代兵器ですか。世界政府は古代兵器を信仰しすぎですね。古代兵器と四皇が衝突したら四皇の方が勝ちそうな気がしますね、兄様」
本当にその通りだと思う。古代兵器が必中で島をも確実に吹き飛ばすなら別だが、動く相手に当たるかという疑問がある。
「ねぇ、ソラ。お父様から色々聞いていたりする?妙に詳しいというか、詳しすぎるというか。その情報って知っていたら、世界政府に狙われるわ」
「コブラ国王からは、何も聞いていませんよ。古代兵器プルトン、古代兵器ポセイドン、古代兵器ウラヌスとか、全く知りません。アラバスタや魚人島、ワノ国が関係しているなんて知るはずがないじゃありませんか。ねぇ、ビビ
この船の最高責任者は、船長だ。つまり、部下が知っていて船長が知らない事はない。そういう理屈が通ってしまう。そもそも、状況的に考えてもビビ王女が古代兵器の情報を船員達に漏らしたという方がしっくりくる。立場的にもそうなる。
コブラ国王から王家としての教育でビビも古代兵器の存在を知っていた。国外に旅立つ一人娘だ。不在の時に、コブラ国王に万が一があれば失伝してしまう。クロコダイルの一件もあったので、コブラ国王は娘に全てを教えていた。
「良かったですね、ビビ。これで私達は、兄様と一蓮托生です」
「ソラのバカぁぁぁ!! そんな話聞きたくなかったわ!! 完全に、巻き込まれたじゃない。人の心とかないんですか、ソラ。覚えてなさい、いつかこの手でボコボコにしてあげるんですから。それまで死ぬんじゃないわよ!!」
ソラは、「楽しみにしています、ビビ」と笑顔で答えた。
ビビは、ソラとホタルに何かあれば救わねばならない使命を背負った。万が一、双子から古代兵器の事が漏れれば、疑われるのはアラバスタ王家。世界政府にも、海賊達にも、目を付けられる。
この大海賊時代を生き残る為、ビビは今日も生き延びる。