スパンダムからの電話はなるべく長引かせる必要がある。そこで、ソラは台本を考えた。何もなしに話をしては、直ぐに会話が終わってしまう。そして、その会話内容もスパンダムの邪魔が入らないようにする必要があった。
「ソラ、この台本って本気なの?」
「勿論。ビビの立場や取り巻く状況を最大限に活用した素晴らしい台本です。センシティブな内容なのでスパンダムも止めにくい。更に、ルフィ達にも多少傷を負ってもらいましょう。その方が、鬱憤が晴れますから」
「しかし、兄様。以前ならいざ知らず、今のニコ・ロビンは仲間を救うため犠牲になる事を厭わない女性です。その彼女が、話に乗ってくるでしょうか?」
ホタルの言う事も一理あると考えたソラ。
ニコ・ロビンとしては、長話に付き合う理由はどこにもなかった。早々に、海軍に裁かれる事で”麦わらの一味”を救う事に焦点を置いている。
「そうですね。でしたら、彼等がニコ・ロビン救出に向かっている事も話に混ぜましょう。そうすれば、彼女も多少なりとも興味を引くはずです」
「やれと言われればやりますけど、後で彼女に恨まれそう・・・ソラ、ホタルさん。一緒に責任取ってくださいね」
「「嫌ですけど」」
声を揃って、断りをいれる双子にビビは怒りを覚えた。
だが、時間は待ってくれない。ビビは、”麦わらの一味”の仲間として彼女を救う為、心を鬼にした。女としてこれ以上最悪な事はないが、同じ気持ちを共有できるならば友達にもなれるだろう。
ソラの台本のタイトルは、『この泥棒猫!! 貴方のお腹にクロコダイルの子がいるのよ。死ぬなんて許せないわ!! 』という物だ。
救国の英雄クロコダイルの婚約者として世間では言われているビビだからこそ、愛する男性をNTRされた王女に相応しい。ニコ・ロビンは、バロックワークスに「何でもします」という謳い文句で入社してきた。そして安全な住処を得た幼い少女は健やかに成長し、やがて美人と称されるようになり、ついには彼の右腕にまで上り詰めた。光源氏計画を本気で実行したクロコダイル。王下七武海だから、美人秘書と肉体関係があって当然だ。
つまり、状況証拠はすべて出来上がっていた。クロコダイルはインペルダウンの地下深くにいる為、真実は闇の中。幾らでも話を作る事ができる。
「安心してください、ビビ。今回の一件は、モルガンズも是非協力したいと回答をいただきました。ビビとニコ・ロビンの会話は、彼らの取材のネタとして全世界に羽ばたくのです。これで、貴方の立場に世間は同情する。海賊に愛する男性をNTRされた悲劇の王女として語り継がれるのです」
「だから、この嵐の中なのに命がけで取材に来た世界経済新聞社の者がいたのですね。これは、ありですね。ビビと”麦わらの一味”の無関係を証明するどころか恋敵がいる海賊となれば、関係が疑われる事はないわ」
「死ねぇぇぇぇ!! ソラぁぁぁぁぁ!!」
武装色の覇気で強化されたビビの回し蹴り。ソラの首をへし折り殺す為、ビビの持てる全てを乗せた攻撃だ。その威力にソラも目を見開いた。腕で受け止めたら骨にダメージが残る事を察して、手の甲を盾にして受け流す。殺人カビ”グリーン・ディ”がソラの覇気を侵食し蝕む。
「凄いわね、ビビ。一瞬、兄様の覇気を超えたわ」
「スリップダメージも凄いな。その調子で、成長してください。”指銃・正中線四連突き”」
痛くなければ覚えない。それが、ビビの修行の基本だった。ビビの殺意と覇気を纏った一撃に対して、ソラは相応の返礼をする。
血を流して倒れるが、彼女の目にはしっかりと闘志が宿っている。自分の足で立ち上がり、
「覚えてなさいよ、ソラ」
その負け惜しみにソラは、その場で三回回ってワンと吠えて回答する。人をコケにするソラに対して、ビビの瞳に宿る光がより強く激しく輝く。覇王色の覇気を自在に操れるようになるまで、ビビはあと少しだった。この怒りの感情こそ、覇王色の覇気の鍵だ。
それからしばらくして、運命の電話が鳴り響く。世界経済新聞の記者は、”麦わらの一味”の悪行を知る事になる。
・・・
・・
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ビビの身を呈した献身のおかげで、ニコ・ロビンの足止めには成功した。失った物は大きかった。これが海賊の仲間になるという事であり、彼女が選んだ道だ。
ソラは、翌日の新聞を確認し唖然とする。
「事実は小説よりも奇なりとは、よく言います。司法の島エニエス・ロビーの崩壊、バスターコールの発動、CP9の壊滅、”麦わらの一味”逃亡・・・どうして、誰一人欠けることなく生還できているんでしょうか?」
「本当に、どうしてでしょう? 兄様に分からない事は、私にもわかりません。水の都ウォーターセブンで見かけた女性CPレベルが複数人も居れば、誰かが死んでるはずなのに、全員無事というのは奇跡ですね」
前代未聞の大事件。一つの海賊団によって、世界政府の看板に泥が塗られた。アラバスタ王家の力をもってしても、”麦わらの一味”への減刑は望めない。それどころか、関係を疑われた時点で不味い事になる。
「どうして、あの短時間でこんなにも問題が起こるのよ!? ルフィさん達は、ロビンさんを救う為にエニエス・ロビーに行ったんじゃなかったんですか!! 世界政府に対して、ここまで喧嘩を売るとか聞いてませんよ!!」
ビビが今朝の朝刊を握りしめ机を叩いていた。ダンダンと大きな音で叩かれている机は、高級品なので止めて欲しいなとソラは思った。
イーロンやワズキャンも朝刊を読んで、首をかしげるばかりだ。どうして誰も死なないんだ、と。世の中、不思議な事があるなとボヤくばかりだ。
「あり得んだろう。バスターコールじゃぞ。儂みたいな魚人ならば海に逃れるという方法はあるが・・・どんな手品だ」
「僕も同感だね。海軍中将が5名でしょ。中将と言えば、覇気の習得は必須。僕でも中将一人相手にできるかどうか・・・」
「イーロン、ワズキャン。それどころかもっとすごい情報もあるんだよ。同行したフランキー一家達も誰一人欠けることなく生還したそうだ。1万人の海兵が詰めているエニエス・ロビーを相手にし、バスターコールを受けても誰一人死なずにね」
偉業を通り越している。それどころか、気持ち悪いと言えるレベルの成果だ。ソラ達に同じ事ができるかといえば不可能だ。大所帯であればあるほど、被害が出る。
この異常性が正しく評価され、”麦わらの一味”の懸賞金は爆発的に上がった。
“麦わらのルフィ”懸賞金3億ベリー
“海賊狩りのゾロ”懸賞金1億2,000万ベリー
“泥棒猫ナミ”懸賞金1,600万ベリー
“黒足のサンジ”懸賞金7,700万ベリー
”わたあめ大好きチョッパー”懸賞金50ベリー
“NTRの悪魔ニコ・ロビン”懸賞金8,000万ベリー
おまけで “サイボーグ フランキー”懸賞金4,400万ベリーとなっている。
”麦わらの一味”はトータル6億オーバーの懸賞金となっていた。この異常な上がり幅は、過去に例を見ないレベルだ。一人、不名誉の異名を得て政府にクレームを入れているとかの話もある。
「ねぇ、ソラ。私は、新聞社にクレームを入れたいんだけど良いかしら?」
「兄様は忙しいのよ。で、どの記事?そんな変な記事あったかしら?」
「ありましたよ、ホタルさん。ここ!! ここを見てください。「悲劇のNTR王女ビビの涙」って書かれているでしょ!! 記事の内容も大分脚色されているし、「海賊と王女を股にかける、漢の英雄クロコダイル」とかも載ってますよ」
アラバスタでは、ニコ・ロビンとビビのどちらがクロコダイルを射止めるか賭けが始まる。
しかし、その一方でガチでクロコダイルの息の根を止めようとする勢力が一つ増えた。ニコ・ロビンである。ビビの捨て身の時間稼ぎもあり、彼女が助かったのは事実だ。だが、もっといい助け方はなかったのかと思うところがある。
その結果、世界中で「ニコ・ロビンがクロコダイルの愛人であり、子供を身籠っている」と言われる不名誉を授かった。愛人と正妻の女の闘いが幕を開けたとも言われる。
「ビビ、考えて下さい。今回の時間稼ぎの台本は、貴方がクロコダイルの子供を身籠っている話にしてもよかったんです。しかし、なんか嫌だったのでニコ・ロビンにその役をしてもらいました。感謝してもいいんですよ」
「そうよね、あり・・がとう?」
釈然としないビビ。
だが、ソラの気遣いもあったと理解し、ビビも納得する。その日は、なぜかホタルの訓練が通常の2割増しで厳しかった。その結果ビビは、花畑の向こうで手を振る母親の幻を見る。