33:シャボンディ諸島
『海賊狩りの王女』一行が海軍の英雄ガープ中将と引き分ける。この衝撃的なニュースは世界経済新聞社から全世界に羽ばたいた。海賊狩りとして彼女が進んだ後は、海賊達にとって死の大地とまで言われるようになる。
美しく、強く、気高い、高貴な王女として、民衆の希望の星となっていた。
それもそのはず、世界政府の後押しもあった。司法の島エニエス・ロビーでの大惨事があり、世界が求めているのは揺るがない正義の英雄だった。そのイメージ戦略にシンデレラフィットしたのがアラバスタ王家のネフェルタリ・ビビ。
彼女の従者として、ソラとホタルも世界デビューする。今までメディアに素顔が露見せずにいた双子だが、とうとう取材を回避する事が出来なくなった。だが、所詮は写真に写る双子の子供だ。年頃のように可愛らしく、「ビビ、お姉~ちゃん」とか口調で媚を売っていれば内側がバレる事はない。
その背筋が凍るような女に媚びへつらった言葉を聞いたビビは、鳥肌が立ちソラの首元を締め上げる所が写真に撮られる。涙目で「ごめんなさい、ビビお姉ちゃん。もうしないから、許して」とか追い打ちを掛けるソラ。それに乗じてホタルがビビの足にしがみ付き「ソラお兄ちゃんをこれ以上いじめないで、私が何でもするから」と演技をしてトドメを刺しに行く。
ビビが率いる商船は、ビビの絶対王政が敷かれている事がこれで周知の事実となる。その新聞記事を見たビビは、魂が抜けたかのように食卓に倒れこんでいた。
「我ながら、年頃の可愛らしい子供を演じたと思います。ホタルが涙目でしがみつく写真なんて、アカデミー賞ものですよ。・・・あれ? どうしました、ビビ。行儀が悪いですよ、ビビ船長。それとも、ビビお姉~ちゃんって呼びましょうか?」
「兄様の涙目も可愛いです。ビビ、この新聞貰っていきますね」
「『海賊狩りの王女』は、子供嫌い!? って、何よ。ソラとホタルさんがどんな人間かも知らないモルガンズはバカよ。この商船の正体を碌に調べもせずに面白可笑しく書き立てて」
そのバカのメディアの力は、凄まじい。
今現在、アラバスタ王家には国家間の軍事同盟やメディアの取材が多数申し込みが爆発的に増えた。世界政府は、ビビ一行の戦力を王下七武海の一人と同格という見解を出した。ガープ中将と引き分ける事が出来る戦力を遊ばせておくなど勿体ない。
それを率いるのはアラバスタ王国の王女であり、簡単に戦力として換算できる立場ではない。だが、ビビはメディアを大きく騒がす台風の目だ。愛するクロコダイルがインペルダウンに収監されている。これを世界政府は、利用しようと考えた。司法取引でクロコダイルを解放する代わりに、海軍の要請に応じる条件で糞真面目に内部調整が進んでいた。
その記事を楽しそうにソラは読んでいた。
「ビビ、政府は司法取引を検討しているみたいですよ。ガープ中将と引き分ける戦力と元王下七武海クロコダイルが顎で使えるなら、悲劇のNTR王女に男を返そうと」
「本当ですね、兄様。記事からは、
先日のガープ中将との一件がここまで世界に影響を与えるとは誰も予想できない。ソラ達が
ソラ達が次に目指すのは、シャボンディ諸島。
本当ならインペルダウンに収監されているクロコダイルを暗殺したい。そして、収監されている囚人達を皆殺しにして世界平和に貢献したいが、今行く理由がない。ソラ達は犯罪者ではない。犯罪者の暗殺以外は、しっかりと法の許可の元で皆殺しにする。
「魚人島が近くなってきたな~。イーロン、魚人島に到着したらご家族に挨拶をさせてください。お世話になったイーロンのご家族にお礼を伝えたい」
「儂は別に構わんが、来ても何も面白い物はないぞ。それどころか、人間のお主達は歓迎されない可能性の方が高いが良いのか?」
魚人と人間の間には、色々なイザコザがあるのは事実だ。天竜人も一枚絡んでおり、事の複雑さは頭を痛める。しかも、人魚を捕まえて売りさばこうとする海賊も後を絶たないと来た。
ヒューマンショップでは女の若い人魚の買い取り価格が7,000万ベリーだ。魚人島は世界政府に加盟しているのに、この法外な値段で取引されている。この価格を分かりやすく言うと、最弱の海である
海賊を滅ぼしたら、ヒューマンショップのゴミも掃除したいとソラは思っている。命を懸けて海賊狩りをするより、人魚一匹捕まえた方が遥かに儲かるとかあってはならない。
「ねぇ、ソラ。魚人島って海底にあるはずよね? シャボンディ諸島でコーティングしてもらうつもり? 確か、腕の良い職人じゃないと海中で船が大破するとかも聞いた事があるわ」
「その通りですよ、ビビ。我々は、海賊狩り兼商人みたいなものです。魚人島に行くことに何の問題がありますか?世話になったイーロンをご家族の元に送り届けるのは大事な仕事です」
腕の良い職人に一人だけ心当たりがソラにはある。
会った事もないが、風貌だけは今でもしっかり覚えている。時期的に考えれば、今なら手すきだという事も。これから来るルフィ達の前ならば仕事も請け負ってくれるとソラは信じていた。
「コーティングは、船員の命に関わる事なので本当なら嫌なのですが・・・心当たりがあります。探して、彼に依頼をしたいと思います」
「誰ですか、兄様? 私には心当たりがありません」
シルバーズ・レイリーがやっているコーティング屋がシャボンディ諸島にある為、ソラはそこを頼ろうとしていた。職人としての腕は間違いない。口も堅いし、不正もしないという事で信頼がある。
彼の名を口にしようと思った時、海面から声が聞こえた。海面を確認すると女性がこちらに手を振っていた。ソラは、よく見る手段だと理解する。
「す~み~ま~せ~ん!! 」
「海難事故を装ったよくある手法だと思ったが、周辺5キロ圏内にチ〇チ〇レーダーに反応がない。ホタルの方は?」
「こちらも同じです。彼女以外、ムラムラは検知できません」
この海のど真ん中で女性が一人泳いでいる。
「聞こえてますか~?この船にイーロン叔父さんがいるって新聞で読んだんですけど」
「け、ケイミー!! なんで、お前がこの海域にいる!?」
イーロンが海に慌てて飛び込んだ。
イーロンの事を叔父さんと呼べる海の女。つまり、答えは一つだ。彼女はイーロンの親族。これは、逃がさないとソラは気合を入れた。直ぐに船員達へ歓迎の準備をするように伝える。
ソラの脳内では、これからの対応を高速でシミュレーションする。ケイミーと名乗る女性が、イーロンにとって何なのかが重要なポイントだ。魚人世界の生活体系や生活習慣、一般的な家族構成などは、世間一般的には知られていない。叔父と姪で結婚するのが常識的な世界だってありえる。
これは、ソラ達に舞い降りてきた絶好のチャンスだった。天は、イーロンを手放すなと言っている。
「イーロン。彼女にご乗船頂いてください。私達にも是非紹介してください。最高のおもてなしを約束します」
「はぁ~、ソラ。お前さんの今の顔は、凄く悪人顔だったぞ。考えている事が透けて見えとるわい」
見聞色の覇気など無くても今のソラの顔を見れば、誰だって彼の考えている事が分かってしまう。「イーロン、遂に弱みを見せたな。絶対に逃がさないぞ!!」という心の声が聞こえてくるようだ。
・・・
・・
・
イーロンは、ケイミーと呼ばれる女性・・・人魚を連れてソラ達の前に戻ってきた。
「姪のケイミーだ。兄が人魚と結婚したから、その系譜で彼女は人魚なんだ」
「初めまして、ケイミーです。行方不明だったイーロン叔父さんが、先日『海賊狩りの王女』の船に乗っている記事を見て、来ちゃいました」
純粋無垢な瞳を持つケイミーという人魚。この船には居ない人材だ。人間のどす黒い感情を知らない。こんな人魚が魚人島の外に出たら、悪い大人の食い物にされてしまう。そう感じる程だ。
世間知らずのお嬢様ではなく、性善説を信じる心が綺麗な人魚だ。
「なんと、イーロンには兄までいたんですね。それはそれは・・・ケイミーさんでしたか。私達がイーロンと貴方を安全に魚人島までお届けします。それまでの間は、この船でゆっくり滞在してください」
「ありがとうございます。イーロン叔父さん。ソラさんっていい人だね」
ソラをいい人と理解するケイミー。ホタルは「理解力があるいい子」だとケイミーを褒めるが、ビビは「騙されたらダメです」と訴えた。「この笑顔の下は、恐ろしい悪魔が潜んでいるんです」と必死に説得する。
「ケイミーさん。騙されたらダメです。ソラは、貴方を使ってイーロンさんをこの船に縛り付けられないか考えています。王女として・・・いいえ、女の勘がそう言っています。しかも、自分の手を一切汚さずその運命を辿り寄せる事がソラには出来てしまう。逃げるなら今です、直ぐに海に帰った方がいい」
「ビビ、貴方は私を何だと思っているんですか?ケイミーさんは、このような人間不信になってはいけませんよ。確かに、世の中危険な人間は沢山います。特に、貴方は美しい人魚です。碌でもない人間に捕まってしまえば、それこそ人生は終了です。ですが、私達はそうではありません。世界から海賊という無法者を焼却する、正義の使者です」
今までの積み重ねがソラが言う事を真実だと裏付ける。どんなに調べても、世間一般的な正義しか行っていないソラに死角はない。
人魚の客人を迎えてソラ達は、シャボンディ諸島へと到着する。コーディングが目的である為、コーティング屋が多くいる50番区画にソラ達は停泊した。アラバスタ王家の御用達で『海賊狩りの王女』ビビが乗船する注目の船だ。
どこのコーティング屋も声がかかれば、喜んでコーティングを請け負ってくれる。だが、ソラは全く信用していない。人魚のお客様もいるんだ。業者の背後関係もわからないような所に声など掛けられない。
「では、ビビとホタルを連れて職人と交渉してくる。それまでは、船員達にも休暇を出します。ただし、この島には天竜人がいるので、近寄るな。見かけたら、膝をついて目を合わせないように」
「イーロンさん、ケイミーさんは人魚なので目を離さないでくださいね。この島には、海賊、賞金稼ぎ、人攫い達がウヨウヨいます。シャボンディ諸島では、魚人族及び人魚族に人権は存在しないらしいです。念のため、ワズキャンさんも船の守りをお願いします」
この島の情報屋から懸賞金付きの海賊達の情報を仕入れて、皆殺しにする計画もソラ達は水面下で考えていた。だからこそ、50番区画に停泊して海賊船がどの程度いるか把握に努めた。
夜になり月明かりが照らす時間になれば、ソラとホタルがチ〇チ〇ビームとムラムラビームで海賊達を壊滅に追い込む。新世界を目前に内部崩壊する海賊達の首が沢山集まるという作戦だ。
ソラは、信頼できる腕を持つコーティング屋レイリーに会うためシャボンディ諸島に踏み入った。最初に目指すのは、13GRにある「ぼったくりBAR」という情報屋だ。そこに目的の男が居ても居なくても全てはここから始まると信じている。
◆◇◆◇
『海賊狩りの王女』の船がシャボンディ諸島に上陸した事は、島中に知れ渡る。特に、情報に敏感な海賊達は、逃げ出すか隠れてやり過ごす事のどちらかを選ぶ。町の情報屋である「ぼったくりBAR」の店主であるシャッキーは、上陸からここまで真っすぐに来たソラ達に驚いた。
「あら、今世間を騒がす『海賊狩りの王女』様じゃない。うちのようなお店に来るような客じゃないわね」
「コーティングを頼みに来たのですけど。本当にここで合っているんですか、ソラ?」
ビビに付きそう金髪の双子。シャッキーは、情報屋として双子の事を知っていた。フル・T・ソラ、フル・T・ホタル。最近、表舞台から消えたと思っていた二人が『海賊狩りの王女』のお供になっている。だが、直ぐに彼女はその間違いに気が付いた。逆である。双子に王女がくっついているという方が事実だ。
「”冥王”レイリーに用事ではなく、腕の良いコーティング屋レイリーに用事があってきました。それとヒューマンショップに出品される予定の奴隷でアラバスタ出身者のリストが欲しい。後、人攫いグループと各ヒューマンショップの位置情報もください」
「ビビ。兄様と相談した結果、アラバスタ出身の奴隷は我々で買い上げます。それから、国に帰るか商船で働くか決めてもらいます。我々は、アラバスタ王家の威光がある船です。ここであなたが何もしないわけにはいかないでしょ?」
だが、それには潤沢な資金が必要になる。つまり、新世界を前にした海賊達の皆殺しが始まる。
「悪いけど、ここ一年程帰ってきてないよ。ギャンブル場かどこかにいるんだろうけどね」
「ですが、貴方ならコーティング屋レイリー・・・いいえ、レイさんを呼べるでしょう。アマゾン・リリー先々代皇帝様。海賊に海賊狩りとして会いに来たわけじゃない。情報屋とコーティング屋に客として来ているんです」
仲間の安全を買う為、来ているソラ達。これで断られたら、他をあたる。だが、その時は、海軍に面白い情報が伝わる事になる。シャッキーは、知られるはずのない情報を知っているソラに警戒心を表す。
「あんた、それをどこから聞いたんだ?」
「こちらには、天竜人の直系であるアラバスタ王家のビビが居るんです。お分かりですよね?」
ビビは、何があっても微笑を浮かべているようにとソラに言われていた。だから、それを実行する。これだけで人は勘違いするものだ。歴史が長く天竜人の直系でもあるアラバスタ王家なら本来知らない情報を知っている事もある。
「わかったよ、降参するわ。アンタたちの船は50番GRにあるのよね。後で、レイさんに伝えて行かせるわ。それとこれは、ご所望の情報・・・コーティング代金と合わせて3,000万ベリーよ」
取引を終えたソラ達が「ぼったくりBAR」を出るとイーロンからの電伝虫が鳴る。
『すまん、助けてくれ。ケイミーが攫われた。誘拐犯の一人をワズキャンが締め上げたら、ピーターマンという男がいる人攫いチームだと分かった。儂では、追い付けない速度で逃げている。追えるか?』
『イーロン。任せておけ!! 高速で移動する男根をチ〇チ〇レーダーで補足した。1GRに向かっているようだ。私達が13GRにいるから直接向かう。天竜人に見つかると面倒だから、ヒューマンショップに売られる前に確保する。で、犯人はどうしたい?』
誘拐される運命を背負った人魚ケイミーだとしても、イーロンとワズキャンの二人を出し抜かれるとはソラも思っていなかった。褒めたくはないが、その道のプロならば例え覇気使いが相手でも出し抜けるという事かと理解する。
『ケイミーさえ無事なら、死体で構わない。生きていれば、儂に引き渡せ。魚人を舐めたバカは、この手で八つ裂きにしてくれる』
『あぁ、任せてくれ』
電伝虫を切断される。
「ソラ、貴方まさか・・・イーロンさんを船から逃がさない為、自作自演なんてしてませんよね。このタイミングでケイミーさんが攫われるとは信じられません」
「ビビ、貴方の気持ちはよくわかった。だったら、犯人を生きてイーロンとワズキャンに引き渡す。私が潔白だったら、朝も昼も夜も深夜の訓練も目隠しをします。見聞色の覇気を鍛えるには、これが一番ですからね」
目が見えないと他の感覚器官が敏感になる。つまり、夜の特別訓練もより一層激しくなるという事だ。
無自覚に自らを追い込んでいくスタイルは、彼女の持ち味だった。