シャボンディ諸島には、沢山の人攫いがいる。海賊を一人攫って売れば食うに困らない収入になるし、海賊が捕まえた奴隷を攫うだけでも十分儲かる。結果的に一番酷い目に合うのは、海賊に攫われた一般市民だ。
だがいま、無数に存在していた人攫いチームが一つの転換期を迎え、巨大組織に変わろうとしている。それを纏めるのが人攫いチーム”ハウンドペッツ”。彼等は他の人攫いチームを攫って仲間を増やし、勢力を拡大していった。
不思議な事に、巨大化する人攫いチームの誰もが首筋に謎の細いキノコのようなものが生えている。そして全員がうつろな目をしており、怪我をしても治療をする様子はなく、血を垂れ流し、骨が折れても動き続ける気味悪い組織になった。しかも、死ねば首筋にあるキノコも消える為、何の手掛かりも残らない。
その結果、僅か二日にしてシャボンディ諸島にあった30を超える人攫いチームが一つに纏まる。市民たちの間でも巨大な人攫いチームの噂が流れ始めた。だが、表向き違法な事をしていないので、これに恐怖するのは海賊団や人権を持たぬ魚人族・人魚族なので大きく騒がれる事はない。
総勢500名近い人攫いチームは、20番GR地帯に集合している。この場には、ビビとソラも足を運んでいた。彼等に命令を出す大事な時だ。二人は長いローブに身を包み、身バレしないように抜かりなく変装している。
「多少死んだとはいえ数が多い。では、第二段階へと作戦を進めましょう。ビビ、貴方の・・・いいえ、王の命令を彼等は待っています」
「いやよ、こんな人相の悪い連中の王だなんて。ですが、アラバスタの民への人攫いの被害を減らす為、出来る限りの事はしましょう。それが王家の責務です・・・『貴方達に命じます。弱そうな者から海賊達を攫ってきなさい!!』」
億超えのルーキーも島にいる状況だ。体の支配を奪われた人攫い達は、そんな強敵に勝てないとソラ達は考えている。だから、狙うのは海賊船に乗り込んで労働力となっている者達だ。海賊船が大きいほど、人材は必要になる。
つまり、500名を超える人攫いチームがイナゴの大群のように押しかけて、海賊達を攫ってくる。攫われた海賊は、ビビの”インスタンス・ドミネーション”で働きアリへ改造される。その海賊も人攫いチームに合流し、次々と海賊を攫ってくるという作戦だ。
王の命令を遂行する為、人攫いチームは飛び立つ。本職の彼等は体がその動作を覚えているので、意識を奪われてもそれなりには働ける。今まで彼等に売られた奴隷達の痛みを少しでも知るといい。
「さて、シャボンディ諸島はこれから荒れます。海賊達は犯人捜しをするでしょう。そして、弱ったところを我々が仕留める。億超えの首と彼等の宝は、我々が有効活用します。ビビ、覇気の温存と回復は常に意識してください。大事な時に燃料切れでは話になりませんよ」
「分かってます、ソラ。しかし、海賊達が暴れて商船にも被害がでないか少し心配ですね。あそこには海賊船がたくさんありましたので、流れ弾が・・・後、混乱に乗じて襲ってくる海賊もいそうです」
それについては、ソラは絶対に大丈夫だと言い切れる自信があった。
「無いですね。ホタル、イーロン、ワズキャンの三人が船に詰めています。億超えのルーキーが同数以上来れば多少の被害はでますが、それでも撃退は出来るはず。それに今、あの船は”冥王”レイリーがコーティング作業をしているんですよ。現役四皇か海軍大将でも来ない限り無事です」
「でも、その先入観があり、先日出し抜かれましたよね?ソラは学習しないんですか?」
ビビの痛烈な一言にソラは黙るしかなかった。その通りだった。絶対大丈夫など、この世に存在しない。どれだけ準備しても、崩壊するときは崩壊する。
例えば、ドレスローザで暗躍している王下七武海ドンキホーテ・ドフラミンゴが10年近くかけた計画がルフィによって1日で潰されるという、あり得ない事が現実に起こる世界だ。
「そうだ、そうだった。この世に絶対なんてない。もしかしたら、ルフィが王下七武海ゲッコー・モリアを討ち取るかもしれない。ルフィが王下七武海ボア・ハンコックに惚れられるかもしれない。ルフィの仲間に王下七武海ジンベエが加わるかもしれない。ルフィが王下七武海ドンキホーテ・ドフラミンゴを討ち取るかもしれない。このような未来が現実になる可能性もある。その通りだった」
「ソラ、流石にそれはないです。なぜ、先ほどから王下七武海が狙い撃ちしたかのようにルフィさんに倒されるんですか。そういう冗談は・・・冗談ですよね?」
ビビが一瞬不安に思いソラの顔を確認する。だが、ソラは何も知らない風を装った。”麦わらの一味”がどれほど強くても、世界のバランスをとっている王下七武海を半数以上潰すのは現実的でないと思った。
「では、賭けてみますか?次は、海楼石の手錠を夜の特別訓練に追加しますよ」
「えぇ、いいわ。私は、ソラが言ったことが実現する方に賭けるからね」
ビビは自分が考える現実的な回答よりも、ソラが言う妄想を信じた。今まで現実的な回答を外し続けた結果、一国の王女としてあるまじき訓練をさせられているからだ。
「ちっ!! ビビに悪い賭け事を覚えさせては、コブラ国王に顔向けできません。じゃあ、私は船が心配なので帰ります。ここはビビ一人でも大丈夫でしょう」
「何を言っているんですか、ソラ。どこの世の中に、王女を犯罪者集団が沢山いる場所に置いて帰る男がいるんです。守ってくださいね」
ビビが、ソラを逃がさないように手を掴む。今、このシャボンディ諸島に彼女をどうにかできる程の海賊は事前情報にない。それに、その犯罪者集団を裏で操っているのがビビなのだから、何を言っているんだとソラは思っていた。
「分かりました。不測の事態が無いとも限りませんからね」
「そうしてください。・・・ところで、先ほどのルフィさんの冗談話。これから起こるんですよね」
ソラは、ビビの問いに何も答えなかった。
◆◇◆◇
コーティング屋が集まる場所では、ソラとビビが居る場所とは異なり混沌となっていた。
人攫いチームが一斉に海賊を攫っているという事件は直ぐに町中に広がる。そして、ここでいち早く動き出したのが賞金稼ぎの連中だ。人数が減った海賊団は、一定の武力を有する賞金稼ぎにとっても美味しい獲物だ。特に、懸賞金数百万クラスという美味しいレベル帯は、ねらい目だ。
「野郎ども!! 賞金稼ぎは何も『海賊狩りの王女』だけじゃないって見せてやれ!!」
「奪え!! 海賊達の首をあげろーーー!!」
「人攫い達の後に続けーーー!!」
普段は略奪の限りを尽くす海賊達が、逆に奪われ殺される。彼等は新世界を目前にしたここで夢が尽きる事になるが、すべて自業自得だ。ここに来るまで奪った命は数知れず、そのツケを清算する時が来たのだ。
商船の休憩室の窓から外を覗くホタルは、ソラの計画が賞金首達に横取りされた事を知るが怒らない。大物海賊で懸賞金が億近い連中や億超えはまだ残っている。結果的に、それらが更に狙いやすくなるだけだ。
その略奪品の多くは、ヒューマンショップや闇市に流れる。もしくは、それ以上に高値で買ってくれそうな所に売り込んでくるかのいずれかだ。
「この船に手を出さないだけ、賞金稼ぎの方が知恵はあるみたいですね。兄様の計画に修正が必要です」
「これは、凄いね。
「なんじゃ、結局海賊同士の殺し合いに発展しないのか」
海賊達もメンツがあるが、どうしようもない。人攫いに仲間を攫われた。更に、示し合わせた様に賞金稼ぎ達が襲撃してくる。”麦わらの一味”の様に全員が戦える幹部でもない限り、海賊団としての戦力低下は否めない。
一般海賊を人攫いが奪い、準幹部級を賞金稼ぎ達が集団で殺す。そして、嵐のように過ぎ去っていく。残されたのは、大きな船と高い懸賞金首達だけだ。これでは、船は動かない。
だが、海賊達は知らない。これから数時間もしないで元仲間だった海賊達がゾンビ兵とされ襲ってくる事実を。昨日まで寝食を共にした海賊仲間を海賊の手で殺す。これぞ、ソラが求める世界だ。
ゴミはゴミ同士で仲良く殺しあえ。こちらの平和な世界に踏み込んでくるな、と。ソラは、海賊が平和に暮らす人に迷惑をかけず、海賊同士で殺しあう時代の到来を求めている。
ビビの"インスタンス・ドミネーション"のイメージは、あれなんですよ。
テラフォーマーズの火星に出てきた中国側の能力者です。