大混乱のシャボンディ諸島にトドメを刺すかのように、海軍大将黄猿を筆頭とした戦力が集結した。狙いは天竜人を半殺しにした”麦わらの一味”。だが、そのついでに新世界入りを目指している超大型ルーキー達もあわよくば処分しようとしている。
当初は11名も居た億超えの超新星達は、すでに9名にまで数を減らしている。行方不明となった”大喰らい”ジュエリー・ボニー、『海賊狩りの王女』によって討ち取られた”海鳴り”スクラッチメン・アプーの二組が海の藻屑となった。
そして、今そこに”死の外科医”トラファルガー・ローが加わろうとしていた。ロー率いる海賊団を壊滅に追い込んでいるのはキッド率いる海賊団だ。キッドは残虐性から現在の賞金額はルフィより高い。それに見合うだけの実力もあり、ローも同じ超新星と言えど苦戦していた。
そんなローにとって、海軍大将の襲来はまたとないチャンスだ。海軍の兵力をキッドにぶつける事で時間を稼げる。その隙に出港すれば簡単には追い付かれない。ローが持つオペオペの実、その能力の範囲は
海軍の気配を察したローは時間稼ぎに出る。キッドがそれに乗るかは微妙だったが、興味のある話題ならいけると信じていた。
「しつこい。俺は犯人じゃねーって言ってんだろ。いい加減、理解しろ。俺以外にも怪しい奴がいるだろう」
「誰だ?言ってみろよ。こっちは、お前とすれ違った海賊達が男の大事な物を無くしたと騒いでいる証人がいるんだぜ」
ローもその話は知っている。逃亡中にそういう話を聞いている。だが、どう考えても状況証拠の域を出ない。大事な事は、そのすれ違った連中はロー達から逃げていたのではない。『海賊狩りの王女』から逃げた結果、ロー達の横を素通りした。
つまり、ローにとって起死回生の一手はこれしかなかった。
「『海賊狩りの王女』だ。たった数か月前まで、一国の王女だった奴が今では獲得賞金額10億を超えた。おかしいだろう。考えられるのは、悪魔の実しかない。アラバスタ王家ともなれば、秘蔵の悪魔の実があっても不思議じゃねぇ」
「何を言うかと思えば、下らねェな。じゃあ、お前は王女が男の股間を集める趣味でも持っていると言いてェのか。ふざけた事を言うのもいい加減にしろ。俺は、奴が実力だけで”海鳴り”をぶっ飛ばした所を見ている」
力こそ正義である世界で、キッドは『海賊狩りの王女』の実力は疑わしいと思っていた。当初こそ、ビビの側近達が倒したと思っていた。だが、王女単独で”海鳴り”を武力で制圧した事を見せられ評価を変えた。
キッドは、力がある者を平等に評価する。
だからこそ、その場しのぎの下らない冗談で責任逃れをするだけでなく、責任転嫁するローへ嫌悪感を抱く。ここまで見苦しい者は久しぶりに見た。ローほどの実力者がこれでは海賊全体の評価が落ちるとすら考えていた。
「だから聞けって!! あの王女と俺はおそらく同系統の能力者だ。相手の肉体の一部を奪い取る。お前も噂で聞いた事があるだろう。『海賊狩りの王女』が進んできた
「・・・確かに、あったな。じゃあ、あれか。お前は、『海賊狩りの王女』が男達の股間を集めて、人質にでも取っていたというつもりか?馬鹿か、お前」
この場にビビが居たら暴れていただろう。知らぬ間に、最低の犯人にされている。
「あぁ、そうだ。断言する。『海賊狩りの王女』は、海賊達の
「お前の話なんてどうでもいい!! 今、お前は
ローの致命的なミスで、キッドとの休戦は不可能になった。このままでは絶体絶命だったが、そこに運よく現れたのが海軍の人型兵器パシフィスタ・・・そして、今も二人のワンピースを陰から狙うソラだ。
ソラは、この地で集めるワンピースにローとキッドも加えるつもりでいた。この場でしか手に入れられない貴重なワンピース。これ以上先の海になれば、彼等も覇気を覚えて手に入れる事は至難。
だったら、今しかない!!
パシフィスタが口からビームを打つ構えに入る。当然、海賊達はビームなんて夢の兵器だと思っており、何が起こるのかわからない。しかし、嫌な予感だけはしており回避行動に入っていた。
ローが特技で逃げようとした際にソラもそれに能力を被せる。その範囲はこの場にいる全員を包み込むに十分だった。
「”ROOM”」
「”(ラブホ)ROOM”」
「”シャンブルズ”」
「”チ〇ブルズ”」
ローが咄嗟に能力を使って逃げた。だが、それと全く同時にキッドと彼の部下であるキラーは自分の下半身に違和感を覚えた。そこに触れてみると、あるべき場所に大事な物がない。
この状況はキッドからしたら、海軍の人型兵器が現れた隙を狙った卑劣な行為。それは海軍と示し合わせたかのようなタイミングだった。疑いは真実となり、ローは海軍との癒着まで疑われる事になる。
「おぃ!! あの野郎を絶対殺すぞ!! ここまでコケにされたのは初めてだ!!」
「同感だ、キッド」
そして、キッドとキラーの前に一枚の紙が落ちてくる。そこには、ご丁寧にこう書かれていた。
『お前のONE PIECEは、預かった!』
当然、ローも同じ目にあっていた事を、彼らは知る事はない。
◇◆◇◆
ソラが戦利品のワンピースを保管庫に並べ終わり部屋に戻る。そして、これからの方針を決める為、仲間達を集めた。シャボンディ諸島での大混乱は、海軍大将率いる海兵によりほぼ鎮圧された。
億超えの海賊達は急ぎ次の航海を進む。一方、”麦わらの一味”は全員討伐されたと報告がなされる。その悲報にビビは一瞬動揺した。だが、ワンピース保管庫にある彼らのワンピースが鼓動している事を知り安堵する。最低な生存確認方法だ。
海軍大将黄猿、パシフィスタの軍勢、戦桃丸といった海軍の戦力から逃れる彼等は、本当に運命の女神に愛されている。
「ルフィさん達の無事が確認できたので、何とかなるでしょう。では、私の目的のために皆さんの力を貸してください。インペルダウンに収監されているクロコダイルの処分。アレが死なないと、私の安寧の日々は訪れません」
例えクロコダイルが死んでも、次は天竜人の妻としての問題解決が残っている。飽きっぽいチャルロス聖だから、そのうち勝手に結婚破棄される可能性はある。
「だから、あの時に殺しておけばよかったのに・・・ですが、ビビの手伝いはさせてもらいます。ついでにインペルダウンに収監されているゴミ達は皆殺しにしましょう。どうせ死んでも誰も困らないような連中です。あいつらの管理費用だけで年間どれほどのお金が費やされている事か」
「兄様の意見に賛成です。クロコダイルだけでなく、囚人たちは全員処分。ビビもそれで構いませんよね?」
過去に1名の脱獄しか許した事がないインペルダウン。そこは、囚人たちを苦しめる目的で彼等を収監している。その理念だけは素晴らしい。囚人たちに罪の重さを理解させる。だが、億超えの海賊などは、その危険性から即座に殺すべきだ。
「もちろんです。作戦はある程度考えています。イーロンさん、ケイミーさん・・・貴方達二人がこの作戦の鍵です。成功した暁には、アラバスタ王家の名において、全力で魚人島を守る事を誓います」
まさに、王の振舞いだった。弱い者を救い、悪を許さないその姿勢は、人々が望む理想の王の像だ。すでにビビの倫理観は数か月前とは違う。この僅か数か月で着実に、ソラとホタルと同じレベルに到達しようとしていた。
守るべきは加害者ではない、被害者だ。それを今の世の中は忘れすぎている。インペルダウンの囚人たちは、この世の悪に対する憎しみの深さを知るだろう。
・・・
・・
・
インペルダウンに向かう夜。ビビは、コブラ国王に色々と報告をしていた。シャボンディ諸島の一件や獲得賞金額が10億を超えた事などだ。そして、これから一仕事終えたら、魚人島に向かい友好関係を結ぶ事も伝える。
『はっはっは、そうか。魚人島については、ビビが好きにしなさい。ただし、始めたからには責任をもって最後までやり通す。分かっているね?』
『はい、お父様。それと、聞いてください。先日、人魚族のケイミーさんが新しく仲間に加わったんです。イーロンさんの姪っ子でして、なかなか興味深い生態をしていました』
アラバスタは地理的に魚人族や人魚族を見る事はない。
コブラ国王は、世間ではビビが悲劇のNTR王女だの、クロコダイルの許嫁だの、天竜人の現地妻など色々と言われており元気か心配だった。声を聴いて安心する。どうして、ここまで変な異名ばかり付くのだと理不尽だと思っている。
『ビビ。少し真面目な話なんだが、そこにソラ君とホタル君はいるかい?』
『いないわよ。私の部屋から電話しているから、他には誰も』
それから少し間を置くコブラ国王。コブラ国王は、娘を預ける商船について国の総力をあげて調べた。それは当然の行いだ。大事な一人娘を預けるのに相手の素性を調べない者などない。この数か月という時間があれば、色々と情報は集まった。
『そうか。私の方で二人の事を調べた。どうして海賊狩りをしているかも分かった。聞く気はあるかい?』
『どこまで調べたの、お父様?』
ビビも興味はあった。あの双子がなぜ、海賊狩りをしているか。出身がどこで誰の子供なのかも、何も知らない。だが、色々と知りすぎている事や立ち振る舞いが上品なところがあるから、良いところの跡取りだったのだろうと思っている。そうでなければ、子供がこの商船を持っている理由がつかない。
『おおよそ全部だと思っている。本来なら、ソラ君やホタル君から聞くべき事なんだろう。だが、ビビは船長だ。部下の事を何も知らないわけにもいかないだろう』
『……お父様、聞くのは止めておきます。それはソラとホタルから直接聞く事にします。そうでなければ、フェアではありませんから』
ビビは、悩んだ末に聞くのを止めた。人が隠している事を第三者から聞くような事はしない。それに、必要になれば教えてくれるだろうとも思っていた。
コブラ国王との通信を切ったビビは、ベッドに横になった。少し惜しい事をしたなと思ったが、これでよかったという思いもあった。
ふと、人の気配を感じたビビが部屋の扉の方を見ると、ソラとホタルがこちらを見ている。ノックもせずに王女の寝室に入ってくる不審者そのものだ。
「まだ特別訓練の時間には早いですよ。ソラ、ホタルさん」
「アラバスタ王国の情報収集能力を甘く見てましたね。数か月で、私達の事を丸裸にされるとは思ってませんでした。そして、ビビ。あなたはコブラ国王から聞くことを断りました。これにより好感度が一定以上に達したので少しだけ教えてあげます」
「兄様、ここは私が伝えます。私達の父親の名は、フルティン聖・・・天竜人です。遺伝子提供者という意味しかありませんけどね」
ホタルの口からトンデモナイ事を言われたビビは、反応に困る。ビビも天竜人の直系であり、お仲間がすぐそばにいた。そういう事だ。
「フル〇ン聖?」
「違いますよ、ビビ。フル〇ン聖という天竜人も居ますが別人です。フルティン聖です・・・どんなゴミかは自分で調べてください。イーロンとワズキャンは知っていますが、他の船員は知らないので内緒ですよ」
「それじゃあ、ビビ。今日の特別訓練を開始しましょうか」
すごく大事な事を聞かされた気がしたビビ。だが、これから始まる特別訓練で記憶と一緒に色々出し切って忘れそうになってしまう。