お前のONE PIECEは、預かった!   作:新グロモント

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43:クロコダイル

 クロコダイルの牢獄の床が切断される。この事には、流石のクロコダイルも目が点になっていた。大監獄インペルダウンは難攻不落だ。入ったら死ぬ時以外に出られないとまで言われているこの場所に侵入者など考えられない。

 

 出てきたのが魚人、双子の子供、そして青髪の見覚えある女性となれば、誰だって驚く。思わず叫びそうになったが、冷静沈着が売りのクロコダイルは、ぐっと堪えた。ここで万が一叫んでいれば、命だけは助かったかもしれない。

 

 ソラとホタルは即座に牢屋の中が覗かれないようにカーテンを張った。幸いな事に囚人たちは、なぜかクロコダイルの牢屋の方を見ていない。それどころか、多少の音では動揺すらしていなかった。

 

 イーロンがクロコダイルの首元をつかむ。これで万が一にも叫ぶ事は出来なくなった。クロコダイルが叫ぶより早くイーロンがその首をねじ切るだろう。おまけに、海楼石の手錠で能力が封じられ、碌な運動もしていないクロコダイルは明らかに弱体化していた。

 

 バロックワークス時代にクロコダイルから感じていた威圧感は、今のビビには微塵にも効果がない。それどころか、この程度かと思われてしまう。

 

「久しぶりかしら、クロコダイル。囚人の割には意外と文化的な生活をしているみたいね。それに私からの贈り物も食べてくれたみたいで嬉しいわ。・・・大声を出せば即座に殺すから、そのつもりでね」

 

「驚いたぜ。まさか、てめぇの方から俺に会いに来るなんてな。殺すつもりか?」

 

 それに笑顔で答えるビビ。女は数か月でここまで変わるものかと、クロコダイルは女の強さを知った。彼の右腕であったニコ・ロビンも、ルフィの仲間になった数か月で劇的な進化を遂げた事実もある。自分の仲間(バロックワークス)だった時は弱かったくせに、いざ敵となれば強くなれるのは理不尽だ。もし次があるなら、これからは部下たちを裏切らない男で固めようと思った彼だった。

 

「えぇ、殺すわ。そうでなかったら、こんな場所まで来ないもの。本当ならリモートで手軽にも殺せた。だけど、こうして会いに来たのはあなたの死をこの目でしっかりと見届けたいから」

 

「ははは、こぇー女になったものだ。だが、俺を殺してどうする。何も変わらねェ・・・事はないな。アラバスタの国民感情が多少変化するか。全く、愚民どもは馬鹿だからな」

 

 それについては、ビビも一瞬同意しかけた。クロコダイルが許嫁とか、全ての元凶ソラがすぐ横にいたのを思い出す。だが、ビビもあの場でクロコダイル殺害を止めた事実もあり、彼だけを責めるのは違っていた。

 

「最後に言い残す事はあるかしら?アラバスタの白き英雄クロコダイル」

 

「ねぇーな。殺せ。俺は、海賊をやってたんだ。殺される覚悟はできてる」

 

 王下七武海として、ふさわしい覚悟だ。海賊としては立派なのだろう。だが、やらかしたことはゴミカスだ。アラバスタの国民1000万人を巻き込む大事件は到底許されるレベルではない。

 

「案外つまらないものね。もう少し悔しそうにしたり、激高したりして欲しかったわ・・・最後に私から教えてあげる。ソラ、クロコダイルのワンピースを出して。背負っているでしょ?」

 

「えぇ、構いません。しかし、ビビも悪趣味ですね」

 

 ソラは背負った箱からクロコダイルのワンピースを取り出した。それは、ご立派なマツタケが生えているワンピース。ビビは、彼の目の前でマツタケを無理やり引っこ抜く。絶叫するクロコダイルの口をイーロンが抑える。

 

「うううううぅうーーーー!!??」

 

「イーロンさん、そのまま叫ばないように押さえつけていてください。これは、貴方から奪ったワンピース。そして、あなたが今まで食べていたキノコの苗床はこれよ。さっきまで素直に殺されそうだったのに、今更暴れるなんてみっともないわよ。あぁ、心が晴れていく!! どれほどこの日を待ち望んだ事か!! ・・・何年も苦しめられたアラバスタの恨みを受けて死ね、クロコダイル!! ――”グリーン・ディ”!!」

 

 殺人カビがクロコダイルに感染した。自らが腐り落ちる感覚を理解するクロコダイルは、目の前にいるビビが悪魔の実の能力者である事を初めて知った。しかも、クロコダイルと同じ自然系(ロギア)であり、そんな情報は今までどこにも載っていなかった。

 

 自らの人生の終わりを察したクロコダイル。最後は眼を閉じて笑っていた。そして、彼は完全に腐り落ちカビとなった。

 

 大物だったクロコダイルのあっけない最期を見届け、気が抜けてしまうビビ。それを見たホタルがビビの頭を撫でる。それは、姉が妹の頭を撫でる光景によく似ていた。

 

「ビビ、よく頑張りました。僅か数か月であなたは目的を達成しました。褒めてあげますよ」

 

「あのホタルさん。私の方がお姉さんなんですけど・・・でも、少しだけこのまま撫でてください」

 

 それからビビの気持ちが満足するまでしばらくの時間がかかった。

 

・・・

・・

 

 落ち着いたところで、ソラは第二の作戦に移ると宣言した。まずは海楼石の牢屋を開ける。ピッキングツールがあれば、ソラは数秒で開ける事ができる。気をつける事は、鉄格子に素手で触れない事。海楼石が混ぜられており能力者と相性が最悪だ。

 

 しかし侵入者である彼らは海楼石の手錠をしていない。原作のMr.3が蝋で開錠したように、海楼石そのものに触れなければ幾らでも能力が使える。

 

「ホタル、監視している映像電伝虫をムラムラ状態にして他の電伝虫との交尾映像を配信させるように仕向けて。その後は、ビビ・・・出番だよ。”グリーン・ディ”をこのフロア全体にバラまいてください。全滅が確認できたら能力を解除して上を目指します」

 

「分かりました、兄様」

 

「分かったわ、ソラ。それにしてもLEVEL(レベル)6(シックス)の牢屋って多いわね。億越えの凶悪犯ばかりいるフロアって聞いたけど・・・こんなに集めて海軍はどうするつもりなんでしょうか? 使い道なんてないでしょうに」

 

 ビビの言う通りだ。この中で公開処刑される人数など少ない。苦しめて殺す事になっているが、このレベルにいる囚人だと丈夫だ。一般人が考える拷問ではなかなか死なない。結論、使い道などない。

 

「あるわけがない。無駄飯喰らいの犯罪者どもだ」

 

 ソラ達は、顔を隠し体を覆うようなローブを身に着けて性別も誤魔化すようにした。

 

 ガチャリとソラが牢屋のカギを開ける。だが、映像電伝虫は交尾相手を求めて移動しておりソラ達は映っていなかった。この映像電伝虫は、音が拾えないという致命的な欠陥がある。

 

 映像電伝虫でなければ、クロコダイルの部屋から出てきた謎の集団に声をかける囚人の声が拾えていた。

 

「お前さんたち・・・頼みがある」

 

船長(ビビ)、この牢屋を除いた全てを廃棄処分で。相手は凶悪な囚人だ。髪の毛一本残さない程に殺しつくせ」

 

 固有名称を呼ぶとどこで足が付くかわからない。その為、保険をかけていた。

 

 ソラ達に声を掛けたのは、天下七武海”海侠のジンベエ”だ。牢屋の中には、今一番話題性がある”火拳のエース”までいた。

 

 ビビがエースの顔を確認する。”麦わらの一味”の仲間でもあるビビ。しかもアラバスタでは一緒に旅もした事もあり、ビビの手で殺す事は難しい。よって、後回しにした。

 

「分かりました。貴方達海賊に生きる価値なんてありません。”グリーン・ディ”!!」

 

 覚醒した自然系(ロギア)の能力者だ。ビビの能力は今まで以上の威力を発揮する。感染力もそうだが、広がるスピードが毎秒5m程だ。閉鎖空間においては、逃げ場なんてすぐに消える。数十秒でLEVEL(レベル)6(シックス)に収監されていた囚人たちが物言わぬカビへと姿を変えていく。

 

 非能力者の覇気使いなら暫くは生き残れる。だが、生存者がいればビビが能力を集中させ確実に殺して回る。つまり、時間の問題だ。

 

「”海侠のジンベエ”でしたね・・・ゴミ掃除が終わりました。何の御用ですか?」

 

「エース君を助けてほしい。彼は間もなく公開処刑になる」

 

 つまり、今すぐ殺す事で海軍と白ひげ海賊団との全面戦争を止めて欲しいという事だとソラ達は理解する。インペルダウンに収監した際に事故死してしまえば、白ひげ海賊団の名誉もそこまで落ちない。助けに行く段階で死んでいたならどうしようもない。

 

 ピースメインの白ひげ海賊団は、エース一人の犠牲で全員が生き残る。今まで通り縄張りの島も安全が守られる。海軍としても無駄な戦力消費をせずに済む。その案にソラは、ジンベエの事を見直した。そこまで考えた発言とは素晴らしいと。

 

 だから、ジンベエはわざと問題を起こしてエースと同じ牢屋にいるんだと考えた。しかし、ちょっとした手違いは看守の買収ができなかったため、鎖につながれてしまったことだと理解する。

 

 海賊であるジンベエだが、その行動で救われる人物が多すぎる為、一瞬見逃してもいいんじゃないかと思ってしまう。

 

「わかった。エースをなるべく苦しまないように殺します」

 

「ちょっと待てぇぇい!! 誰が殺してくれと頼んだ!? 助けてくれと頼んだんだ!!」

 

 ジンベエが焦ってソラを止めた。その顔は本当に驚いており、頭がおかしい人を見る目だった。

 

「違うのですか? 今エースが死ねば、白ひげ海賊団の名誉は低下しない。海軍も無益な争いをせずに済む。エース奪還のため戦争になれば海軍に甚大な被害が出てしまい、平和に暮らす市民に影響がでます。それを、たった一人の海賊が死ぬことで救えるなら安いものでは? 彼を救うメリットとデメリットを提示してください」

 

「あきらめろ、ジンベエ。こいつは、こういうやつだ・・・久しぶりじゃの」

 

 ジンベエが捕まっている牢屋の前に立つイーロンが、その素顔を晒した。こんな場所で同胞の魚人に会える幸運に恵まれたとジンベエは内心喜んでいた。これで、エースが救えると。

 

「イーロン!? 生きていたのか。頼むエース君を救ってくれ!! 魚人島は、白ひげ海賊団に縄張りにしてもらった恩がある」

 

「ジンベエ。いい加減、現実を見ろ。白ひげ海賊団の看板は、無敵じゃない。実際、看板を掲げても魚人や人魚が攫われる。魚人島の目と鼻の先にあるシャボンディ諸島では、普通に売買されてやがる。人権が認められていない。ジンベエが王下七武海になってもそれは変わらなかった」

 

 ぐうの音も出ないほどの正論だ。

 

 世界政府に加盟しても、魚人から王下七武海をだしても、白ひげ海賊団の縄張りであっても、魚人族や人魚族の人権は世界に認められなかった。しかも縄張りとは名ばかりで、白ひげ海賊団は助けにも来やしない。

 

 だがそれでも、白ひげ海賊団の縄張り維持のため、一定額の金もしっかりと支払っている魚人島。これは世界政府に払っている天上金とは別にかかっている。

 

「イーロン、お前が言っている事は正しい。だが、わしはエース君を救いたい」

 

「ジンベエ、どれだけ都合の良い事を言っているか理解しているか? 儂は、”火拳のエース”を救いたくない。むしろ、この場で死んだ方が世のためだと思っている」

 

 話は、平行線だ。ソラは、イーロンを下げて自らが話を付けるという。

 

「イーロン、私が話そう。”海侠のジンベエ”・・・タイヨウの海賊団の二代目船長。仁義を通す心と無益な殺生をしない不殺の心は良いと思います。”火拳のエース”を逃がすメリットデメリットを提示しろ。同じ事は言わない」

 

「メリットとして、わしの全てを差し出す。デメリットは、世界政府と海軍を敵に回す事だ」

 

 釣り合わない取引だ。どう考えても話にならない。だが、ソラは一応もう一人にも確認する。

 

「話にならない。ポートガス・D・エースは、生きたいか?死にたいか?どっちだ」

 

「どっちでもいいな。確かに、お前が言う事はもっともだ。俺たち白ひげ海賊団は、基本的に新世界にいる。魚人島も縄張りだが・・・名義貸し状態だったのは事実だ。俺が死んだ方が幸せになるやつが多いなら殺せ」

 

 幸せになるやつは多い!! それは、間違いない。

 

 ソラは殺すのに大賛成だ。だが、一応この場で納得してもらうためにビビの意向も確認する事にした。ソラとホタルのチ〇チ〇レーダーとムラムラレーダーでLEVEL(レベル)6(シックス)で生存している囚人はこの二人だけだ。

 

 今ならば謎の一団でなく、アラバスタの王女ビビとして彼等と会話ができる。

 

「エース君!! あきらめるな、もっと粘るんだ!!」

 

「イーロンが顔を見せた時点で我々の素性はばれているだろう。エース、ビビの事は覚えていますか?アラバスタでは、途中まで旅をしていたはずです」

 

 ビビがフードをあげて顔を見せる。

 

 数か月前に見た時より、力強くなった目になったと感じていた。世界経済新聞で噂は知っていたが、死ぬ前に会う事になるとはエースも思っていなかった。

 

「お元気では、ありませんね。ルフィさんのお兄さん。このような場で再会したくありませんでした。知っての通り、私はアラバスタの王女です。平和の為に海賊狩りもしています。だから、海賊である貴方を助ける事はできません。それは、私がルフィさんの仲間であっても同じなんです。1,000万人のアラバスタ国民と貴方一人の命では天秤が釣り合わない」

 

「驚いた。あの時の王女様が、ここまではっきりと言えるようになるんて・・・本当に、いい女になったよ。お世辞抜きで」

 

 ”麦わらの一味”の仲間としての立場で、ビビは最大限の譲歩案を提示する。

 

「貴方を助けるメリットはありません。しかし、一時的とはいえアラバスタの為、力を貸してくれた事に対して恩義があります。”麦わら一味”の仲間の一人として、最大限の譲歩案を二つ提示します。

 

 一つ目は、【二人(エース、ジンベエ)を一緒に脱出させてあげます。代わりに、名を変え、姿を変え、仲間とも連絡を取らず二度と表舞台に出ない。当然、能力も使わない】。

 

 二つ目は、【貴方達二人は、この場で何も見ていない知らない。白ひげ海賊団が助けてくれることを信じて未来に託す】。

 

 選んでくれれば、私が船長命令で皆を止めます。しかし、選ばない場合は止めません」

 

「ビビ!! そんな話は、納得できません。この場の事が漏洩した場合、アラバスタの立場が危ないのですよ。兄様もビビに言ってください」

 

「覚悟しての発言でしょう。おすすめは、選択しない方ですよ。大多数が幸せになる。後、帰りもここを通る・・・それまでに、遺言を残しておけ。ガープ中将、ルフィ、白ひげ海賊団に届けてやる。特に、ガープ中将には私も個人的な恩がある。お前もあるだろう? ()()()()()()を我が子のように育ててくれたあの人に」

 

 ソラは、懐からカセットテープを取り出した。

 

 これはソラが善意で行った事ではない。そのテープがある限り、エースとジンベエはどのような拷問を受けても絶対にソラ達の事はしゃべらないだろう。大事な人に届けられる最後の肉声はそれだけの価値がある。

 

「なぜ、それを・・・わかった。俺は、何も見ていない。気が付いたらこの状況だった。すまねーな」

 

「わしも大分痛めつけられたからの~、気を失ったわい」

 

 エースとジンベエは、未来を信じる事にした。奇跡が起こり、助かる可能性に賭ける。その過程で、何千何万人の命が危険にさらされても構わないと。

 

「さようなら、ルフィさんのお兄さん。船長命令です。・・・このフロアの囚人は皆殺しにしました。次に行きます」

 

 LEVEL(レベル)6(シックス)の囚人をエースとジンベエ二人を残して皆殺しにしたソラ達。彼等は、次なるフロアを目指す。インペルダウンがこの異変に気が付くまでの時間、ソラ達がどれだけの罪人を殺せるか、時間との勝負だった。

 

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