48:火のない所に煙は立たぬ
ソラ達は同盟の調印式を終え、商船に戻っていた。そこでは、これから始まる頂上決戦を大画面で楽しもうと大きなスクリーンまで用意して、船員達と一緒に眺めている。白ひげ海賊団の二番隊隊長”火拳のエース”の公開処刑。
これを全世界放送する意味は、一つ。
大海賊時代に終止符を打つための海軍史上最大の作戦だ。総指揮にはセンゴク元帥がおり、滅多に集まることのない三大将も勢ぞろいし、戦える佐官以上もが集結する。これほどまでの大戦力でなければ白ひげ海賊団と戦えないと言っているに等しい。これでは放送を見ている市民も、海軍が弱いのか、
戦力的には海軍が有利だと言える。遊撃として、王下七武海が”海侠のジンベエ”を除き勢ぞろい。その中には黒ひげもいる。彼は本来であればインペルダウンで戦力補充を考えていたが、謎の疫病で予定が大幅に狂ってしまい、泣く泣く参加することにしたのだ。
黒ひげ参戦にソラは驚くが・・・それと同時に彼を内心褒めてしまう。王下七武海の立場として、彼だけが配下を連れてきていた。鷹の目のように孤高の剣士は仕方ないが、他の連中は彼の汚い爪の垢でも飲むべきだ。
「世界政府承認の王下七武海が、自分だけしか参加しないのはどうなんだろうか。日頃は政府公認の元で非道の限りを尽くしているのに、政府に戦力を出せと言われてこれでは制度の意味がない」
「その通りですね、兄様。権利は主張するが、義務を放棄するのは許される事ではありません。そういう意味では、黒ひげは嫌いですが褒められる行動です」
海軍主体の映像電伝虫を使った世界放送だ。白ひげ海賊団は、この時点で情報戦で負けている。相手と同じ土俵で戦う為には、海賊側も映像電伝虫で配信をすべきだった。都合がよい事だけしか放送されないのは当然だ。
「ソラ。ルフィさんは、どうして来ないのですか?インペルダウンでは、立場上、エースさんを救えませんでした。ですが、ルフィさんなら絶対に来るはずです」
「ビビ、私が何でも知っていると思わないでください。今まで一緒に行動していましたよね?どこでそんな情報を仕入れる暇があったと思うんですか。まぁ、ワンピースが死んでないので生きているのは確かです」
聞けばなんでも答えてくれる魔法のアイテム扱いにされるソラ。だが、彼でもわからない事は多い。既に色々と破綻しており、その確固たる存在がビビだった。
頂上決戦・・・現場にいる海軍は、四皇最強の一人と戦う事になる。名だたる海兵が勢ぞろいしているのだから負けるはずがないという確固たる自信が彼らにはあった。いいや、負けるわけにはいかないのだ。
「兄様は、白ひげ海賊団と海軍のどちらが勝利すると思いますか?」
「勝利条件次第かな。白ひげが余命を削る覚悟でグラグラの実の能力を酷使するのならば、海軍には勝てると思う。”火拳のエース”の命ごと海軍本部を海の藻屑にすればいいだけだからね。それができないなら消耗戦になると思うけど、海軍が勝つ。伊達に世界の海を守っているわけじゃないから」
世界政府加盟国から集めた金を湯水のように使って開発しているパシフィスタという兵器がある。少なくとも、1億超え程度の海賊相手ならお釣りがくるほど強い。それを何十体と用意できる。
ソラは、ビビが”麦わら一味”の仲間でもあるので大きな声では言わないが・・・”火拳のエース”の命にここまでの価値があるとは思っていない。一人の命を助けるために失われる命が多すぎる。
ピースメインの白ひげが、たった一人の命を救うために全海軍を相手にした戦争は酷すぎる。勝っても負けても被害が大きすぎて、モーガニアの海賊だってここまで被害を出せない。これが”火拳のエース”でなくても同じことになったのだろうかと、一度本人に聞いてみたいとすら思っていた。
ホタルは、放送に映っている海軍や王下七武海を観察する。どの程度のレベルなのかを確認していた。映像越しである為、立ち振る舞いなどからの予想しかできないが、今はそれで充分だ。これからの戦火では彼等の活躍も写されるだろう。
「ビビ。中将以上、王下七武海、白ひげ海賊団の隊長格以上をよく見ておきなさい。直感で勝てないと思った者の名前をメモしなさい」
「それは、ソラとホタルさんと三人で戦う場合ですか?それとも私一人で?」
ホタルは「一人で」と回答する。魚人島で白ひげ海賊団の隊長格に囲まれた際、おそらく一番隊隊長以外となら、相性の問題で勝てるかは別にして、負ける事はないだろうとビビは思っていた。
「さぁ、楽しい頂上決戦の幕開けですよ。対岸の火事とは楽しいものです。・・・それと、ビビ。あの大きな尻尾が隠しきれていないしらほし姫の件、責任は取ってくださいね」
「責任って、私にどうしろっていうんですか、ソラ」
頂上決戦を観戦するスクリーンの特等席に座っているビビ。左にはホタル。右にはソラがいる。ホタルはビビの膝を枕代わりにして、横になって観戦を始めていた。その様子に、岩陰から刺さるような視線を送っているのが、この島の王族のしらほし姫だ。
ストーカーという変態から解放し、外の世界に連れ出してくれたビビ。容姿端麗、才色兼備、覇王色の覇気、アラバスタの王族、世界貴族の直系、
同性から見ても、惚れてしまいそうになるのは当然だ。しかも、箱入り天然の美少女のしらほし姫にとっては、人生初の恋だろう。初恋ハンターという異名も追加してよい。
「簡単だ。王家の責務を・・・両国の友好にこれ以上の手はないだろう。ヤれ」
「ソラ、一度本気で話し合いましょう。世間では、色々な誤情報が錯綜しています。もう少し常識的に物事を考えてください。そんな非生産的な事は、誰も幸せになりませんよ」
「そうなの?でもビビは、非生産的な事が好きよね」
その瞬間、頂上決戦を前に誰もが息を飲んだが、商船の船員達は別の意味で息を飲んだ。なぜかホタルはお腹を摩る。それも
ホタルとは反対に、ビビは顔から滝のような脂汗をかいていた。もはや、どんな言い逃れも不可能なレベル。彼女にも言い分はある。あの頭が馬鹿になる寸前にまで追い込む特別訓練の弊害だったと。
ソラは、ビビとホタルを見比べる。ホタルはビビの膝枕でくつろいでいる。僅か数か月では考えられない程に関係は進展していた。産まれてからずっと一緒だった双子の妹がNTRされるとは、ソラにとって青天の霹靂だ。
今この瞬間、ビビを殺さなかった冷静さを保っていたのはソラにとっても奇跡。
「ビビ、頂上決戦を見た後に話があります」
「はい」
ソラの言葉にビビは素直に答えるしかない。
イーロンとワズキャンは、万が一に備えて飛び掛かってでも止めようと構えている。アラバスタの軍事同盟が成立したばかりなのに、その象徴が失われる可能性があったからだ。
ビビはアラバスタの軍事同盟の象徴であると同時に、ソラ達の重たい過去の一端も背負う事になる。王家の教育では火遊びしたらどうなるか教えられていたが、まさか自分がその実例になるとは彼女も思わなかっただろう。
ビビは、生きた心地がしないまま、頂上決戦を見る事になる。
休日でないと執筆時間がないという悲しい現実。
短い話で申し訳ない。
ビビがやらかした夜の話もどこかで、必ず。
全年齢でね。
はなして、これは頂上決戦編と呼んでいいかわからんが映像電伝虫からお伝えします。