男前となったビビ。アラバスタに居た頃と比べて別人のように逞しくなった彼女に、惚れる女性が多いのも納得してしまう程だった。
ビビのその気持ちは、ソラにも十分伝わる。
「ビビ、ありがとうございます。貴方のような美しい女性から、そのような事を言われるのは光栄です。これからも妹と一緒に末永くよろしくお願いします」
「これからは兄様とも一緒ですね。ビビ、頑張ってくださいね。と・く・べ・つ・く・ん・れ・ん♡」
膝枕されていたホタルが起き上がり、しなだれかかりながらビビの耳元で妖艶な声で伝える。真っ赤な顔になるビビの姿を世界経済新聞社の記者がしっかりと写真に抑えていた。小声で密談していたのには気づかなかった記者だが、ホタルが大きく動いたことでプロの勘が働き反射的に撮影したのだ。明日の朝刊に掲載されないが、将来発売されるビビ王女の夜の船員達という雑誌に載せられる。そこには、軍事同盟の為にビビへの献上品とされた各国の美姫達が勢ぞろいする。
「覚悟を決めた王女を舐めないでください」
「いや、舐めさせられるのはこれからでしょ。まぁ、それは後にして・・・ビビ、見てください。ガープ中将がルフィを殴り飛ばしました。ガープ中将は、海軍として心を鬼にしているのでしょう。本当にお強い。”不死鳥のマルコ”もゲンコツで吹き飛ばしています」
「他の海軍中将達もルフィを攻撃していますが、なぜ一撃で殺さないんでしょうか。彼等海軍は、この状況下でも痛めつけて殺したい趣味でもあるんですかね。海賊に手心を加えるなんて、本当の裏切り者は彼らなのではないでしょうか」
中将程の実力があれば、手負いのルフィを殺すことも可能だ。だが彼らの攻撃は、なぜかルフィを殺し切れない。ところが、無名の一般海賊や海兵達は大量死している。
「ソラ、ホタルさん、あれじゃないですか。白ひげ海賊団の他の隊長格を殺すと、それこそ双方の戦力がなくなるまで殺し合いになるから、お互いに妥協しているとか。この映像からでも、中将達の動きや海賊隊長格の動きがおかしいのはわかります。普段の実力の1/10程度しか出ていないみたいです」
「そうでしょうね。ガープ中将が本気なら
「不思議ですね、兄様。パシフィスタと呼ばれる兵器は白ひげ傘下の海賊しか狙っていません。この戦争は、白ひげ海賊団と海軍で既に取引済みですか?それならば、納得できる事も多いです」
見る者が見れば、誰でもやらせだと思ってしまう。双方の本気がこの程度で良いはずがない。それに、この状況下であっても未だに”火拳のエース”の処刑がなされていない。海賊一人の首を切るなんて、そこらへんにいる左官以上なら楽勝だ。
だが、センゴク元帥の命令でしっかりとした部署から首切り職員を呼んでくるように指示している。平時ならそれでもいいだろう。この状況まで、そのようなルールを守る必要性はない。
「否定も肯定もできませんね。あったかもしれない。無かったかもしれない。それを知るのは、白ひげとセンゴク元帥だけです・・・いいえ、他にいるとすれば、”赤髪”でしょうか。彼は、間もなく新世界からマリンフォードに到着します。カイドウ相手に足止めしたその足でね」
「そうなのですか、ソラ?でも、この魚人島を通らないであそこに行く方法は・・・・。そういえば、ソラが彼を幼い頃に見たって言ってましたよね。もしかして、そういう事なんですか?」
ビビが気が付いてしまう。新世界から戻るには、空でも飛べない限り”聖地マリージョアルート”と”魚人島ルート”しかない。魚人島ルートでは、ソラ達が既に居る為、彼等が来訪すれば情報が流れてくる。
それが全くないという事は、もう一つのルートしかない。聖地マリージョアルートは、政府関係者や一般人しか使えない。海賊が使う事は、それこそ不可能に近い。世界経済新聞社の記者がこちらに注目してないか、ちらりと横目で確認してからソラは小声で返事をする。
「四皇”赤髪”のシャンクスは、フィガーランド・ガーリング聖の実子です。五老星にも会えるほどの権力を持ち、世界政府のバックアップがある海賊です。フィガーランド家は、近所でしたからね・・・シャンクス聖を見かけたことがあります」
「ソラ、知りたくなかった。シャンクスさんといえば、ルフィさんに麦わら帽子を渡した彼の憧れの海賊じゃないですか。それが天竜人で、世界政府の海賊だったとか、次に会った時に顔に出さない自信がないですよ」
世界には、沢山の重たい真実がある。色々な事を背負う事になった。ビビは、早く夜の安寧の時間にならないかなと待ち焦がれるようになる。
◇◆◇◆
ビビの膝の上で、ポップコーンを食べながら頂上決戦を観戦するソラとホタル。この双子を絶対に守ってみせると決意表明したビビを見て、ソラがにっこりとほほ笑む。時間をおいて注目が薄れたので、ここからはまた密談の時間だ。
「もう、お腹一杯なんですけど・・・背負うと言ったからには、背負ってみます!! 」
「いい覚悟です。じゃあ、休憩時間も終わったので続きです。フルティン聖の元から解放された私達は、聖地マリージョアからすぐに離れました。幸いな事に、あそこは天竜人がグルメを楽しむ為に世界中の食糧が集まる場所です。その為の商船がおり、その一つと交渉し
ビビは、ガッツポーズをしていた。
それは、まだ胃が痛くならない展開だと思ってのことだ。その百面相するビビを面白そうにソラとホタルは眺めていた。いい人だな、と。
「その航海は、私とホタルにとって初めての外界です。船酔いで死にかけましたが、気持ちは最高そのものでした。大海賊時代だけあって、年端もいかない子供が海賊船に乗るような時代です。私達は、海賊王に夢憧れる子供にでも思われたのでしょう。船員達は、我が子のように可愛がってくれました」
「えぇ、本当に良い人達
すでに過去形でいい人でしたとか、言われればビビも察する。そして、商船というキーワード。一難去って一難とか、笑えない冗談だ。
「ソラ、この船の船名はなんでしたっけ?」
「ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング号。割と気に入っている船名です。船長だった彼のセンスの良さが伺えます。たぶん、私とご同類だったはず・・・だからこそ、あそこまで親身になってくれたのも納得できます」
今まで疑問だった、奇妙な船名の謎が解け始めた。
アラバスタ王家所有となったこの船だが、長すぎる船名に加え、アームストロングが二回もある事で船舶登録する際に何度も間違いでないか聞かれた記憶がビビにはあった。だが、頑としてソラとホタルが改名を認めなかった。
「じゃあ、ソラ達が当時乗り込んだ船の船名は?」
「ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング号です。本当に人間味がある人が集まった良い船でした。商才はありませんでしたが、なぜか人を引き付ける才能があったマダオ船長」
「兄様、マダオ船長は皆の愛称です。
ワノ国については、ビビも少しは知っている。世界政府非加盟国であり、四皇カイドウが支配している国だ。そして、そのワノ国の特産物が対能力者特攻兵器の海楼石。世界政府は、海楼石の為だけにでもワノ国からカイドウをたたき出すべきだとビビは思い始めた。
「もしかしなくても、当時の船員の皆様は・・・」
「お察しの通りです。私とホタルを残して、全員が海賊に殺されました。新世界出身者の商船ですから、簡単に殺されたわけではありません。見ず知らずの子供であった私達を助けるために。これが、なかなかの外道な海賊団でした。おかげで、今も
「ビビ、人間の味って知ってますか?私や兄様は、よく知っています」
ポタポタとビビの瞳から大粒の涙が落ちていた。その涙は、ソラとホタルの顔に落ちる。この大航海時代ではよくある話だと言うのならば、この世は地獄そのものだとビビは思った。
「もう、やめてよ。許してあげてよ・・・どうして、ソラとホタルさんばかりつらい目にあわないといけないのよ」
まだ、これからクライマックスがあるのだがビビの心の許容量が限界を迎えてしまう。ホタルは、起き上がりビビを抱きしめる。だが、それに注目する者はいなかった。この当事者の3人以外はスクリーンから目を離せなかったのだ。
「ビビ、私と兄様の為に泣いてくれてありがとう。兄様、続きはまた今度にしてあげましょう。ビビが限界みたいです」
「そうみたいですね。ビビ見てくださいスクリーンを・・・あっ」
スクリーンには、”火拳のエース”がマグマグの実で焼肉にされている場面が写っていた。
大海賊時代では、毎日こんな事がどこかで起こっているはず・・・。
ジャンプの加護がない連中は、こうなるんです。