ココヤシ村。魚人海賊のアーロン一味の根城があるこの場所は、人間達も普通に暮らしている。ただしそれは、上納金を納めさせる為の奴隷として。ただの住民が魚人に勝てるわけも無い。更に、この地には正義の海軍はいない。それどころか、アーロンが海軍に裏金を渡しているため、海軍に救援を求めても助けは来ない。
間違いなく、賞金額がおかしい男だ。アーロンの賞金額は、2,000万ベリー。ジンベエの賞金額は、7,600万ベリーだ。その事から安く見積もってもアーロンの賞金額は、最低でも倍程度あると考えれば4,000万ベリー相当だ。
この事実を理解しているココヤシ村の住人達は、アーロン一味として働く事になったナミに全ての希望を託していた。自分たちの不甲斐なさを悔やむ者もいれば、一人の犠牲で命を繋ぐ事ができたと安堵した者もいる。
だが、ある時を境に異変が生じた。
海軍ではなく、海賊達がアーロン一味の首を取ろうと現れ始める。この異常事態に島民達は理解が追い付かなかった。しかし、察しが良い島民がおり、真相に気が付く。頭がよく海賊専門の泥棒をしているナミが、アーロン一味に海賊を嗾けている。
海賊達が一斉にココヤシ村に現れれば人伝で、海軍にこの状況も伝わる可能性もある。海賊狩りが来る可能性も上がる。更に、海賊がアーロン一味を潰せば、御の字だ。どの道これ以上悪い未来はないので、この千載一遇のチャンスに賭けるのは、有りだ。
そこに追い打ちを掛けるかのようにナミが
という状況を、ソラ達は上陸した後に聞かされた。表向きは商船として活動している彼らは、島民に話を聞くと銃や刀を売ってくれと懇願されたので、良い値段で売り払った。クリーク海賊団から回収した武器が有り余っていたので、実に良い取引ができた。
その武器を携えて、残っていた島民達もアーロン一味の元に殴りこむ。
「商売の基本とは、安く仕入れて高く売る。生活が苦しい島民達から巻き上げるのは心苦しいですが、アーロン一味がため込んだ財宝次第では還元してあげましょう」
「そうですね、兄様。じゃあアーロン一味を狩る手伝いでもしてあげましょう」
”麦わらのルフィ”は、ピースメインとして活動している海賊だ。彼は、殺さずを信条にしているのか、今まで潰した海賊で死者はいない。ソラやホタル達からすれば、生温い仕事をしていると言える。
こいつ等が行ってきた事を考えれば、後顧の憂いを断つという意味で殺すべきだ。島民達もそれに賛同する。島民の中で、アーロン一味の助命を懇願する存在はいない。
「そうだね。僕は、タコの魚人を狙うよ。事が終わったら、楽しみにしててね」
「儂は、誰でもいいがやはりアーロンをやろう。ワズキャン、フカヒレスープもメニューに追加しておいてくれ」
ワズキャンとイーロン。彼らはすでに魚人を食材とみている。世の中、空腹で親兄弟を食う事もある。自分の足を食って空腹を紛らわした海賊もいるほどだ。そう考えれば、魚人なんておいしい食材に違いない。
「衛生面には細心の注意を払ってくださいね。私は、魚人を食べてお腹を壊すなんてバカなことは経験したくないですから」
ソラ、ホタル、イーロン、ワズキャン。僅か四人だが、アーロン一味に対して十分な戦力だ。すでに先鋒として、海賊達、島民達、麦わらの一味が戦っている。疲労した処に来る戦力としては相手が可哀そうになる。
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アーロン一味と麦わらの一味との激しい戦闘の最中、突然の乱入者達が現れる。アーロン一味の幹部達は、満身創痍で次々とダウンしており、彼らの対応に回る戦力はなかった。
戦いにおいて先手を取る事は重要だ。ソラがこの場にいる敵全員に、能力を行使する。
「”ポジションチェンジ”!!」
男にとって、息子のポジションというのは大事だ。その位置によって力が30%程低下してしまう統計データがある。位置ずれしてしまうと、位置を直すまでどうしても気が気でならない。男性にしかわからない心情だ。
だが、能力で替えられた息子のポジションは直したところで再度ずれる。しかも、直す際に片手を使えなくなるという致命的なスキを生むことになる。強者同士の戦いにおいて、命取りになる。
イーロンが飛び出した。アーロン一味のクロオビが大事な息子の位置を直そうとした瞬間を狙っての行為。武装色の覇気を纏った拳から放たれる全力の魚人空手。この拳が狙う先は、頭部!!
「魚人の恥さらしがーー!! 百枚瓦正拳!!」
パーーーンと風船が弾けるような音がした。空気が振動して、周囲まで揺れる。頭部が消し飛んだ魚人の死体。あの魚人がこんなにも簡単に死ぬのかと見ていた誰もが感じていた。だが、これで終わる事は決してない。
「イーロン。クロオビは、賞金首だったので頭部は潰さないでほしかったです。次は、頭部だけは潰さないでくださいね。”麦わらのルフィ”一同、我々と共にアーロン一味を潰しましょう」
突然の加勢にルフィ達も驚く。魚人は強く苦戦する。ギリギリの戦いの中、味方の戦力として加勢される事はうれしい事だった。だが、職業は海賊狩りであり、事が終われば敵同士という可能性もある。
海賊歴の長いアーロン一味は、この場の打開策を即座に思いつく。過去に何度も行った手だ。女子供を盾にして、降伏を促すというやつだ。そこで目をつけられたのがホタルだ。この場にいる数少ない女性で儚いイメージがある。ナミより捕まえるならば、こいつだと判断されていた。
「任せてくれアーロンさん!!」
察しが良いチュウが、アーロンの意をくんで即座に行動する。一見、他の魚人と比べても弱そうに見える彼だが、懸賞金500万ベリーも掛けられている。
数少ない魚人の一人を死地に追いやる行為だと、ソラ達は思った。女だから弱いという認識は駄目だ。ソラが率いる船団で最強なのは、彼ではない。妹のホタルこそが最強だ。
その抜群な戦闘センスに正面から戦うことはソラでもやりたくない。
ホタルが抜刀して、刀の先を指先で抑え込む。ソラが妹の戦闘センスを見込んで教えた漫画の技。まさか、現実に再現できるとはソラも思っていなかった。ホタルの愛刀である大業物アマノムラムラ雲が黒く染まる。彼女の両手も武装色の覇気が纏われて黒色になる。
「首から上が無事ならいいんですよね、兄様。星流れ!!」
最小の動きで相手を殺す事に特化した虎眼流。覇気で強化された肉体から放たれた一撃は、魚人だけでなくその先にあった海まで割れる。
小柄な女から想像を絶する威力の斬撃が放たれた事に、魚人など可愛い者に思える。それを見ていたロロノア・ゾロも眼を見開く。大剣豪を目指す彼にとって、現時点でその先にいるホタルに興味が沸いたのだ。
「僕の活躍が目立たなくなるじゃん。こっちも片が付いたよ。今晩は、タコパ確定だよ」
「ワズキャン。島民の皆さまにも振舞ってくれよ」
「あぁ、皆にも振舞うさ」
満足な食事もできていないであろう島民達への気持ちを表明するソラ。苦しめられた魚人への恨みを食うことで発散できればよいと考えた案であり、その心配りは島民達の心に染みわたる。
アーロンは理解した。格上の存在達が複数いる。しかも全員が自分達を狙っていると。”麦わらのルフィ”達だけならギリギリ対応が出来たかもしれない。現状では、キャパオーバーだ。
ここで取れる選択肢は多くない。戦い抜く事、逃亡する事。後者を実行するのは簡単ではない。見逃す相手にメリットを提示できないと成立しない話だ。魚人のため、海に逃げ込むという方法も考えられるが、相手にはイーロンという格上魚人がいる。
「”麦わらのルフィ”さんでしたか。キツイ相手のようでしたら手を貸しましょうか?」
「お前等は、黙ってみてろ!! これは、俺達の戦いだ。ナミに、仲間に酷い事をしたアーロンは絶対にゆるさねぇ!!」
ソラの提案をルフィは断った。加勢があれば楽に倒せるが、彼はそれを良しとしない。
「『ピースメイン』の貴方達への優先度は低いから構いませんよ。では、アーロンを
アーロン以外の魚人達を蹂躙し始めた海賊狩りをみたナミは、どうしてもっと早くに来てくれなかったのかと思った。
◇◆◇◆
ナミにとって、夢のような光景が広がっていた。
幼い頃からアーロン一味に苦しめられた苦い思い出。ココヤシ村を救うため一億ベリーという大金を集める事に費やした長い年月。その過程で出会った”麦わらのルフィ”が彼女の運命を大きく変えた。
ルフィ、ゾロ、サンジ、ウソップといった心強い仲間ができた。ナミの悲惨な過去を知り、ココヤシ村を根城にしているアーロン一味討伐に向かう。
信頼できる心強い仲間を手に入れたナミ。事実、魚人達を圧倒する仲間たち。だが、それでもアーロンは強く、長年の夢が叶うか怪しいと思った矢先に、恐怖が現れた。
裏社会の連中から噂程度は聞いたことがあったナミは、乱入してきた者達について心当たりがあった。4つの海にいる海賊達を潰して回った悪魔がいると。彼女は、早く
だが、それは今ではなかった。
海賊である”麦わらのルフィ”の仲間になったナミ。彼女は、海賊狩りの対象になる。最悪の場合、彼女がため込んだ財産と引き換えに見逃してもらおうとも考えた。
「アーロン一味がまるで紙屑のように。そんなに強いなら、なんでもっと早くに来てくれなかったのよ」
魚人という種族差を暴力でねじ伏せる様子にナミは本音が漏れてしまう。
これで、ココヤシ村も救われるのなら自分も海賊として彼らに殺される事も運命だったと受け入れてしまいそうになる。彼等の纏め役だと思われる金髪の男性がナミに近づき、挨拶をする。
「初めまして、私はソラ。海賊を真っ二つにしたのが妹のホタル。魚人は、イーロン。あっちの汚いサンジみたいな声の人は、ワズキャンといいます」
「えぇ、どうも。私はナミよ」
生き残るすべを必死で考えるナミ。サンジやゾロに視線を送るが、彼らは何の対応もしない。それどころか、リラックスしているほどだ。
「サンジさん、ゾロさんとは一度顔合わせをしております。ナミさんとルフィさんとは初対面ですね。我々は、海賊狩りです。『モーガニア』をメインターゲットにしておりますので、『ピースメイン』への優先度は低い」
「つまり何が言いたいの?」
どんな条件を突きつけられるのかとナミは、ヒヤヒヤしている。
「今後、永久に貴方達が潰した海賊を我々に
「や、安すぎよ。5割にしなさい」
「海賊の貴方達では、海軍に首を持ち込めません。欲張るのは、よろしくないですね」
より多くの『モーガニア』の首を上げるには、『ピースメイン』は役に立つ。特に、近い将来大物になる事が確定している”麦わらの一味”と未来永劫取引できるなら悪くはない。
「貴方達は、商人でもあるのよね。海賊を半値八掛け二割引で売ってあげるから、物資を定価で売ってちょうだい。これが最大限の譲歩よ」
「男性の皆様に対して、保険をつけさせてもらいます。それで良ければ、取引成立として私の手を取ってください」
海賊が定価で物資を得る機会を手に入れたと思えば、悪くはないように見える。
ナミは知らない。将来、4皇に名を連ねる事になる”麦わらのルフィ”が生まれる事を。そんな一味が永久に海賊を
ナミは、こうしてソラの手を取った。
そろそろ、ソラの愛刀ナイチンゲールを使う時か・・・。