ソラ達の抹殺対象は、王下七武海であっても例外ではない。殺せるタイミングで海賊など殺すべきだ。スモーカー中将も、海賊は何処までいっても海賊だという信念を掲げている。つまり、ソラ達とスモーカー中将の基本方針は同じだ。
「ココには俺しか居ない。さっさと帰れ、白猟屋」
ローは誰も居ないと言うが、スモーカー中将は全く信じていない。少なくとも、ハートの海賊団が潜んでいると思っていた。そして、スモーカー中将はソラの方に視線を送る。彼はソラの能力は知らないが、覇気の扱いには一目置いている。見聞色の覇気かなんかで探れないかと期待をしていた。
「・・・彼の発言は、嘘ですね。私は直径数キロ単位で生命を探知できる能力を持っています。人間? いいえ、動物でしょうか? 妙な気配が沢山あります。この研究所らしき場所で人間の反応は数種類です。巨人族みたいな若い子供、普通の人間の子供、形が安定していないので
「そんな事まで分かるのですか?ソラさん。索敵系の悪魔の実の能力者なら先に言ってください」
たしぎ大佐もソラが能力者だとは気づいていた。若くして賞金稼ぎをしていたから、戦闘に特化したタイプだと勝手に思い込んでいたのだ。しかし先ほどの彼自身の発言によりソラが索敵系、一緒に行動しているホタルの方が戦闘系の能力者だと、またしても勘違いする。索敵と戦闘・・・この能力者が揃えば、若くても十分戦える。
悪魔の実の能力者との戦闘経験がある彼女でも、チ〇チ〇の実やムラムラの実なんてイロモノで今まで戦ってきたなど想像すらできない。
「やはり、能力者か。ROO・・・」
ローが先手を取ってROOMを展開しようとした。この場から最悪逃亡して施設に籠れば時間くらいは稼げる。計画を変更して、海軍連中をシーザーにぶつけてやろうと思った。だが、能力を発動するより早く、彼の喉元に覚醒ルッチの鋭い爪が数センチ刺さっている。
「止めておけ若造。能力を使えば殺す、動けば殺す、質問以外の事に答えれば殺す、嘘をついても殺す、従えば大人しい間は生かしてやる。ソラ、それでいいか?」
「ありがとうございます、ルッチ。おや?驚いた顔をされていますね。あぁ、彼の事をご存じでしたか。ロブ・ルッチ・・・元・CP9で
オペオペの実の弱点は、能力発動までに時間がかかる事だ。そして、格上相手にはお得意の切断能力も通らない。悪魔の実としてのポテンシャルは高い。だが、ルッチは空間に作用する同種の能力をソラから嫌というほど見せられた。その潰し方も理解している。
「いつも助かっております。海賊、なるべく短く簡潔にここで何をしているか全て教えてください。私達の船長、『海賊狩りの王女』ビビは気が短いですよ。三分・・・それが、貴方に残された最大限の寿命です。それでいいですね、スモーカー中将」
「あぁ、構わねぇ。しかし、俺とお前達でここまで差があるのか」
スモーカー中将の鍛え方が足りないわけではない。これは、”麦わらの一味”の仲間であるビビという存在のおかげだ。間接的に”麦わらの一味”の仲間となる事で恩恵を受けているに過ぎない。当然、鍛錬を怠っているわけではないが、効率が数倍以上違う。
「海軍を辞めて私達に合流してくださるなら好待遇を約束します。スモーカー中将ならルッチ達と同じく、すぐに次のステージに上がれると思います。あ、もう三分はスタートしているので、自由トークの時間です」
「俺には四皇の一角カイドウを潰す計画がある。その為にパンクハザードまでやってきた。ココでシーザークラウンが人造悪魔の実を製造し、ジョーカー経由でカイドウが購入して能力者集団を作っている。まずは、その戦力を削ぐために俺は動いていた」
ローは、全てをぶちまけた。ルッチが一切の容赦なく殺そうとしており、命綱を握られている以上、嘘偽りなく全てを吐き出す。だが、彼も会話の内容を選んだ。『海賊狩りの王女』は、ビッグ・マム海賊団との頂上戦争おかわりにも参戦していたほどだ。
海賊根絶を掲げる者達にとって、四皇カイドウは殺したい存在であるはず。うまくいけば、四皇カイドウ討伐までは一時的な同盟も可能性があると思っている。なんにしても、今を凌がなければ、どんな未来も彼には待っていない。
「ビビの眼から見て、この海賊は四皇を倒せると思えますか?」
「え、ないと思います。だって、ビッグ・マムとほぼ同格で、肉体面でいえばアレを超えるんでしょ? ルッチさんの攻撃を察知できない時点で10年は早いんじゃないかな。それで、この研究所に民間人は誰かいますか? 海賊だけですか?」
ビビの素直な感想だ。ビッグ・マムの実力を肌で感じたからこそ、今のローを見てカイドウをなんとかできるとは思えない。彼にたどり着く前に幹部に殺されるのが関の山だ。大海賊を倒すには、大軍隊が必要となる。
「この研究所には、シーザークラウンが攫ってきた民間人の子供がいる。ガキどもを使った人体実験を行っている。実験内容は、人間の巨人化だ。さらに、子供を薬物漬けにして逃げられないように徹底管理していた。様々な薬物投与を行っており、五年も生きられないだろう」
「なんてひどい事を!! 貴方達はそれでも人間なんですか!? まさか、この海域で行方不明になっているという子供達が!! スモーカーさん、すぐにヴェルゴ中将に応援の連絡を」
「落ち着け、たしぎ」
ローがぶちまけた真実にたしぎ大佐だけでなく、海兵たちも鬼の形相だ。G-5支部の海兵たちは、商船から賄賂を要求する見た目通りのゴロツキだが、それでも心は立派な海軍だ。そこだけは評価できる。そんな彼等が絶大な信頼を寄せるヴェルゴ中将。実力的にもG-5基地長であり、スモーカー中将と合わされば鬼に金棒という事だ。
だが、世の中は、そんなにうまく回っていない。
「無駄だぞ。ヴェルゴは、ジョーカーの手先だ。そもそも、誘拐された子供達がパンクハザードに居る。誘拐事件を海難事故にしてたのはヴェルゴだ。少しは考えてみろ。これで全部だ」
「ソラ、待て。そいつは殺すな。色々知っている生きた証人だ。海軍本部に連れて帰って尋問する。王下七武海なんか知った事か」
スモーカー中将の言葉では、ルッチは止まらない。指揮系統が違う。だからルッチは、ソラに指示を仰ぐ。ルッチがローを殺すのは簡単だ。あと少し爪を伸ばせば絶命させられる。だが、何のメリットもない提案だ。ソラとスモーカー中将が知り合いだからといって、無理な相談だ。
「スモーカー中将が提示できるメリットは?それと、
「ローを引き渡せば、このパンクハザードで何が起こったとしても俺らは何も見ていない。廃棄された施設だ。お前等が何かを持ち帰ったとしても、俺たちが知る由もない」
「俺なら、薬物漬けにされた子供達を能力で治療できる。言っておくが、並の医者では治療なんてできない。毎日、ドラッグを摂取しなければ禁断症状で子供が死ぬほどつらい目に会う。だが、俺なら救える」
こんな厄ネタ満載の施設なんて欲しくもないソラだった。どうせ、自爆装置みたいなのがあって、勝手に誰かが使うと爆発する仕組みとかあるに決まっている。なにより、アラバスタの軍事同盟は、クリーンな組織だ。直径5km吹き飛ばす爆弾だけでお腹一杯だ。これ以上、兵器なんていらない。
だが、子供が救えるというネタは今のソラ達を動かすのに十分な理由になりえる。これが、強くなったが弱点を抱えた男と女の末路だ。子供を持つと同時に強くなる。だが、弱くもなる。一見矛盾しているが、それも世の真理だ。
「分かりました。この海賊は、引き渡します。約束は守ってくださいね・・・あら?」
「さぁ、みんなもうすぐ外よ!! 」
ビビがローを引き渡すと約束すると、基地の中から”麦わらの一味”のナミが真冬の極寒の中に水着のような姿で現れた。いくら海賊とはいえ、この寒さは堪えるだろう。彼女に連れられて、この基地に居たと思われる子供達も一緒に走ってきた。
その様子に、ソラは手間が省けたと思った。
この研究所には既に"麦わらの一味"がおり、子供達を連れて脱出を図っている所だった。その出口であるここに、今このタイミングで来てしまった。
「あら、ナミさん。そちらの子供達がこの基地に連れてこられた子供達ですか?」
「ビビ!!?? それに、海軍に。王下七武海!? どうなってんのよ、この状況!! ・・・はっくしゅん、寒い!! とりあえず、服を売って。服を!! 子供たちの分もね!! で、これはどんな状況なのよ」
ナミ達は、連れてきた子供達といったん研究所内部に戻る。吹雪が凌げるだけで十分暖かい。それから、ナミはビビからこの研究所の真実を聞かされた。自分達も海賊だが、このような非道な行いをしている海賊が許せなくて頭に血が上っていた。そしてナミが一言、「よし、シーザーとかいう野郎は殺しましょう」と、遂にシーザーの3億ベリーの懸賞金より彼の死を早く望むまでに成長した。