キノコ兵に囲まれるハンコック。この程度で動じるハンコックではないが、海楼石の武器防具を前面に出して距離を縮めて押しつぶす戦い方に彼女は嫌気がさす。キノコ兵達は、必ず複数人で前後左右から同時に襲い掛かるような戦い方をしている。
人間は背中に目はないし、手足の数も限られている。対応できる事にも限界がある。しかもハンコックの戦い方は基本的に格闘術。それに組み合わせた能力を使った石化だ。彼女の美しい肉体美や色気に大抵の男や女は心を奪われる。それで一撃必殺の戦い方をしていた・・・が、感情を持たないキノコ兵がハンコックに魅力で石にされる事はない。
「やっかいじゃの。石にならぬのなら、一体一体潰していくしかあるまい」
「姉さま、私を置いて逃げてください。どのみち助かりません」
負傷した足に加え、致命傷を負っている彼女の
状況は明らかに不利だ。殺人カビ”グリーン・ディ”が周囲を汚染しており、覇気で抵抗が出来ないレベルまで弱まっているソニアの命を確実に蝕む。既に手足はカビに食らいつくされ醜い姿になっていた。
「ソニア。”メロメロ甘風”!! これでカビで死ぬ事はあるまい。しかし、そなたの能力は実に厄介じゃ。『海賊狩りの王女』ともてはやされていたから、周りが担ぎ上げた神輿だと思っていた」
ハンコックの鍛えた覇気で足を守っていてもジリジリとダメージが浸透する。既に大地は汚染されており、人が生きられる環境ではなくなっていた。
だが、それだけで終わる事はない。”グリーン・ディ”で身体を覆っているキノコ兵を倒すためにも接触する事になり感染が進み続ける。
まさに、絶体絶命、孤立無援・・・王下七武海という称号があるなら、その恩恵を受けたいと思う海賊が何処からか助けに来たかもしれない。もしくは、彼女を傘下に加えようという海賊もどこかに居たかもしれない。
だが、彼女の横暴な性格は有名だ。そのじゃじゃ馬を制御できる程の海賊など居ないに等しい。ここで彼女に恩を売っても、それを当然と受け止めて何も返さない。そういう性格をしている。
『無駄話で時間を稼ごうとしても無駄です。貴方の頼みの綱である”冥王”レイリーは、こちらで足止めしています。万が一、辿り着いて邪魔をするならシャボンディ諸島で大事な人が死ぬ事になる。元・天竜人の奴隷であった貴方達が海賊をやって人様に迷惑をかけている時点で理解できません。奴隷が犯罪者になっただけじゃないですか。最初の境遇には同情の余地はありますが、その後に犯罪者になったのなら同情もありません』
キノコ兵達が一斉に襲い掛かる。その手に持っている海楼石の武器が触れた時点で勝利は確実になるのだが、見聞色の覇気も高レベルで習得しているハンコックは全ての攻撃を回避し続けた。
カウンターで武装色の覇気を使った攻撃でキノコ兵を少しずつ減らしていく。だが、80を超えるキノコ兵が集まっており、徐々に逃げ場も避ける場もなくなってきていた。その結果、かすり傷を負う事が増えてくる。一瞬でも海楼石に触れる事でガクンと脱力し悪循環が始まった。
・・・
・・
・
ソラは、ビビからハンコックの状況を聞いて、よく粘るなと思った。高額の爆弾に加え、天竜人達から巻き上げた海楼石製の武器を潤沢に用いて、ハンコックへの援軍妨害を全力で行っているにも関わらず、仕留められない。
安全マージンを取った戦い方をしているにしても、長期戦は望ましくない事だ。ソラは、ペルに残った爆弾を全て投下するように指示する。
「一発3億ベリー相当の爆弾を4発もか・・・贅沢な葬儀代だな」
「兄様。それでハンコックは死ぬのでしょうか?」
ホタルとしても、壊滅的被害にまで追い込んだのに死なないハンコックの不死性に疑問を感じた。世界の意志が彼女を生かそうとしているのではないかと思う程に、しぶとい。殺人カビ”グリーン・ディ”の侵食を抑えるのには、相当の覇気を消費する。既に、戦いが始まってある程度時間が経つのに、健闘している。
「ホタル。死ぬのではなく殺すんですよ・・・目の前で確実に命を狩り取らない限り、謎の生存ルートが存在する可能性がある。ビビ、次の爆弾が弾けた後に送り込むキノコ兵の準備は終わってますね?」
「えぇ。でも、さっきのタイプと違って戦闘力はないわ。発する声だけは、限りなく本人に似せたけど・・・。性格が悪いわよ、ソラ」
そこには、麦わら帽子を被った20歳位の人型の青年タイプのキノコ。そのキノコが原形がほとんど残っていない女ヶ島に上陸した。
◇◆◇◆
4発目の爆弾。その威力で、女ヶ島の地形が崩壊した・・・島の6割が海に沈み、残っている部分は島の中央部分だけだ。この被害の中、生き残る事に成功したハンコックは、奇跡だと内心思っていた。
海楼石を持つキノコ兵を盾にして、爆風から身を守る事に成功する。その場に居合わせたキノコ兵達は爆風で海に落ちて上がってこない。これで、彼女の周りには文字通り誰もいない・・・石化した彼女の妹であるソニアも当然いなかった。
「生き残ったのか・・・痛っ」
片目がつぶれ、ハンコックの指が数本無くなっている。顔にも大きな火傷があるが、彼女がそれに気が付く事はなかった。生きてさえいれば芽はある。このキノコ兵が居なくなった状況を利用しない手はなかった。
這いずるようにその場から移動するハンコック。
しかし、希望を潰すかのように空から舞い降りる天使・・・みたいな翼を生やしたキノコ兵達。第二波の軍勢だ。
「わらわの前に出てくるのが怖いのか。臆病者め」
手負いの獣程怖い者はない。命の火を燃やして立ち上がるハンコック・・・最後の抵抗を見せてやろうという気概がそこにはあった。島から遠くに居るソラ達の場所までメロメロの能力が届けば、チャンスはある。
彼女はそう思った。やれるか?ではない。やらなければ、ここで死ぬ。能力者の決意と覚悟によりハンコックの力は最大限引き上げられる。
【俺の仲間に、何しやがる!! ハンコック、助けに来たぞ】
キノコ兵達と反対側・・・逆光がする方角に救いの神が舞い降りる。
その声にハンコックは、反応してしまった。待ち望んでいた男が来た。この状況を打破できる強く頼もしい、愛する男。彼を一目見ようとハンコックは、敵に背を向けて一瞬の隙が出来てしまう。
「ルフィ!! やはり、わらわの為に・・・違う!! そなたは、ルっ!!??」
ハンコックの胸を一本の槍が貫いた。
血がしたたり落ちる。そして、又一本と次々に海楼石製の武器が彼女に刺さった。肉体に刺さった武器が支えとなりハンコックは倒れなかった。そして、偽物だと分かっているルフィに手を伸ばす。
最後は、せめて思い人の傍に居たいという強い気持ちゆえだ。
【わりぃ~な、ハンコック。ここで死んでくれ】
「皮肉じゃの~、憎い相手に最後に感謝する事になるとは・・・くたばれ、アラバスタ」
笑顔でキノコルフィが死んでくれとハンコックに告げる。
この時を待ってましたと空飛ぶキノコ兵達が凶悪な口を開いた。ウナギのような口が開きワニのような歯が現れる。まるで、えさを与えられたひな鳥のように死にかけの人間に襲い掛かる。その様子は、鳥葬だ。
悲鳴すら上げずに最後の時を過ごしたハンコック・・・泣き叫び許しを請わない彼女の姿勢は、まさに女帝だ。
それから、一時間ほどしてソラ達を追いかけてきたガープ中将とコビー大佐が合流する。彼等が島に上陸したシーンをモルガンズが激写し、世界経済新聞を大きく飾る。
◆◇◆◇
ルフィ達がワノ国に上陸している頃、世界は大きく揺れ動いていた。
世界のバランサーとして知れ渡っていた元・王下七武海の一角が制度廃止に伴い早々にこの世から退場した。海賊国家として有名であった、ハンコックが治めていたアマゾン・リリーが地図から消える。
そのことで世界の一部人権派ややり過ぎだという民間人からのクレームが海軍と軍事同盟に届く。だが、命を懸けて海を守っている連中にとっては、そんな意見などゴミにも等しい。
よって、海賊の命も大事と助命を口にする連中は、その海賊と同じ屋根の下で暮らす制度が確立する。海賊と一緒に暮らしても気持ちが変わらない奇特な人物は、海賊達と一緒に国家から追放される。
助命したい連中と一緒に過ごせるのだから幸せだろう、という世界の優しさが満ち溢れた制度で皆が涙した。
なぜか、この制度が確立してから一切のクレームがなくなる。人間とは、不思議な生き物だ。可哀そうだとは言っていても、自分が全く関係しないからそんな言葉が出る。いざ、自分がその可哀そうだと言っている人物の後見人や保護者になるとなれば、掌返しする。
そんな情報が記載された世界経済新聞を片手にレイリーは、シャボンディ諸島のシャッキー's ぼったくりBARで酒を飲みながら苦い顔をしていた。
「レイさん、そんな顔をして酒を飲むならやめな」
「あぁ、すまんかった。ハンコックの事は済まなかった。間に合わず、私が着いた時には既に何も残っていなかった」
レイリーは、王下七武海制度廃止に伴いハンコックの身が危ないと察していた。だからこそ、急いで現地に向かったが、その道中でイーロンとケイミーという魚人に邪魔をされてしまう。海中に引きずり込まれたり、津波を起こされたり、渦潮に巻き込まれたりと一歩進んで二歩下がる状態にされ、手も足も出なかった。
水中にいる魚人を遠距離で的確に攻撃するような芸当ができる人間などいない。覇王色の覇気で気絶させようとも試みたが、二人は慣れたものだと涼しい顔をしていた事をレイリーは思い出した。
「レイさん・・・ハンコックの事は仕方ないさ。気の毒だけど、あれでも海賊。だから、お願いよ、もう海賊に関わらないで。このままじゃ、アンタまで死んじゃうわ」
「誰かに警告されたのか。・・・全く、子供の成長は早くて嫌になるね」
レイリーが振り返るとそこには、ソラとホタルに加えビビ達が勢ぞろいしていた。気取られずこの距離まで詰められるとはレイリーも老いたなと自覚した。
ソラが、レイリーに伝える。
「ロジャーの時代は終わっている。いつまでも大海賊時代に顔を出さないでください。コーティング屋レイさんとして余生を過ごすか、元・ロジャー海賊団副船長”冥王”レイリーとしてこの場で殺されるか決めてください。都合のいい時だけ立場を使い分けるとか、許さない。コーティング屋レイさんには、船のコーティングで世話になったので最初で最後の恩返しです」
「私に決断を委ねてくれるのかね、ソラ聖。・・・シャッキーは、どうなる?」
「コーティング屋の知り合いを相手にしているほど暇じゃない。”冥王”の知り合いなら、アマゾン・リリーの海賊として死んでもらう。元船医のクロッカスの場所も把握している」
レイリーは、元・海賊王の副船長。今まで数々の修羅場を潜り抜けてきた。今目の前の苦しい状況もその一つでしかない。レイリーは、ご自慢の刀に手をかける。
「海賊は、何処まで行っても海賊か」
「悪いね。老兵でも海賊だ。最後くらい、海賊として君たちの壁となろう。未来の海賊達の為に」
ソラとホタルは、「残念です」と小言で言った。海賊などの未来は不要。未来が必要なのは、善良な市民だ。決別した瞬間から既に攻撃は始まっている。
シャボンディ諸島の13番GRに森が産まれた。確実に殺すため、ソラが天竜人の権限で海軍に申請して呼び出した海軍大将緑牛。彼の能力は、ビビと同じく生命創造系で相性が良い。
「ひゃっはーーー!! 話の分かる天竜人は、大好きだぜソラ聖。これからは、ストレスフリーで仕事させてもらえるって約束だからな」
「えぇ、海軍大将と天竜人との面倒な事は全て私が挟まる事で調整します。だから、働きは期待していますよ、緑牛さん。アラバスタの緑化活動も是非その力を貸してください。トンタッタ族と協力すれば、数年で土壌改善もできる。好待遇をお約束するのは当然です」
「ははは、これは楽しい最後になりそうだ。最後に花を咲かせるのも悪くない。シャッキー済まないが、一緒に死んでくれ」
伝説の海賊と言われる”冥王”レイリー。軍事同盟と海軍が手を組むとどうなるか、その身をもって知る事になる。
いい海賊は、死んだ海賊だけ!!
それがこの世界の常識とすべく頑張らねば。