『ジョン。一緒にいられなくてごめんなさい。
あなたには愛する何かが必要よ。
この子を愛してあげて。舟じゃダメ。
愛してるわ、ジョン。病気は私たちを長く苦しめたわね。
でも、やっと安らぎを見つけた。あなたも見つけて。
その日まで、私があなたの一番の親友よ。ヘレン』
妻の手紙を読み、そして傍らにいた子犬を抱きしめた。
俺には勿体無い程のいい女だった。
何もいらなかった、彼女さえいたら。
今は子犬だけが、俺の希望だった。
東の海、オレンジの町。
そこは長年の開拓によって発展した、さながら港町。
そこはかつてない危機に瀕していた。
「おう!モージ、ハデにやってきたか」
「へい、バギー船長!腹拵えにペットショップを燃やしてきましたよ、途中で犬と町長と名乗る爺が絡んで来やがりましたが、軽く遊んでやりました」
「よくやった!この俺様に逆らう奴は見せしめだ!」
「だけど、町長の爺が妙な事を言ってました。お前が燃やした家はジョンの店だと」
「そうかそうかジョンの……今、なんて言った?」
道化のバギーの異名を持つ東の海では数少ない懸賞金1000万越えの海賊が町を支配していたのだ。
そう、この物語はそんな海賊であるバギーの物語……ではない。
「いや、まさか、そんなはずはない。だが……」
「どうしたんですかバギー船長?がッ!?」
道化のバギー、その奇術が発動される。
手首より先が勝手に飛行し、モージと呼ばれる男の首を掴んだのだ。
そして、そのまま首を掴まれて浮かばされる。
モージは足をバタつかせるが、宙に浮いていて首が締まるだけだ。
「おいモージ!モージ、モージ!下の名前は、そのジョンの下の名前はなんだ!」
「ジョ……ジョン・ウィック……カハッ!ゲホッゲホッ……」
名前を聞いた瞬間、モージは開放され地面に尻餅を着いた。
何をするんだと敬愛する船長を見れば、なんだか顔が青褪めている。
初めて見る、青褪めた表情に自分が何かしでかしたと気付く。
「よく聞け馬鹿野郎。ハデにやらかしやがって」
「どうしたんですか船長、たかが犬と店を燃やしただけじゃないですか」
「あぁ、そうさ。別にお前がしたことは問題ねぇ、問題なのはした相手だ。いいかよく聞け、もし間違いじゃなければお前の仕出かした相手は賞金稼ぎの可能性がある」
「賞金稼ぎですか、でもバギー船長の相手じゃねぇ」
「あぁ、普通ならな。だが、相手はハデにやべぇ男だ」
笑えない冗談だと笑い飛ばそうにも、バキーの顔は真剣だった。
その剣幕、真剣さに、嘘ではないとモージも理解する。
「逃げるぞ野郎ども、杞憂に終わればいいがな」
「そんな、ただの賞金稼ぎですぜ」
「俺が知ってるアイツなら、奴は必ずターゲットを仕留める。必ずだ」
バギーは恐ろしい黒いスーツの男を幻視する。
そう、この物語はバギーという海賊の物語ではない。
「モージよく聞け、犬が無事だとしても、ボコされて家は燃やされる」
「そんな……だが俺は猛獣使い。ライオンがこっちには、殺してやりますよ!」
「その前に、お前は最悪死ぬ」
「そんな……」
「奴の名はジョン・ウィック、引退した最強の賞金稼ぎだ」
復讐に燃える、一人の愛犬家の物語である。