燃え尽きた家の前で男が立っていた。
燻る柱は炭化しており、煤だらけの土地には何も残っていない。
何もかもだ、何もかも残っていない。
「町長……俺の家がない」
「すまない……ジョン……」
「教えてくれ町長、俺の犬はどこにいる?」
その気迫に、まるで世界が震えるような錯覚を覚える。
ピリリと肌を刺すような威圧感だ。
そんな威圧感に晒されながらも町長は無力に嘆くしかない。
無言で燃え尽きた土地を指差す町長に、男は拳を震わせるしかなかった。
その手は赤黒く染まっている。
「誰が俺の店を、俺の家を燃やした……」
「道化のバギーだ……だが奴はもういない」
「何?」
「麦わら帽子の海賊と争ってな、ここを出ていった」
それはジョンが仕入れで他の島に行ってる間の出来事であった。
いつの間にかやってきて、いつの間にか出て行った。
それだけの話だが、相手が悪かった。
「おい……どこに行くんだジョン」
「決まってる」
町長の目を見ながら、その瞳に復讐の炎を宿らせながらジョンが言う。
「仕事だ」
ババヤガと呼ばれた男が海に出る。
小さな小舟が東の海を漂っていた。
動力は帆と櫂だ。
追い風は帆で風を掴み、向かい風は人力で進むという馬鹿げた作り。
だが、それで十分と言わんばかりに乗っている男がいた。
ジョン、ジョン・ウィックである。
行き先は最も近くの島、ローグタウン。
手掛かりがない今、補給を考えたら立ち寄るである場所に行けば何か分かると思ったのだ。
ローグタウンについて真っ先に向かうのは海軍基地だ。
何故なら海軍基地には指名手配書が掲示されており、賞金稼ぎ達が集まるからだ。
つまり、情報が最も集まる場所と言えるのだ。
「おい、そこのお前」
「なんだ……」
海軍基地に来たジョンに話しかける男がいた。
ガタイの良い身体付き、そして周囲を睨みつけるような一見して海賊のような男。
唯一違うと分かるのは、海軍の制服のおかげだろう。
そんな男がこちらを見ている。
「何しに来た」
「仕事を探しに」
「チッ、カタギじゃねぇと思ったが賞金稼ぎか。名前は」
「ジョン・ウィック」
男はピクリと眉を少し動かしたが、特に反応せずに無言で此方を見てくる。
なにか引っ掛かる要素でもあったのだろうか。
「俺の街で騒ぎを起こすな、海賊じゃなかろうと容赦しない」
「あぁ」
その警告はこちらの名前を知っていての反応なのだろう。
会ったことはないはずだが、海軍に所属してるならどこかで知ったのだろう。
目当ての手配書を手に取ったジョンは此方を睨みつける男を無視して踵を返す。
次は情報と武器の調達が必要だからだ。
去っていくジョンを男は、スモーカーは警戒して見ていた。
その近くに女の海兵が寄ってくる。
「どうしたんですか、スモーカー大佐……んっ、あの男が気になるんですか?」
「あぁそうだ。たしぎ、他の奴らにいつでも出れるように言っておけ」
その言葉に寄ってきた海兵、たしぎが驚く。
まるで海賊を取り締まる直前のようなことを言うからだ。
「奴が俺になんて名乗ったと思う?ジョン・ウィック、ジョン・ウィックと言ったんだ」
「あの伝説の賞金稼ぎの!?」
「あー、ジョン・ウィックは賞金稼ぎじゃない。賞金稼ぎをぶっ殺す方の男だ……本物ならな」
ただならぬ気配からして偽名ではないだろうが、少なくとも嵐が来るような予感がスモーカーはしていた。
目当ての手配書を手に入れたジョンは酒場に行く。
ローグタウンでも一番規模のデカい酒場だ。
偉大なる航路を目指す海賊を取り締まる街、その酒場には当然海賊達もいる。
もっとも、海賊であると言うことは隠してはいるが。
「マスター、メニューについて質問しても?」
「…………」
カウンターに近寄ったジョンは手配書と一枚の金貨をマスターの前に差し出す。
無言でカウンターでグラスを拭いていたマスターは金貨を懐に入れた。
「2日前、ちょうど仕入れられている。もし欲しいなら取り扱っている事だろう」
「どこの店だ?」
「そこまでは、だがこの街じゃ取り締まりも厳しくてな。無くなる前に見つけることだ」
「あぁ」
端から聞いたらなんのことかは分からぬ会話ではあるが、ジョンは自らの勘が当たった事に安堵した。
奴はここにいる、それがマスターとの会話で分かったことだ。
秘密犯罪会社、バロックワークスの支部である酒場での情報だ。
間違いはないだろ。
「ところでアンタ、名前は?こんな仕事だ、常連になるなら覚えておくぞ」
「ジョンだ」
「ジョン……アンタ、まさかジョン・ウィックか?戻ったのか?」
「いいや、立ち寄っただけさ」
それだけ言ってジョンは酒場を出る。
次は服の仕立て屋に行かなくてはいけないからだ。
ひっそりとした裏路地を抜けて、人気のない寂れた場所にある店にジョンは来た。
景観はの中で高級感のある少し浮いた店構え、外からは高そうな服が売られてるのが分かる。
強盗にでも入られたら、誰も気付かないようなそんな場所だ。
「いらっしゃいませ……おや」
「久しぶりだな」
「ふむ……」
店主らしき男はジョンの姿を見るなり、その横を通り過ぎて一度店を出る。
店のドアにあるOPENのプレートをCLOSEDに変えるためだ。
「お待ちしておりました、ウィック様。地下へどうぞ」
「あぁ」
案内されて勝手知ったる迷いない歩みでジョンは彼について行く。
案内されるのは、大小様々な銃が置かれた地下室だ。
「本日はどのようなものをお求めで」
「デカくて力強く正確な奴だ」
「ふむ……貴方様が北の海製を好んでるのは存じておりますが、この東の海にも光るものがございます。此方はどうでしょ」
出されたのは少し大きめのショットガンだった。
通常よりグリップは太く、威力はありそうだが取り回しは難しそうだ。
ダブルポンプアクション、威力はあるが2発ずつで扱いに困る大味な一品。
「次は繊細な奴を」
「ふむ、ではコチラのスナイパーライフルを、南の海が産んだ至高の逸品です」
出されたライフルは位置がバレないようにマズルフラッシュ対策がされ、コーティングによって暗闇ではまず見えない作り。レンズも反射対策が施されており、威力は落ちるが隠密性には優れていそうだ。
「デザートに此方は如何でしょうか?」
「あぁ」
出てきたのはナイフ付きの小銃だ。
二丁拳銃、先端には取り外し可能な黒光りのナイフ。
マガジンは改造済み、特殊な機構なのか引き金を引くだけで銃弾が装填されそうだ。
「随分と先進的だな」
「海軍で試験的に採用された自動機構のついた物です。なんでもベガパンクが関わってるとか」
「全部貰おう」
商品を受け取ったジョンは金貨を差し出す。
バロックワークスの一部しか使われない特殊な金貨だ。
価値としては数百万ベリーに値する。
銃を手に入れば後は目的のターゲットを見つけるだけだ。
海賊王の処刑台に行けば会える気がする。
そこで奴と対峙するイメージがジョンの中には浮かんでいたからだ。
「待っていろ、道化のバギー」
殺してやる、殺してやるぞ、道化のバギー。
ジョンの瞳の中には復讐の炎が宿っていた。
「ぶぇぇぇくしょん!」
「大丈夫かい!風邪でも引いたんじゃないか?」
「誰かがハデに俺様の噂をしてるのかもしれねぇ」
「風が吹いてますからね、嵐が来るかもしれねぇ……帆も広げっぱなしだ」
「誰がデカっ鼻だ!」
「誰も言ってません!?あいたー!」