ザク…ザク…ザク…
地面を踏みしめる音が聞こえる。
それは自分の足元から来る音。
他の人の声や気配は無い、皆死んでしまった。
「はぁ…はぁ…母さん…父さん…麻里姉…未奈…」
必死に、家族の名前を叫んだ。
母、父、姉、妹…皆、もう死んでしまったが。
何故こんな事になったのだろう?
質問しても、答えは返ってこないのだろう。
その事に無性に腹が立った。
「まぁ…返ってきた所で…だな」
自分も、もう死ぬのだから。
そもそも、何もかも分からないまま答えを聞いてもだと今気づく。
そう、何も分からないのだ。
何にもない日だったはずだ、学校に行って、帰ってきて、家族とご飯を食べて、寝る。
それだけだったはずなのに。
いきなり、爆発が起きた。
なんの脈絡が無いのは分かってはいるがそうとしか言えない。
目覚めた時には周りは紺色と紫が混ざったような泥と触手のようなものと青い揺らめく炎に包まれていた。
────────ストン、と。
壁にもたれかかった瞬間、身体から一切の力が抜けるのを感じる。
もう、終わりだと言うように。
「……あぁ、クソっ」
悪態をつかずにはいられない。
理不尽とは、こうまで理不尽なのか。
「───────」
死ぬ。
そう、思った。
─────────────ドグン。
何かの鼓動を感じたその瞬間、そこに誰かは居た。
「………?」
ゆらゆらと、紫色をした誰かが揺らめいている。
俗に言う魂というものがそれだと言われると信じてしまいそうだ。
『あぁ…』
そいつは、俺の胸に手を伸ばして、言ったんだ。
『すまなかった、こんな事になるなんて思わなかった』
『なんて、言い訳しても意味ないよな』
言葉から察するに。
こいつはこの現状の原因、その一端なのだろう。
『…本当に、すまない』
そう言って、その誰かは。
垂れ下がった俺の手を取って──────────。
「────んぁ…」
そこで、目が覚めた。
随分と懐かしい夢を見ていた。
もう、何年も前の夢。
◇◇◇◇◇
「おはよぉ…」
「おはよう」
目覚めた時には病院のベッドの上だった。
あれから俺は父方の祖父に引き取られ、高校も行かせてもらえている。
気になってその後調べたのだが、あの事件は偶然が重なった原因から起きた爆発によるものだとなっていた。
ただ、偶然にしてはおかしいとして一部では一瞬起きた地震とか、宇宙人の侵略とか、色々考察されてるのを未だに見る。
あそこに居た人達は俺を除いて死んでしまった、俺だけを除いて、だ。
不可解な事件の1人の生き残り。
まぁ、親戚の誰もが変な子とか疫病神とか思うのも無理は無い。
むしろそんな俺を引き取った祖父が凄いと思う。
今でもこの恩は忘れていない。
それよりも、だ。
あの事件は、本当に偶然の爆発によるものだったのか。
答えはノー、世間的にはああなっているが、俺は覚えている。
あの紺と紫を、あの青を、あの手を、死の感覚を。
あれは幻覚や夢とは違う、現実なのだと。
あの日の記憶が、呼び掛けてくる。
「行ってきます」
「おう」
◇◇◇◇◇
「よっす」
「おぉ、おはよう」
俺は友人の1人である宮内桐八(みやうちきりや)に挨拶を返すと自分の席に着いた。
「そういや聞いたかよ」
「?」
「見てないのか?結構ニュースは流れてたんだけどな」
─────────また起こったんだってよ、”偶然”が。
ニヒヒ、と。
宮内桐八はたった一人の友人に笑いかけた。
─────────宮内桐八ははっきり言って変人だ。
それ故に周りからあらぬ誤解を受ける場合も少なくはなく、故に友達も一人しかいない。
この世界には、度々偶然が原因の事件が発生する。
そのどれもが不可解に包まれている。
そしてその偶然の事件は偶然○○が起きた、ということ以外分からない。
宮内桐八はその偶然が起こる度に言ってきた。
曰く、これはUFOの仕業だ!
曰く、これは異世界に続く鍵だ!
曰く、これは能力者の仕業だ!
それはまるで、夢見る少年のような目で。
それ故に、周りはイタイ奴を見るような目で宮内桐八を見ていた。
『もしかしたらそうかもな』
『──────』
あの記憶がある以上、こいつの発言を否定出来なかった。
何より俺も、能力やら異世界やらには結構憧れているのだ。
そう、例えば…物語の主人公、とか。
────俺が主人公やヒーローなら、家族も救えたのだろうか。
時折、そんなことを考える。
無論無意味な事だとわかっているのだが。
「おーい、おいってばー」
「?」
「もう昼だぜ、飯行こう飯」
もうそんな時間だったのか。
時の流れというのは自分が思うよりずっと早い。
「それ、たかが数時間の事で思う事か?」
……まぁたしかに。
◇◇◇◇◇
そんなこんなで、俺達は昼飯を買いに学校から自転車で5分のコンビニに居た。
うちの学校は珍しく昼休憩時は外出OKな学校である。先生の許可を取れば、だが。
「なぁ、ついでだし駅の方まで行かねぇ?」
「珍しい、なんで?」
「なんか駅前のコロッケが食いたくなってよ」
確かにあのコロッケは美味い、もはやこの世のものではないと思うほど美味い。
「まぁ今から行っても次の授業には間に合うか」
◇◇◇◇◇
「相変わらず人が多いな」
「あぁ、けど…」
ここはどちらかといえば都会の方なので駅に人が多いのは分かる、のだが。
今日は特に多い気がする。
「……思い出した、朝のあれ、ここら辺で起きたんだよ」
「まぁ多分陰謀論唱えてるヤツとかそれ信じてるやつとか国の秘密を探りたいヤツとか」
「まぁそんな奴らだろうよ、暇だねぇ」
宮内曰く、こういう奴らは少なくないのだと言う。
「なんでみんな嫌な方に考えんのかなぁ…おっちゃん、コロッケ2個!」
「はいよ」
「あ、俺も2個お願いします」
「わかった、150円ずつな」
14万!?(違う)
まぁそれはさておきこのコロッケ、すごく美味しいのになんと1個75円である、安スギィ!
「この店潰れない?大丈夫?」
「大丈夫」
大丈夫らしい、他の商品も美味しいからだろうか。
「ご、ごくり」
店を離れ、歩いていた俺は考えていた。
今日学校が終わったらまた来ようか、とか。
今度はコロッケ以外も買おう、とか。
まぁ前も見ずに歩いていたんだ。
だから俺は前から走ってくる女の子に気づかなかった。
結果はまぁ、お察しの通りで。
───────ドン、と。
少年と少女の体がぶつかった。
「うぐぇ」
「あう」
「お?」
その反動で少女は尻もちをついてしまった。
「ご、ごめん、俺が前も見ずに歩いてたから…」
そう言って俺は謝罪をしながらぶつかった女の子に手を差し出した。
───────その時だった。
「私こそすみません、急いでてつい…」
上を向いて少女が少年の手を取った瞬間、少年は何かを感じた。
レモンのような黄色い髪に蒼という言葉が似合うような煌びやかな瞳、そして童顔だがどこか色気のある美しい顔。
外見からして普通では無いことは確か、なのだが。
それ以上に何か…この世のものではない何かを感じる。
「本当にごめんなさい!それでは」
待って!と言おうとした瞬間。
ぐぅ〜とまるでそんな擬音がついてそうな音が誰かの腹からなった。
「お恥ずかしい所をお見せしてすみません…」
この少女だった。
「…コロッケ、いります?」
どうせ2個ある、1個ぐらい人助けだと思ってあげよう。
「俺もツレが迷惑かけちまったみたいだしな、ほら」
「そんな、悪いわよ…こちらにも悪い所はあるし…」
「まぁまぁ、貰っといてくださいや」
「…ありがとうございます」
良かった、余計なお世話でもないみたいだ。
「失礼ですがお二方の名前は?」
「宮内桐八」
「俺は夜立」
「夜立悠真(よりつゆうま)だ、アンタは?」
「私はアリス=ゼレスライン、この恩は忘れません!」
そう言うと少女は走って行ってしまった、両手にコロッケを持ったまま。
「なんつーか、美人だったな」
「どっちかって言うと可愛い寄りと思う」
それよりも、だ。
あの謎の感覚、得体の知れないものの正体が分からない。
まるで物語のような出会い方だ。
あの日本人とも思えない髪や顔がそう思わせるのだろうか。
それとも。
────────あの、ゆらゆらと揺らめく誰かと出会った時と同じ感覚がしたから、なのだろうか。
「はぁ、はぁ」
「ここなら、安心ね」
「…コロッケ、美味しかったな」
「もう力も使えないし、パパもまだ来れないみたいだし」
「……」
「…まだ、死ねない」
読んで頂きありがとうございます。
あっちもこっちも気が向いたら更新していきます。