貞操逆転世界の悪徳皇子になった俺、ひたすら魔石を食べて強くなり、破滅フラグを回避します 作:ナロウ・ケイ
──繰り返される宿業を紡いだ物語、【ナイツ オブ カルマ】にはいくつかの破滅が予言されている。
東の帝国が、屍者を率いる死霊の王──ルーク皇子により乗っ取られ、屍者たちの軍勢が大陸全土を制圧する『帝国編:表の章』。
西の星教国が、信仰を大陸全土に広げることに成功し──教皇ミカエリスの思うがままに人の運命そのものを自由に置き換えられる世界が訪れる『星教国編』。
南の君主国が、言葉がばらばらになる前の《唯一の言語》を復活させ、一部の人類以外は言葉を奪われて下等動物に成り下がる『君主国編』。
北の商業王国が、古代遺跡の中央制御装置:アドミニストレータの全権限の
大陸の各地に信者を持つ邪教団が、数百年かけて構築した固有結界を完成させ、大陸全土を夢の世界に包み込もうとする『魂の救済編』。
表向きは探索者ギルドの長でありながら、裏では帝国の諜報組織《
精霊たちが、ついに目覚めた『この星』の声に導かれて、主人公たちと対立する『ほしのこえ編』。
……等々、数え上げればきりがないほど、この大陸には色んな形の滅びがある。何かが頓挫しても、他の何かがあっさり大陸を滅ぼしてしまうぐらいに、数多の破滅が待ち受けている。簡単に言えばこの大陸は、最初から
滅びが確定している箱庭の、哀れな生き物たち。さしずめ神の視点からは、そう見えるのだろう。
それでもなお、この地に生きる者たちは生き残ることを諦めない。
中でも、ひときわ諦めが悪い青年が、ルーク皇子であった。何故ならルーク皇子は、ここに出てくる全ての破滅をかき乱そうとしている最中なのだから。*1
◇◇◇
「……今日はちょっと殿下の命を狙う刺客が多いですね」
「困ったもんだな。せっかくの旅行なんだが」
侍女のロナが、うんざりした気持ちを隠し切れない口調でぼやいた。うんざりしているのは俺も同じである。手首をへし折って縄で縛り、
「今日は雨が多くて困る、みたいな口調ですわね」
「まあ、実際大差ござらんのでは。露払いとはよく言ったものにござる」
英傑たち四人も、塩のような対応であった。最初のほうは命を狙ってくる刺客に驚いていたものだが、最近はもう慣れたもので、またいつものことか、とあっさりしていた。ひどいのは賢者キルケで、ついこの間なんか「なんだ刺客かよ……」と二度寝することもあったぐらいである。流石に英雄エイルに注意されていたが。
まあ、この反応も無理はない。侍女組のロナ、ラネール、カマソッソのいずれも、並大抵の刺客では歯が立たないほどの護衛であるし、四人の英傑は言うまでもない。護衛対象である俺にしても、野生の熊と一対一で勝てる身体能力なので、まず一対一で負けることはほぼあり得ない。生きる伝説とまで言われるほどの侠客が俺を狙ってくるならさておき、そういう手合いと衝突しない限り、命の危機になどなりようがない。
残念なことだが、力こそ正義という世の常もあるわけで。繰り返し送られてくる刺客は、繰り返し返り討ちにあっていた。
とはいえ、人質の人数が増えすぎると、近くの町で「賞金首です」と引き取ってもらわないといけなくなる。移動は計画よりも大幅に遅れていた。
「で、次のおすすめの居酒屋は?」
「はい、次の宿場街でしたら、調査したものがこちらに」
「《花園》の伝手を使っておすすめの居酒屋を調べようとする皇子も、何の文句も言わずに調査書をまとめる侍女も、ちょっとは疑問を持とうぜ」
刺客に襲われておきながらもう食事の話になって、さすがに賢者キルケが突っ込みをいれた。
もちろん、こういった酒場の情報はラネールやカマソッソ本人が自分の足で調べているわけではない。元《花園》──帝国の諜報組織の伝手を活かして、各地にいる情報屋から聞き出した一級品の情報である。いろんな街でただ酒で呑兵衛やってる身からすると、宝の地図も同然といえる。ここ最近、聖人アナスタシアからの尊敬の熱視線が止む様子がないのは、こういう理由からであった。伴って賢者キルケからの冷ややかな目も増えてきたが。
「伝書鳩を送ったら、あらかじめ席予約できるのかな」
「店主に包む心付け次第かと。手紙を手配します」
「お金ならあるんだよな」
「「御意に」」
この打てば響く返事の良さが、ラネールとカマソッソの有能さである。傍らで賢者キルケがすごい顔になっていた。ロナはもう涼しい顔をして聞き流している。こういうとき変な顔をする役目は、昔はロナだったのだが、今はもう完全に理解のある奥さんである。諦めたのかもしれないが。
庶民も利用する酒場を、金と権力を活かして席を空けようとする──言葉にすると何というか小悪党のような行為だが、別に悪いことをしているわけではない。美味しいものを食べたいだけ。ただそれだけなのだ。
もちろん、食事に毒が混ざっているとまずいから店を調べるのだ、という建前もある。情報屋を頼るのはきちんとした理由があるのだ。お前毒で死なないだろ、と反論されたらぐうの音もでないのだが。
等と、軽口を叩きながら喋っていると。
「……はっ、大したお坊ちゃまだぜ……っ、この先、無事に済むと思うなよ……」
こてんぱんに痛めつけた刺客の女が、血のたまった唾を吐き捨てながら何かを言っていた。彼女は片手剣術に心得があるようで、それなりに腕の立つ剣客だった。俺が遠距離から丸太とか岩を投げ続けたせいであっさりやられてしまっただけにすぎない。
確かに、彼女のような剣客を差し向けてくる黒幕がいると思えば、脅威的と言えよう。
「皇子、お前は、虎の尾を踏んじまったのさ……」
「踏んだかぁ」
踏んでしまったらしい。
どうしたものか。
「どうなさるのですか、殿下?」
「どこの手のものなのか調べはつけたいな。なあロナ、もうちょい
「今まで名乗り出てきたものがいなかったので……期待はできないのでは」
「うーむ、調べる労力はかけたくないんだよな」
おすすめの酒場は探すのに? という言葉を頑張って飲み込んだであろうロナの喉から、うきゅ、というよく分からない音が鳴った。一方キルケは普通に「おすすめの酒場は探すのに?」と突っ込んでいたが。こういうところが我が一番の忠臣たる配慮である。
「覚悟するといいぜ……皇子。眠れない夜の長さをな……」
「そいつは嫌だな」
眠れないらしい。
困った。
「勝手に虎の尾の方からこっちに来るんだよな」
こういう話ばかりでは気が滅入るというもの、美味い酒と料理がないとやってられない。次の街でもいい酒と料理に巡りあえますように、と内心で願いながら、俺はこれからの旅路に思いを馳せるのだった。