貞操逆転世界の悪徳皇子になった俺、ひたすら魔石を食べて強くなり、破滅フラグを回避します 作:ナロウ・ケイ
帝国議会に持ち込まれた議案は、かくも衝撃的だった。
大陸の東廻り航路を開拓するために大規模傭兵団を派兵していること(進捗は悪いが被害は軽微)。
帝国を東西に横断しながら、探索者ギルド各支部の探索者たちに皇室の名のもとに参集勅令を発布できる準備を整えたこと(あくまで傭兵提供条約に基づく参集のお願いなので、軍法会議などによる公権力の強制力は働かず、金銭契約に則る形式ではあるが)。
帝国を東西に横断しながら、凶悪な魔物の巣、高難易度迷宮を攻略し、ついでに地域の山賊たちなどを壊滅させたことで、大規模な商隊が通れる交易路整備の下準備を整えたこと。
帝国を東西に横断しながら、探索者ギルド各支部ならび地方の有力者たちの集まる定期勉強会を企画立案したことで、各都市で連携して兵站輸送できる足がかりを作ったこと。
すべて、例のルーク皇子の書簡によるものだった。
勿論、誰もそんなことを皇子に命じていない。皇子が独断で勝手にやっている行為に他ならない。
だが、その御身に流れるいと尊き血が、それを正当化する。皇帝陛下の御威光に背くのか、と喝破されては誰も逆らうすべはない。
そして、宰相閣下と親書を交わす間柄という噂が、巡り巡って『宰相閣下の深謀遠慮』ということになって扱われる。外堀を埋めるとはまさにこのことであろう。よくある話では、帝国議会の議決の中で、法衣貴族たちが勝手に外堀を埋めて地方諸侯たちに無理難題を命じることがあるのだが、皇子は全くの例外中の例外で、『実績が積み上がり過ぎて、何だか勝手に社交界が好き勝手持ち上げ始める』『血統が血統だけに軽んじるわけにもいかない』という事情があった。
こうして宰相閣下派閥の貴族たちは、知らない実績が勝手に積み上がる。
もはやこれは、帝国が大陸の四大勢力にあるが故、そうするしかないのだ。
もしこれが仮にも他の三勢力に漏れ聞こえて、
『え? 帝国って、皇子一人の手綱さえも握れていないんですか? (意訳)』
『握れてませんが? (半ギレ)(意訳)』
……なんて分かってしまった暁には、国が荒れる。次期帝位継承を皇子にしろだとか喚く奸臣佞臣が続々と現れて、他勢力からは帝国を内乱で割るための離間策や反乱工作が山のようにやってくることだろう。
というより今でもいる。公明正大で民衆からの声望もあるルーク皇子こそ、次の皇帝にふさわしいと叫ぶ声は、数こそそれほど多くないものの、根強いものがあった。
間抜けなことに、ルーク皇子本人が残した『俺が帝位継承したいわけないだろ(意訳)』という有難い書状のおかげで、それらの声は無力化されているが、世が世なら乱世の幕開けである。お家騒動で国が亡ぶ。傾国の美少年とはよく言ったものである。
「だからといって、女教皇からの婚姻話の返信を伸ばし伸ばしにしていい理由にはならないのでは?」
「というか、女教皇が婚姻話を持ち掛けてきたという噂がどこからか漏れて、北の商業王国と南の皇国からも対話を求める書簡が届いてますが」
数々の貴族の声。
帝国議会は、主役のルーク皇子不在のままに華々しく踊り、されど進まなかった。
もちろん帝国議会への参集拒否は『封建的義務の不履行』に当たるため、場合によっては領地の没収、貴族称号の剥奪、宮廷からの追放などをされても文句は言えない。
だがルーク皇子は一応、代理人を立てている。その上で『貴族称号や領地の剝奪をするならそれでもいいです、無視するだけなので(意訳)』と、立場にまるで拘泥しない。すべて天空に浮いた領地が悪い。兵団の派兵も出来なければ、領地没収も出来ない。ルーク皇子本人に至っては、暗殺毒も効かないし野生の熊より強い。強制する手段が何一つない。
仮に本当に貴族称号を剥奪したとして、平民ルークが誕生したとする。彼はそのまま女教皇ミカエリスと結婚し、天空のジャヴァリの領地ごと仮想敵国の星教国に回ってしまうだろう。最悪の場合は、『俺にも帝位継承権があったから、ほかの皇族を皆殺しにすれば帝国をそのまま乗っ取れるよ(意訳)』とか言い出して、帝国を丸ごとひっくり返す大騒動を引き起こしかねない。
ゆえに、貴族たちも本件については慎重にならざるを得ず、ルーク皇子は泳がされ続けている。
理由は単純明快である。
邪魔立てしなければ、放っておいてもそれなりにいい結果を出してくれるのだから。
「……東廻り航路の実現に向けて、皇子から求められている支援を速やかに行うように。帝国内の陸路についても、交易路整備と兵站輸送の観点からこれを重点国策として位置付けること」
結局、宰相の発言が物語るように、議題の結論は最初から決まっていた。
簡単な話だが、物流網が整備されたら国は栄える。
厄介な魔物や迷宮を勝手に片づけた上で、現地の有力者たちを勝手に顔繫ぎしてくれたというのだから、あとは陸路をどんどん舗装するだけ。現地の探索者ギルド支部も、支部間で兵站計画を調整するようになったというのだから、その考え方を拡張して街道を整備し倉庫を作っていけばいいだけ。全くの無から机上検討を進めるというよりは、既存の仕組みをいくらか流用・模倣できる拡張性もあった。
というわけで、皇子の書簡による献策(ということになっているが実情は勝手に皇子がやっていること)は円満に受領され、今後の実現に向けて前向きに検討が進められることになった。
しかし、である。
「……ここまでが、
宰相は、国家百年の計と謳っても過言ではないほどの大構想を、
これには周囲の貴族たちも、驚きを禁じ得なかった。
宰相ほど明晰な頭脳と大局観を持ち合わせている人物が、事の重大性を理解していないはずがないためである。
「賢明なる諸君。我々帝国議会の本題は、別にある」
宰相閣下の瞳が、すっと細まり、その色を変えた。
「これより
◇◇◇
「えー……。毎日魔石浄化しているだけなのに、集団姦淫と乱交の罪状と、悪魔崇拝の疑義がかかってるのか……?」
「毎日魔石浄化してるからですわよ」
一方で、旅の途中のルーク皇子一行が、よもや悪魔崇拝者ではないかというあらぬ嫌疑をかけられているとは、誰もついぞ知らない話であった。
皇子「襲ってきた女ども十人ぽっち拷問しただけで……血も涙もねぇ」
ロナ「多分何かしらの元ネタがあると思うんですけど、一個だけ……。血も涙もないのは殿下の方では」