貞操逆転世界の悪徳皇子になった俺、ひたすら魔石を食べて強くなり、破滅フラグを回避します   作:ナロウ・ケイ

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貞操逆転世界の悪徳皇子と、新たなる英傑たち④

 

 

 …………。

 ……。

 

 

 天文塔の内部は、何者かの手による異界化が進んでいた。

 いわゆる迷宮化(ダンジョン化)とよばれる現象。

 瘴気は満ち、空間は歪み、魔物たちがあちらこちらから湧いて出てくる。

 

 成人向け戦略RPG【ナイツ オブ カルマ】の設定用語を借りるのであれば、"空間の位相がずれた状態"とのことらしい。

 表現を変えると、迷宮化(ダンジョン化)とは、元の地形と広さも構造も全然変わってしまい、全く違う"概念"と融合してしまうことを指す。

 

 恐らく天文塔の内部は、従来と全く異なる構造物に成り果てているはずである。

 

「時間をかけても仕方がない、一気に登ろう!」

 

 まごついていても仕方がない。意を決した俺は、仲間たちに声をかけた。

 先ほど、天恵の儀で選ばれし天恵を授かった少女たち。

 

 剣聖のイオリ。

 近接戦闘に長け、アーツゲージを消費することで二撃、三撃、と連撃を繰り出せる。高いクリティカル率でダメージを稼ぐことができる攻撃要員。

 

 聖者のアナスタシア。

 治癒魔術に長ける他、様々な支援魔術(バフ)を習得し、味方を保護する結界術まで覚えられる。長期戦や連戦の際には必ず起用される回復要員。

 

 賢者のキルケ。

 攻撃魔術に長ける他、極めて広い妨害呪文(デバフ)を習得し、特定の魔物を嵌め殺せる。非常に高い火力でダメージを稼ぐことができる攻撃要員。

 

 英雄のエイル。

 近接戦闘に長け、いかなる攻撃をも引き受けて耐える屈指の頑強性を持つ。様々な支援魔術(バフ)妨害魔術(デバフ)を持ち、反撃系の奥義も持ち合わせる、殴れる防御要員。

 

 このうち、主人公が選んだ天恵と被る少女は、この場に居合わせないことになる。

 序盤の迷宮【天文塔】の攻略は、この【剣聖】【聖者】【賢者】【英雄】で行われる。

 

 ……しかし、成人向け戦略RPG【ナイツ オブ カルマ】は非常に難易度が高いことで知られている。

 この天文塔にも、数々の罠が張り巡らされているのだ。

 

 

 

 踏むだけで床が抜ける罠。

 移動する方向が前後左右逆になる罠。

 滑ってしまい壁に当たるまで操作不能になる罠。

 踏んでしまったが最後、入口まで一瞬で飛ばされてしまう罠。

 魔物たちがたくさん待ち構える小部屋(モンスターハウス)に閉じ込められる罠。

 

 ──そういった数々の罠が、プレイヤーの行く手を阻む。

 

 魔物自体はそこまで驚異的ではない。

 よくいる小獣魔(コボルト)小鬼魔(ゴブリン)が、徒党を組んで襲い掛かってくる。

 何度も何度も戦うことになれば当然消耗は大きくなるし、油断はできない相手なのだが、戦闘に慣れてくるとさほど怖くはない。

 

 この【天文塔】の攻略において、警戒すべきはとにかく罠なのだ。

 

 

 

 ようやくすべてを乗り越えて、何とか屋上の鐘楼台まで辿り着くと、そこには迷宮の守護者(ボスキャラクター)が待ち受ける。

 その名も【妖樹アルラウネ】。

 天文塔に巣食って、この周辺を迷宮化させた張本人である。

 

「く、なんて奴だ、強すぎるぞこいつ……!」

 

 攻撃するたびに状態異常になる樹液をまき散らす。

 木の蔦による範囲攻撃は当然のこと、怯み(スタン)効果をもつ「叫び声」攻撃を放ってくる。

 猛毒の鱗粉をもつ蝶たちを従えて、こちらの攻撃を防いだり、一気に集団で襲撃してきたりする。

 挙句の果て、時間をかけすぎると「吸収」攻撃によって体力と魔力を回復する始末。

 

「もっと魂の位階(レベル)上げをしないと駄目なのか……っ!」

 

 力尽きた俺は、ありったけの恨みを妖樹アルラウネへとぶつける。

 だがそんなことで手を緩めてくれる甘い敵ではない。妖樹の操る蔦は、俺の首をぎりぎりと締め上げて、やがて俺の命を奪い取った。

 

 成人向け戦略RPG【ナイツ オブ カルマ】において序盤の大きな壁。

 それが、この【妖樹アルラウネ】なのである──。

 

 

 

 …………。

 ……。

 

 

 

 以上、俺が過去に【ナイツ オブ カルマ】を遊んだ時の回想である。

 とにかくここは、ろくでもない場所なのだ。

 

 確かに序盤の迷宮(ダンジョン)としては優秀である。色んなギミックを身をもって覚えられる。

 

 しかし正直、難易度がかなり高いため、万難をなるべく排したい俺からすると、真正面から取り掛かりたくない迷宮でもあった。

 

(だから焼くんだ)

 

 そうである。焼くのだ。

 

 大聖堂構外へと飛び出した俺とロナと四人、合わせて六名は、かの天文塔が業火に包まれていることを目撃した。作戦成功である。

 これでもう、今日の脅威はどこかに去っていったと言えるだろう。

 

 四人はぽかんとしていた。

 目の前の光景が信じられないといった様子であった。

 外に出たらいきなり天文塔が燃え盛っているなんて、一体誰が想像できるだろうか。

 

 炎に目を奪われている四人をよそに、俺は今回の最大の功労者であるロナをこっそりねぎらった。

 なるべく声を潜めて聞かれないように。

 

「(ロナ、ありがとう)」

「(はい。褐色瑪瑙(ファイア・アゲート)の魔石は十分に備蓄されてます。火蜥蜴(サラマンダー)を模したタリスマンは六ケ所、周辺を囲むように打ち込まれてます。魔法陣も手渡されたとおりに作りました。もとより、数日前から天文塔には干し草を大量に備蓄するよう、ルーク殿下の文書通達がなされてます。きっとよく燃えることでしょう)」

「(呪文は?)」

「(刻み終わっております。黒アールヴにおける火炎巨人(ウィッカーマン)の儀式魔術です。天に捧げる供物と成り果ててもらいます)」

 

 全ては準備。

 準備こそ全て。

 数日前からすべては手筈通りに進んでいた。

 この塔が迷宮化すると予め分かっていたなら、焼く準備を最初から進めておけばいいのだ。

 

 植物系の魔物の最大の弱点は、やはり簡単には動けないという点だろう。

 

 黒アールヴにおける火炎巨人(ウィッカーマン)の儀式魔術。威力はお墨付きである。何と、ロナの物語を辿った場合、俺はこれに焼かれて死ぬのだ。嫌すぎる。絶対にロナのことを幸せにしようと決意した瞬間であった。

 

「え、え、え? ど、どういうことにござるか……?」

「あらあらこれは……どうしましょう」

「おー……燃えてんなあ……」

「なんてことかしら……燃えてますわね……」

 

 当惑する四人の少女たち。

 剣聖のイオリ。聖者のアナスタシア。賢者のキルケ。英雄のエイル。

 それぞれがみんな、言葉を失っている。

 

 燃え盛る塔からは怨嗟の絶叫が聞こえる。断末魔と言ってもいい。

 悶えるような、暴れるような、恐ろしい音が絶え間なく続く。

 

 今のうちに、俺は叫んだ。

 

「くそ! 天文塔に炎が放たれている……! これも、これも魔物の仕業だというのか!」

 

 そう。全ては魔物が悪いのだ。

 

 

 

 

 






 魔物「解せぬ」

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