貞操逆転世界の悪徳皇子になった俺、ひたすら魔石を食べて強くなり、破滅フラグを回避します 作:ナロウ・ケイ
貞操逆転世界の悪徳皇子と、迷宮探索学園の狂騒曲
よくある転生ものの王道展開と言えば、持ち前の技能を使って、『流石ご主人様、凄い!』とちやほやされるやつであろうか。
自分しか知らない知識を使うのもあるだろう。現実世界の知識でも、ゲームの攻略知識でも、どちらでもよい。
もちろん俺も、途中まではそれを目指していた。
やはり周囲の人に感謝されるのは気分がいいし、老いて死ぬ間際には人に慕われて死にたいと思ったからである。
ルーク・アルトリウス・オデュッセイア・マギデリック皇子は、周囲に慕われる皇子である──。
これも日頃からの努力の賜物であった。
ただ、それほど根を詰めて頑張らなくなったのは、もっと別のことに注力したいと思ったからである。
あまり衆目を集めすぎても自由に動けなくなってしまう。それは痛いほど理解した。
(いくら男子が貴重な世界とはいっても、子供がそんなちやほやされるはずがないと思ってたんだけどね。この世界の基準は未だに分からないな)
五歳の時も、六歳の時も、七歳の時も、八歳の時も、そう思っていた。
十歳になったある日、鏡を見て「あれ、結構目鼻立ち整ってるかも……?」と思った時は、少しだけ舞い上がったものだった。
とはいえそれでも自己謙遜が過ぎたらしい。
確かに、ただ単に目鼻立ちが整った子供というだけでは、必要以上にちやほやされないだろう。
一方で、自分の情報を整理すると、
──帝国の貴人の教養である、『文法』『修辞学』『
──同年代の皇族や有名血筋の貴族のみに媚びを売るのではなく、出自の卑しい新興貴族や、商売で成り上がった令嬢、日々ともに生活する家臣団にも、分け隔てなく優しく接する社交性を持ち。
その上で、高貴な血筋である貴重な男子、だからもてはやされているのだ。
実際、十歳で残念な天恵をもらうまでは、婚約を前提としたお付き合いのお誘いが年々山のように舞い込んできた。一つ一つ丁寧にお断りを入れるのにも時間がかかってしまい、ロナには負担をかけさせてしまった。
(まあ、この前の【天恵の儀】で随分と株は下がったみたいだけどね。人徳と器ばかり持ち上げられるけど、肝心の天恵がお粗末すぎるってさ)
俺は苦笑した。
確かに、俺の天恵はこの世界基準ではお粗末なものだった。
農夫、鉱夫、船漕士、運搬人。
平民に与えられるような、ごくありふれたような天恵ばかりを授かっている。
やはり帝国貴族の考え方としては、優れた天恵を持つ血を一族に取り込みたいもの。
優れた血統を次世代につなぐことこそ、選ばれし貴族としての宿痾。
帝国を導いていくものは、優れた人間でなくてはならない。
そのためには、優れた天恵を授かったものを子供に──となるわけで。
この分では、この皇子の子供も期待できない──と、宮廷貴族からいささか冷ややかな目で見られているのが今の俺である。
婚姻外交にも使えそうもない、と勝手に失望され、俺の立場は貴族の中でもどこか浮いたものになっている。
しかし、俺個人の評判は非常に高い。この辺りを説明すれば「とてもいい子なのに天恵が残念過ぎて、高名貴族との婚姻は難しい」という状況にあった。
──要するに、自由に動ける時間が増えて、とても都合がよかった。
…………。
……。
帝国探索者学校は、十三歳を超えるものであれば誰でも門戸を開いている。
たとえ皇族であったとしても、その例外ではない。
とはいえ、学生になるには、教材費はもちろんのこと、教師への謝礼に学校への寄付、その他の費用が必要となるため、多くは、貴族や商人、豪農などの裕福な家庭の子たちが普通であった。
(成人向け戦略RPG【ナイツ オブ カルマ】の学園編は、この探索者学校が舞台になっている。分かりやすくいってしまえば、ここで薬学とか魔術学とか神智学とかを勉強しながら、空き時間で近くの
はっきり言うと、俺は裕福であった。
皇室からお金が出ているというのもあるし、親が金を持っているというのもあるが、俺自身もいくつかお金になる特許を持っていた。
盤上遊戯として、リバーシ(黒白の石を交互に打って、挟んだらひっくり返すゲーム)を考案した。
遊び道具として、
街の職人たちにあれこれ作らせて売り込んだ結果、いくつかは失敗したもののいくつかは大成功をおさめ、かなりよい収入になったのだ。
今までは、この収入を魔石購入費に充てたりしていたのだが──。
「ロナも大学に行くだろう? 帝国探索者学校」
「……え」
学費ぐらい出せるし、という軽い気持ちのお誘い。
もとい、日常生活を世話してくれる人が欲しいし、護衛役も欲しいし、魔石浄化に付き合ってくれる人も必要だから、という、たっての希望である。
「……。よろしいのでしょうか。その、私みたいなものなんかに」
「いいよ。確かに大学は貴族や有力者の子弟が行くものだけど、そんな尻込みしなくていいんだ。それにロナだって【黒き森の氏族】の首長の娘なんだろう? だから【黒き森の氏族】の名誉と地位が元通りになれば、君も有力者の子弟にあたるんだよ。大学を出た経歴は、この先必ず役に立つよ」
「……………………」
俺はロナの手を握りながら説得した。
自身のことを下女か何かと勘違いしているみたいだが、彼女は本来、皇族の家臣という立派な立場である。
大学に通わせる費用さえ工面できれば、何一つ問題はない。
それに、大学を出て学問を修めることが出来れば「それほどの教養をお持ちであれば」と、血筋の良い相手と結婚できるかもしれない。世間体が立つというものだ。無学な下女と思われるより、きちんと学問を修めて皇族の侍女として働いたことのある才女、と思われるほうが、遥かにいい縁談に恵まれる。
「私はロナを幸せにしてあげたいんだ。一緒に大学に行こうよ」
「────────」
言葉はなかった。
ぽろぽろ、と涙が二つ。
黒アールヴの赤い瞳から零れた雫は、絶句するほど綺麗であった。
思わぬ展開に、俺は少し言葉に詰まった。
まさか感極まって泣かれるとは思っていなかった。
何かを間違えただろうか、と少し冷静になって振り返ってみる。
今までずっと俺の手助けをしてくれた、心細い境遇にいるであろう女の子に優しくしていただけで。
──強火で炙り過ぎてどろどろにしちゃいました、という話ではないはず。
だが妙におさまりの良くない、この感覚は何だろうか。何だか繊細な硝子細工に罅を入れてしまったような、取り返しのつかない感覚とでもいうのか。
耳元で幼い声たちが、"お前のせいです"、"あーあ"、と
主人公「今までよく働いてくれたし、この子には幸せになってほしいから、一緒に大学いかせてあげたいな」
史上最悪の優しさです。ロナはもうだめです。ぐちゃぐちゃです。取り返しがつきません。