貞操逆転世界の悪徳皇子になった俺、ひたすら魔石を食べて強くなり、破滅フラグを回避します   作:ナロウ・ケイ

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貞操逆転世界の悪徳皇子と、迷宮探索学園の狂騒曲④

 

 

 その日、夜の晩餐会では、色んな人たちが新入生を歓迎しようと様々な催しを試み、秘密の企画(サプライズ)で《組み分けの儀式》が開かれていた。

 しかしその晩餐会の最中に魔物乱入事件が発生し、大混乱の中で怪我人が続出することになったのだが、それはまた別の話である──。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 この『天まで届く時計塔』の特異な点としては、入口にある水晶に手をかざすと、攻略した階層まで連れて行ってくれる──という遺構の存在であろう。平たく言えば昇降機(エレベーター)である。

 

 明らかにゲーム的な都合の機構ではあるが、後付けの設定として『この時計塔は元々、失われた文明の遺跡であり、その古代人類の血を引く末裔が触った場合に遺構が反応する』という表現をなされている。

 ご都合主義と言えばそうであろう。一応補足すると、昇降機(エレベーター)の概念自体は古代ギリシアのアルキメデスが考案している他、古代ローマでも闘技場に使われていたとされるほど歴史がある。もちろん人力だが。この『天まで届く時計塔』にある昇降機はそれよりも遥かに高度である。

 

 正直、何千年も点検されていない昇降機(エレベーター)なんぞに乗るのは怖いのだが、安全性に関しては迷宮のもつ自己修復作用のおかげで大丈夫というわけだ。

 

 そして、この手の設備の裏技として、特定の暗証コードを打ち込むことでいきなり隠し部屋に突入することが出来るというギミックまで用意されているのだが──。

 

(隠し部屋の一つ、旧地下聖堂には、沐浴施設と言う名の温泉設備があるんだよな)

 

 この塔、実は隠された地下室があるのだ。しかも温泉付き。

 

 旧地下聖堂には、一通り寝泊まりできそうな環境の他に、沐浴施設が整っている。有り体に言ってしまえばこの場所は、成人向けスチルを集めるための『お風呂イベント』的なものに使われる場所なのだが、普通に秘密基地代わりに使っても問題はない。

 

(ここならロナが()()()()()()()()()大丈夫だ。馬車旅の間は、布を噛んだりして声を殺したりと、()()()()()()()()。流石に学寮で毎夜唸り声を上げていたら問題になるから、誰も足を踏み入れてこない、こういう場所が必要になってくる)

 

 塔を攻略しては、入手した魔石を地下聖堂で浄化。

 そんな理想的な環境が整っている。

 

 何がいいかというと、攻略した階層まではエレベーター機構で素早く移動できるので、安全地点を確保したまま迷宮攻略(ダンジョンアタック)も無理なく進められるというところだ。まあこの塔は一階層一階層がそれなりに広くて謎解き(リドル)要素も難しいので、必ずしも楽とは断言できないだろうが、一旦ここに戻れば寝食の安全を確保できるのだから精神的にはかなり楽である。

 

 それに今までは、市場に出回っている魔石しか食べられなかったが、これからは魔物から採れたての魔石を食べることができる。産地直送とは言わないが、魔石にも鮮度がある。表面の小さな傷から魔力が漏れ出たりすることを考えると、入手したその日のうちに魔石を食することが最も理にかなっている。

 

「……こんな場所があるなんて」

「どうだ、学寮なんかで生活するよりよっぽど便利だと思わないか?」

 

 俺の言葉にロナは頷いていた。

 一応弁明しておくと、帝国探索者学校の学寮とて立派なものである。中世ヨーロッパにおけるパリのソルボンヌ大学よろしく、貧窮者たちでも学問に打ち込めるようにと整備された学寮は、極貧の下宿施設なんかよりも上等である。多めにお金を払ったら個室を用意してもらえる他、複数人で利用できる講義室も備え付けられている。

 

 ただし、流石に温泉はない。

 使える面積も、圧倒的にこの旧地下聖堂の方が広い。

 

 しかもここは聖堂なので、大精霊と交渉ができる。成人向け戦略RPG【ナイツ オブ カルマ】における聖堂とは、属性系統樹(エレメントツリー)を成長させたり、【天恵の儀】を再実施できる場所であった。世界樹の種を成長させることが出来る場所もほぼ聖堂に限定されているため、やりこみの際には必ずと言っていいほど聖堂を多用することになっていた。

 

 諸々を勘案すると、帝国探索者学校の学寮に住むよりも、この地下聖堂を住み良い環境に作り替えていくのが得策だと俺は考えていた。

 

「迷宮に住むと言い出した時は、その、畏れ多くも耳を疑いました。ですが……」

「いいよ、ロナの反応の方が普通さ」

 

 干し草や藁を集めて、それらに布をかぶせることで簡易的な寝床を作った俺は、早速その上に大の字になって寝っ転がった。少し藁がちくちくするので、もう一枚大きな布が欲しいところである。だがマントさえ羽織ってしまえば気にならない程度である。ロナに声をかけると、彼女は遠慮がちに俺の隣に腰かけてきた。

 

「明日から本格的に迷宮攻略(ダンジョンアタック)に挑む。今日は温泉に浸かって早く寝よう」

「……その、殿下、勉強は」

「薬草学と魔術言語基礎以外はあまり興味がなくてね。もし不満なら、図書館から何か蔵書を借りてくるといい。夜中に一緒に読書しよう」

 

 ロナは、これでいいのだろうか、と明らかに浮かない表情をしていた。否。浮かない表情かと思ったら、少しだけロナの口元は緩んでいた。

 彼女もなんやかんやで、宮廷生活から遠く離れた自由自適な生活に心躍るものがあったのかもしれない。大学に来た以上は学問に打ち込むべき、とは分かっているのだろうが――。

 

「……殿下に従います。殿下が迷宮攻略を優先したいと判断なさったのであれば、私の使命は殿下の力になることです」

「ありがとう、助かるよ」

 

 俺は彼女に心底感謝していた。頭の固い生真面目な侍女でなくて本当によかった。

 勉強そっちのけで迷宮攻略に打ち込むだなんて我が儘を主張して、それを手伝ってくれるような人はそうそういない。ましてやそれが、探索者稼業という賤業であれば尚のことである。剣闘士として振舞ったローマ皇帝とまではいかないものの、普通、そういった高貴な血筋の人が野蛮な仕事に精を出すのは好まれないものなのだ。だから、ロナのように古アールヴ流の格闘術の手ほどきをしてくれるような侍女は極めて得難い味方なのだ。

 

「……(迷宮に住んだ方が、悪い虫もつかないでしょうし)」

 

 ぼそぼそと何かをつぶやく彼女だったが、俺にはよく聞こえなかった。

 

 

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