貞操逆転世界の悪徳皇子になった俺、ひたすら魔石を食べて強くなり、破滅フラグを回避します 作:ナロウ・ケイ
貞操逆転世界の悪徳皇子と、盲目で義手の狩人
ルーク・アルトリウス・オデュッセイア・マギデリックは帝国の皇子である。
そしてルークは──俺は、一週間にわたる大熱を出して、すっかり寝込んでしまっていた。
(……あ、え)
朦朧とする意識。存在しない記憶。
混濁する知識、そして曖昧になっていく魂。
ルークという少年と、
(何でだろう……確か、俺は、
奇妙な感覚としか言いようがないのだが、俺はそう直感していた。
俺の記憶が正しければ、ルーク・マギデリックは、創作物の中の存在でしかなかったはずである。
実在する人物ではない。
成人向け戦略RPG【ナイツ オブ カルマ】の悪役貴族である。
彼は確か──悪逆非道を尽くし、帝国を戦乱の混沌に叩きこんだのちに、生きたまま全身を焼かれて死ぬという末路を辿る。
自業自得の死。当然の帰結。情けをかける余地もない。
…………。
……。
そのはずであった。
だがしかし同時に、俺自身がそのルーク・マギデリック皇子本人ではないか、という実感が胸にあった。
(……何だ、どうなっているんだ、記憶が朦朧としていてよく分からない)
高熱の中、俺は気力を絞って少しでも覚えていることを思い出そうと努めた。
ルーク・マギデリック皇子としての記憶を少しずつ辿れば。
何とか思い出せたのは、五歳の誕生日を迎えたというのに、こうして何日にも渡る高熱を出してしまったこと。
そのせいで【天恵の儀】──日本における七五三のような大事な儀式を受けられずに、こうして寝込んだままになっているということ。
こうなったのも全て、世話人であった侍女が悪い――と周囲から言いがかりをつけられて、若い侍女が一人始末されそうになっているということ。
そういったことが、断片的な情報として頭の中に入ってきた。
(……このままでは、まずい。俺のせいで、残酷な仕打ちを受ける、人が、出てしまう)
くらくらとする頭を押さえながら、俺は身を起こした。
本当にまずい。ありもしない罪で、人が一人、犠牲になろうとしている。
俺が高熱を出しているのは事実だが、その高熱の原因は決して侍女ではない。
(駄目だ、起きろ、俺、ちゃんと、起きるんだ)
死なせてはいけない。
その娘は、何一つ悪くない。
俺は呂律も回らない口で、「誰か! 誰か!」と叫んでいた。
地面が揺れる。ぐらぐらとする。視界が歪む。吐き気が込み上げてくる。
酷い熱だ。寒気が収まらない。早く助けてほしい。
だが──。
「殺してはだめだ! その侍女は、ロナは、何も悪くない! ルーク・マギデリックが、その名において保証する!」
きちんとそう言えたかは分からないが、俺はあらん限りの声で叫んでいた。
記憶はそこで途絶えた。
◇◇◇
ルーク・マギデリックは皇子である。
そしてその従者であるロナは、黒アールヴの戦争奴隷である。
衣装類の管理、主人の身支度、部屋の掃除、そして時には食事の給仕に至るまで。
継承権で言えばほとんど存在しないルーク皇子ではあったが、その身の回りの世話についてはこの黒アールヴが全てをこなしており、不自由のない生活を送っていた。
「……ルーク殿下」
「どうした、ロナ」
かつて【黒い森の氏族】が帝国に向かって反乱を起こし、それを鎮圧された事件がある。
その際人質として捕らわれてしまったのは、氏族の首長の娘、ロナであった。
以来、見せしめとして、彼女はルーク・マギデリック皇子
本来の話をすると、皇族の侍女とは悪くない扱いである。
貴族の階級としてみれば、皇族の世話役はかなり重要な役職であり、厚遇されているとも言える。
食事も住居も真っ当なものが与えられ、日常生活の安全は近衛兵たちが守ってくれるのだから。
しかし──ルーク・マギデリック皇子
皇族仕えの侍女とは名ばかりの、形骸化した、実際はただの下女扱い、という訳である。
そして、当の侍女であるロナは──大粒の涙を流して泣いていた。
「……ロナは、ロナは、果報者です……っ」
「? 泣かないでくれ、ロナ。悪いことをしていない子が、ありもしない咎を受けるのは間違っているよ」
余りにも酷い話が進んでいた。
ルーク皇子が熱病にうなされているのは、侍女の身の回りの世話がずさんだった証拠である、と。
何か毒薬を仕込まれたのであれば、それはお前の仕業であると。そうでなくともそれを防げなかったお前が悪いと。
その節穴の目が悪いのであれば、今この場でくり抜いて、他の用途に使ってやろうぞと。
そんな荒唐無稽な話が、大真面目に議論されていた。
もう少しで眼球をくり抜かれて、魔術研究の検体にされてしまうところであった。
そんな危ない場面を救い出してくれたのは、たった五歳の子供だった。
熱病で苦しんでいるはずの張本人、ルーク皇子だったのだ。
「わ、私、ひ、酷い目に、遭うものだと……遭うもの、だと」
「……怖かったね。存分に泣いていい。大丈夫」
泣きじゃくる黒アールヴの少女を、五歳の皇子は優しく慰めていた。
いつもは、どこかに消えてしまえとか、お前なんか嫌いだとか、汚い肌の下人めとか、そういった心無い言葉をかけるような少年だったのに。
気に食わないことがあれば叩いたり蹴ったりするような暴れん坊だったはずなのに。
今の殿下の変わりようとくれば、何と喩えたものだろうか。
まだ成熟していない少女に過ぎないロナは、少年のもつ不思議な優しさに、深く感銘を受けていた。
「ロナ。隻腕のロナ。君はかつての反乱で腕を失い、胸に奴隷紋様を始めとする呪いの紋様を複数受け、それでも君は生きている」
「……はい」
「その残った片腕を、私に貸してほしい。文字通り、私の片腕になってほしい」
皇子の言葉は力強かった。真摯な願いを申し出るときの力強さがあった。
──否と答えるはずがなかった。
「私に魔術を教えてほしい。魔力を今から、鍛えて伸ばしたいんだ」
その日より、【黒い森の狩人】ロナは、正真正銘ルーク・マギデリック皇子の侍女となった。
それはルーク・マギデリック皇子が、僅か五歳の頃の話であった。
Tips:
■【黒い森の狩人】ロナ
成人向け戦略RPG【ナイツ オブ カルマ】では、盲目で義手の狩人として登場する。
性欲が凄い。
2024/9/29
誤字修正適応:指摘ありがとうございました!