貞操逆転世界の悪徳皇子になった俺、ひたすら魔石を食べて強くなり、破滅フラグを回避します 作:ナロウ・ケイ
迷宮【天まで届く時計塔】の内部は、ステンドグラスから透過する淡い光と、あちこちで結晶化した魔鉱石の燐光に満ちていた。
とある調査書によると『まさに内部は機械仕掛けの塔と言ってよい』と表現されていたらしいが、実態は、むき出しの機械部品がたくさん動いている遺跡という方が近い。彩色硝子で色付いた世界を踊る、歯車と振り子の影絵。内部から塔を見上げると、まるで巨大な万華鏡の中にいるような錯覚に陥る。確かに
その一方で、この塔は生命の宝箱でもあった。随所に蔓延っている植物の蔦と、どういう訳か知らないが上部から流れてくる透明な水。
幻想的なこの時計塔は、それ単体で一つの生態系を完成させていた──。
精霊たちに教えられて、偶然ゴブリンの洞穴を発見した俺は、そこに爆竹代わりの魔石を複数個放り込んで戦闘行為を開始した。
見敵必殺。精霊たちの囁きによると"三十匹ぐらいいたよ"とのことだった。であれば丁度、殲滅できるぐらいの物量である。
魔力を帯びて不安定化した
「さあ! 飛び込むぞ!」
俺とロナは、目鼻に『
中は暗い。だが精霊たちの囁きが、敵の場所をそれとなく教えてくれていた。状況は圧倒的に有利だった。遠くからロナと一緒に、
(流石は【黒い森の狩人】。俺みたいな力任せで強引な戦い方じゃなくて、隙が無くて鋭い)
俺はというと少々不格好で、
お見事です、とロナは褒めてくれるが、俺はそうは思わない。俺は魔力を無駄につかっているだけであり、彼女の方が洗練されていると思う。精霊たちがくすくす笑っている気がする。
ゴブリンの巣の殲滅は難しくなかった。
俺とロナの二人だけで、あっという間に終わってしまった。
…………。
……。
「──あら、お帰りなさいまし! こちらも丁度終わりましてよ!」
「ああ、ただいま。エイル」
洞穴から出てくると、そこにはいつもの四人組がいた。足元に倒れているのは屈強なミノタウロス。
流石は次世代の【英雄】【剣聖】【聖人】【賢者】である。
そう。俺は今、【英雄】エイル、【剣聖】イオリ、【聖人】アナスタシア、【賢者】キルケ、の四人と一緒に、迷宮【天まで届く時計塔】の攻略を進めているのだった。
「うぇぇ……変な寄生虫がいるでござるぅ」
「分かりました、虫払いの祈りを捧げますね」
「しゃーねーなー。シトロネラとゼラニウムの香草を焚いて変な虫を追い出しとくかー」
大型魔獣に分類されるミノタウロスは、その肉が旨いと絶賛されている。だがこの通り寄生虫の問題もあるため、食用にするには必ず強い熱を通す必要がある。いかに【聖人】アナスタシアの"聖人の祈り"があるとはいえ、ちゃんと下処理をしておいた方が衛生上安全であろう。
こういう肉は
今回はたくさん香辛料を持っている【賢者】キルケのおかげで、非常に美味しい鉄板焼きステーキが出来上がった。バジルと岩塩と香辛料の利いたステーキ肉なんてそんなの絶対に旨いに決まっている。
「
英雄エイルは、言うなり元気よく肉にかぶりついていた。
この【ナイツ オブ カルマ】の世界にも、いただきますの文化は存在する。精霊教の教えの一つだ。日々の糧を神に感謝して祈りを捧げるのがこの世界の正しい所作らしい。とはいえ食前と食後に両方するのはやや丁寧な作法らしく、大抵の庶民は食後だけ『
皆が肉にかぶりつくのをみて、俺とロナも遅れて肉を口にした。ミノタウロスを狩ったのは彼女たちなのに、分け前をいただくなんて少々気が引ける。何か後でお礼をした方がいいかもしれない。
「たくさん魔物を狩って、たくさん魔物を食べて、魂を成長させて、分かりやすいですわね~~!」
「そうでござるな。拙者たちの魔物狩りの連携も、日に日に上達している気がするでござる」
「ですねえ。後はお酒があれば……ふへへ」
「おいアホ。この強精酒は全部、傷口の消毒用だぞ」
やいのやいのと会話が盛り上がる。本当に彼女たち四人は仲がいい。原作では四人が仲良く揃う場面は滅多にないので、ちょっと微笑ましい一幕である。原作だと【英雄】【剣聖】【聖人】【賢者】の四人のうち一人は主人公に置き換わっていて、代わりにその子本人は邪教徒に堕ちることになる。そうじゃなくて本当によかった、と俺は思っていた。
(あ、やべ)
親指の付け根に肉汁がべっとりついてしまったので、ぺろりと舐めとる。少々はしたないが仕方がない。旨いものは旨いのだ。皇族らしからぬ振る舞いだが、まあ注意する人もいないし別にいいだろう。
「「「「…………」」」」
「?」
場がしんと静まり返った。何かしただろうか。
「あ、そ、それにしても! ルーク様とロナ様のおかげでっ、魔物をたくさん発見するのが楽ちんになりましたわね~~!」
「そ、そうでござるな! うむ! 拙者の気配察知と
英雄エイルと剣聖イオリが慌てたように話題を逸らした。魔物をたくさん発見できて助かっているとのことだった。
ただ、これは少々正確ではないと思う。索敵能力そのものは、
まあ確かに、この浅い階層でミノタウロスに遭遇するのは、中々珍しいことである。俺が引き寄せているのか、俺に引っ付いた精霊たちが引き合わせているのか、運命の
「……あ、そうだ。皆にこれを渡そうと思ってたんだ」
少し話が落ち着いた頃合いに、俺は懐から拾った物を取り出した。
ゴブリンの洞穴から発見した小さな指輪。
いわゆる
迷宮探索をしていると、たまに道中に
探索者にとってはお宝のようなものだ。
「えっ!? これ、もしかして……また
「さっきゴブリンの巣穴で見つけたんだ。精霊たち曰く、精神集中の指輪って言うらしいけど……呪われてないか見てほしくてさ」
一般的には、
もちろんたくさん見つけている理由はある。俺には精霊の導きがある。こうやって魔物の巣に出来てしまった繭なんか、普通は探す人がいないものだが、精霊たちに"あっちに何か感じる"と教えてもらえる俺は、こういう
「……呪われては、なさそうです。私の"審神者の目"で見ても、呪いのようなものを感じません」
「……まあ、オレも呪術的な匂いは感じねーな。付与効果までちゃんと鑑定するなら持って帰る必要がありそうだが、まあ大丈夫じゃねえかな」
聖者アナスタシアも賢者キルケも呪いを感じないと言ってくれた。それならば丁度いい。
俺は水筒の水を飲みながら提案した。
「あげるよ」
「えっ!?」
「ミノタウロスの肉のお礼さ。今度また魔物狩り一緒にしようよ」
えええ、と目を見開いた彼女たちに「代わりに魔石くれない?」と交渉を持ち掛ける。俺にとっては精神集中の指輪よりも
「え、いや、でも、魔物のたくさん出てくる場所を教えてもらって、しかも
「適材適所さ。俺とロナだけだったら、魔物肉の血抜きも解体作業も手間がかかるし、寄生虫や呪いを取り除いて安全に調理するのも難しいからね。それにさ、
あたふたとしている英雄エイルの手に、そっと指輪を手渡す。瞬間、彼女の頬の赤みが深くなった気がした。
「あ、これ一個だけだけど、四人皆への指輪だから、そのつもりで仲良くね」
「「「「…………」」」」
それを伝えた途端、突然場の湿度が上がった気がした。
ぁ……、と小さく声を漏らすエイル。突如咽るイオリ。息を呑むアナスタシア。ひゅ、と喉から変な音を鳴らすキルケ。
ロナの表情は、暗い影のせいでよく見えなかった。
焚き火の輝きは煌々として揺らめいていた。
皇子「指輪見つけたらまたあげなきゃ」
小精霊四十匹ぐらいが寄生しているせいでルーク皇子の運の良さはかなり上振れています。