貞操逆転世界の悪徳皇子になった俺、ひたすら魔石を食べて強くなり、破滅フラグを回避します 作:ナロウ・ケイ
帝国の抱える暗部組織、《
古代インドの帝王学を記した著書「
戦争によって人質となった要人の救出。農民らの叛乱の鎮圧。友邦国同士の離間工作。敵対国の機密情報の窃取。
そういった活動の陰で《
中でも《蜘蛛》のラネールと《蝙蝠》のカマソッソの二人は、非常に優秀な密偵であった。
夜目が利き、天井を這ったりしていろんな場所に静かに潜入できて、殺しの技術も一流。
この二人が揃って、とある皇子に誑かされてしまったのは、帝国宮廷の有力者たちを驚かせた出来事であった。一体どのような手口を使われたのかは知らない。重要なのは、あの皇子が《
…………。
……。
ルーク殿下が帝国探索者学校に出向いている間、留守を守っているのは主に《蜘蛛》のラネールと《蝙蝠》のカマソッソの二人であった。
腹心たる従者ロナは一緒に帝国探索者学校に出かけており、また宮廷政治に影響のある肩書は全て後任に引き継ぎ終わったことを考えると、今のルーク皇子は"宮廷政治の暗闘から一線を引いた"ことになる。一時期、あれだけの影響力を握っておきながらどうしてあんなにあっさりと権力を手放してしまえるのか──と《
「ルーク殿下から手紙です。お読みなさい、《蝙蝠》」
「頂戴します、《蜘蛛》のお姉さま」
侍女服を纏った《
ルーク・アルトリウス・オデュッセイア・マギデリックの署名が付いたその手紙には、簡潔な命令が書かれていた。簡単な符合規則を知っていれば読み解ける置換式暗号文だったが、その程度であれば《
曰く。
・帝都を騒がせる泥棒娘、リコッタを捕まえて私の元に送れ。
・ヒュドラウリス商会の会頭の娘、アンシュと仲良くするように。彼女の祖母の形見のオルゴールは、港町の領主邸宅まで流れ着いているので、秘蔵のお酒を送って譲ってもらうように。
・引き続き母の周囲の身辺警護に努めるように。何かあればエレオノーラ司教に頼ること。
……とのことであった。
妙に具体的な指示を送って寄越すこの皇子は、とにかく先見の明が鋭かった。恐らくこのリコッタという娘も、アンシュと言う娘も、皇子にとって重要な人物であるに違いない。どちらも知らない人物であったが、命令である以上は今からでも情報収集に当たる必要がある。
この前は北海の海賊女王"雷霆メアリー"について情報を集めろ、などと宣っていた。どこからそんな情報を仕入れてくるのか分からないが、とにかく皇子は知識の偏りが凄まじかった。
貴族の中でも物は知っている方だが、常識は知らず、逆に誰も知らないようなことを知っている。聡明と愚鈍の両極端のような人物でもあり、賢明な人物と会話しているというよりも、超越している存在を相手にしているような噛み合わなさがある。
以前に『そんなに己を鍛えてどうなさるのか』と尋ねたとき、『天鳴山脈に住まう【宝石竜】に襲われてしまった時に備えないとね』という回答が返ってきたときには、開いた口が塞がらなかった。まさか数百年前の大愚策、天鳴山脈の遠征出兵を知らないはずはない。
そんな常識外れのようなことを平気で口にする癖に、それでもなお、未だに彼に心酔する者たちも少なくない。
端麗な容姿、英断の鋭さ、そして
ここにいる《
「《蝙蝠》はどう思いますか」
「はい、《蜘蛛》のお姉さま。私めはリコッタ嬢を何らかの要人だと考えます。普通の依頼であれば高貴な出自を疑いますが、ルーク殿下の依頼であれば──」
「ええ。そうでしょうね。普通に孤児院出身の賤民であってもおかしくないでしょう。普通ならば保護に値しません。普通ならば」
となると、有用な駒か。
情報漏洩を恐れてなのか、リコッタ嬢の詳細は別の手紙に分けて語られていた。曰く、精霊に愛されている平民だとのことだが、そんなことをあの皇子がどうして知っているのかは不可解である。
「……アンシュの方も不可解ですね。ヒュドラウリス商会は宮廷内でも聞いたことがない名前です。そもそも帝都にあるのでしょうか」
「弱小商会ということであれば、逆に言えば、今のうちに与しやすい相手とも言えます、《蜘蛛》のお姉さま。傀儡として使えるのであれば使いましょう」
《
それも当然である。
片方は、近い将来に《怪盗リコッタ》を名乗る人物であり、もう片方はもう少し先の未来で大商いを成功させる才女である。未来を知っている人物でもなければ分かりもしない相手である。
しかし、そんなことを知る由もない二人は、ただ自分の仕える主人を信じて行動するのみ。
「……ルーク殿下に過ちがあれば、
「ええ、《蜘蛛》のお姉さま。私たちの忠誠はルーク殿下の御心のまま。殿下が道を外れそうな時は、
手紙が蝋燭で炙られ、夜闇の中で燃え盛った。
それを眺める二人の瞳には、揺らめく炎が映っていた。
在るべき姿に、
さもなくばあの苛烈なる殿下に、この手紙の如く、魂を
それを身に沁みて知る二人だからこそ、皇子の不在であってもなお、工作活動の手は緩めない。政治の表舞台に皇子の姿はなくとも、余人の与り知らぬ所で、様々な話が動いていた――。
主人公は大真面目に【宝石竜】を倒そうとしています。
そしてこの二人も、道を正さねばと言いながら、大概な狂信者っぷり。
20250309:
設定修正。
南海の海賊女王→北海の海賊女王 に。