貞操逆転世界の悪徳皇子になった俺、ひたすら魔石を食べて強くなり、破滅フラグを回避します 作:ナロウ・ケイ
……あの日からしばらく経過して。
謎の熱病はすっかり落ち着き、俺は小康を取り戻した。ロナは無事に釈放され、俺の侍女として傍に仕えていた。冤罪なのだから当たり前なのだが、これは地味に大きな変化である。
早速、原作の展開から全然違う展開に入ったのだ。
本来の【ナイツ オブ カルマ】の筋書きでは、ロナはあの日、美しい赤い瞳をくり抜かれて、失明することになっている。残酷な仕打ちである。
その時点で相当いたたまれない話だが、更に彼女は『目の見えない侍女なぞ不要』と、ルーク皇子(つまりこの俺)から追放処分を受けて、帝都から追い出されてしまうのだ。
(いや人質扱いだったじゃないか、追放してどうするんだよ)
と内心で色々と突っ込みたいところだが、そこはご都合主義。族長の血を引く高貴な黒アールヴの美しい赤い瞳さえ手に入れてしまえば、帝国側も、人質としての価値はもうないと判断したのだろう。黒アールヴの涙は難病を癒す秘薬とされており、その瞳もまた希少な薬の材料になる。
そうして、原作ではそのままロナはどこかに姿をくらます──。
(そんなんだから殺されるんだぞ、ルーク皇子)
ルーク皇子の死因はいくつかあるが、そのうち一つの展開では、この【黒い森の狩人】ロナによって殺されることになっている。さもありなん。因果応報である。故郷を弾圧する憎き帝国の皇子。彼が原因で、濡れ衣で瞳を奪われ、更には帝都からも追放されて、過酷な日々を送る羽目になったのだ。当然の報いといえる。
(悪いけど、今の俺からすれば、もちろんそんな将来は許されないわけで)
やることは一つ。全力でロナを厚遇することだ。
当のロナからは、改めて深く感謝を伝えられたが、俺からすると面はゆい。これでもこのロナって子は、既に十分ひどい目にあって来た子なのだから、ちょっとぐらいは幸せになってもらわないと困る。
◇◇◇
いかに貴族の身分とはいえ、五歳のうちからできることなど限られていた。
何かをやるにしても、例えば、絵本を読んでもらったり、読み書きの練習をしたり、貴族としての立ち振る舞いを躾けてもらったり、賛美歌を教わったり──。
普通の五歳であればこの程度のことで精一杯であろう。
しかし俺は、今後を見据えて全然違うことに手を出そうとしていた。
──具体的には、魔術の研鑽である。
「魔石を食べたいだなんて、なりません! なりませんよ、ルーク殿下!」
「そうだ、身体を蝕む強烈な毒素があると言われている。でもロナ、私はそれをやる予定だよ」
涙を流す健気な侍女を無視して、俺は魔法陣を複数組み合わせて、中央にいくつか魔石を設置していた。
魔法陣には【
これらのルーンの加護を使って、魔石の毒を軽減する予定である。
「なりません! どうか、どうかお願いします!」
「いややる。ロナ、君から治癒魔術を教わったのは魔石を食するためだよ」
この世界には、魔石と呼ばれる不思議な結晶が存在する。
魔物の心臓に出来る高純度のマナ物質。迷宮化した壁面からたまに発掘される結晶。
こうした魔石は、人類にとって有用な資源であった。
魔道具を動かすため、大規模魔術を行使するため、精霊と契約するため──ありとあらゆる用途で魔石は使用されている。
そのためこの世界は、魔石を採取するために、魔物を狩ったり、迷宮を採掘したりする行為が一般的になっていた。
だがしかし、魔石を食べようとするのは──端的に言って自殺行為に近かった。
人体に有毒な毒素を多分に含んでいるからである。
「いいかいロナ。魔石を食べると死ぬ、というのは古くからの言い伝えだ。魔石の毒素を洗い流す方法を知らない時代の人たちの知恵だ。逆に言うとね、適切に処置すれば、魔石は食べられるのさ」
「お願いです! お願いですから……!」
泣きじゃくるロナを、
主人である俺が命ずれば、その身は命令に逆らえない。
意思に反して、彼女はどんどん魔法陣に魔力を注ぎこんでいた。
「あ、あ、あっ、ああっ! で、出る、出る、やだ、出る!」
「出せ、出せ、ほら、出せ」
「あっ、あああっ」
黒アールヴの豊饒な魔力は、とても高い純度で練られていた。淡く光る白い色。生命の魂の色──。
共鳴して、小さな魔石たちが、からからから──と小さな音を立てて震えていた。
「ほら見ろ、魔石の濁りが透き通っていく。
「あ、あ、あっ、やあ、出る、出ちゃうっ、出ちゃう……っ!」
「出ちゃうじゃなくて、もう出してるだろ」
「あっ、ああっ、ああああっ」
息を荒くしたロナは、大粒の涙を流しながら「やだ、やだぁ」と首を振っていた。
意志に反して魔力を絞り出す身体を、何とか押しとどめようとして、そして失敗して、身を痙攣させていた。
魔力とは魂の一部である。そしてそれを無理やり絞り出すということは、精神をぐちゃぐちゃにかき混ぜられるような苦悶に近い。
その苦痛を和らげるため、俺はロナの魂に
きちんと表現すると、俺が魔力を手に纏わせて、抵抗するロナの魂を揉み解して、ゆっくりゆっくりと無理のない形に整えて、優しく丁寧に絞る──という一連の動作になる。
こうすることで、魂が無理やりに引きちぎられたりする苦悶がなくなり、ただ純粋に、疲労感や倦怠感が流れ出るような法悦に昇華されるのだ。
「ん゛っ、ん゛ん゛っ、お゛っ、ああっ」
「あ、こら、出し過ぎるな! 堪えろ、我慢だ、それはお前に負担がかかる、いいね、ゆっくりだよ──」
堪え性がないのか、少し揉み解すと、今度は勝手に飛び出て行こうとするのでぎゅっと絞る。
はぅぅ、と弱り切った声。
声に少々甘い響きが出ているのは、俺の施術が上手くいっている証拠であろう。もし痛みが残っていたら、泡を吹いて気絶してもおかしくない。そうした兆候が見られないのは、痛みを取り除くことに成功しているのだ。
「はっ、はっ、はぁぁっ、お゛っ」
「ほらしっかり我慢するんだ、こんなんじゃ出し過ぎだよ」
がくがくがく、と顔を真っ赤にして震えるロナを何とか言いなだめる。
これには根気が必要である。
とにかく耳元で「頑張れ、頑張れ」「負けるな、負けるな」と励ましを入れるしかない。
闇雲に我慢させるのも可哀想なので、「あと十秒だ、九、八……」と終わりを明示してあげる。だが、もうちょっと我慢できそうだったので、「一、一、一……」と何度か一で
「~~~~~! ~~~~~~~!」
ロナの痙攣がひどくなった。
もう限界とばかりに暴れまわっている。本当に我慢できないのだろう。魔力がじゅぶじゅぶ漏れているので、抑制がほとんど効いていなかった。
痛みは丁寧に取り除いたはずなので、多分甘美な感覚とか強い情動とかでいっぱいいっぱいになってもう堪えられないのだ。
「わかった、わかった、……ゼロ」
じゅいいい、と魔力が思い切り放たれた。
はーっ、はーっ……と荒く熱い吐息が弾む。ぶるりと肢体が震える。
可哀想なことに、ロナはすっかり、頭が煮えたかのような表情になっていた。
「あ、ああ……ああ……」
「ほら見ろロナ、魔石の鉱毒がかなり減った。これなら大丈夫だろう?」
すっかり脱力し、のぼせ上ったかのようになっている彼女をよそに、俺は中央の魔石を一つつまんで見せた。
その色は
俺は、ロナに魔石を見せながら説明した。
「この魔石なら、俺が食べても大丈夫。これさえ食べ続けていけば、俺の魔力容量は問題なく成長するはずなんだ」
一言:
主人公はこれを毎日やろうとしています。