貞操逆転世界の悪徳皇子になった俺、ひたすら魔石を食べて強くなり、破滅フラグを回避します 作:ナロウ・ケイ
はい、よーいスタート(棒)。
魔石採掘RTA、もとい、クリスタルゴーレム調教回収ルートはっじまっるよー。
……そんな脳内解説を一人妄想しながら、俺は装備品を広げて丁寧に点検を行っていた。
道具点検は大事である。何をおいてもこの世界で死んだら最後、復活することはない。
(今回用意するのは10m級のかぎ縄と、頭部を守る革の防具と、特注の水中眼鏡と、旧音楽室の迷宮で手に入った【交響詩篇:アレグロ・コン・フォーコ】と……)
一方、ウリーザたちは既に準備が終わったらしく、「アタシたちは先に潜ってるからね」と洞窟の中に入っていった。先を越された形になる。だが別に問題はない。どちらが先に入るかなんて、そんなことは些事である。多少の心得があればいくらでも挽回が利く。
この洞窟の入り口にも例の石碑が存在しており、その石碑に触れることで道中の中継地点まで移転できる便利な仕組みになっている。つまり、一度潜ったことがあるウリーザたちが有利。逆に一度も洞窟に潜ったことがない俺たちが圧倒的に不利。
常識的に考えればそうなる。
「皆、準備はいいか?」
こくりと頷く一同。
代表して【英雄】のエイルが「問題ありませんわ、体調は万全で装備も完璧ですもの」と答えてくれた。
「よし、じゃあ石碑に手を着いて……いくぞ、『われをななつさきへはこびたまえ』」
瞬間、暖かい光が俺たちを包みこんで、少しずつ周囲の景色を溶かしていった。水面が揺らぐように景色がさざ波を打って、そこからぐるりとねじれて色相が順番に反転し始めた。ぼこぼこぼこ、と泡が足元から湧き立ち始めて、俺たちの身体をすり抜けていく。
これはちょっとしたずるである。言ってしまえば、知っている人間であれば誰でも簡単にできる裏技と言っていい。
俺が唱えたのは、『7階層先へ運んでくれ』という隠し呪文であった。どの迷宮の石碑であっても、これを唱えることで、いとも容易く奥の階層に進むことができる代物。
これこそが、俺たちが全然慌てていなかった大きな理由。こちら側が用意している切り札の一つである。
だがしかし。
「
「え?」
「
当然のことだが、初期スポーン地点を悪用するグリッチを
全員の腰元に縄を括りつけられていることを確認した俺は、「ほら早くしようね」と笑顔で皆を急かした。
◇◇◇
少し話は遡る。
帝都の宮廷では、ルーク皇子の家来たちが首をひねっていた。
「頑丈な網と鉤縄を作れ? 殿下も変なことを言いますね」
「細い筒……? 水中で呼吸をするため……?」
「分厚い革と硝子を使って、水中眼鏡を製造せよ……?」
ルーク皇子から届いた手紙には、相変わらず無茶な内容が記載されていた。
ご丁寧に署名付きで命令書まで同封された指示である。資金の出どころまでしっかりと記載されており、枢密院議会の裁可を待たずとも命令としての効力を発揮する。
勿論、君主大権を持たないルーク皇子のそれは、勅令ではなくあくまで命令書に過ぎないが、それでも皇子の署名には強い意味があった。
「しかし殿下も困ったものだ。早く複数の有力貴族家に婿入り婚をして身元を固めれば安泰なものを……」
「むしろそれが殿下のいいところですよ」
「ですね。天真爛漫で何を仕出かすか分からない。そんな殿下だからこそ、それほど継承権も高くない血筋なのに、色んな人に注目されているのですから……」
殿下は一体何をお考えなのだろうか。家来たちはあれこれと話し合ったが、ルーク皇子の真意は杳として知れないままであった。
◇◇◇
かの原作【ナイツオブカルマ】には、位置判定ずらし、高負荷領域による虚無の取得、当たり判定累積バグ、等の様々な
悪質なものやゲームの根幹を崩壊させるようなものについては、運営の手によって直ちに修正が行われたが、そうでないものは結構見逃されている。
今回行う『転移フリーフォール英雄カウンター』は、比較的軽度なグリッチの一つ。
説明すれば何てことはない。転移ギミックを起動した直後に、降りて移動するだけ。その後は、必要な場所で落下ダメージ判定が入るように、あらかじめ座標を移動して調整しておくのだ。
今回のグリッチのポイントは、落下ダメージの計算式である。この【ナイツオブカルマ】では、落下ダメージは落下開始時点から着地点までの位置座標のずれで計算される。そして転移中に飛び降りを開始した場合、その飛び降り開始位置から起算して落下ダメージを機械的に処理することになる。
つまり、今回の例の場合、計算上は第一階層から第八階層(七つ先)までの転落ダメージとして計上される。
階層跨ぎの転落はどれだけレベルを上げても即死するように計算されているため、レベル255以上になったとしても一撃確殺は免れ得ない。ましてや七階層を跨ぐような転落ダメージは尋常ではない。
そして【英雄】のエイルは、奥義技を一つ習得している。
その名も≪盾撃:鎧袖一触≫──味方全員が致死攻撃を受けた場合、それを全部身代わりとなって受け止め、対象相手に反射するというもの。
これは、【英雄】が持つ一回限りの最後の切り札で、かつ、神殿に祈りを捧げ直さないと再度使用できないという"本当にここ一番"での使用を想定した奥義なのだが──。
「な、何が起こってますの……?」
滝壺に向けて≪盾撃:鎧袖一触≫を発動したエイルは、その勢いに腰を抜かしていた。
情報量が多くてついていけなかったのだろう。仕方がないといえば仕方がない。
そもそも情報を文字に書き起こして整理しなおしても、すんなり頭に入るかどうか怪しい。
転移の石碑による転移術式の発動中、そこでいきなり術式から抜け出すという危険なことをして、気が付いたら、転移による泡の
言葉にすればそうなるが、当事者からすれば気付いたら勝手に目の前の滝壺が爆発したとしか思えないだろう。
俺以外の五人も全員ぽかんとしていた。そもそも転移術式から勝手に抜け出そうとするな、という話だが。
そして、第八階層の滝壺が崩壊したことにより、本来であれば十年後に手に入れる『古代遺跡のゲートキー』がないと解錠できない滝壺の奥の隠し部屋が解放されたことになった。
なんとこれは、魔力を注ぐ限り、定められた範囲内に水を寄せ付けない、という極めて便利な
崩落した滝壺の立てる煙幕で視界が悪い中、俺は今のうちにとばかりに【水除けの
(落下ダメージと【英雄】の反射奥義を利用して地形を粉砕するグリッチ。この『転移フリーフォール英雄カウンター』があるおかげで、特定の
今回の地下鍾乳洞もその一つ。
転移の石碑のそばに、破壊可能な地形を設置しているせいでこんなことが出来てしまうのだ。
しかもである。
七階層分×六人分の落下ダメージは、地形破壊だけではとどまらなかった。
たとえ滝壺に≪
元々この滝壺には【長命の宝石亀】なる魔物が存在していた。
魔法攻撃がほぼ利かず、物理攻撃にもめっぽう強い異常な耐久力を誇る≪
その上で、幻覚魔術や混乱魔術を多用してくる。非常に嫌らしい魔物である。
今の俺たちでは、真正面から戦ったところで万に一つも勝ち目のない、そんな強力な奴がここに存在したのだ。
ただ残念なことに、この【長命の宝石亀】には戦闘開始前にダメージを受けないような設定はされていない。なので、遠隔から射程無限の【光の矢】をちまちま当て続けて倒せたり、焚き火を近くに設置したあと一週間放置して火傷ダメージだけで倒せたりと、色々と面白い倒し方が存在する敵でもある。
そして今回は、『転移フリーフォール英雄カウンター』で甲羅を粉砕されて倒されていた。
何とも酷い仕打ちである。
本来であらば、水場で足を取られるという悪い条件の中で、高い耐久力を誇る巨大な魔物と長期戦を強いられる……という展開だったのだろう。
「何が起こってるんだろうな」
説明するのも面倒なので、俺はすっとぼけることにした。
Tips:
■【長命の宝石亀】
巨大な体躯を持ち、背中に宝石がこびりついている。
何度倒しても復活するため、一部の心無いユーザたちが宝石狩りのために執拗に狙い続けることがあった。
甲羅は漢方薬の貴重な材料になる他、色とりどりの宝石も魔力純度の高い結晶となっている。
宝石を震わせて幻覚魔術を放つほか、その巨体を活かした転がり攻撃を多用してくる。顔が弱点。
■落下ダメージ:
迷宮の階層は一階層ごとにとんでもない距離が設定されている。これは迷宮の地形オブジェクトに斜め侵入したり、スライディング連発や前転連発ですり抜けバグを引き起こそうとするユーザ対策のため、このようになっている。
どれだけ装備を充実させてレベルを上げたプレイヤーでも即死するように計算した結果、この落下ダメージの判定のせいで却って色んな悪用グリッチが発生するようになった。
非常に有名なものとしては、【