貞操逆転世界の悪徳皇子になった俺、ひたすら魔石を食べて強くなり、破滅フラグを回避します   作:ナロウ・ケイ

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貞操逆転世界の悪徳皇子と、迷宮探索学園の狂騒曲⑯

迷宮守護者(ガーディアン)≫の一角、【長命の宝石亀】を撃破した俺たちは、このまま破竹の勢いで次の階層に……とはならなかった。

 

 というのも一旦大聖堂に戻りたかったからである。

 

「【長命の宝石亀】の遺骸は放置でいい。別に消えてなくなる訳じゃないし、最後に回収すればいいしな」

「えっ」

 

 絶句している皆をよそに、俺はさも平然と言ってのけた。

 今の俺の気持ちはRTA真っ只中。さっさと地上に戻って、次に向けて準備をしなおしたかったからである。

 もちろん皆の気持ちも分かる。おそらく、腐りやすい生き胆を回収して調合薬の素材として持ち帰りたい、等を考えていたのだろう。理屈は正しい。ごく普通の反応と言えよう。

 

「え、え? い、今、競争中ですわよね?」

「そうだな」

「この【長命の宝石亀】の甲羅の破片を持って帰れば、それで十分な戦果ではありませんこと……?」

「大丈夫、後でまとめて持って帰る」

 

 今一つ納得の行ってなさそうな表情の英雄(エイル)を筆頭に、皆思い思いの表情で固まっている。俺の腹心のロナだけが俺に追従してくれている。もしかすると、少々事前説明が足りなかったかもしれない。

 

「大丈夫、心配しなくていい。まずは急いで地上に戻って大聖堂で祈りを捧げよう」

「本気ですの?」

「大聖堂には沐浴施設として温泉が湧き出ているからそこで身を清めるといい。俺も軽く汗を流すつもりだし」

「本気ですの!?」

 

 目指すは俺とロナがいつも使っている大聖堂。秘密の場所という扱いだが、まあ英雄四人に知られる分には問題はない。そもそも暗証番号を知らないと入れないので心配はない。

 ということで、俺たちは地上に戻った。洞窟に潜って僅か数十分のことだった。

 

 当然、勝負を仕切っていた見届け人(要するに暇な《勇猛の獅子》寮の不良学生である)は困惑していた。こんなに早く地上に戻ってくるなんて予想だにしない展開だったらしく、勝負が始まってたった数十分で勝負を放棄したのか、と勘違いしているようだった。

 勿論違う。俺はまだ勝負を諦めていない。不信感を露わにした見届け人に向けて「絶対に勝ってみせる」「逃げた訳じゃない」「俺は最後まで諦めない」と強く説得し、まだ勝負は続いていると何度も何度も念押しをした。全然信じていない様子だったが仕方あるまい。

 

 念押しをしたその直後、即座に違う迷宮『天まで届く時計塔』に一目散に走っていく。

 これが最短経路なので間違っていない。

 振り返ると、見届け人はまたもや唖然としていた。信じてくれただろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一旦湯浴みをして身を清めた俺たちは、そのまま髪もろくに乾かさずさっさと洞窟に戻った。

 これも必要なことである。次の工程では、大聖堂に戻ってお祈りと湯浴みをするのが欠かせない作業になってくる。

 

 別に皆の裸が見たかったわけではない。俺の意識の大半は時間に傾けられていた。月が出るまでにやらないといけない作業があったので急いでいるのだ。

 

 では何故急いでいるのに、わざわざ沐浴をしたのか。

 大事なことなので説明すると、『天まで届く時計塔』地下の旧大聖堂の沐浴施設を利用すると、聖水を浴びた時と同じ効果が得られるのだ。要するに不死種系(アンデッド)の魔物にやたらと強くなる。それだけ覚えておけば問題ない。

 そして、洞窟には蝙蝠が多数生息している。特に注意が必要なのが、洞窟蝙蝠(ケイヴバット)屍蝙蝠(イモータルバット)である。

 

(こいつら蝙蝠の魔物の多数沸く階層を一気に駆け抜ければ、道が開く)

 

 洞窟のお馴染みの転移の石碑で、『われをいつつさきへはこびたまえ』」と呪文を唱える。今度の転移先は第六階層。残念ながら『転移フリーフォール英雄カウンター』を使えそうな地形はないが、『転移先多重魔法連続発動』は出来るのでそれを仕込んでおく。

 

 魔の第六階層。

 真っ暗で視界が悪く、松明系の道具がないとろくに周囲を調べられない場所。

 怪音波で混乱状態に陥って、吸血攻撃で出血状態に陥って、と、状態異常だけで命を落としかねない危険な階層。

 この地を跋扈するのは、無限沸きする蝙蝠の魔物である。こちらは視界が悪いのに、向こうは暗闇をものともせず、音の反響でこちらの隠れている場所を特定してくるという有様である。しかも向こうは大群。百匹も二百匹も襲い掛かってくるのだ。

 

 こんな場所をどう攻略すればいいのか。

 真っ向から挑んでは埒が明かない。何百匹も束になって襲い掛かってくる魔物を少人数で相手取っても、数の暴力で押し切られるだけである。

 となれば──。

 

 

 

 

 

「【賢者】の呪文で『音増幅の言祝ぎ(ことほぎ)』を多重発動して、【交響詩篇:アレグロ・コン・フォーコ】をぶっ放せば一発で攻略できる」

 

 これも軽度なグリッチの一つ。やり方は簡単である。

 

 ①転移中に『音増幅の言祝ぎ(ことほぎ)』を連発する。

 ②対象が指定されないため呪文が中断される。

 ③通常は「呪文が失敗」で終わるが、転移中なので状態が保存される。

 ④転移後に中断された場所から呪文が再開される。

 

 大事なのは④。

『音増幅の言祝ぎ(ことほぎ)』の対象が転移先にあらかじめ存在していないと、呪文成功扱いにならないため、転移術式は少しだけタイミングをずらす必要がある。

 つまり、【交響詩篇:アレグロ・コン・フォーコ】を装備した俺が、あらかじめ単身で第六階層に飛び込んでおき、後から遅れて【賢者】が転移してきて、準備しておいた『音増幅の言祝ぎ(ことほぎ)』が炸裂する──というものだ。

 

 石碑の転移術式は連続起動に時間がかかる。数分弱の間、俺はたった一人で蝙蝠たちを相手に耐久しなくてはいけない。

 だから聖水をあらかじめ浴びておく必要があるのだ。

 

屍蝙蝠(イモータルバット)はともかく、洞窟蝙蝠(ケイヴバット)にはいくら噛まれても問題ないからな」

 

 哀れにも、蝙蝠たちに深い知性はない。

 突如やってきた()に色めき立って、一気に襲い掛かってくるだけ。俺の仕事はもうほとんど終わったも同然である。ありったけの魔力で魔力障壁を作り上げ、蝙蝠たちの突進を凌いでいるだけで、十分に時間は稼げた。

 

 

 

 ────爆音。

 

 顔面を引っ叩くような音圧。腹にも骨にもずしんと響く、胸をずんずん圧迫する大音響。瞼や唇など皮膚の表面がびりびり震え、頭蓋骨の芯からがんがん揺さぶられる。音を浴びている皮膚表面が()()()()。今までにない強烈な体験であった。

 

 

 

 ぽてぽてぽて、と地面に落ちていく蝙蝠たち。

 人より遥かに広い可聴域を持つ彼らは、三半規管を痛めつけられ、反響定位も掻き乱され、方向感覚を失い、そのまま壁に激突し、地面に激突した。実は蝙蝠の骨はとても脆い。空を飛ぶ生物はもれなく羽が弱く、羽を折られるとそのまま飢えて死ぬ。飛ぶために身体を軽量化したが故の弱点とも言える。

 そして、ろくに飛べなくなった蝙蝠は無視していい。精々が足に噛みつくしかできず、しっかりした靴さえ履いておけば牙が足に届くことはない。念のために革の兜を頭に被っておけば、これで事足りる。

 

「よっしゃ、月が出る前に間に合った!」

 

 俺は快哉を叫んだ。そして一気に奥に駆け寄った。

 第六階層の≪迷宮守護者(ガーディアン)≫は、吸血鬼の姫である。

 真祖の血族。夜においては敵うものがいないとされる、伝承の中の生物。

 

 その吸血鬼の姫が眠っている棺が奥で開いているので、俺は最後の締めくくりに入った。

 水筒の中に仕込んでいたお風呂のお湯(聖水)をどぼどぼとぶっかけたのだ。

 

 絶叫が木霊する。怨嗟の呻き。憎悪の咆哮。

 支配下にある蝙蝠たちをかき集めんと、古の呪言が唱えられる。

 だが蝙蝠はほぼ全滅している。生きてはいるが、折れた羽で地面をばたばた藻掻いているだけだ。何千匹といる蝙蝠たちも、地面でのたうち回っているだけでは何の意味もない。

 

 水筒は五本ある。仲間の分を合わせたら二十本はある。

 続けて二本目をぶっかけると、口汚い呪いの言葉が俺に向かって飛んできた。

 やかましいので、手巾(ハンカチ)を顔面に張り付けて引き続き水筒のお湯をぶっかけた。激昂している。

 

 干からびた肉体が、徐々に戻っていく。黒い霧が集まって肉体を形成しようとしている。

 だが戻っていく片っ端から聖水で焼け爛れて、ぼろぼろと肉片になって崩れていく。動かれると鬱陶しいので馬乗りになって三本目をぶっかけた。

 

「────────!」

「おら! 宵闇色の骨を出せ!」

 

 もがき苦しむ吸血鬼の姫に、どっぼどっぼと追い打ちをかける。復活している途中の身体から骨をむしり取って回収する。絶叫が聞こえたが気にしてはいけない。

 俺の首を絞めようと手が伸びる。それを俺は短刀で斬りつけた。黒アールヴ流で鍛えられた短剣術だ。闇雲に手を伸ばしたところで俺に害なせるはずもない。

 

 心臓を中心に聖水で焼き続ける。焼け爛れて露わになった胸骨の間から、心臓付近の魔石が爛爛と輝いて見えた。

 後は簡単である。銀色の楔を、丁度その心臓の辺りに打ち付けるだけ。

 絶叫が更に大きくなった。命の終わりを感じさせるような、凄絶な声だった。

 

「慈悲はない」

「────────」

 

 後は脳を焼くだけである。眼球に水筒を突っ込んで、聖水で脳髄を念入りに処理する。鼻を衝く匂いが強くなった。

 この辺りになってくると、もう相手の抵抗はそれほど強くなかった。

 

「殿下! 加勢します!」

 

 駆け寄ってきたロナが、どばあと思いっきり水筒の水をぶちまけた。とどめの一撃というわけだ。もはや虫の息の吸血鬼の姫には、さぞかし効いたに違いなかった。この辺りは阿吽の呼吸である。何が起こっているのかを咄嗟に理解して、そして俺の手助けとなる一手を打つ。流石は俺の専属侍女である。

 

 残る四人はドン引きしていた。

 

 やがて、吸血鬼の姫は灰になって消えた。

 青白い炎が揺らめいて、霊力の残滓をその場に残していた。だがそれも、聖水で徐々に弱まっていった。

 

 この第六階層は、確かに難所の一つである。

 その一方で、爆音を流して、お湯をたっぷり用意するだけで攻略できる、ちょっと特殊な階層でもあった。

 

(後は、魔物を使役するための『女王様の鞭』を回収すれば……)

 

 いよいよチャートも大詰めに差し掛かる。棺の中を探しながら、俺は笑みを深くした。

 




■Tips:
【吸血鬼の姫】
非常に高い再生能力を持ち、眷属として大量の蝙蝠たちを支配している。
夜になるとより凶暴になり、鞭を縦横無尽に振り回して連続攻撃を仕掛けてくる。
また、攻撃を与えようとするたび、眷属の蝙蝠たちがそれを身を挺して防御するという厄介な能力を持っている。
なので、本来であれば、あらかじめ蝙蝠たちを全滅させてから戦うのが定石となっている。


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