貞操逆転世界の悪徳皇子になった俺、ひたすら魔石を食べて強くなり、破滅フラグを回避します 作:ナロウ・ケイ
お祭り好きな学生たちが大勢集まって、地下鍾乳洞前でやんややんやと騒いでいる最中。
学園敷地内の誰も使っていない廃墟で、皆の目を潜んで暗躍する影があった。
その影は、ただ一人だった。
傍には誰もいなかった。
「生まれ育ちで人の価値を判断し、階級を作り、劣った交流を疎み、傲慢に振舞う、いと愚かしき者どもよ」
指を切り、血を塗り付けて呪文をなぞり、そしてそれを、見えないように隠す。
魔石の破片を砕いて仕込み、周囲一帯の魔力密度を高める。
一連の動作は手慣れていた。瞬く間に、場が異界化しやすい条件が整っていく。黒い煙がじわじわと空間を侵食し始めていた。
「血の高貴さに胡坐をかいて、人の魂に格差を作り出そうとするその浅ましさを、我は憎み、拒絶する」
古代基層言語の
謡うような詠唱。あるいは祈り。そこには、世界の在り方を呪うような物々しさが潜んでいた。
彼女の硬質な声は、覚悟の重さを裏付けていた。
「思い上がった貴族たちに鉄槌を」
己が血を尊いものと豪語するのであれば。
その
仮面の少女は、黒い外套をはためかせながら、次の新月に向けて計画を進めていた。
彼女の外套の中では、無数の影絵たちが蠢いて、次なる獲物を今か今かと待ち構えていた。
それは、まだら模様の獣の仮面を被った道化師。
それは、悪戯悪魔の
影絵の
彼女の名はハーレクイン。【道化師】の二つ名のハーレクイン。
◇◇◇
地下鍾乳洞の第九階層。
そこは辺り一面が乳白色に包まれた、幻想的な世界であった。
点在する夜光石と蛍光苔が、仄暗く淡い光を放っており、それが水晶と反射することで、息を呑むほどに美しい光景が出来上がっていた。
そして──この地下鍾乳洞の第九階層に待ち構えている≪
全身が高密度の水晶で覆われた、非常に頑丈な身体。
どれだけ傷ついても周囲の結晶を吸収して自己再生を繰り返す、脅威の回復力。
魔術攻撃のほとんどは水晶の影響で威力を減衰させられる他、一定割合の術式反射が自動発動するため、魔術の乱打は効果をあまり発揮しない。加えて、水晶の身体の特徴なのか、毒や麻痺などの状態異常もほぼ利かないため、物理攻撃で戦うことを余儀なくされる。
しかしこの階層の水晶は無尽蔵に存在する。いくら頑張って水晶を刈り取っても、時間経過で復活するというおまけつきである。
簡単に言えば、
「ところがこのクリスタルゴーレム、実は致命的な弱点があって、何と水の中に入ることが出来ないんだ」
「はあ」
気の抜けた返事をした
恐らく、頭の中で情報がつながらないのだろう。何故この水中眼鏡があるのか。そしてクリスタルゴーレムが水に入れないという話が一体何を意味するのか。もしかしたら、うっすら予想できているのかもしれないが、それでも打てば響くような反応はなかった。
「なんと奴は、水に沈むと浮かび上がって来れない。それもそのはずで、比重が水よりも遥かに重いんだ」
「えっと……?」
「それを知っているのか、奴は絶対に水の中に入ろうとしない。何が何でも水に近づこうとしない。物凄い勢いで抵抗する。極端なほど水を嫌がるんだ」
大まかなところは説明し終わった。クリスタルゴーレムは水を嫌がる、ということだけ理解できれば、もうそれで十分である。
だがしかし、話の帰着が一体どこに向かうのか、皆には全然伝わっていない様子であった。
「ルーク殿、教えてほしいでござる。水は一体どこにあるでござるか?」
首を傾げた【
真っ当な疑問である。
実際のところ、第九階層に水があるかどうかが勝負の分かれ目になってくる。
「説明は分かったでござる。クリスタルゴーレムが水を苦手とするのであれば、水を上手く使えば行動を制限できるのでござるな。さぞかし有効な手段でござろう。しかし、水を調達する手段が分からないでござる」
「ああ。それはもう
「……完了している?」
人曰く、百聞は一見に如かず。
この俺が無駄な工程を取ったことなど、今まであっただろうか。全ての行動には意味があるのだ。
「だって第八階層で【
「 」
…………。
……。
第九階層に潜った俺たちは、【水除けの
そして程なくして、意味も解らずじたばたもがき続けている水晶の人形を見つけることができた。
どうやら完全に
「うわぁ」
四人の英雄たちはドン引きしていた。
まさか本当に俺の説明通りの状況になっているとは、思ってもいなかったのだろう。
(で、こいつを『女王様の鞭』でずっとしばき続ける。調教が成功するにはクリティカルを連続発生させる必要があるんだが……)
俺は黙って鞭を装備した。
この中で幸運値が一番高いのは、【
加えて、【称号:稀代の
なので、試行回数を考えたとき、俺の方が『女王様の鞭』を使った
寝転がったまま暴れ続けているクリスタルゴーレムは、状況を全く理解できておらず、適切な思考能力を持っていないようだった。
鞭を叩きつける隙はいくらでもあった。
(とはいえ【水除けの
鞭で叩く。叩く。叩く。
こうなってくると後はお祈り時間だ。運よく調教に成功することを祈る他ない。
本来の話をすると≪
このクリスタルゴーレムは、不幸にも色々と条件がそろってしまった≪
繰り返すが、原作【ナイツ オブ カルマ】は成人向けゲームである。なので出現する魔物の造形も、多少偏っている。
クリスタルゴーレムは、巨大な鉤爪の両腕を持つ、無機質な人形である。
製作者陣の癖を感じる肉体造形であることを加味しても、何というか、鞭で叩き続けるのが可哀想になってくる見た目をしている。
(まあ、慈悲はないんだけどな)
その整った顔面には、他のゴーレム系の魔物と同様に【
しかし撃破するのは勿体ない。それはあくまで、調教に失敗したときの最終手段である。
調教に成功することで味方ユニットとして使役することができる以上、今は最善を尽くすべきなのだ。
それすなわち、鞭で一心不乱に叩き続けること。
クリスタルゴーレムは、鞭を浴びせつけられるたびに、腰を跳ね上げさせていた。
(とはいえ、何回叩けば完堕ちするんだろうな……。
俺は無心で手を振り回し続けていた。
この『女王様の鞭』には、媚薬と同じ効果がある。一定確率で好感度上昇が発動するのだ。もしもステータスウィンドウを覗き込むことができるのであれば、語尾に「♥」が出て、調教の進行度合いを測ることができるだろう。
しかしこの世界にはそんな便利なものは存在しない。
重ねて言うと、クリスタルゴーレムは喋らない。結晶内部に思念を宿しただけの生命体であり、会話を行うことは一切できない。なので調教が進んでいるかどうか、見た様子で判断するしかないのだ。
何度も叩き続けていい加減手が疲れてきた頃合いだが、果たしてどこまで調教が進んだのか一切不明であった。
「うわぁ」
四人の英雄たちはまたもやドン引きしていた。
俺だって好きで鞭を振り回しているわけではない。相手の見た目が少女の顔立ちなのが、より一層罪悪感を掻き立てる。
だがしかし、最適解はこれなのだ。
(だってなあ。こいつの使役に成功したらいくらでもお釣りが返ってくるからな。二十四時間不眠不休で活動できて、命令は忠実に守って、命の危険がある仕事でもしっかりとこなしてくれる。こんな素晴らしい部下はどこを探しても存在しない。第八階層に置き去りにしている宝石亀の甲羅を持ち帰るためにも、このゴーレムの力は必要不可欠だ)
ゴーレム系の魔物の中でも、クリスタルゴーレムは希少価値が高い。
粘土のゴーレム等と比べると耐久性は格段に違ってくるし、基礎能力も優秀だし、何よりも、攻性術式を一定割合反射するその水晶体の性質が便利なのだ。
(だからこそ、何としてでも調教に成功したいところだが……)
鞭を入れ続けること数十分。
腕が疲れてきて、手のひらの皮もひりひりし始めたが、それでもクリスタルゴーレムは沈黙したまま。時折、不自然な痙攣が見られたが、その程度しか変化が見られない。
気付けば、精霊たちも"うわぁ"とひそひそ喋っていた。何かまずいことでもしているだろうか。
とはいえ今回、どこまでやってもやり過ぎというものはない。今俺たちが相手にしているクリスタルゴーレムは、ちょっとでも油断を見せたら、その圧倒的な馬力で俺たち全員を薙ぎ払うことができるのだから。
念には念を入れて、後三十分はしばき続けた方がいいかもしれない。それでも危なそうであれば、いったん撤退して立て直し、魔力を回復してから再戦に臨む。
身を捩り続けるクリスタルゴーレムを相手に、俺は一切手を緩めない覚悟で立ち向かった。今の俺は一人ではない。仲間を背負っているのだ。
「その、殿下。多分、既に成功しているのでは」
「? なぜそれが分かる?」
「…………」
ロナが俺を諫めようと声をかけてくれたものの、俺の問いかけへの答えはなかった。
顔を赤くしてもにょもにょと「足がピンと伸びてますし、腰が浮いてますし、その……ええと」と言いよどんでいるようだったが、要領を得ない説明で、根拠に足る回答とは思えなかった。
とりあえず今は、目の前のことに集中しなくてはいけない。
魔力を回復するために
クリスタルゴーレムは、不自然に痙攣するだけだった。
Q:なぜ
A:身に覚えがあるから
『女王様の鞭』で何千回もしばき続けていると、普通の魔物なら累積ダメージで息絶えます。
そして、調教が難しい魔物は何千回もしばき続けないといけないぐらい、使役するための難易度が高いです。
不幸なことに、クリスタルゴーレムは(物理面では)耐久力が高いため、何千回もしばき続けられることになりました。
ちなみに【魔獣使い】等の天恵を持たない人間は、本来魔物を使役できません。『女王様の鞭』の所持者が使役できる魔物は一匹までです。