貞操逆転世界の悪徳皇子になった俺、ひたすら魔石を食べて強くなり、破滅フラグを回避します   作:ナロウ・ケイ

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貞操逆転世界の悪徳皇子と、迷宮探索学園の狂騒曲⑱

 

 帝国獅子威(ししおどし)會きっての武闘派の幹部、ウリーザは激昂していた。

 ルーク少年が、勝負を放棄したとしか思えない、舐めたような行動を取ったからである。勝負事を重んじる彼女にとってそれは、神経を逆なでする行為でしかなかった。

 

「はぁ? アタシたちが必死に地下で鉱石採掘してたときに、あいつら一度地上に戻って風呂に入ってきただとぉ?」

「あ、え、そうです! しかも全然鉱石を採掘している様子がなかったです!」

 

 思わず舌打ちが漏れる。はっきり言って期待を裏切られた。ウリーザにとって勝負事は大切なことであり、それを愚弄されるのは不愉快であった。

 他にも、やれ水中装備を持ち込んでいるとか、やれたくさん水筒を抱えていたとか、よく分からないことを色々と聞かされたが、総じて真剣に勝負をしているような様子は見受けられなかった。

 

「何だい、久々に気持ちのいいオスが現れたと思ったのに、期待したアタシが馬鹿だったよ!」

 

 やりどころのない激昂をぶつけるように、ウリーザは荷物を地面に投げつけた。

 彼女たちはこの度、人の胴体ほどある結晶を持ち帰っていた。それも三個。普通、こぶし大の鉱石が見つかれば十分な収穫と言っていい。胴体ぐらいあるような両手で抱えないといけないぐらいの鉱石ともなると、それで一年は食える収入になる。それを三つも見つけたのだから、山師としてのウリーザの腕の良さが窺える。岩の匂いが分かる岩腕族の面目躍如と言っていいだろう。

 

「……けっ、何が若様だ。アタシを楽しませてくれるような、破天荒なオスじゃなかったのかよ……」

 

 賭けを主宰していた立会人の少女なんかは、暗い顔で俯いていた。一方的な展開過ぎて、賭けで盛り上がるような空気でなくなっているのだろう。事実、ルーク少年に大金をかけた少女たちは顔を土気色にして、「神様、神様……!」とすがるような声を出して震えている。身の丈に合わない大金を賭けるからそうなるのだ。愚かとしか言いようがない。そもそも今回の勝負、始まりからしてウリーザたちにとって非常に有利な試合であった。何度か潜った経験があるウリーザにとって、初めて洞窟に潜るようなルークたちに負けるつもりは一切なかった。

 

 流石にこれだけの収穫があれば勝ったも同然──。

《勇猛の獅子》寮の面々も、彼の舎妹(……)たちでさえも、誰もがそう思っていたところだが。

 

 

 

「──あ、やば、入口擦っちゃった」

 

 緊張感のない呑気な声。

 周囲の誰もが息を呑んだ。

 人が絶句する瞬間は、こんなに静かなのかと感動するほどだった。

 

 ウリーザに遅れて半刻ほど。

 例のルーク少年たちが、祭りの神輿ぐらいあるような鉱石を持ってきた際には、空気が戦慄していた。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 新しい少女がいた。

 身体の大半が水晶で出来ており、人形めいた造形の顔立ちで、眼球はつややかな珠玉だった。

 なにより特徴的なのは両腕であった。

 両腕とも宙に浮いており、いかつい結晶があちこちに生えており、子供が寝転がれる程度の広さの掌になっている。

 

 身体の大半が結晶で出来ているのは珍しいが、額の呪術刻印と、淡い光を帯びている腹部の核が、彼女がゴーレムであることを明に主張していた。

 

「本当は【吸血鬼の姫】を調教するのも有りだったんだけどな。でも、荷物運搬を考えたらクリスタルゴーレムの方が流石に勝ると思ってな」

「はあ」

 

 気の抜けたような返事。当惑したロナの声だった。

迷宮守護者(ガーディアン)≫の一角、【長命の宝石亀】を撃破し、さらには【吸血鬼の姫】を撃破、【クリスタルゴーレム】を調伏、と一日で大戦果を挙げた俺は、かなり満悦だった。

 特にクリスタルゴーレムは、仲間になって早々、大活躍をしてくれた。

 

 例えば、宝石亀の背中の甲羅の運搬作業。

 ばらばらに割れてしまったとはいえ、大きな破片は六人で縄を引いて何とか運べるぐらいの大きさになるため、持ち帰るにしても何往復もかける必要があった。

 ここにクリスタルゴーレム一匹増えるだけでも、運搬量は段違いだった。

 というより、クリスタルゴーレムが大半を担いでくれた。

 

(一応、俺も頑張ったんだけどな。他の五人と同じぐらいの量を俺一人で担いだわけだし)

 

 回収作業は多忙を極めた。

 全員の膂力増強のために【聖女】に加護(バフ)を多重でかけてもらい、【賢者】の覚える呪文『羽ばたきの言祝ぎ(ことほぎ)』で重量を軽くして、そこまでしてもなお手に余るほど重い戦利品。

 

 ここで俺の天恵、【農夫】と【鉱夫】と【運搬人】が活きてくる。

 農夫と鉱夫と運搬人それぞれで、運搬量ボーナスが乗算されるのだ。その効果はなんと1.1×1.1×1.3倍。1.573倍もの効果がある。

 

 これを地味と言ってはいけない。1.6倍弱は馬鹿にならない係数である。

 俺の能力値は、天恵もちの一般人の能力およそ2.5倍(本人の資質+天恵補正で、一般人は1+1、俺は1+4とかなり大雑把に計算)になる。本当はもっと強いのだが低めに見積もってその程度。

 そして、あくまで予想ではあるが、俺自身の魂の位階(レベル)も、俺の天恵(ジョブクラス)も、恐らく両方とも現時点で魂の位階(レベル)が50を超えているはずである。確証は持てないが、そうであれば色々と説明が付く。仮に違ったとしても、【長命の宝石亀】を討伐したときの魂魄の吸収(経験値獲得)魂の位階(レベル)が大幅に成長しているはずなので、問題はない。

 

 となると俺一人で、魂の位階(レベル)が50相当の人間2.5倍×1.6倍=4倍弱程度の素材運搬ができる訳で。

 そこに【聖女】の加護(バフ)(1.3倍)、【賢者】の『羽ばたきの言祝ぎ(ことほぎ)』(質量20%ダウン)が加わることになり。

 結果、俺一人と残り五名の運搬量がほとんど変わらない、という異様な光景が出来上がる。

 

 ──そしてそれの倍近くの量を、クソでかい手でひょいと運んでくれたのがクリスタルゴーレムであった。

 

 

 

 

 

「ま、まだあるんですか、若……?」

「ヒェッ」

 

 入口まで持って帰ったら、俺の舎弟(舎妹?)たちは怪訝な表情を浮かべていた。

 何往復もかけて素材を持ち帰り、潜っては持ち帰り、潜っては持ち帰り。

 周囲の人間は引き気味に距離を置いていた。勝負も終盤に差し掛かって何の音沙汰もなく、これではいよいよ勝利も絶望的だ、と空気が死んでいたところに、俺たちが鳴り物入りで帰ってきたわけで。

 

 そこからはもう、何度も往復して、出るわ出るわの大収穫。いつまでたっても終わらない。何があったのやらと噂が噂を呼ぶ最中、ひたすら積みあがっていく素材たち。誰もが目を疑う光景である。

 続くことなんと二時間。ずっと潜っては出てきて、を繰り返して大量の素材を持ち帰り続け、息も絶え絶え、汗だくになって、ようやく運搬作業は終わりである。

 

 そう、運搬だけで二時間である。

 いつの間にかこんもりと素材の山が出来上がっているが、これもたった二時間の出来事。

 

「若! 最高です! 若なら絶対勝つと信じてましたぁ!」

「あああああああああああ……」

 

 感涙にむせび泣く少女たちと、絶望で地面に突っ伏す少女たち。

 恐らく、賭けに勝った少女と、賭けに負けた少女だろう。賭けに勝った奴はこれで大金を得るが、負けた奴は今後どうするか身の振り方を考えなくてはならない。借金を背負ってしまった可哀想な子たちは、俺が救済してあげないといけない。お金を貸す代わりに俺の忠実なしもべになってもらう。ただそれだけだ。

 

(さてさて、今回の収穫は……と)

 

 騒がしいやら、やかましいやらで収拾がつかなくなっている空気をよそに、俺は頬が緩むのを止められないでいた。

 

 ・【長命の宝石亀】を撃破したことによる、魂魄の欠片(経験値)と、莫大な鉱石の収入と、【水除けの宝珠(オーブ)】の回収

 ・【吸血鬼の姫】とその眷属の蝙蝠たちを撃破したことによる、魂魄の欠片(経験値)と、【宵闇色の骨】と【女王様の鞭】の回収

 ・【結晶人形(クリスタルゴーレム)】の調教

 ・ウリーザの撃破

 ・大量の舎()の獲得

 

 これで、目的としていたことが全部達成できた。

 魂魄の欠片(経験値)の獲得による圧倒的な成長はもちろんのこと、それ以外の副収入が無視できないほどに大きい。

 

「…………」

 

 唖然としているウリーザを見つけた俺は、言葉を失っている彼女の耳元に囁いた。

 対戦相手には敬意を払う必要がある。いわゆる対戦ありがとうございましたの精神だ。もちろん煽りではない。

 

「納得いかないか?」

「…………いや、認めるよ」

 

 元気のない声が返ってくる。女傑然とした張りのある声は、すっかり鳴りを潜めていた。

 

「納得がいかないなら、今度は相撲で戦ってもいいぜ?」

「…………。アタシの負けだよ。完敗さね。戦いたいのはやまやまだけど、また今度な」

 

 相変わらず声に元気がない。

 だが、ウリーザは別に負けを認めてないわけではなさそうであった。単純に、色々と予想外の展開で打ちのめされてしまったのだろう。

 それでも彼女は、潔く矛を収めようとしていた。

 

「なあウリーザ、残り一人の幹部だが……」

「気を付けなよ、ルーク坊や」

 

 目を伏せたままではあったが、ウリーザは助言を一つ俺に授けてくれた。

 つい何かを言わずにはいられなかったのだろう。そういうところが、彼女の人柄をよく表していた。

 

「ハーレクインは、奴はな、貴族を死ぬほど憎んでるんだ。お前のことも、きっと死ぬほど憎んでいるぜ」

 

 

 





 リディルもウリーザも、単なるモブキャラの一人にしようと思っていたのですが、思ったよりキャラクターが立ちましたね。
 今のところメインキャラクタはあくまで、ロナと、四人の英雄たちと、二人の侍女たちという想定なのですが、書いていると愛着がわきますね。
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