貞操逆転世界の悪徳皇子になった俺、ひたすら魔石を食べて強くなり、破滅フラグを回避します   作:ナロウ・ケイ

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貞操逆転世界の悪徳皇子と、迷宮探索学園の狂騒曲⑲:あるいは道化師の舞踏会

「全く、仕方のない奴らじゃのう。勝ちは勝ちじゃろうが」

 

 まさかの大逆転劇に悲喜こもごも、賭けに大勝ちした奴と、賭けに大負けした奴でひと悶着が起きたものの、鎮圧は早かった。

 番長のワヤが一喝を入れたからである。

 勝負は勝負、結果が全て、それを受け入れろ、強者こそが《勇猛の獅子》寮の掟、と。

 実際のところ、俺は勝利した。手段を尽くして、大量の鉱石を持って帰ったのだ。

 

「ルーク。正直ワシは、まだおどれのことをよう分かっとらん。ワシら帝国獅子威(ししおどし)會は、貴族の過度な階級意識や度を超えた平民軽視を是正しようと立ち上がった組織じゃけん、おどれみたいな貴族の(ボン)は本来好かん」

 

 じゃがな、とワヤは破顔して続けた。俺の背中を叩きながら朗らかに。

 

「こうまで実力を見せつけられちゃあ、ワシも認めるしかないじゃろう。何でも一部の連中は、おどれのことを、若、若と呼んで慕っておるようじゃけんな」

「ありがとうございます、ワヤさん。これからもどうぞよろしくお願いします」

「おう」

 

 幹部三人のうち二人を実力で下した俺は、とうとう番長の許しを得たことになる。

 それを目にした俺の舎()たちは、快哉を叫んで我が事のように喜んでいた。頭領の信を得て、反目する幹部を打倒して、多くの舎()たちを抱えて──と、分かりやすいほどの成り上がりである。

 さあこれでハッピーエンド、万事丸く収まりました、となればいいのだが。

 

 ここまできて、影も形も現れていないもう一人の幹部が存在する。

 頭領のワヤを除くと、幹部は三人いるのだ。リディル、ウリーザ、そしてもう一人。

 

「ところでワヤさん、ハーレクインは」

「ああ……そうじゃな、あいつはどこにおるんじゃろうな」

 

 一瞬、ワヤの表情が曇ったのを俺は見逃さなかった。

 ほんの僅かなものだったが、それこそが重要な情報であった。

 

「まあええわい。少なくとも、リディルも、ウリーザも、そしてワシもおどれを認めとる。あいつには後で言い含めておく。抗弁があろうが構わん。おどれはもう、ワシらの同胞も同然ぞ」

「同胞……」

 

 言うなりワヤは、俺に盃を持たせてきた。

 盃分けということだろうか。平たい盃に神酒が注がれて、水面が波打った。もしこれが月のある夜であったら、さぞ綺麗な月が水面に映っていたであろう。

 だが今はまだ昼で、しかももうじき新月を迎える。──そう、新月の夜を。

 

「たんと強烈な酒を持ってきた。よーく堪能せいよ?」

「ええ、もちろん」

 

 こういうところが古めかしいというのか。

 とにかく帝国獅子威會は、伝統にならった儀式を重んじる傾向があった。盃分けもその一つ。これこそ、仲間意識や連帯感を醸造するために欠かせないやり方なのだろう。

 

 貴族とは違う考え方である。

 親戚の親戚をさかのぼっていけば、血が神話の英雄たちとうっすらとつながっていて、そこに何となく仲間意識が芽生えるような、そんな貴族の()()とは違うのだ。ご先祖様が同じ神話時代の英雄として肩を並べた仲間だったとか、お互いに高貴な血を引いている選ばれたものだとか、そういう考えとは別種のもの。

 

 帝国獅子威會においては、一緒に盃を飲み交わしたかどうか、という一点で、皆平等に扱われている。

 

「帝国獅子威(ししおどし)會は、(ボン)を歓迎する」

 

 番長の瞳は、すっと細くなり、そして厳しいものになった。

 こうして、四人目の幹部として若頭のルークが認められることになった。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

「──というわけですね、《蜘蛛》のお姉様」

「そうです、《蝙蝠》。すべては殿下の導きの通りです」

 

 新月の夜は、暗躍する影が蠢く時分でもある。

 そして、その日こそが全ての解決に至る日でもある。

 

『天まで届く時計塔』は、新月の日の深夜0時に、淡く光って階層構造を不規則に変化させる。

 その文字盤に刻まれた文字は、新月の日に姿かたちを変えて、全く異なる意味を表示する。

 

 "時は万人に平等に訪れる"

 "死を忘れるな/memento mori"

 

「あの時計塔の文字盤のところ、そこに大量の魔石が持ち込まれた形跡があるとのこと。殿下はその場所で全てに決着をつけるおつもりです。《蜘蛛》のお姉様、お覚悟を」

「流石は殿下です。その予兆を監視するために、()()()時計塔に住み着いて、何か怪しい動向がないかを一人で調査されていたのですね」

 

 本当にそうだったのかはさておき。

 二人は、時計塔で蠢く()に強い警戒心を露わにしていた。

 

「殿下の話が本当であれば、あの時計塔にはもはや既に大量の魔物が誕生しているはずです」

「……もしそれらがすべて野に放たれてしまったら、学園は悲惨なことになるでしょうね」

 

 人為的に魔物暴走を引き起こそうとしている人物がいる。

 そしてその人物こそが、まごうことなき邪教徒である──。

 殿下から届いた手紙。

 そこには、邪教徒と思しき人物の名前と、恐ろしい計画が記されていたのだった。

 

「《蜘蛛》のお姉様、学園が見えてきました。急ぎましょう」

「……殿下、ご武運を」

 

 早馬に乗って駆ける二人の影。

 新月の夜は近かった。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 騒げや騒げ、飲めや飲め。

 新しい幹部ルークの誕生を祝うため、《勇猛の獅子》寮の連中はちょっとしたお祭り騒ぎになっていた。

 というより、あえてお祭り騒ぎにすることで俺をこの場に足止めしようとしているのが見て取れた。

 

(なるほどな、少しは考えてるんだな、ハーレクイン)

 

 主役が不在ではいけないだろう──と、どこを歩いても俺はすぐに捕まって酒を勧められた。

 何となく抜け出しづらい。普通の人間であれば十分以上に足止めになっているだろう。そう、俺が普通の感性を持った人間であればだが。

 自分が主賓扱いの宴会で、不良どもに囲まれた状況下で、平気で抜け出せるような、そんな奴でさえなければ。

 

(この騒ぎに乗じて、俺の飲み物に睡眠薬を盛ったようだが、そんなものが俺に通用するはずがないだろう?)

 

 盛り上がりを見せる宴会。更けていく夜。

 疲れが出てしまったのか、参加者の幾人かはとっぷりと眠りに入っていた。英雄たち四人も眠っていた。微笑ましいことに、あの女番長ワヤも机に突っ伏して眠りこけている有様だった。リディルやウリーザも眠りこけており、この場にいる奴らで眠っていない人物はほとんどいなかった。

 

 時計塔の鐘の音がうるさいほどに鳴り響いたのは、まさにそんな折のこと。

 途端に、暗い夜の星空が深紅に染まり、禍々しい魔法陣が時計塔を中心に展開されたのだった。

 

 

 

 

 

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