貞操逆転世界の悪徳皇子になった俺、ひたすら魔石を食べて強くなり、破滅フラグを回避します 作:ナロウ・ケイ
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物語の中盤まで味方ユニットとして使用できるものの、終盤になって裏切るキャラクター。それが本作におけるハーレクイン/ワヤの立ち位置である。
敵を薙ぎ払う影の巨腕。群れを成して襲いかかる影絵の蝶。分身として動く影人形。身体に纏わりついて侵食する呪い影。
影を使った多種多様な攻撃手段を持つ彼女は、【ナイツオブカルマ】でも屈指の強さを誇る敵役であった。
哀しい過去を持っていることも相まって、人気投票で彼女はかなり上位に食い込んでいた。元より、強くて、見た目が良くて、哀しい過去を持つキャラクターと三拍子揃っていて人気が出ないはずがない。
残念ながら最期、彼女は邪教団への忠義に殉じて死を選ぶのだが、そこを何とかして助けられないかと望む多数のユーザのお問い合わせで運営がパンクしてしまったこともあるぐらいであったという。
原作において、ハーレクイン/ワヤとの戦いは苛烈を極めることになる。
攻撃力の高さは当然のこと、影による防御で、回避力も守備力も高く、生半可な攻撃手段しかなければ詰んでしまう相手である。
特に凶悪なのが、合間を縫って狙ってくる毒ナイフと痛みの呪い。毒・麻痺耐性がなければ毒ナイフの傷が致命的となり、逆に精神力が高くなければ痛みの呪いで身動きが取れなくなる。
そこに巨大な影の
攻撃手段が豊富なのに、受け方を失敗すれば、即座に戦線離脱させられる。分身を使い、影絵を使い、多数の影の腕を操る、と舌を巻くほどの手数の多さと相まって、ハーレクイン/ワヤの強さはとにかく頭抜けていた。
──本来であれば、だが。
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強烈な怪音波をもろに浴びて、頭が割れそうに痛い中、ハーレクイン/ワヤは歯ぎしりをしていた。
この夜の闇に紛れて随所に糸が張ってあり、迂闊に動けば肌を切る羽目になっていた。おそらくは《蜘蛛》の侍女の仕業だろう。そのくせ、《蝙蝠》の侍女の
あの少年の蹴りも、一発一発が重く、鳩尾が焼けるほどに痛んでいた。
(何とか互角に持ち込んでいるが……どこまで持たせられるか)
痺れ毒も効かない。痛みの呪文も効かない。
影絵の攻撃も防がれて、影の腕の攻撃も回避される。
それどころか、背中に黒い虫のようなものがわさわさわさ──と群がって肉を齧ってくる始末。これが奴の言う精霊だろうか。この黒くて目の赤い、得体の知れない存在が。背後で"テキ""テキ""テキ"と囁いてくる、妙に寒気のする異形の生き物が。
魔力が急激に吸い取られているのを感じる。相手に翻弄されているこの状況に、ハーレクイン/ワヤは、思わず舌打ちした。
(……震えている。恐怖しているのか、この、私が)
毒の仕込んである短刀を刺しても全然効かない少年。
魂が焼かれるほどの痛みの呪文を放っても失神しない三人の侍女。
あと、"テキ"としか喋らない上に、ずっと追いかけてきて身を齧ってくる、得体のしれない黒い靄のような塊。
影の腕たちを強引に振りかざして、何とか戦いの趨勢を互角に持ち込んでいるものの、ハーレクイン/ワヤの焦りと恐怖はただならないものだった。
決め手が尽く潰されている。まるで
攻めても攻めても受け切られる。こんな経験は初めてであった。
──刹那、目の前にルークが現れた。
「!」
思わず殴りつける。が、腕を掴まれた。背筋が総毛だつ。脳裏をよぎる死。身体全身が警鐘を鳴らしている。
毒を仕込んだ短刀を一気に四本投げつけて、何とかその場を脱出する。
分身にルークを襲わせるも、全然怯んだ様子がない。ハーレクイン/ワヤは警戒を最大限に高めた。
今のはまずかった。
(早くこいつらを倒さないと……!)
攻撃の密度を一層高める。
焦りを覚える彼女と裏腹に、目の前の少年は不敵な笑みを浮かべていた。
隙だらけのその体目掛け、思い切り分身で体当たりする。会心の当たり。少年の体勢は大きく崩れる。だが次の瞬間、何と少年は分身をそっと抱きしめていた。
何故──と絶句するも束の間だった。
──下腹部に燃えるような情動。
「!?!?!?」
何をした、という声が出ない。
刺激が強すぎて足が急激にすくんだ。肺が絞られ、ひゅ、と変な声が口から洩れる。
喩えるなら、魂を焼かれたとでも言うべきか。
「あ、やっぱり分身って魂がつながってるんだな」
いいものを見つけた、とばかりにルークの表情が綻んだ。
嗜虐に満ちたその表情は、獲物を捕らえたときの肉食獣のそれに近かった。
■分身の利点
・まるでもう一人の自分のように自在に操れること
・いざとなれば捨て身で相手と刺し違えられること
■分身の弱点
・魂が繋がっていること