貞操逆転世界の悪徳皇子になった俺、ひたすら魔石を食べて強くなり、破滅フラグを回避します   作:ナロウ・ケイ

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貞操逆転世界の悪徳皇子と、迷宮探索学園の狂騒曲22:あるいは道化師の舞踏会

 

 ──少し時間は遡って。

 時計塔の下でハーレクインを待ち構えていた俺たちは、事前に軽い打ち合わせを行っていた。

 

「今回の目的は、敵を足止めすることだ」

「足止め……?」

 

 俺の言葉を耳にして、ロナは腑に落ちない様子で繰り返していた。どうも俺の発言の真意を量りかねているらしい。《蜘蛛(ラネール)》と《蝙蝠(カマソッソ)》の二人も同じで、言葉には出していなかったものの明らかに当惑している様子だった。

 

「確認させてください、殿下。今回の敵、ハーレクインの狙いは、学園を迷宮化して魔物の巣窟にすること。そして我々の目的は、それを阻止することですよね」

「そうだな」

「足止めでよいのですか?」

 

 念押しの質問。だが俺の回答は変わらない。

 何故ならハーレクインの狙いは、()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

「ああ、問題ない。学園全体の迷宮化は断固阻止しなくてはいけない。でも魔物を召喚する術式は()()()()()()()()()()()

「…………」

 

 言葉を失っているロナをよそに、俺はあえて分かりやすく噛んで含めるように説明した。

 

(ハーレクイン)の召喚する魔物はおそらく影の魔物。召喚のための条件として、時計塔の文字盤部分に特定の呪文を仕込んである。そして大事な点として、その魔術は、時計塔に蓄積する瘴気の力と、大量の魔石を触媒として発動するものだ。()()()()()()()()()()()()()

「えっと……」

 

 全く納得のいってない様子ではあったが気持ちは分かる。俺も正直、こんな曖昧な説明では真意が伝わっているとは思わなかった。

 何せ、発案者の俺自身が半信半疑なのだ。原作知識を持ち合わせていなければ、理解に苦しむのは間違いない。

 

「安心してくれ。万が一予想外のことがあっても、魔法陣には既にこっそり細工をしているから、あいつは不完全な術式を制御しないといけなくなる。心配するようなことにはならないさ」

「……そうなのですか?」

 

 要点だけかいつまんで伝えたが、どうにも信用されていない。一緒に生活をして、一緒に魔法陣に細工をしていたロナでもそうなのだから、《蜘蛛(ラネール)》と《蝙蝠(カマソッソ)》の二人は尚の事であろう。

 幸い、まだハーレクインの奴は俺の嫌がらせ(※計画を狂わせるほどの大量の魔石を持ち込んで、結界石の再調整を余儀なくさせたこと)にかかずらっている様子なので、俺は時間の許す範囲で、詳細を説明することにしたのだった──。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

「~~~~~~ッ!」

 

 大暴れする十二本の腕。周囲の建造物をこれでもかと殴りつけては破壊し、周囲を瓦礫だらけに変えていた。

 これでも周囲の人に怪我は出ていない。

 何故ならば、ハーレクイン/ワヤが張った結界のせいでこの場に誰も入って来れないからである。その当事者のハーレクイン/ワヤは、ふらふらの足で悶えながら逃げ回っていた。

 

「うーん、結構滅茶苦茶にしてるんだけどなぁ」

 

 やけにしぶとい、と俺は思った。気絶されたら結界が消えたりするかもしれないので、一応手加減はしているのだが、それでも結構容赦なく魂をかき混ぜているつもりである。生物ならぎりぎり耐えられないぐらいの刺激。ロナ曰く"全身が煮える"ような責め苦。

 本来なら、もう立つこともままならないと思うのだが。気合で頑張っているのであれば見上げた根性である。

 分身の方はもう茹だっていて、びくんびくんと身を跳ね上げさせるばかり。最初の方こそ俺が力負けしそうになるほどの信じられないぐらいの力で抵抗していたが、もう今は見る影もない。素直な反応である。

 となると本体の方がおかしい。尋常の忍耐力ではない。

 

「やっぱ()()()()かぁ⋯⋯」

 

 その言葉に、隣に立つロナがもにょもにょした妙な表情をしていた。筆舌にしがたい面持ちであった。

 いつもロナにやっているのは、魂をかき混ぜた後、それをゆっくり絞り出すところまで。とはいえ、絞り出すのは結構難しい。過去に何度か匙加減を失敗して、頭が熔けそう、と泣かれてしまったことがあるぐらい過酷な技なのだ。

 もうちょっと具体的に言うと、《蜘蛛》と《蝙蝠》の二人をしばらく再起不能にしたのは、この絞り出すやつである。二人をして、殿下には人の心がない、と言われてしまったほどである。

 人の心など無くて結構。事ここに至っては人命を優先すべき。多少の手加減はあれど、容赦はない。手足を羽交い絞めにした分身に遠慮なくぶちこむ。

 

 あ゛っ、と悲鳴が上がった。

 可哀想なことに、分身の方(ワヤの姿の方)()()()と身体の震えを止められないらしく、え゛ぅ゛ぅ、え゛ぅ゛ぅ、と熱病にうなされているかのような反応を繰り返していた。恐らく同じことが向こうにも起きているはず。しかしそれでも、相手の心は全く折れている様子はなかった。

 

ひっ──ひ、人の、心とか、ないんか!?

 

 絶叫に近い罵声が俺に届いた。

 続いて、影の巨腕による容赦ない五月雨の拳撃。

 

「よく言う。この学園を魔物まみれにしようとしたくせに」

「っ、外道め!! や、やはり、お、お前は……皇族の、ルーク皇子、ぃん!? 

「今容赦する理由がなくなったよ。お前は全力で潰す」

 

 全てを浚う、巨大な影の腕の薙ぎ払い。

 それを飛び越えながら、俺は挑発を続けた。俺の正体を知られているなら全力で潰さねばなるまい。

 

「どうした、影の魔物を召喚してこないのか?」

「! お前、どこまで……ぎぁっ、あ゛

 

 あ゛あ゛あ゛ぁ────と屍者のようなうめき声を上げる分身。しとどに漏らしている。分身がこの有様では、本体側も相当つらいだろうに、それでも何とかハーレクインは均衡を崩壊させまいと必死に戦っている。

 とはいえ、戦況把握と術式処理には限界があるらしい。もはや相手は、影の腕を使った単調な攻撃を繰り返す以外のことはして来なかった。やがて、動きの鈍くなったハーレクインの肩に《蜘蛛(ラネール)》の放った短剣が刺さった。鉄壁と思われた影の防御にも綻びが生じ始めているらしい。

 一縷の望み。

 俺は畳みかけるように口を開いた。

 

「お前の奥の手、それが影の魔物の使役だろう? 影の蝶の群れを操ったように、影の狼や鷲を操れるように、お前は最後の切り札として、強大な影の魔物を召喚するつもりだったはずだ」

「……っ、く、ぁ」

 

 脂汗を滲ませながら、虚ろな表情でうめく分身(ワヤ)。足元が覚束なくなりふらふらになっているあの仮面の少女(ハーレクイン)も、恐らくは同じ状況だろう。今かけている負荷の強度は、暗殺者二人(蜘蛛と蝙蝠)を撃退したときの八割ぐらいである。二人の言葉を信じるなら、後遺症をきたす一歩手前というべきか。

 それでも戦っているハーレクイン/ワヤは、敵ながら天晴れと賛辞する他ない。

 

「し、知っているからにはもう……か、隠す、理由は、ない……!」

 

 吠えるハーレクイン。

 さながら手負いの獅子のような気勢。だがそれはすぐに痛みの絶叫に塗り替わる。おそらくは精霊たちが、彼女の傷口を()()()()()のだ。赤黒い靄がハーレクインを蝕んでいた。

 決着は近い──と俺は、太ももに刺さった毒の短剣を抜きながら、終わりを直感した。

 

「ぎ、ぅ、ぁ……っ、"混沌、闇、死、疫病を司るフォヴォーラよ、誓約の"、ぉ゛っ

「易々と詠唱できると思うなよ」

 

 分身から魂を絞る。水から揚がった魚のような痙攣。

 だがそれでも相手の詠唱は止まらない。

 

「……せ、"誓約に従って、我に力を貸せ! "」

 

 がごん、と大きな鳴動の音が聞こえた。

 時計塔の文字盤がゆっくり開き、砂をこぼしながら周囲の瘴気を吸い込み始めた。

 赤い月の夜が、より禍々しさを増して、重苦しい様相を示す。まるでそれは、濃密な死そのものを想起させるものだった。

 

「目を開け、バロール」

 

 呼応して、そこに暗い影の巨人が現れた。否。現れたと表現するのはおかしい。

 闇がそこにあった。人の形をした大いなる闇が、赤黒く禍々しい夜の中で、徐々に輪郭を作り上げていた。

 

 ごう、と────────。

 大地が揺れ、大気がざわめき、震えの止まらぬような咆哮が辺りに響いた。

 

「ぐ、ぅ、制御が……っ、小癪な」

 

 苦悶の表情を浮かべながらも、ハーレクインはぎっとこちらを睨みつけた。

 状況はまたこれで一変した。相手の最後の切り札、《影の巨人》は、ゆっくりとその姿を形にしつつあった。上手く行っていないのは、俺があちこちに施した邪魔が効いているからであろう。それでもなお、暴走しかねないほど危険な術式を制御している彼女は、相応のやり手である。

 

 もう猶予はない。だからこそ、ここで──。

 

「何故負けたか分かるか」

「……は?」

「明日までじっくり考えるといい、そしたら何かが見えてくるはずだ」

 

 最大級の煽りと共に、俺は指を鳴らした。

 

 

 

 

 

「お前の敗因は、容量(メモリ)の無駄使い」

 

 ──瞬間、影の巨人の心臓が爆ぜた。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

「召喚される場所が分かり切っている巨人なんて、大した脅威じゃないんだ」

「幸い、俺たちには、影の巨人に取り込まれても死なない水晶人形(クリスタルゴーレム)がいる」

「そいつに、あらかじめ魔力を充填した【水除けの宝珠(オーブ)】を心臓付近で発動してもらったら、後は全て事足りる」

「【水除けの宝珠(オーブ)】が血を全部弾き飛ばそうとして、心臓がはじけ飛ぶからな」

「まあ、《影の巨人》バロール対策は他にもあって、精霊に邪眼を齧ってもらうという手もあるんだが……こっちの方がより確実だからな」

「大量の影の魔物を召喚させる前に、敵を限界まで追い詰めて、最後の切り札の《影の巨人》を召喚してもらって資源(リソース)枯渇に持ち込むこと。これが今回の勝ち筋だよ」

 

 

 

 





■Tips:
《影の巨人》バロール

フォモール族(Fomoire)の大王。ケルト神話の異形の巨人族が元ネタ。
影の巨人と称される通りの外見をしており、見たものを焼き殺す邪眼を駆使する。
召喚に時間がかかることと、ムービー中も当たり判定が継続するグリッチがあり、原作では心臓部分に光の矢(累積する毒付与)を放ってムービー再生することで、高速連続ダメージを与えて瞬殺するという即落ち攻略法が存在する。




 明けましておめでとうございます。
 家族ともどもインフルエンザにかかって更新が遅くなりましたが、無事復帰しました。今年もどうぞよろしくお願いします。
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