貞操逆転世界の悪徳皇子になった俺、ひたすら魔石を食べて強くなり、破滅フラグを回避します   作:ナロウ・ケイ

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貞操逆転世界の悪徳皇子と、迷宮探索学園の狂騒曲24:後日譚

 ──ここからはちょっとした後日談である。

 

「……なるほど、確かに何者かが学園内に紛れ込んで、《影の巨人》の召喚を目論んだ痕跡がありますわね」

「ああ。失敗に終わったようだがな」

 

 激闘の夜からしばらく経って。

 現場検証という名目で、英雄たち四人(【英雄(エイル)】【剣聖(イオリ)】【賢者(キルケ)】【聖者(アナスタシア)】)を駆り出した俺は、そのままあることないことを織り交ぜて、真偽の分かりにくい情報を彼女たちに吹き込んだ。

 勿論、俺本人からも学園側に『邪教徒が何かを目論んだ痕跡が見つかった』と報告はしているものの、こういう情報は多角的に色んなところから報告を入れたほうがいい。早い話、俺だけが都合よく情報操作をしたように見えるのは避けたいので、他に信頼できそうな筋を頼ったという訳である。

 この辺に関しては、《花園》出身の二人を連れてきて正解であった。学園側への報告書、ならび調査記録を作る業務を全部任せきりにできたからである。

 

 という訳で、あの夜の騒動は『邪教徒が《影の巨人》の召喚を目論んだが失敗した』という方向へと集束しつつあった。

 

「……あの夜、ルーク様はどちらにいらっしゃいましたの?」

「さあ、あの日は騒ぎすぎて記憶が曖昧で……。何せ、俺の若頭就任を祝う宴会があったものだから、()()()()()()()()

「……」

 

 俺は【英雄(エイル)】の質問にしれっと嘘をついた。こんなのは確かめようがない話なので、幾らでも好きなことを言うことができる。何せあの日は、ワヤ/ハーレクインの手によって、宴会の飲食物に睡眠薬が仕込まれていたのだ。

 ちゃんと記憶の残っている奴の方が少ないはずである。

 

「……なあよぉ、皇子様。オレからちょっといいか?」

 

 訝しんだ表情で【賢者(キルケ)】が口を開いた。いつも気怠そうな雰囲気の彼女は、その割に妙に目ざとい所がある。俺は内心で若干身構えた。

 

「確かに邪教徒の手口っぽい痕跡は色々見つかっている。魔物を召喚する術式も、邪教徒の崇拝する神話体系のそれに近いし、偏四角多面体(トラペゾヘドロン)の迷宮核の()()も見つかったしな」

「だろう?」

「だが、邪教徒があの日の宴会に睡眠薬を仕込んだってのが腑に落ちねぇ」

「……」

「そんなの、帝国獅子威會の関係者の中に邪教徒がいます、って自白してるようなものじゃねえか」

 

 それはそうだろう。

 まさか影による分身を操れるワヤが裏で睡眠薬を仕込んでいたなんて、想像もつかないはずである。分身がいれば、その瞬間のアリバイは成立する。現場不在証明という奴である。

 少なくともあの宴会の中心にいたワヤには、そんな睡眠薬を仕込むなんてことは不可能──という目撃証言が得られる。

 なので、ワヤからしてみれば、帝国獅子威會の関係者の中に邪教徒がいるなんてことが露呈しようが、そんなのどうでもよかったのだろう。

 それが却って、【賢者(キルケ)】にとって不可解に映ったようである。

 

「こういうのって、理由がいくつかに限られるんだよな。犯人はもう死んでもいいと思って自暴自棄だったのか、確実に逃亡できる自信があったのか、あるいは現場不在証明(アリバイ)に自信があったのか──」

「もう! キルケったらまた妙なことを気になさって。今大事なのは、他に危険な術式が仕込まれていないかの学園内全体の調査ですわよ」

「細かいことが気になるのは、キルケ殿の癖でござろうな。だが、拙者たちの任務は術式調査の継続。思索に耽るのはその辺にしておいて、仕事に戻るでござるよ」

 

 幸い、【賢者(キルケ)】の指摘は【英雄(エイル)】や【剣聖(イオリ)】によって別の方向に遮られた。あのまま深く考えられていたらちょっとまずかったかもしれない。

 

「……すまんな、皇子様。オレぁしょうもないことが気になる性分でな。なんつうか、お膳立てされてるようなのが気に食わなくて、素直に聞いちまった」

 

 お膳立てというのは手柄のことだろう。

 今回の件、依然として詳細は不明であるものの、事務的な処理としては英雄たち四人の手柄として一部計算されることになっていた。無論、彼女たちに何の功績もなかったというわけではない。

 影の巨人がどのように召喚されたか、そしてどうして召喚失敗したのかは不明であるものの──ハーレクインが張った結界の解除や、ハーレクインがあちこちに残していた罠の数々の解除、そして大騒動の後の学園内の治安維持といった、(れっき)とした活躍があったのだ。

 見方によってはまあ、上手いこと手柄だけが渡ったようにも見えなくもない。だが活躍は活躍なのだから、素直に栄誉と報奨を貰っておけばいいと思うのだが。

 

「仕方のないことです。神も仰っています。記憶は移ろいゆくもの、お酒の席では記憶は酒精に浮かれて飛ぶものです」

「この酒カスアホ聖女(アナスタシア)の言葉は置いといて」

「過ちは人の常、許すは神の御業ですよ、【賢者(キルケ)】」

「お前は過ちからいい加減学べ」

 

 などと、やいのやいのと英雄たち四人がふざけあって、話がいい具合に曖昧になったところで、俺はこっそりとお暇させてもらった。

 うちの《蜘蛛》と《蝙蝠》の情報工作は完璧で、今のところ疑念の余地はない。少なくとも、この四人以外の赤の他人から見る限りでは、不審な点はないし疑いを挟むようなところもない。多少怪しまれた一幕はあったものの、全体から見れば些末なものだった。

 

「⋯⋯そう。何者かが学園に忍び込んで、《影の巨人》の召喚を目論んだんだ。そして失敗した。そこに何の問題もありゃしない」

 

 いつの間にか英雄たち四人の手柄ということになって事態が収拾されたとしても、それは史実通りなので問題ない。別段、俺は名を残したいとは思っていない。ちょうどいい隠れ蓑があるならば、それをきっちり有効活用するまで。

 

(英雄の仕事は英雄たちに任せるとして、あくまで俺は俺のやるべきことをやるまでだ)

 

 俺の目的は、あくまで悪役皇子ルークの不幸な末路の回避なのだから。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

「数日間の療養生活はどうだったかな? ワヤ」

「…………殺せ」

 

 そっけない返事。暗い地下室の中、ワヤは顔を真っ赤にしてべそべそと涙を流していた。女番長だったころの威厳と気丈さは、今や見る影もなかった。

 彼女を数日間かくまったのは、他ならない俺自身である。ちょっと世間に見せる訳にいかないぐらい酷い有様だったので、しばらく()()が落ち着くまでは俺たちで彼女の面倒を見ていたのだ。

 

「おどれ……このワシのお腹によくも……よくも……」

「悪いな、まあけじめみたいなものだ」

 

 彼女が恨み節を垂れているのは、恐らく下腹部の紋様のことであろう。この世界で紋様を刻み込む場合、下腹部に刻み込むのが普通となっている。こういう世界設定は、いかにも成人向けゲームっぽい。一応、丹田はチャクラが一番集中する場所だとか、腹の底から活力(プラーナ)が生まれるのだとか、それっぽい後付け説明はあるのだが、どうせ本音は開発陣の趣味に違いない。

 

「言っとくが、俺は魂に『忠誠の誓約』を刻み込んだだけだぞ。下腹部に紋様が浮かび上がってしまったのは、お前が下腹部に意識を集中させすぎたというか、魔力を集中させすぎたからで……」

「………………殺せ」

 

 蚊の鳴くような声。ワヤは耳まで真っ赤にして呻いていた。

 要するに彼女がすけべだからこうなったのだ、という話である。これは、俺が魂を思いっきりぐちゅぐちゅにかき混ぜて絞っている間に、下腹部にばかり意識を集中させていたという動かぬ証拠。思わず言ってしまったが、知らぬが仏、言わぬが花だったかも知れない。

 

 だがまあ、気に病むような話ではない。実は、ロナも《蜘蛛(ラネール)》も《蝙蝠(カマソッソ)》も同じところに紋様が浮き出ているので、彼女一人だけがそういう人間だというわけではない。

 

「これで、学校に平和な日常が戻ったわけだ」

「……さよか」

「邪教徒の目論見は失敗し、英雄たちが隠された罠やらを撤去して回っている。学園はより一層、警備体制を強化することになった。これにて万事、めでたしめでたし……だ」

 

 俺は適当に温めた白湯を人数分用意しながら、その辺にあった適当な石に腰を掛けた。

 本題はこれからである。大きな事件を何とか乗り越えたばかりだが、そうもゆっくりしていられない。俺は単刀直入に切り出した。

 

「……めでたしめでたし、じゃないんだよ」

「……何が言いたいんじゃ」

「俺さ、皇子だったこと忘れてたよね」

「?」

「学校辞めることになったんだよな」

「は?」

 

 急な話だが、事実である。まさかの退学命令。やんごとなきところから鶴の一声があっては、幾ら俺とて逆らえない。

 正直、学生生活をまだまだ続けたいのだが、そうも言ってられない事情がある。

 

「邪教徒が災禍を引き起こそうとした場所だなんて、そんな危険な学校に皇子をずっと預けていられません、ってお声がかかってしまったんだな」

「……」

「まあ、建前だろうけどな。本音は多分、俺を帝都に引き戻すちょうどいい口実が見つかったから、何かしらの政治利用してやろうという貴族の連中の思惑だろうさ。いい迷惑だよ」

 

 花の学生生活を享受しようと思った矢先、この仕打ちである。本当にこの時代、貴族に個人の都合(プライベート)なんてものはない。政治利用できそうな案件が浮上すれば、こうやってすぐに呼びつけるのだから。

 要するに全て、この女のせいである。ワヤさえ暴れなければ、俺はもう少し学園生活を謳歌できたのだ。

 八つ当たり気味に彼女のお腹をぐりぐりと踏む。あっ、と短い声が漏れた。

 

「ちょ、ぁ、やめ──」

「学園を辞めた後はさ、よく分からない僻地の領主に叙任させられる可能性が高いんだって。まさかの内政だぜ内政。嫌になっちゃうね、本当」

「それ、き、きつ──」

「その僻地はさ、例の如く開拓が遅れていてさ、魔物が跋扈していて、しかもこれと言った産業がないんだぜ。なーにが『学園は危険だから呼び戻す』だよ。そんな場所に赴任させるんだったら、そっちのほうが危険だろうがよ」

「ぁ、ぁ、はっ」

 

 本当にいい迷惑である。正直、あと数年は遊ぶ予定だったのだが、その計画も全部おじゃんになってしまった。帝都から離れたところでの領主生活なんて望んでいないのに。

 足でお腹を弄ばれて、はふ、はふ、と息を荒らげているワヤに対して、俺は小声で詰った。

 

「それもこれも、全部邪教徒が悪い」

 

 例えば。

 向こう数年かけて、学校にしか存在しない希少な迷宮出土品(アーティファクト)をこっそり失敬したりして、それを邪教徒のせいに仕立てようとしたのだが。

 素直にそう伝えると、ロナに「殿下……」と白い目で見られたが、本音なので仕方がない。こそこそ陰で悪いことをやっているような奴が悪いのだ。俺には権力があり、ちょうどそういう奴がいるのだから、そいつを利用しなくては意味がない。俺は清廉潔白な皇子ではない。

 

「邪教徒の連中がどうなろうと、俺には知ったことじゃないからな」

「……か、勝手な男じゃの……ぁっ」

 

 息を弾ませながらワヤが抗弁するが、言葉には力がなかった。

 

 

 

 

 

 




 長かった(?)学園生活編もようやく終わりです。ですが、「最終回じゃないぞよ、もうちっとだけ続くんじゃ」という奴で、もう少しだけ情報を追加して学園編を締めたいと思います。

 読み返しましたが、本当にこの皇子、全然学園生活してねーなあ、と思います。でも書いてて楽しかったのでOKです。

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