貞操逆転世界の悪徳皇子になった俺、ひたすら魔石を食べて強くなり、破滅フラグを回避します   作:ナロウ・ケイ

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貞操逆転世界の悪徳皇子と、盲目で義手の狩人③

 成人向け戦略RPG【ナイツ オブ カルマ】の世界では、とある奇病が流行っている。

 

 それは、『男の胎児は流産になりやすい』というものだった。

 空気を介する感染症なのか、魔物が世に溢れたことによる瘴気のせいなのか、はたまた迷宮化(ダンジョン化)した遺構の影響なのか──。

 真相は定かではない。

 

 ただ事実として、【ナイツ オブ カルマ】の世界の男女比は1:10程度になっており、女性の方が大いに余っている社会構成になっている。

 

(俺はこの世界に生まれた貴重な男子だ。俺なんぞ末席も末席の皇子に継承権なんぞろくに残ってはいないが、扱いは悪くない)

 

 俺は政治に明るくない。だがこの世界の情勢はある程度知っている。

 過度な女余り。

 男というだけで持て囃される時代。

 

 これぞ、成人向け戦略RPG【ナイツ オブ カルマ】が、いわゆる貞操逆転ゲームと呼ばれる所以。

 この世界では、女のほうが性に奔放な価値観を持っているのだ。

 

 とはいえである。

 高々五歳児がそんな貞操逆転云々だの、男女事情だの、何ら影響があるわけもなく。

 

 同年代の女の子たちとお花見してお茶会をすることになったのだが、「あ、そうなんだ」というだけの話としか感じなかった。

 

 

 

 

 

 ルーク・マギデリックは皇子である。

 いくら継承権が低く、出自たる血筋の格が劣るといえども、その血には皇帝の血が混ざっている。

 そのため、俺の婚約者として、既に多くの立候補が集まっていた。

 

 今日のお茶会もその例に漏れなかった。周囲の女の子たちは、いずれも名門の貴族令嬢たちで構成されていた。

 男子たった一人に対して女子が六名。

 俺の方が息が詰まる。男女比が極端なためか、女の子たちはこぞって俺の気を引こうと努力していた。

 

「ルーク皇子は、普段どんな遊びをなさってるの?」

「ルーク皇子、今度一緒に街でお買い物しませんこと?」

「ルーク皇子、私の領地で一緒に乗馬しませんか?」

「ルーク皇子」

「ルーク皇子」

 

 …………。

 ……。

 

(はっきり言ってどうでもいいな)

 

 俺は内心、酷く冷めていた。

 同じ五歳児同士で盛り上がるには、俺のほうがついて行けないものがあった。

 

 この世界では男女比が極端である。

 しかし貞操逆転世界とはいえども、男のほうが力は強く、男のほうが乗馬やら狩りを好み、女のほうがおとなしい趣味を好む傾向にある。

 根底にある、男らしさ、女らしさ、という概念はそこまで大きく変化しない。

 

 この世界の男は、逞しい肉体を持ち、勇猛果敢な偉丈夫のほうが持て囃される。単純に貞操観念が入れ替わっているのだ。

 しかし──。

 

(翻って、今の俺の見た目が魅力的な男子なのかって話だよな)

 

 俺が冷めていた理由は、まさに俺の見た目にあった。

 

 肥満体。

 どこからどう見ても甘やかされただけの身体。

 日に当たらず白い肌、だらしがない頬の緩み、締まりの無い顔──。

 

 醜悪という言葉が似合う。

 いい方向に捉えると「ころころ丸い」「ふくよかな子ども」という表現に落ち着くだろうが、少なくとも美少年ではない。

 

 こんな自分がこんなに持て囃されているなんて、滑稽にも程がある。

 有り体に言えば、血筋でしか見られていないのだ。

 ここに群がっている女たちは、ただ皇家に連なる血筋にしか目が行ってないのだ。

 

 いくら帝位継承権が低かろうとも、その血には利用価値があると思われているのか。あるいは、低い帝位継承権だからこそ御しやすいと思われているのだろうか。

 どちらにせよ嬉しくない話である。これだから貴族社会は好きになれない。

 

 とはいえ、世の中にも好き者はいるみたいで、血筋だけではなくて、こんな俺にも熱視線を向けられることもあった。最近で言うと、五十歳を超える妙齢の女性から恋文が届いた。絶句した。流石は貞操観念逆転世界。着せたい洋服があって、一緒に着せ替えごっこをしたいから夜に遊びにおいで……だなんて、気色悪いお誘いだった。おじさん構文ならぬおばさん構文とでもいうのだろうか。

 それと比べれば、今の状況はまだ可愛いものだった。

 

(五歳のうちから、もう既にこんな駆け引きが始まってるなんて、うんざりするな)

 

 俺は胸焼けしそうな気持ちになっていた。

 多分、六人まとめて嫁にしても問題ないだろう。男女比から考えるとごく普通の、よくある貴族の結婚である。

 

 だがしかし、五歳のころから結婚相手が決まっているというのも息が詰まる話である。

 生涯の伴侶ぐらい自由に選びたいというのが普通の感覚だと思うが──。

 

「……ここにいる六人ともに聞きたいんだけどね」

 

 俺が口を開くと、しん、と急に静まった。

 一体何を言い出すのだろうか、と場の空気がにわかに緊張を帯びてきた。注目の眼差しを一身に浴びる俺は、少しばつが悪い気持ちになりながらも言葉を続けた。

 

「嫌々ながら俺の婚約者になろうとしている子がいるなら、今のうちに素直になったほうがいいよ。そういうのって分かっちゃうからさ」

 

 ただの気遣いのつもり。そんな思いからの発言だったのだが。

 俺の言葉を受けて、周囲の六人の顔がさっと青褪めた。

 まるで今から手酷い処罰を受けるのだ、とばかりの戦慄が走った。媚びを売るかのような甘さがなくなった。

 

「そ、そんなことはっ!」

「私の命に代えてもっ! 殿下と仲良くなりたく!」

「見捨てないでくださいまし!」

「どうか……どうか御慈悲を……!」

 

 あ、逆効果だ──と直感したのは少し経ってからのことだった。

 

 背後で侍女のロナが「流石は殿下……甘い囁きに絆されず、僅かな言葉で綱紀を正されたのですね」とか何とか言ってた。

 何か勘違いが始まっている気がするが、どうしたものだろうか。

 

 

 

 

 

 

 




 醜悪で愚鈍な、ともすれば与し易い皇子かと思われていたところ、意図せず掣肘を入れた形になりました。
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