貞操逆転世界の悪徳皇子になった俺、ひたすら魔石を食べて強くなり、破滅フラグを回避します   作:ナロウ・ケイ

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貞操逆転世界の悪徳皇子と、迷宮探索学園の狂騒曲25:その名はオーベル

 ──噂の新入生が、まさかの皇子様だと判明したのはつい最近のこと。その頃にはもう、入学試験で首席を記録していたという事実も、もはや公然の秘密となっていた。そもそも、あれだけ風格と色気のある少年が、ただの凡庸な田舎貴族であるはずがないのだ。

 

 成績優秀で、文武両道のみならず。

 あの荒れていた『勇猛の獅子』寮を立て直し、落ちこぼれていた生徒たちの成績を底上げした実績。

 生徒たちに広く慕われて、たった数か月で『若頭』扱いされたという社交性。

 加えて、とにかく顔がいい。鎖骨を晒したり、胸元をはだけたり、やたらと隙だらけの癖に、漂う色気は凄まじかった。

 学園の誰もが、この眉目秀麗な少年に注目していた。

 

 そんなルークが、まさか一年も経たずに帝国探索者学校を退学する羽目になるとは、誰も予想だにしていなかった。

 学園中が騒然となり、大きな混乱が起きた。たかが一生徒が学校を辞めるだけと言いきるには、ルークの与えた影響は大きすぎたのだ。

 

 

 

 

 

「此度は多額の寄付金、誠にありがとうございました、ルーク殿下。学園を代表して、厚くお礼申し上げます。寄付金につきましては苦学生の援助、研究費、寮設備の改悛工事などに引き当てたいと思います」

「よろしくお願いします、学長殿。この帝国探索者学校が、魔物災禍からいち早く復興されることを祈っております」

 

 学長と固く握手を交わす少年は、いかにも皇族然とした貫禄があった。たった一年で退学するような人物には到底見えない。

 魔物災禍という表現は大げさである。だが諸々の政治的事情を鑑みて、一連の出来事は魔物災禍として処理されることになっていた。詳細は不明だが、時計塔近くの施設には《影の巨人》が暴れたと思しき傷跡が所々に散見されていた。修繕費も馬鹿にならない。だがその過半は、ルーク皇子の呼びかけにより集まった復興支援資金で賄われることになっていた。

 

 復興の目途はかなり早期に立った。

 極めて異様な事例である。

 

 魔物の襲撃が度々起こっただけでなく、邪教徒の手によって《影の巨人》召喚未遂が引き起こされたのだから、普通は、帝国探索者学校の社会的地位などどん底に叩き落されるというもの。醜聞どころの騒ぎではない。

 場合によっては、皇族の御意向により学校取り潰し、なんてことがあってもおかしくはない大事件である。

 それを、『帝国探索者学校もまた被害者、帝国の未来のために学び舎は守らねばならぬ』と、帝国皇室の資金から寄付金を出して復興支援を行ったルーク皇子の配慮は、聖人君子もかくや、とばかりの情けの深さであった。一連の騒動により、どこかで命を落としてもおかしくなかったというのに。

 これにより学校側は、ルーク皇子に返しきれぬほどの恩を受けたことになる。

 

 かつて帝国皇子が学んだことのある、由緒正しい学校としての箔を得て。

 邪教徒の引き起こした醜聞沙汰を、責めるどころか全面的に庇護して。

 

「……この学園が存続できるのも、全てはルーク皇子のおかげです」

「過分な評価ですよ。私一人の復興支援ではありません。私に続いて、支援表明を出してくださった貴族たちも多数いるのですから」

 

 と、謙遜するルーク皇子だったが、世間はそのようには考えていない。

 彼は皇子の立場を使って、公的に『帝国皇室は帝国探索者学校を支援します』と表明をしたに等しいわけで、それがあるからこそ他の帝国貴族から、我も我も、と援助金が続いたのである。金額の多寡ではない。

 

「どうか英雄たち四人のことをよろしくお願いしますよ、学長。彼女たち四人は、この世界の希望なのですから」

「このご恩は忘れません、ルーク殿下。寛大な計らいに感謝いたします……」

 

 歳にして孫ほども離れている少年を相手に、学長はその場に跪いて、感謝の言葉を粛々と述べた。

 この世の常識からすると年長者が若造に頭を下げることなど、異例中の異例である。本来、教職者は聖職者を兼ねており、俗世の権力たる貴族相手でも教え導くことが出来る身分。ましてや学長ほどの身分ともなれば、貴族らが敬意を払って丁寧にもてなすような存在である。それが年端もいかない少年相手に深謝しているのだ。

 うわべだけのお飾り皇子にするような態度ではない──。

 

 拝跪する学長の姿は、あたかも主君に忠誠を誓う従者のそれに近い。そして相対する少年には、君主たるものの器とでもいうような、威厳と品格が備わっていた。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

「……これではっきりした。僕が探し求めていた相手は皇子だったんだね」

 

 皇子の旅立ちの日が近づき、学園が俄かに活気立っている中、赤毛の少年はひっそりとそんな不穏な言葉をつぶやいていた。人混みに紛れて誰も気付かないが、彼の瞳は酷く濁っていた。

 

「僕と同じだ。明らかに何かが見えている。そうでなければ説明がつかない。そもそも()()()が違う。彼からは、僕と同類の匂いがする」

 

 フードを目深に被り、ほとんど顔も晒さぬようにして身を潜めている彼は、それでも、緩む口元を抑えられずにいた。込み上げてくる歓喜を抑え込むことができないのだろう。

 

「ようやくだ……。僕は疲れたよ。ようやく、僕の唯一の理解者になってくれるかもしれない人を見つけられたんだ」

 

 頃合いを見て人混みを抜け出した赤毛の少年は、そのまま建物の陰に隠れて、涙を流して身を捩っていた。

 その所作は、どこかしら狂人めいている。何かが壊れているような、得も言われぬ危うさ。安堵の吐息にしては奇妙な、喉の奥から絞り出したような息を吐きだして、彼は喜びに打ち震えた。

 

「ああ、絶対そうだ。彼は()()()だ。一体彼は、()()()なんだろう」

 

 赤毛の少年は、傍に誰も寄せ付けていなかった。精霊さえも傍にいなかった。

 まるで世界からただ一人切り抜かれたように、ぽつりと孤独に生きていた。否。世界に馴染むことができず、ずっと異質だったというべきか。

 

 赤毛の少年は、選ばれしものとしての器を持っていた。

 剣聖にもなれた。聖者にもなれた。賢者にもなれた。英雄にもなれた。

 だが──赤毛の少年は、今度は、何も選ばなかった。

 

「彼ならきっと、僕を救ってくれる。彼に会いたい。彼と話したい。彼に分かってほしい。きっと、彼なら」

 

 

 

 知恵、勇気、節制、正義。

 この世に四元徳あれり。

 これらの徳を備え持つ心清きもの、英傑の器あり。

 

 かの者は救世主。

 かの者は叙事詩の主人公。

 かの者は、宿業の騎士(ナイツ・オブ・カルマ)の資格を持つもの。

 

 その名はオーベル。

 折れてもなお、何度でも運命(カルマ)に立ち向かう少年。

 

 

 

「――彼ならきっと、僕が変えられなかったものを変えてくれるはず」

 

 この世界がもし一つの大いなる物語なのであれば。

 赤毛の少年は、間違いなくその主人公だったはずの人間であった。

 

 

 





 Tips:

 ■【影使い】ワヤ・ニシチャル=ケンナ/ハーレクイン
 最強格の味方ユニットの一人。
 古き良き女番長。
 通常攻撃が範囲攻撃で二回攻撃、しかも自動回復と食い縛りHP1で1回耐えるを覚えている強キャラ。
 実は邪教徒の幹部であり、【影使い】ハーレクインとして主人公たちに立ちはだかることになる。
 性欲が凄い。



 大変長くお待たせしました。ようやく主要人物である「オーベル」を出すことが出来ました。
 ロナ達とは違う方向で、ドロドロの強火のキャラクタです。あんまり書くとネタバレになってしまうので書けないのですが、超愉快なポンコツなので、今後の登場をお楽しみください。
 
 かなり気になる幕引きとなりましたが、学園編はこれにて終了となります。
 後は「《影の巨人》の召喚準備に用意した大量の魔石を一体どうやって瘴気抜きしたんだろう?」というお話をおまけで書きます。

 一体どうやって瘴気抜きしたんだろう。

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