貞操逆転世界の悪徳皇子になった俺、ひたすら魔石を食べて強くなり、破滅フラグを回避します 作:ナロウ・ケイ
気が付くと、成人向けゲームの悪役貴族であるルーク皇子に転生していた主人公。
このまま原作通りに進むと非業の死の運命が待ち構えている。
それだけは何としても阻止しなくてはいけない。
覚悟を決めたルーク皇子は、将来の破滅を回避すべく、あらゆる手を尽くして奮闘する。
すなわち、魔石をたくさん食べて魔力を鍛えたり、原作知識を活用して邪教徒の野望を打ち砕いたり、学園生活を送ったり──。
だがルーク皇子は知らない。
成人向けな貞操逆転世界の価値観において、彼の破天荒かつ無防備な行動が、世の女性たちの情緒を滅茶苦茶にしていることを。
あと周囲の人の性欲が凄い。
貞操逆転世界の悪徳皇子と、狂瀾怒濤の新天地
馬車旅の期間を除けば一年にも満たない、そんな短い学園生活が終わって間もなくの初仕事。
それは宮廷政治である。十四歳になったばかりの少年が宮廷政治に巻き込まれていること自体がおかしいのだが、皇子の立場なので仕方がない。
この俺、ルーク・マギデリックは、帝国の皇子である。継承権にして末席の身空とはいえ、この身には尊い血が流れている。
「エレンベルク伯領にある帝国探索者学校への留学、誠に有意義なものとなりました。邪教徒の画策による憂乱はありましたが、無事大きな被害もなく終息しました。学長殿との顔繋ぎは勿論のこと、領邦君主たるエレンベルク伯の許可のもと、
(訳:帝国探索者学校への留学中に、ちょっとした邪教徒騒ぎがあったが、このエレンベルク伯と帝国探索者学校の失態にかこつけて大学を事実上帝室のものに出来たから上手に活用しましょうね。あと、無理やり呼び戻されたせいで学位取れなかったけど誰が責任取ってくれるのかな?)
俺の短い報告は、一部の貴族の心胆を寒からしめるに十分なものだった。わずか一年足らずで大学機関を手中に収めた手腕と、俺の不興を招いたことと、その両方であろう。事実、幾人かの貴族は顔を青くしていた。
帝国探索者学校の設立者は、エレンベルク領主である。帝国法によると、大学設立は領邦君主の権限で行われる。学内自治の最高権限者は学長であるが、法人格たる大学機関はエレンベルク伯の守護の元にある、という解釈である。
そして大学には、帝国貴族の子女のみならず、近隣各国の貴族の子女らも留学にやってくる。神智学や法学の貴重な研究機関としてだけでなく、貴族同士の人脈作りの場としても、大学は価値があるのだ。それを領地内に保持している貴族は一握りであり、名門の家格として敬意を払われる。
逆に、近隣各国の有力者の子息を預かっている以上、魔物騒ぎや邪教徒騒ぎなどを起こそうものならその失態は大きい。
故に。
帝国皇子の身の危険を招いた帝国探索者学校、ならびエレンベルク伯の責任は重い。
それでもなお、ルーク皇子の名前でこれらを公的に赦し、帝室主導で復興支援まで行った。帝国探索者学校とエレンベルク伯は返しきれないほどの多大な恩を受けたことになる。
帝国が勅許状面を出すようになった──卒業証書類をエレンベルク伯の名前ではなく帝室の名前で出すようになったとしても、大学もエレンベルク伯も文句は言えない。
むしろ帝室が名前を貸す以上、大学の卒業証書に箔が付くのだから、いい話でもある。
この時代、帝国宮廷裁判所などの帝国法に関連する仕事に就くためには、法学を修めた証跡と、帝国勅許状が必要だった。つまりエレンベルク伯の名前の卒業証書だけでは帝国宮廷裁判所で働けなかったのだ。もちろん宮廷貴族に紹介状を書いてもらって、帝国宮廷裁判所の審査を受けて合格すればいいだけなのだが、宮廷貴族にコネを持たない人には難しい話である。
それが、帝室の名前で卒業証書を出すようになれば、話は大きく変わる。帝国宮廷裁判所の審査に受かる実力さえあれば、裁判所の官僚として登用されることになる。
当然、帝国探索者学校で学びたい者たちは大きく増えるだろう。
⋯⋯とまあ長く語ってしまったが、俺の成果はそんなものである。分かりやすく言えば、有名な私立大学のやらかしに付け込んで、事実上半分ほど国立大学にした、という話である。エレンベルク伯も学長もこれ以上のお咎めはなし。むしろ帝室の名前を貸して大学に箔をつけたのだから、恩情と言っていいだろう。
甘すぎる裁定と不平を言われる可能性まであった。これが俺でなければだが。
「……ルーク殿下。よろしいかな」
「アーデルハイト子爵ですか、いかがなされましたか?」
俺の報告の途中で、案の定、横やりが入ってきた。
あえてアーデルハイト子爵の説明はしない。要するに俺の敵である。あまりにも雑な説明で気が引けるが、まあ、宮廷の政務会議で俺に突っかかるような質問をする時点で知れたことである。
「探索者学校から帰って来られる際、駅馬車で戻って来られなかったのはなぜです? 帰りの手紙をよこしてくださったのはよいですが、わざわざ危険を冒して馬車街道の整備されていない道を辿って来られるとは、奇怪なことですな」
「駅馬車で帰るには、少々持ち帰る荷物が多かったものでね。それにこのご時世、文を盗み見て、
「…………なるほど、持ち帰る荷物が多かった、と」
途端に、一部の貴族たちが苦虫をかみつぶしたような表情になった。
くだらない質問だったが、俺の回答は効いたはず。
これは俺だからこそ口にできる強烈な皮肉である。実際に過去暗殺されかけた身だからこそ、こんな露骨な発言をしても失礼に当たらないわけで。良からぬことを考えていた一部の連中にとって、この上ない釘差しになったはずである。
まあどんな帰り道で戻ってくるかぐらい、信頼できる家臣には伝えている。信頼できない貴族には伝えていない。それだけの話である。
もちろん、貴族たちの幾人かは『いつ頃にどこに戻ってくるか時期が分かればおもてなしの宴会が出来たのに』等と考えていたかもしれないが、そんな連中の都合など知った事ではない。俺のご機嫌取りですり寄って来られても、今はそんなに嬉しくない。
「ではルーク殿下、馬車に転がっているものは全て土産ですかな?」
「蔵書と魔道具類ですね。大学から、この度の感謝の証として貰ったものです。写本に関しては重要なものなので、宮廷図書館に寄贈させてもらいます」
「……他にも、汚い従者が裸同然で寝転がっておりましたが?」
「ああ。従者ではありませんね。不敬にもこの私を狙った野盗連中でしてね。懸賞金のかかっていた賞金首は道中で路銀にするため売り払いましたが、残っている連中は、私に仕えることで罪を贖ってもらいます」
その言葉に、周囲の貴族たちがざわめいた。
合わせて背後でロナが、軽い咳払いを入れた。
そう。実は俺の馬車の乗り合い人数は、道すがらで勝手に増えたのだ。何も複雑な話ではない。襲ってくるので撃退した。魂に刻印を焼き入れて俺の手駒にした。ただそれだけである。
「賊に襲われたのですか!?」
「返り討ちにしましたがね」
これもまた皮肉の一環である。
かつて暗殺者を送り込まれながら、それを返り討ちにしたことがある俺だからこそ、言葉に重みが出る。
例えばの話。これはあくまで予想に過ぎないが、俺が帝都に帰ってくる道中で、賊をけしかけて襲わせようと画策していた奴がいたかも知れない。いつ頃にこの辺りに無防備な貴族の少年が通りかかるから襲い掛かれ、と。そんな準備をしていたが、俺が全然予想されなかった道で帰ったものだがら、計画が水の泡になってしまったかも知れない。
真相は知った事ではない。そんな計画などなかったかも知れない。だが、重要なのは『賊をけしかけて襲わせようとも無駄だ』と、この場で身をもって示せたことが何より重要なのだ。
「……帰り道さえ事前に知らせてくだされば、護衛を寄こしましたのに」
「その忠義、その言葉、誠に感謝します。では将来必要になった時、アーデルハイト子爵から人手をお借りします。約束です、ゆめゆめ忘れなさらぬよう」
「……む、ぅ」
以上、言質を取ってはいおしまい、である。小癪な突っかかりをしてくるからこうなるのである。アーデルハイト子爵は渋い表情を浮かべたが、何も不平を口にはしなかった。否、許される空気ではなかった。
そもそも、宮廷の政務会議は暇ではない。国の議題は山積みであり、皇子の報告一つだけで終わるわけにはいかない。法衣貴族たちが多数集まるこの場で報告の機会を得られたのは、誠に僥倖だった。
「エレンベルク伯との調整事や、帝国探索者学校へ送る代官として誰を任命するか等は、法務官たちと今後整理を進めるとしましょう。私、ルークからの報告は以上です」
宰相殿に目くばせをして、俺は報告を短く終えた。
繰り返しになるが、宮廷の政務会議は多忙を極める。今もなお、謁見の間、議事堂、大広間などで別々の会議が並行して進行している最中である。そうした中、宰相のいる謁見の間での報告が許されたということの意味は大きい。ただの報告なのに、最も大きな会議体で報告できたということである。俺も偉くなったものだ。元より皇子なので偉いは偉いが、継承権末席にしては十分以上に丁寧に扱われている。見かけ以上、形式以上に発言力を持っているとみなされているのだ。
(……疲れた、早くベッドで横になって寝たい)
疲労感がどっと出た。しかし、しばらく休みとは無縁であろう。
恐らくこの後、俺の処遇を決める話し合いがどこか別場で持たれるはずである。その際、今回の俺の功績も考慮されるはずである。
(原作通りだったら、まだまだ学生生活を続けられるんだけどなあ)
原作【ナイツ・オブ・カルマ】での俺は、無能な悪役皇子。
宮廷からは大した権力もない、放置してもさしたる影響もない、使い物にもならない名ばかり皇子だった。なのでまだ数年、学校に残って平然と学生生活を送っていた。
しかし今の俺は、そこから随分と逸脱してしまったようである。
──思い返せばこの時、俺は一つのことを読み間違えていた。
原作の筋書きを知っている人間は、たった一人だけだと思い込んでいたのだ。
お待たせしました。
新章開始です。
章タイトルは仮題ですが、前の一章~三章までの説明パートと比べるとどんどん「煮込まれていく」ことになります。引き続き更新をお楽しみに!