貞操逆転世界の悪徳皇子になった俺、ひたすら魔石を食べて強くなり、破滅フラグを回避します 作:ナロウ・ケイ
「──ジャヴァリ・ランドへようこそ! 死ね!」
で代表される、野蛮な未開拓地、ジャヴァリ。
発情期を迎えたケモ娘たちと、
極端な弱肉強食の摂理、出現する魔物の数の多さ、そして周囲を漂う
神話によると、『争いの女神』がこの地で血を多く流したため、その血が今もなお土地を呪って瘴気を生み出しているのだ──と説明されている。澱んだ魔力に満ちた土地柄のせいで、生態系も他の地域と比べると少々特殊になっている。元よりこの地域は、大陸共通語が通用しない地域でもあり、言理の妖精がいなければ意思疎通が困難な場所でもある。仮に俺が精霊に愛されていなかったとすれば、言葉が通じずに早速詰んでいただろう。
そういった背景もあって、自らこの土地への赴任を志願した際は、周囲から正気を疑われた。それもかなり。俺の身を心配して引き止める声も多く上がった。当初の嫌われ皇子っぷりだった頃を思うと、感慨深いものである。
だがそれでも、ジャヴァリへ赴任したいという気持ちは変わらない。
(元々ジャヴァリ森林地域は、DLCで追加された拡張マップだからなあ。出現する魔物のレベルも周囲の地域と比べてはるかに高く、そして出没する
そもそも、ジャヴァリ森林地域にはいずれ足を運ぶつもりであった。探索者学校で十分に力を蓄えた後、比較的早期に攻略を進める計画だったのだ。それが前倒しになっただけに過ぎない。
理由は複数あって、ロナの生まれ故郷ということもあるが、最大の理由は
俺の感覚で言えば、ジャヴァリ森林地域の傍に居を構えていた方が、帝都に住むよりもよほど
(だってまあ、政治的野心を疑われて暗殺者を送り込まれたりする方が怖いからな。何度も乗り切ったとはいえ、強い魔物に襲われるよりも不意打ちの方がよほど怖い)
なにも敵だけが怖いわけではない。
現状の権力構造に不満を持ち、俺を神輿として担ぎ上げようとする野心の強い貴族たちも厄介極まりなかった。望んでもいない婚姻話、どうでもいい晩餐会の招待、要らないと言っているのになおも届く心付けの金品。
そう言った連中に利用されるのも癪に障るというものだ。
無駄な権力から離れて、安穏と過ごしたい。
そう考えると、僻地に飛ばされること自体はそうそう悪い話ではない。場所が少々危険なだけで、それはそれで、鍛えれば事足りる。
(ロナはどうやら、『自分の都合で殿下を巻き込み、危険にさらしてしまった』とか呟いていたが、それは勘違いだ。彼女が思うほどこの地は危険じゃない)
もちろん決して安全とは言えないが、過剰に恐れるほどではない。
この地の住民は、決して『貴重な男子』である俺を殺そうとはしない。何せ、ここにいるのは発情期を迎えたケモ娘たちと、
なので。
(俺の貞操なんて安いんだから、そんなにピリピリしなくてもいいんだけどな)
年上のお姉さん(※しかも成人向けゲーム世界なので見た目がいい)のお相手をするだけで大抵のことは乗り切れる、ある意味で願ったり叶ったりと言ってもいい状況。もちろん帝国皇子たるもの貞淑であるべしとは常々教えられてきているのだが、最後の切り札があるかどうかというだけでも気の持ちようは全然違う。
どうせ自分は末席の皇子。領地経営に役立てられるなら、俺の貞操でも何でも使えるものは使ったほうがいい。ロナやラネール、カマソッソたちは全員反対していたものの、俺はそんな風に呑気に考えていた。
……………………。
…………。
『やあ、ここはジャヴァリ森林地域の駐屯地だ。見ての通り、簡易な物見櫓と土塁しかないが、治安はこれで十分に守られている。探索者ギルドの支援を受けて、この地方の魔物に対する防衛は何の問題もなく機能している』
──原作【ナイツ オブ カルマ】の追加DLC、『大いなる実りのジャヴァリ・ランド編』は、このような説明から始まる。
この一帯を任されている伯爵(※リューデリッツ伯爵という名前だが特に覚える意味はない)の軍が、いかに凶暴な蛮族たちを抑え込んできたか、と聞いてもいない自慢をされるわけだが、まあ、嘘八百も良いところ。探索者ギルドの傭兵を借りて定期的に魔物を一掃しているという話に過ぎない。しかも蛮族蛮族とこき下ろしている、この地域の少数部族の力まで借りて今がようやく成り立っている有り様であった。
上辺だけ取り繕ったこの軍、実は裏で邪教団と繋がっており、物資の横流しや策謀が裏で蠢いている──というのが『大いなる実りのジャヴァリ・ランド編』の大まかな粗筋。
とはいえ、時間軸的にはまだまだ猶予がある。この追加DLCのエピソードは、学園編の後のお話。原作では、主人公が入学してから卒業するまで四年間あり、今なんやかんやで一年ほど経過したので、計算すると向こう三年は大きな事件は起きない。まあ本当は大事件が起きているのだが、原作的には起きてない。世界樹が徐々に病気になって枯れていくという非常にまずい事件が起きてしまうのを俺が防げば、まあ、大体は大丈夫ということになる。
『安心したまえ。この地を脅かす魔物たちは、我々辺境義勇団が全て成敗してみせよう。ふふふ、それでも心配かね。心配なら私の傍にいるといいぞ、オーベル少年──』
と、原作で主人公にすり寄ってくる団長(お姉さん)の台詞。この台詞の内容だけでも、いかにも頼りない実情が察される。義勇団ということは正規の軍ではないわけで、訓練の質の低さが予想されるし、団長がこんな浮かれた発言をする有様では、軍紀の緩みが窺われる。
他にも、『物資が足りてないわけではないのだ。信心深い篤志家の方々から、お酒と物資をいただいているからな』と邪教団からの支援を仄めかせる発言をぽろりとこぼしていたり、『この地には娯楽が足りないがね、我々義勇軍の慰撫のために、旅芸人や
まあ、今から俺が乗り込む場所というのは、そういう場所なのだ。
こんなしょうもない義勇軍でも味方と言えば味方。
(まあ、三年間かけて状況を改善していくしかないよな)
というふんわりとしたことを考えて、ジャヴァリ森林地域への旅路をゆっくりと進んでいく。
目的地まであと僅か。新天地赴任までの準備期間はあまりなかったが、関係ない。やれることをやるだけである。
(それにしても、探索者学校の皆は元気にしてるかな……)
と、幌馬車に揺られながら俺は、遠方にいる学友たちに少しばかり思いを馳せるのだった。