貞操逆転世界の悪徳皇子になった俺、ひたすら魔石を食べて強くなり、破滅フラグを回避します 作:ナロウ・ケイ
『ぼくたちは笑ったよ』
『ぼくたちはかぷかぷ笑ったよ』
『ぼくたちは跳ねて笑ったよ』
『ぼくたちはかぷかぷ笑ったよ』
世界の隣、意識の傍、言葉の隙間に精霊たちは住まう。
泡のようにふつふつと生まれては消え、別れては繋がり、一つの個に拘りもせず曖昧で不定形な彼女たちは、うすぼんやりと何かを紡ぎ続けていた。こうして白痴の夢は、ぷかりぷかりと流れていく。
『ぼくたちは笑っていたよ』
『ぼくたちはかぷかぷ笑ったよ』
『それなら何故ぼくたちは笑ったの』
『知らない』
言理の妖精、語りて曰く。
妖精の言葉を聞くことができるもの、英傑の器あり。
◇◇◇
『何だって!? 会頭の姐御と、若様が退学!?』
『そんな馬鹿な……! 賭博と飲酒騒ぎをしただけなのに、一体どうして!?』
『魔石採掘だって、学校側の教員に賄賂を渡して目を瞑って貰ってたのに……!』
横暴な貴族たちから平民たちを守るために結成された帝国
酒乱騒ぎや賭博騒ぎは可愛い方で、贈賄による教員買収行為は流石に厳しい処罰が必要になる。否、このご時世では有力貴族が学校側に
『頭を失って、シノギの種だった魔石採掘も許可が下りなくなって……アタシたちは大幅に弱体化した。今こそ結束が試されるときだ』
『ま、若様は卒業後、仕事を斡旋してくれるって言ってたからな。留年しまくってるお前らも、若様に泣きついたら何とかしてくれるんじゃねえの?』
残された幹部たち、
結局のところ、ルーク皇子は嵐のようにやってきて、そして嵐のように去っていった。手下たちをどんどん篭絡し、色んな迷宮を攻略させて、学業にも打ち込ませ、最後にいなくなった。
放置されて危険だった迷宮は無事に解放され、探索者学校は以前より安全になった。本の魔物が多数棲みついていた旧図書館や、楽譜の獣たちの巣窟になっていた旧音楽室は無事に解放され、標本になっていた古代の魔物たちの跋扈する生物室も難なく制圧された。
あと、何人かの雇われ使用人が邪教徒として告発されて捕まっていた。
これら全て、ルーク皇子の功績と言ってもいい。
『貴重な
学校を去る直前、ルーク皇子は心底憤慨していた。学校の資料庫から、
傍仕えの侍女は白い目で皇子を見ていたが。
ともあれ、学校の騒動は急激に落ち着きを見せ、今は見る影もない。
強いて言えば、四人の英傑たちがあれやこれやと、残された危険な迷宮を攻略したり、学校の創設者が残した
皇子のいない探索者学校は、不思議なほど平穏であった。
それこそ、赤毛の学生が一人、姿をくらませたとしても誰も気づかないぐらいに。
◇◇◇
『きゃはははっ きゃはははっ』
『やめ、やめ、ひーっ、ひーっ』
勝手に俺の頭に引っ付いていた精霊を捕まえて、指先でくすぐっていた頃のこと。
ようやくジャヴァリ森林地域に到着した俺たちは、前任者から領地運営の引き継ぎの説明を受けていた。
というより前任という概念がなかった。
義勇軍が駐屯地を作り上げ、指揮権は義勇軍団長に認められつつも、一応はリューデリッツ伯爵指揮下の兵隊が一番上ということになっており、だが徴税権なり行政権は義勇軍団長にも一定の裁量があり⋯⋯と、要するに未整理だった。
護民官という古の役職が放ったらかしにされ、この辺の地方行政はもう好き勝手にやれとばかり丸投げされて、リューデリッツ伯爵に一定額の税収さえ納めたら後は野となれ山となれ、知ったことではないということだ。
蛮族はいるし魔物はいるし、邪教団の連中は潜んでいるし、義勇軍や探索者に任せないと治安維持さえままならない。権力の系統が曖昧であり、実効上、誰が一番偉いのかさえも得体が知れない。この辺にいる住民たちも『お偉いさんなんてよく分からんよ、団長様は知ってるが、伯爵って誰だい?』と識字率の低さどころではない知識の浅さを露呈していた。
つまり。
(俺が帝国の皇子で、今この場所で一番偉いって言っても、誰にも信じてもらえない可能性まであるな)
頭の痛い話である。
正直、"帝国"という概念さえ怪しいかもしれない。【ナイツ オブ カルマ】の舞台は中世ヨーロッパ風のファンタジー世界だが、中世ヨーロッパの教育水準を舐めていた。
「殿下、まずはどこから手を付けましょうか」
「うん……どうしようかなあ」
こういう時は、付近の集落の村長とかが来て、今この地はこんなことで困っていますとか、こんな社会情勢になっていますとか陳情が入ったりするものなのだが、全然そんな気配もない。かといって義勇団の団長も、何というか呑気なものだし助平心を丸出しにしている。本当、碌でもないものだ。
「せっかくうちには日夜問わず働ける水晶人形がいるんだから、農業改革とか大掛かりな土木工事とかを進めようと思ったんだけどなあ」
こうなれば誰の許可を得るでもなく、勝手にあれこれやってもいいかもしれない。
実際のところ、自分が一番偉いのだ。こちらの方から伺いを立てるのも変な話である。内政計画は山ほどある。やらねばいけないこと一つ一つに許可を得ようとしては、いつまでたっても何も進まない。こういう時、計画は勝手に進めて後で帳尻を合わせればいいのだ。そのための強権なのだから。
「やっぱり水かなあ」
内政計画その一は、水利。先はまだまだ長いが、今から人間関係を気にしたり、人脈の地盤を固めたりするのは徒労に終わりそうなので、まずは目に見える形で事業を進めようと俺は考えたのだった。