貞操逆転世界の悪徳皇子になった俺、ひたすら魔石を食べて強くなり、破滅フラグを回避します 作:ナロウ・ケイ
早くも一年が経った。
とはいえ特筆すべきことはそんなにない。
貞操逆転世界とはいえど、六歳児が持て囃されるはずがない。ましてや、特段美男子でもない見た目の自分が慕われるはずもない。
ただ単に、侍女のロナに対して、
「召し物の裁縫は片手だと大変だろうから、他の人に頼んでおくよ」
「巷で噂の焼き菓子が届いたが、六歳の身体にはちょっと多いんだ。ハーブティーを淹れてくれ。一緒に食べようじゃないか」
「寝屋にねずみが入って困っているのかい? なら私の部屋で寝るように。護衛にもなるからね」
「家庭教師に無理を言って、歴史と読み書きの授業にロナも入れるようにしたよ。読み書き出来るようになりたいって言ってたろう?」
……と、それなりの配慮と施しをしているだけである。
これも、普段から護身術を教えてくれたり、魔石浄化の作業に付き合ってくれている彼女への感謝のつもりである。
最近は古アールヴ語の童話や歌、簡単なおまじないも教えてもらっているので、もっとお礼しないといけない。
「ルーク殿下……その、いつもお気遣いありがとうございます」
「いやいいよ。こちらこそ毎日ありがとう」
何せこの子は、内乱を起こした黒アールヴの氏族から、強制的に取り上げた人質扱いなのだ。
まだ十四歳程度の見た目の少女が、身寄りも何もなく、こんな名ばかり皇子の世話を一身に任されるなんて大変だったに違いない。冷遇されたり、酷い目に遭ってきたことだろう。
果たして彼女がどう思っているかは知らないが、俺だけはこの子の味方になってあげないといけない。
◇◇◇
「あ、あ、あっ! で、出る、出る、出る、出るっ! 出るっ!」
「だめだよ。もっと絞って、時間をかけて、集中を切らさないで」
魔石浄化の作業も相変わらずである。
使用人たちに市場に出回っている屑魔石を買い漁らせて、日夜それらを浄化して食べる毎日。
泣き言をこぼすロナを何とかなだめて、今日も時間をかけて浄化を進めていく。
不純物を取り除いた魔石は、無味に近くなる。
苦みや酸味などの雑味を感じたら、それは毒素の残留物である可能性が高い。
最近はロナのみではなく、俺も魔力容量が少しずつ付いてきたので、二人分の魔力を混ぜ溶かして作業できるようになった。
そのおかげか、魔石の純度もより高くなり、毒により熱を出したり体調を崩すことも少なくなってきた。
「ほら、俺が導くから、ロナは頑張って我慢して」
「は、はっ、はっ、……ぁ、ぁっ、出、出る、出る!」
魔力に晒して洗う方法は、魔力の量をたくさん浴びせたらよいという訳では無い。純度の高い魔力に、長く浸し続けて、毒素を浮かして流すような作業になる。
なので、細く長く続ける必要があるのだが。
「あっ、あっあっあっ」
「あ、こら、まだ駄目だって」
辛抱が足りないのか、我慢が利かないのか。極力、魔力放出の量を絞ろうとしているのに、どうにもロナの方が
特に、ロナの魔力と俺の魔力を満遍なくかき混ぜるようになってからは、我慢が下手になったような気がする。
身体をぶるりと震わせた後、熱い息を吐いて、彼女は四肢を弛緩させた。耐え切れず崩壊したらしい。
「……ご、ごめん、なさい……ごめんなさい……」
「あ、いや、泣かなくてもいいよ」
心底申し訳無さそうにするロナを見ていると、俺のほうが罪悪感が刺激される。彼女には、俺の我儘にあれこれ付き合ってもらっているというのに。
彼女は何も悪くない、と思うのだが。
「わ、私は、ルーク殿下の、一生で一度しかない、大事な日を、台無しにしてしまったのに……」
「? 【天恵の儀】のこと?」
どうでも良すぎて俺は半ば失念していた。
確かに俺はまだ【天恵の儀】を受けていない。だがそんなことはどうでもよかった。
「十歳になったときに受け直すよ。平民たちと同じさ。別に他の貴族と同じように五歳の時に受けなきゃいけない、って訳じゃないんだしさ」
「……私が、ルーク殿下の、晴れ舞台を、台無しに……っ」
これではっきり分かった。
どうしてロナがこんなに俺のわがままを聞いてくれるのか。
彼女は俺に、負い目があったのだ。
俺が五歳の頃に出した高熱は自分のせいだと、そのせいで俺の人生は滅茶苦茶になってしまったのだと──そう思い込んでしまっているのだ。
(そうか、罪悪感があったんだな。悪いことをしたな。彼女にはもっと優しくしてあげないと)
俺は決意した。こんなに優しい子なのだから、ロナには幸せになってもらわなくてはいけない。
とはいえ、魔石を食べる作業はやめるわけにはいかない。
他のやり方で何とかロナを喜ばせてあげる必要がある。
どうすれば喜んでもらえるだろうか、と俺は思索に耽った。
みんなは俺のことを「聡明な皇子」だの「麒麟児」だの褒めそやす。だが当の俺は、女の子を喜ばせる方法一つさえ知らない。
俺は、ただ純粋に、ロナの助けになってあげたかった。若くして片腕を失ってしまったこの子のために、俺は出来るだけのものを与えてあげたいと思った。
末席とはいえ、自分の人生を台無しにされた皇子が、逆にあれこれ優しくしてくれる他、大人たちの悪意からも守ってくれています。
少なくともロナの目にはそう映ってます。