貞操逆転世界の悪徳皇子になった俺、ひたすら魔石を食べて強くなり、破滅フラグを回避します 作:ナロウ・ケイ
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親愛なる殿下へ
季節の変わり目に差し掛かりましたこの頃、殿下におかれましては益々ご盛栄のこととお喜び申し上げます。
新しい領地では、いかがお過ごしでしょうか。
さて、この度はお手紙にて教えていただいた「迷宮探索の心得」誠にありがとうございました。
教えていただいた、【英雄の盾】、【剣聖の宝刀】、【賢者の書】、【聖者の杖】について、それぞれ入手の算段が立ち、近日中には手に入れられることと思います。
また、迷宮の試練につきましても、順調に消化を進めております。変わり種で過酷な試練ではありますが、ひとつひとつ乗り越えていくたびに強くなっているような実感があります。身体能力と技能、尊厳と精神力、知恵と工夫が試されて、時には涙するような厳しい日々を送っておりますが、これもまた修行と思い、前向きに取り組んでまいります。
ご要望の件、『尽きない木炭』を送ります。見た目はただの木炭ですが、仰る通り、いくら放置していても熱は絶えず、濡らさない限りはずっと火が消えませんでした。念のため竜皮に包んでおります。取扱いにはお気を付けください。
先日お伝えした通り、迷宮『天まで届く時計塔』は何者かに火を放たれており、迷宮機構は大きく損耗し、迷宮遺骸と成り果てております。
大幅に活性を失っているため、向こう百年は迷宮化することはなく、ただの大きな廃墟になった──というのが学園側の教授陣の見解です。貴重な研究サンプルとして『尽きない木炭』を学園側は保持しておりましたが、殿下のお名前をお借りし、その御威光で分けていただきました。
どうぞご査収ください。
最後とはなりますが、殿下の益々のご活躍を祈念申し上げますと共に、変わらぬご交誼を賜りますようお願い申し上げます。
心の友人
エイル イオリ キルケ アナスタシア 四名より
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殿下の返信(※要旨のみ):
与えられた課題だけど、入れ替わりで全部達成してほしい。すごく強くなるよ。頑張ってね。
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四人の返信(※要旨のみ):
(極めて丁寧かつ迂遠な表現で恨み言を述べている)
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──傷病者を癒す、奇跡の御業。
遠く離れた地、ジャヴァリではそんなものが存在するのだと、帝国の情報屋の間で、まことしやかに囁かれ始めていた。
「この前、百人ぐらいの傷痍軍人が護送されていたが、ありゃあなんだ?」
「ああ、中央の連中が持て余してる奴らだろ? 修道院に押し込められていたり、路上で乞食をやっていた傷物どもさ。勲章持ちで年金暮らしの英雄とか、裕福な貴族出身の奴らだったら人並の生活ぐらいは送れたんだろうが、まあ、ちょっと実績を上げた程度の兵じゃあ、こういうものさ」
「ご時世だねえ」
「仕方ねえよ。田舎に行けば魔物災禍、国境近くに行けば戦争、今の時代はそういうもんだ」
「行先はやっぱりあそこかい?」
「ああ、ジャヴァリだ。酷い場所だと聞くぜ」
…………。
……。
「ありゃあ、娼館から男娼どもがわらわらと馬車に乗ってやがる」
「ああ、瘡膿の患者だねえ。見た目はいいが、まあ、下等男娼どもだからな」
「どこに送られてるのさ」
「ジャヴァリだよ。あの地にゃあ瘡膿を患ってる下等男娼で十分ってことさ」
「ひでぇもんだな」
…………。
……。
「へっへ、路上にたむろする乞食どもが減って、随分この辺も治安が良くなったじゃねえか。ええ?」
「まあな。盗みを働く悪餓鬼どもや、馬車にわざと飛び出してお情けを恵んで貰おうとする乞食どもがいなくなったからな」
「娼館の質も良くなったんじゃねえか?」
「あー。わかんねえが、金を使って男娼を治療してあげたりしなくてよくなったからじゃねえか? 羽振りが良くなったとは聞くがねえ」
「やっぱりジャヴァリか?」
「かもしれん。まあ、社会のゴミを押し付けられるんだからな」
「しかしまあ、よくもこれだけ定期的にジャヴァリの方に馬車がいくもんだ」
「御者からすると仕事が増えてよかったんじゃねえか? 物資も人手も、定期的に馬車が通うようになってるらしいぜ」
「つってもなあ、あの辺は野盗が怖いんじゃねえかい?」
「実際襲われているらしいぜ」
「ははあ、やっぱりジャヴァリは野蛮な場所だな」
「いやあ、それがジャヴァリに近い場所はそんなに危険じゃねえらしいが、それまでの道中の方でちょくちょく野盗行為が起きてるんだとよ」
「? よく分かんねえな」
「ああ、俺もよく分かんねえ」
…………。
……。
「なあおい、どうなってやがる? ジャヴァリと行きかう馬車が冬に近づいてもまだ出るらしい」
「ああ、変な話だな」
「中継地に宿舎場が出来るってもっぱらの噂だ。どういうことだ?」
「知らねえよ。どうせ短期的な、数回限りの特需だろうと思ってたもんだが、こうも継続するなんてあり得ねえぜ」
「ジャヴァリに
「馬鹿言え。例の皇子様が、目玉が飛び出るほどに大量の金を持っていたってだけだろ?」
「……それだけで説明がつくかよ? こりゃあ金儲けの匂いがするぜ」
「俺は知らん。この話は
「ほーう? じゃあ何かあるってことだな?」
「お前みたいな馬鹿な若造に教えてやる。
「御忠告どうも。俺は俺の直感を信じてるのさ。今までそうして生きてきたからな」
…………。
……。
「……馬鹿な奴だ。
……少しぐらい頭を働かせりゃあよかったのによ。
今まであの領地に物資を流していたのが、主に邪教徒絡みの裏商会だったって何で調べねえんだ。
で、あの皇子が赴任して、物流が大幅に変わったんだからよ、そりゃあ厄物案件に決まってるだろうが。
どう転ぶにせよ、後から勝ち馬に乗りゃあいいんだ。焦ることはねえんだから……」
極めて強い酒を飲みながら、壮年の女は独り言を呟いた。
──傷病者を癒す、奇跡の御業がある。
そんな怪しい噂が流れていた理由ぐらいは、少し考えれば分かる。暴動を起こさせないためだ。乞食や病人どもを馬車に詰め込んで送りこんで、道中で暴れられては目も当てられない。
帝国では知られていない、【森の薬師の秘薬】がある。そして病や傷を完璧に癒してくれるのだと。
そういった微かな希望を見せておくことで、大人しく僻地まで送り込んでいることに、乞食や病人の連中は何故気付かないのだろうか。
壮年の女は、臆病者であり、慎重だった。
「あの地が邪教徒どもにどうやって使われてきたかなんて、そんなことは知らん。
もしかしたら過去に【黒き森の氏族】に何か吹き込んで、内乱を焚きつけたんじゃねえかって噂してる奴もいる。
あの辺の子爵と伯爵が裏帳簿を作って、国への徴税額をちょろまかしているって噂もあるぐらいだ。
だが、誰も確かめようがねえ。魔物の対処に追われ、西方の星教国、北方の商業王国、南方の君主国の三方向を睨んで忙しい情勢の今、そんな場所なんか確かめようがねえんだよ」
本当に、何が起こっても不思議じゃない情勢なのだ。
例えば。
複式簿記などという透明性の高い簿記法を広めようとして、地方諸侯たちや商会たちの不正会計をしにくくさせようとしたあの鬱陶しい皇子を。
僻地での事故で暗殺したり。魔物の巣をいたずらに刺激して魔物災禍を人為的に引き起こしたり。宮廷政治から離れているうちに悪い噂を大量に流したり。
「どんな傷病者でも癒すような、そんな奇跡の御業なんか、あるはずがねえ。そんなものがあったら、何千人でも殺到するじゃねえか」
そう、そんなものあるはずがないのだ。
決して。
あってはならないのだ。
◇◇◇
世界樹の雫を希釈して作った、特製の秘薬。
これを移住してきた傷病者たちに分け与えたところ、いたく感激されてしまった。
二度と治せない傷病に苦しむものたちに救いの手を。分かりやすい話である。こんな奇跡があってよいのか――と、俺へ忠誠を誓う者たちは続々と現れた。
「忠誠を誓ってくれる部下が増えるってのは、本当にいいことだよなあ!」
「……あの、殿下、物には限度がございまして」
「死ぬほど働いてくれるやつが百人いるだけでも十分! だよなあ!」
半ば教育が追いつかないぐらいの盛況。
とんとん拍子で進んでいく内政計画を前にして、俺は思わず満面の笑みを隠せないでいた。
「神の御業だってさ! 奇跡の御子だとか、古き言い伝えの救世主だとかさ! いや、何でもいいんだけどさ、俺の手足になってくれる奴が格段に増えたわけだ!」
「…………はい」
俺の喜びに反して、ロナの顔は半ば死にかけていたが、まあ些事であろう。
熱心に働きすぎる臣下たちが、あちこちで現地住民と細かい衝突を起こしているという報告はちらほら上がっていたが、まあそれは大した話じゃない。現地住民も臣下も、基本俺のことが大好きだ。俺が顔を出せば大体丸く収まる。
勿論、賊上がりの連中で無理やり俺に従わされている奴とか、強烈な反骨心を抱いている奴もいるのだが、概ね俺に逆らう奴はいなかった。丸く収まるなら問題はない。
ただし、他にも弊害があるらしかった。
「……その、殿下、殿下の唄が作られてますよ」
「え、嘘でしょ」
「本当です。殿下を讃える者たちが、吟遊詩人らと一緒に熱が入ったらしく……」
「それ恥ずかしい奴じゃん」
「神話みたいになってますよ」
「それめっちゃ恥ずかしい奴じゃん!」
ロナの顔がとても渋いものになっていた。なるほど。確かにこれは苦労するかもしれない。
勝手に人の唄を作るなという話である。思わぬ話に俺の方が付いていけなかった。
「ええ、そうです。殿下は神の子というよりは、建国の父たる威厳者でして」
「話変わったな」
「神の子のような恥ずかしい二つ名ではなく、もっと重々しく、心からの敬意を捧げられる存在であるべきで」
「クソデカ感情かな?」
「解釈違いです、悔しいです」
前言撤回である。ロナも大概だった。
そういう話じゃないのだが。
「というか、建国するなんて一言も言ってないぞ」
「そうなのですか?」
疑いの眼差し。俺の右腕として長らく働いてきただけあって、彼女には俺のやりたいことに、ある程度の目星はついているようだが、建国は違う。俺が欲しいのは国ではないのだ。俺はまだまだ自由にやりたいのだ。
「国なんて作ったら、俺が自由気ままに暮らせなくなってしまうからな」
「殿下らしいです。国を作れること自体は否定しないのですね」
苦笑。一体俺を何だと思っているのだろうか。
俺みたいな若造は、国を率いるような器ではないと思うのだが。
大変お待たせしました。少しずつ更新します。