貞操逆転世界の悪徳皇子になった俺、ひたすら魔石を食べて強くなり、破滅フラグを回避します   作:ナロウ・ケイ

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貞操逆転世界の悪徳皇子と、狂瀾怒濤の新天地⑭:太陽熱温水器と『尽きない木炭』

 ジャヴァリの森に赴任して半年ほど。

 大掛かりな河川工事が、ありえないほどの力技でどんどんと推し進められていった。

 

 本来筋であれば、河川工事では、測量術や土木技術に明るい修道士を顧問として招聘し、城壁や橋の建設を指揮した経験のある熟練の職人頭を棟梁として雇い入れ、付近の村落の長老衆を集めて過去の洪水の情報を聞き出して整理する──といった手順を踏まえることになる。

 

 馬で川沿いをくまなく視察して、水準器や方位盤を使って川の高低差・勾配を測量し、工事計画の基礎となる地図を作成し。

 建設に必要な石材を切り出す石切場や土手の補強に用いる木材を伐採する森を決定し。

 氾濫の危険性が高い下流の村の周囲に、石と土を組み合わせた堅固な堤防を築き上げ。

 川の流れを阻害している大きく蛇行した箇所を、新たに短い流路を掘削して繋ぎ、水の流れを速やかにし。

 舟の航行を妨げるであろう浅瀬の土砂を、人手と牛馬の力で取り除き。

 各村に対し、長老衆を通じて賦役を命じ、村ごとに壮健な女子を一定期間(数十日間~数か月)供出させ。

 

 そういった手順を踏まえて行われるような大掛かりな工事が、『なんかデカい影の巨人』と『なんか強い水晶人形』と『なんか石を食っている俺』によってもの凄い大雑把に行われた。

 

 要するに、蛇行している場所をまっすぐ突貫して、勾配を一定にすればいいんだろう──とばかりに河床の凸凹を速攻で埋めて直線方向に突っ走り、遊水池と調整池の設置は後から行うという酷く強引な工事が、ほとんど完遂されたのだ。

 石切り大工がいればきっと目を剥いたであろう。石を運んでくるのは『影の巨人』の仕事、石を割るのは『水晶人形』の仕事。粘土を埋めていく作業は、影の使役獣や、たくさんの人手で行われた。

 

 小規模な水車が多数出来て、木の実をすり潰す製粉作業や、木の皮等をすり潰して繊維にする作業、着ている衣類の洗濯作業が半自動化された。

 伴って、農業用水や上水道が整備されると共に、川の支流の居住区画が再整理され、一部の小規模氏族は移住を行った。

 俺の大改革は、賛否両論を招いたが、大規模な魔物掃討によって獣害が極端に減ったことにより、好意的な反応がほとんどであった。

 

 

 

 

 

「これで万々歳、皆が喜んでめでたしめでたし、だったら良かったんだけどなあ」

 

 万事が万事丸く収まったわけではない。大きすぎる公共事業には、それ相応の反動がある。

 

 例えば一部の氏族から、川の水で沐浴する祭りを行いたいと申し出があったものの、河川工事を優先してそれを断ったことがあった。その一族からは連日、強い苦情が届いた。先祖の供養の大事なお祭りと言っていたため、後日、別の形(宝石やお酒の供与)で補償を行った。

 だが、補償を行ったら今度は、それに目を付けた他の部族から、あれもこれもと色んな要求が舞い込んできた。足元を見られたわけである。

 

 他にも、水車が壊れて動かなくなったという苦情が何度も届いた。調査をした結果、実は水車が動くための水量が不十分であったとか、水車の動力部の作り込みが雑で歪んでいたとか、水車の使い方が乱暴で変なものを間に噛まされていたとか、色々な事例があった。

 水車の運用方法も当然だが、水車の故障を直せる技師がいるはずもないわけで、住民に水車管理を任せるにはまだまだ早いと身に染みて分かった俺は、水車管理官を任命して各地に部下を送り込む──という形で解決を図った。その水車管理官にしたって水車技術に大して精通していない、半ば強引に俺に任命されただけの部下なので、ここから先はもう時間に任せて、問題が発生するたびに一つ一つしらみつぶしに解決する必要があるだろう。

 

 また、作物を育てるということをしてこなかった氏族がほとんどだったので、農業の概念を教えるのにはかなり苦労をした。それこそ一部の氏族は、茸や果物を育てるということをしていたが、殆どの氏族は、木の実と薬草を採集する、魔物を狩る、という狩猟的な生活で完結していた。それも当たり前である。ジャヴァリの森に住まう氏族は、小麦や畑作物を見たことがなく、農作業というものに慣れ親しんでいない。森と畑は違う。当然のことだ。

 森の中でよく育つ茸や果物についてはジャヴァリの民の方が詳しい。農業用水の整備についても、彼女たちの生活様式に合わせて、手探りで調整していく作業になるだろう。

 森での農業になるので、主には山菜類の栽培が中心になる。山菜は鳥獣害を受けにくいという利点もあるので、時間をかけてでも主力農業になるまで育てたいところであった。

 

 

 

 

 

「ですが殿下、殿下のおかげで温水が使えて喜んでいる氏族もいますよ」

「温水……ああ、『太陽炉』のことだな。あれは俺も力作だと思っているんだ」

 

 ロナが言っているのは、銅鏡やガラスで集光する『太陽炉』のことである。これは水晶人形(クリスタルゴーレム)が大活躍してくれた。

 水晶人形(クリスタルゴーレム)の持つ権能の一つに、石に魔力を注ぎこむことで、それが徐々に透き通って、やがて結晶化するというものがある。この権能を巨大な石に適用することで、非常に巨大な結晶を作り出すことができる。その巨大結晶に人海戦術で研磨作業を施して、集光レンズや採光窓を作ったものが『太陽炉』であった。

 

 原理で言えば、太陽熱温水器が一番近い。黒塗りした平たい木箱を、一つの面を全面まるまるガラスに置き換えて採光できるようにして、中の水を太陽光で温めるのだ。

 

 試算では、秋頃のフランス(ボルドー地方)の10時から13時までの総日照量が1.565kWh/m²、太陽光の当たる有効面積1m²、水10L(つまり1m²×1cmの細長い木箱)、黒塗りの木材の太陽熱吸収率0.85程度(黒塗りの板が0.95程度だが手作りのため質が低いと仮定した)、よって今回のケースの獲得熱量は約5000kJと得られる。

 

 対流損失:ガラス表面から環境への熱損失。

 放射損失:吸収体から環境への放射。

 伝導損失:木材フレームを通じた熱損失。

 以上の三つの損失を大雑把に丸めて、熱損失係数 (W/m²K)を8 W/m²Kぐらいと仮定する。これは単板ガラスの熱貫流率約5.8W/m²K、天然木材の約0.2W/m²Kより相当大きめに見積もっている。手作りなので歪み・隙間などがあって損失が出るだろうという計算だ。

 

 水の比熱容量(4.184 kJ/kg·K)と水の質量(10L=10kg)を掛け算し、熱容量は41.84 kJ/Kとなる。

 単純に計算すると、約120℃温度が上昇する計算になるが、これは定常状態を考えていないので誤りである。

 定常状態を表す一時的な熱伝達モデルでは、

 

 $ \frac{dT}{dt} = \frac{Q_{\text{solar_rate}} - U_L \cdot A \cdot (T - T_{\text{amb}})}{m \cdot c} $

 

 ・T: 水温(℃)

 ・$T_{\text{amb}}$: 環境温度(秋のボルドーの平均が約15℃)

 ・$Q_{\text{solar_rate}}$: 太陽エネルギーの平均供給率(W)

 ・$U_L$: 熱損失係数(8 W/m²K)

 ・A: 表面積(1 m²)

 ・m: 水の質量(10 kg)

 ・c: 水の比熱容量(4.184 kJ/kg·K = 4184 J/kg·K)

 ・熱容量 C=m⋅c=10⋅4184=41840 J/K

 

 よって、木箱一つにつき、約63℃程度の温水10Lが得られる計算になる。木箱を何十個と設置すれば、何百リットルもの温水が薪なしで得られるわけで、これはかなり重宝しそうだった。

 

 冬の場合は、総日照量0.932 kWh/m²、外気温7℃ぐらいなので、定常状態の温度が36℃~40℃になる。これでも寒い日には十分助かる量だ。

 

 こうした『太陽炉』を有効活用することで、晴天の日にはほぼ毎日、温水を得られるようになった。

 得られた温水は、もっぱら身体を清めるためのお湯に使ったり、飲用に用いられた。

 

 他にも調理用に『太陽炉』を試作したりしているが、一番上手くいっているのはこの温水を得るタイプの太陽炉であった。

 

 

 

 

 

 他にも。

 

「『尽きない木炭』が手に入って、熱源の活用が増えたのも大きいな」

「これは例の四人からの贈り物ですね。未だに信じがたいですが……」

「ああ、これ、面白いだろう? ずっと水を沸かし続けて、衛生的で安全な蒸留水を得られるようになったし、かなり便利なんじゃないかな」

 

 世界樹を燃やすことで得られる希少な炭、それが『尽きない木炭』。

 一度火をつけると、ずっと消えずに燃え続けるという、エネルギー保存則をまるっきり根底から無視するような驚異の逸品。果たして一体何者が世界樹を焼き払ったのか不明だが(とぼけているわけではなく本当に分からない)、手に入るものはありがたく頂戴するに越したことはない。

 

 この奇跡の木炭により、薪を節約しながら色んなことができるようになった。

 

 狩猟した魔物の解体ゴミとして出てくる骨を長時間炊いて、骨炊きスープを作ったり。

 同じく、調理ゴミとして出てくる野菜の端材を長時間煮込んで、野菜出汁スープを作ったり。

 刃物を煮沸消毒することで、外科治療を安全に行えるようになったり。

 ずっと火が尽きない焼成窯として、粘土を焼いて食器類や煉瓦を作ったり。

 

 他にも排熱を暖房に有効活用したりと、色々と語りたい事はあるのだが、とにかく『尽きない木炭』は最高に便利な道具なのだ。

 

「殿下のおかげで、美味しい骨炊き汁を毎日のように楽しんでいる民もいますよ」

「え……? それはそれで健康面で心配なんだが?」

「野菜も肉も一緒に煮込んだ鍋物料理ですし、大丈夫だと思いますよ」

 

 果たしてロナの言う通りなのか、一抹の不安が残る。

 毎日豚骨スープを飲んでいるようなものだ。野菜マシマシだからといって健康にいいのかは自信がない。 

 

「人口が千人単位で増えたにもかかわらず、木材の消費量が極限に抑えられているのは殿下の手腕ですよ」

「まあ、そうなのかな。住民の皆にもかなり頑張ってもらったと思うけど」

 

 森なのでいくらでも木材を伐採できると言えばそうなのだが、それでは環境が続かない。

 

 粘土を家の壁に塗って、家の気密性を高めて隙間風を防いだり。

 たくさん狩った魔物の毛皮を利活用して、暖かい服を大量に作ってもらったり。

 

 そういった、日常生活での薪の消費量を抑える施策が住民たちに理解されて、しっかり浸透したからこそ、薪の消費量の削減につながっているのだ。

 ここで下手に製鉄業を興したり、造船などの製造業を立ち上げたりすると、木材の消費量は凄まじいことになるだろう。産業基盤が未熟で助かったとも言える。

 

「というか、領地経営における木材消費量について考えるなんて、ロナも帝王学を勉強しているんだね」

「いえ、モロー伯爵やガスターデン子爵との手紙の中に、木材資源の融通について触れている記述があったので、重要な資源になるのではないかなと思って質問しました」

 

 嬉しい質問である。

 我が右腕の侍女は、身の回りの世話をする使用人という域を超えて、秘書や側近といった立場に近しくなっていた。領地経営に関しては、ともすればそう遠くないうちに楽をできるかも知れない。ここしばらく俺は頑張り過ぎているので、そろそろ気楽で気ままなスローライフに興じたいところであった。

 

 

 

 

 






■Tips:
Q:こんなに強引な大改革を行って反発は出なかったの?
A:出たが大人しくなった(いろんな理由で)
・巨人を従えて、熊を素手で投げられるような、伝承で聞かされてきたような美男子
・河川工事に協力すれば、連日に渡って酒や肉を御馳走してくれる
・魔物が一気に少なくなり、生活は少しずつ便利な方向に改善されていっている
・不治の病とされた傷病者たちが訪れては、奇跡を施して、何人も快癒させた
・逆らったらとんでもない目に遭わされる

Q:辺境義勇団の人たちは何をしているの?
A:いつも通りのほほんと魔物狩りをして、近隣領地の物資の横流しやら徴税逃れの密輸入を陰で請け負って、お飾り領主の殿下のお手伝いをしていたら、いつの間にか爆速で領地が発展してビビってる
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