貞操逆転世界の悪徳皇子になった俺、ひたすら魔石を食べて強くなり、破滅フラグを回避します   作:ナロウ・ケイ

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閑話:貞操逆転世界の悪徳皇子と、義手の狩人と、《花園》の暗殺者(限界間近)

 ──俺は一つ、大きな失敗を犯した。

 

 このジャヴァリの森林には、禁足地とされる湿地帯がある。そこに繁殖しているキノコが常に発情胞子をふりまいているのだ。名前をサカリダケ。人間の性欲を異常に刺激する成分が含まれている菌糸類である。

 実はこのサカリダケ、すり潰して煮込めば若返りの霊薬の調合素材の一つになる、重要な原料なのだ。そのため領地経営の合間を縫って、どこかでサンプルを採取できればと薄々考えていたのだが──その存在をついぞ忘れてしまっていたのだ。

 

 

 

 

 

 河川工事を優先させるため結晶人形(クリスタルゴーレム)や《影の巨人》はそちらに配備して。

 単身で探査に赴くのは危険という理由で、ロナ、《蜘蛛(ラネール)》、《蝙蝠(カマソッソ)》の三人で、奥地の調査と攻略に赴くことになった。

 

 奥に向かえば向かうほど毒の瘴気が濃くなるため、この三人付きだと足を踏み入れられる箇所は限られてくる。魔石喰らいを続けてきた結果毒素に耐性が出来た俺とロナ、暗殺者として毒の訓練を受けてきた《蜘蛛(ラネール)》と《蝙蝠(カマソッソ)》という布陣なので、並大抵の人よりは瘴気の毒に強いのだが、それでも一番毒に強いのは誰かと言うと俺が頭抜けて強い。こればかりは仕方がない。俺に付いていくため、無理をして、吐きそうになりながらも魔石を齧って食べているロナたちと、「このまま原作通り話が進んだら死ぬ」と必死で魔石を食ってた俺とでは摂取量が根本から違う。耐性の強さの伸びも違う。

 

 なので、三人に配慮して、調査に踏み入れる場所を選んだつもりなのだが。

 

(サカリダケの天敵となる魔物を狩りすぎたせいか、サカリダケの生息地が増えすぎていたみたいだな……?)

 

 俺が記憶していたかつての原作知識と、今のサカリダケの生息分布が一致しないまま、俺たちは非常に危険な場所に足を踏み入れることになったのだった。

 まあ、全般的に俺が悪い。このジャヴァリの森の危険な害獣をどんどん狩猟している影響が出てしまった。サカリダケの繁殖が想定以上だった。抜かっていたと言われても何一つ言い返せない。

 この発情胞子にも匂いがあったりするわけでもないので、気が付けばサカリダケの媚毒が全身に回ってしまった……という訳であった。

 

(正直、媚毒が回るまで気付かなかったな……ムラムラするって、別に痛いとか寒いとかみたいに肌で分かるような感覚じゃないもんな)

 

 俺以外の三人も同様だった。

 途中、天候が崩れて土砂降りになった時、古木の樹洞を見つけて、そこに雨宿りで避難したのだが、そこでようやく皆気付いたぐらいだった。反省である。

 気付くのが遅れた原因として、俺の場合は普段から性欲があるので(うーわ今日エロいことばっか考えてるわ、集中しねーと)ぐらいに考えてしまっていたのがある。普段エロいことを考えているせいで、これが()()だと自覚するのが遅れたのだ。多分三人は()()()()()()()()()()()()()()()ので気付けなかったのだろう。俺が気付くべきだった。

 

 覆水盆に返らず、後悔先に立たず。

 媚毒が全身に回った後になってから、これはまずいと遅れて分かった。身体が火照るとかむずむず落ち着かなくなるとかそんな話どころではない。衝動的に押し倒したくなるような強い欲求が出るのだ。

 

「………………っ」

「ふっ……ふぅっ……」

「…………く、ぅ」

 

 頬を赤らめて荒い息をする侍女の姿の、何と美しいことか。

 俺は自制心が弱い。

 こんなもん、はっきり言って白旗である。あーあ、今日でもう観念するか―、と半ば諦めの境地に入っていた。というより、転生してこの方、ずっと周囲に手を出さずに自制し続けてきたことを褒めてほしいぐらいのものだった。

 とはいえである。

 

(でもなあ、おじさんが楽にしてあげるぜグヘヘ、みたいに迫るのは可哀そうだよな。うん)

 

 俺の心に残された僅かな良心が、今の自分を抑制させていた。

 両想いなら遠慮なんぞ要らない。好きにすればいい。両者合意でも問題ない。今、倫理的に問題があるのは、上下関係がある中で俺が迫ってしまったら彼女たちは拒否できない立場にあること、なのだ。

 そりゃあもちろん、俺とて人の機微が分からない訳ではない。普段から厚遇しているロナには感謝されているだろう。《蜘蛛(ラネール)》と《蝙蝠(カマソッソ)》にも忠義を立ててもらっていることは痛いほど分かる。後、俺は見た目もいいし血統も悪くないし、良い暮らしぶりも保証してあげられるだろう。()()()()()()()。懸想されているならいざ知らず、『感謝しているんなら身を差し出せ』なんて迫るのは倫理感が中世時代すぎる。この世界の貴族なら普通のことかもしれないが、それでも気が引ける。

 ルーク皇子は、原作では死にゆく運命にある。

 後に残された奴が幸せになれるか、という話だ。

 

「…………で、殿下の、御前です……っ」

「…………わ、私たちは、耐えるのみです……」

「……っ、お姉さま……私、げ、限界が……」

 

 濡れてしまった服を脱いで、淡々と水を絞る。三人が息を呑む音が聞こえてきた。《蝙蝠(カマソッソ)》に至っては手の甲を噛んで震えている有様だった。

 いくら冬じゃない季節とはいえ、冷えで体温低下を起こしてはまずい。なので服を脱ぐ必要がある。自明の理だ。

 三人も無理やり脱がした。俺の理性に深刻な影響がありそうだったが、鋼の意志で抑え込んだ。()()()()には目を瞑ってもらうとして、今はやるべきことを無の心で遂行するのみだ。

 

「ご、御乱心ですか!?」

「いや、急な大雨時の常識的な対応だ」

「…………っ」

 

 目を丸くしたロナが、何か言おうとあわあわと口元を動かしていたが、何も言葉はなかった。

 もしかしたら怯えさせてしまったかもしれない。この状況下なら無理もない。だとすると可哀想なことをした。

 後はなんとか暖を取りたいのだが、いかんせん火の元がなく、乾いた木材も近くにはなさそうである。となると人肌を寄せ合って暖まるという手ぐらいだが――。

 

 

 

 

 

「――殿下!」

 

 突然恐ろしいことが起こった。

 《蜘蛛(ラネール)》がいきなり脚を折ったのだ。

 ぼろぼろに泣いている。お許しください、お許しください、と繰り返している。怖すぎる。

 

「と……咎人(とがびと)の身分で……出過ぎた、不埒な、想像を……お許しください、お許しください……」

「こら! 身体は大事にしろ! 脚を手当てするぞ!」

「アッ」

 

 脚に触れた瞬間、患部が痛かったのか、《蜘蛛(ラネール)》はびくんと大きく身を跳ねさせた。

 海老に電気を流したような、もの凄い跳ね方だった。

 

「お゛、お許しください、お許しください……っ」

 

 布を歯で引きちぎり、脚に多少乱暴に巻く。骨折だけならともかく、破傷風などになったら目も当てられない。

 蜘蛛の足なので外骨格なのかも知れないが、手当しないよりはマシであろう。《蜘蛛(ラネール)》は下腹部を跳ねさせてもじもじ身悶えしていたが、さもありなん。刺激が強いに決まっている。

 あんまり想像したくはないが、強い発情を誤魔化すために、自分に痛みを与えたのだろう。やはり《蜘蛛(ラネール)》は忠義の徒である。

 

「……はーっ、はーっ」

 

 何ということだろう。サカリダケめ、と俺は毒づいた。

 こんな状況なのに、《蜘蛛(ラネール)》の息の荒さに、色気を感じてしまうとは。

 これで、相手の目が蕩けているはずもないだろうに、一体俺の目は節穴なのか、潤んだ瞳をそんな風に捉えてしまっている。愚かだ。

 

 

 

 

 

「すまない、《蝙蝠(カマソッソ)》、お前の手の甲も」

「ぴゃああ!?」

 

 手の甲を思いっきり噛んでいた《蝙蝠(カマソッソ)》は、案の定、軽い出血を起こしていた。

 こちらも布で巻いておく。途中、《蝙蝠(カマソッソ)》は腰砕けになってへたり込んでいたが、もしかしたら驚かせてしまったかも知れない。半泣きの顔立ちが蕩けているように見えるのは、もうサカリダケのせいに違いない。雑念に過ぎない。

 彼女は手汗が凄かった。

 ――そして間も悪かった。

 

「あ゛っ」

「あー……すまん」

 

 はい終わりました、みたいな顔で、《蝙蝠(カマソッソ)》がじゅぶじゅぶに漏らし始めたのだ。

 運が悪かった。服を脱いでいるので丸見えだった。身体が冷えていたのだろう。こちらも可哀そうなことをしてしまった。

 

 

 

 

 

 呆然としている《蜘蛛(ラネール)》と《蝙蝠(カマソッソ)》を奥まで引っ張る。もう駄目だった。はっきり言って、発情が強すぎて碌な事を考えられなかった。

 もう最低限のことはした。

 洞の入り口に簡易的な魔除けの結界術を彫り、罠の糸を張っておく。鳴子を付けているので、何かが踏み込んできたら音が鳴るはずだ。

 後はもう時間に任せるしかない。

 

「……すまない、もう寝よう。寝て治そう。それしか考えられん」

「ちょ、殿下!?」

 

 寝れば治る。治るはず。頭もあまり回らなくなってきた。サカリダケの効用は半日も持たなかったはずである。

 なので、《蜘蛛(ラネール)》を右、《蝙蝠(カマソッソ)》を左、ロナを正面、で三人まとめて抱きしめて寝る体制に入った。抵抗はなかった。というか、ロナ以外が碌に動けない状況だった。

 ……寝る体制に入ったのだが。

 

「――――――――」

 

 真正面のロナが、石のように固まってぎょっとしていた。

 視線は俺の下に向けてあった。押し付けてしまって本当に申し訳ないが、位置関係的にそうなる。彼女の下腹部がひくひく動いているが、あまり余計なことは考えたくない。俺にとってロナは、何かの弾みで一番手を出しそうな相手なので、努めて心を無にしないといけない。

 三人ともども、発情による火照りのせいか、燃えるように熱い。この分なら、急な雨による身体の冷えも問題はなさそうである。

 

「~~~~ッ、殿下……っ」

 

 無の心。ひゅ、と息を呑むような音が聞こえたが関係ない。

 赤らんだ表情も潤んだ瞳も、俺にとって目の毒だった。

 ロナの背中をぽんぽんと優しくさすっておく。

 頼むので寝てほしい。でないと多分、俺の方が収まりがつかない。既に収まりがついていないが。ロナも同じで、下腹部に全然収まりが付いていなさそうだったが、寝るならもう割り切るしかない。

 

(……こういう時は素数を数えるんだっけ)

 

 仮にこれで、ロナと二人っきりだったら絶対に危なかった。理性の(たが)が外れていてもおかしくはなかった。そうなっていれば最後、行くところまで行きついていたかも知れない。

 

「ふー……ッ、ふー……ッ」

 

 半泣きで睨まれた。濡れた髪がしっとりと顔に張り付いている。全然落ち着く気配がなかった。どことなく獣を思わせる、熱い吐息が続いていた。彼女の彫刻のように整った顔立ちに似つかわしくなく、いかにも艶麗であった。凄絶な色気。

 気が付けば、両隣の《蜘蛛(ラネール)》と《蝙蝠(カマソッソ)》の吐息も少しずつ荒くなっている。

 あまり物欲しそうな顔をされても困る。

 

(ええい、腹は括った! どうとでもなれ!)

 

 全く、生真面目な娘たちを(かどわ)かすとは、サカリダケもけしからん奴である。腕の中に複数の温もりを感じながら、俺は目を瞑るのだった。

 

 




 あとがき:
 末席とはいえ帝位継承権を持つ美少年皇子に、おいそれと手を出して貞操を穢すような侍女がいてはいけないですよね。
 小さな精霊たちはけらけら笑ってます。


 Tips:
 ■サカリダケ
 ジャヴァリ森林地帯で生息する、非常に栄養価の高いキノコ。血流の流れを活発化させる他、心肺機能を底上げし、交感神経を刺激する。亜鉛、ビタミンB群、アルギニン、オルニチンを豊富に含み、滋養強壮、精力増強、更年期症状の緩和、疲労回復、美肌効果等に効果がある。
 原作では強力な媚薬の原材料、若返りの薬の原材料等として知られる。

 2025/08/18:オルチニン→オルニチンに修正しました。ご指摘ありがとうございます!
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