貞操逆転世界の悪徳皇子になった俺、ひたすら魔石を食べて強くなり、破滅フラグを回避します   作:ナロウ・ケイ

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貞操逆転世界の悪徳皇子と、狂瀾怒濤の新天地⑮:訪れる朗報・暗躍する影

 それはそうと、領地経営の様々な問題は積み重なるもので、何一つこちらの都合を待ってくれなかったりする。

 中央の宮中政治とはまた違う忙しさで、年度予算計画の抜本的見直しやら、大規模河川工場計画の進捗管理やら、今まで碌に文字も読み書きできない奴らを進捗管理するという地獄みたいな事務処理が待ち構えていた。

 この状況下で部族長/長老会議をしてどの部族からどれだけ年貢の取り高を按分するか、みたいな調整をやったりすると信じられないぐらいに揉める。さりとてそういう重要な決め事を俺抜きで決定すると、それはそれで、どこぞの馬の骨とも知れぬ奴に誰が従うものか、と不満が噴出する。生産性のない調整仕事は起こすことさえも嫌なので、元々のこの森の偉さの序列を基軸にして、とにかく事業計画のみをひたすら加速させていた。

 

 そんな折のこと。

 書類を手渡す際に、ロナと手が触れ合った。

 

「あっ⋯⋯」

 

 頬を染めてすたすたと立ち去るロナ。あまりに初々しい反応に、俺は呆けてしまった。可愛い。不意打ちだったので俺が声を掛ける間もなかった。

 

「⋯⋯おどれら、喧嘩でもしたんか?」

 

 ワヤ──邪教徒の元幹部、【道化】のハーレクインだった少女が、気遣わしげに問いかけてきた。

 

「いや、そんなつもりはない⋯⋯あーいや、喧嘩したかもしれないな、ちょっと気まずくてさ」

「ほぉ、珍しいこともあるもんじゃの」

「ちょっとね、夢の中の世界に引き込まれちゃってさ。彼女の心の傷を魔物にほじくり返されちゃって、そこで喧嘩かな」

「ほーん」

 

 精神汚染系の魔物か、とワヤは独り言のように呟いた。深刻なように言い過ぎたのか、大袈裟な感じに伝わってしまった。腫れ物を触るような感じではないんだけどね、と前置きを入れて訂正しておく。

 

「でさ、目を覚ましたら裸で抱き合ってて気まずくて」

「話変わっとらんか?」

「サカリダケの発情胞子のせいなんだ」

 

 ワヤが顔を赤くして口元を抑えていた。

 その展開で初恋の乙女みたいな反応されることあるんか? と目を見開いて驚いている。

 

「いやあ⋯⋯あるんだよな」

「ないじゃろが、ワシにも分かるわ」

「あー⋯⋯まあ、そうかもな、一緒に寝てたラネールとカマソッソにも心配されたんだよな」

「話変わっとらんか!?」

 

 三人も侍らせたんか!? とワヤが絶句していた。侍らせてはいない。

 彼女の口元がわなわなと震えている。凄い想像をされてる気がする。どこかで誤解を解いておかないといけない。

 

「多分、大丈夫だと思うんだが⋯⋯今朝に魔石浄化したときもちょっと気まずくてさ」

「それは大丈夫なのに手ェ触れ合って照れる距離感とかあるんか!?」

「だよなぁ」

「だよなぁじゃなかろが」

 

 心配するような目付きから、徐々に会話の通じない化け物をみるような目付きに変わっていた。俺も変なことを言ってる自覚はある。多少。

 

「いやあ⋯⋯手ぇ出しときゃよかったかな⋯⋯」

「出してないんか!? それで!?」

 

 まるで会話が通じなかった。最低すぎる感想だが、天に誓って手は出していない。

 

「たとえ薄っすら合意の元だったとして、未成年の部下に手を出すのは駄目だろ?」

「普通、十歳で精霊の天恵の儀を授かって元服の禊ぎはしとるんじゃが?」

「医学的には十八歳まで身体は成熟しないんだ。そうでなくとも二次性徴の終わる十五歳までは責任を持てない」

「と、年増好きなんじゃの⋯⋯」

 

 若い子のほうが好きに決まってるだろ、と言いたくなったが、この世界基準だと十五を超えて未婚は立派な行き遅れになる。無茶苦茶すぎる。俺の知見の方が医学的に正しいはずなのに、こういう部分は納得いかない。

 正直、あらゆる誘惑に打ち克って手を出してないことを、立派な心掛けだと褒めてほしいのだが。

 というか年増好きの噂は、俺が五歳〜十歳ぐらいに年下NGを出しまくってたから生まれただけである。色々と納得のいかない話だ。

 

「そういやの、(ボン)、おどれの舎妹どもの話じゃが」

「しゃまい⋯⋯? あー、ああ、学園の獅子威(ししおどし)会か!」

 

 話は変わって、ワヤが切り出した内容はとても興味深いものだった。

 

「卒業生のうち三百名がな、(ボン)の配下に加わりたいと言い寄っとるんじゃ。慕われとるのォ、若」

「三百⋯⋯? きちんと卒業したやつは何人だ?」

「聞いて驚くなよ、あの阿呆ども、七割はきちんと卒業しとる」

 

 そりゃ凄い、という感想と、じゃあ三割はただの脱走じゃねーか、というずっこけた感想が同時に押し寄せた。基礎教養のない平民中心で、輪をかけて阿呆ばかりだった帝国獅子威(ししおどし)会の連中は、かなりの数の留年生を出してきたが、俺の躾の甲斐あってか、きちんとたくさんの卒業生を出せたらしい。

 で、きちんと卒業できなかった阿呆どもは後でキツめのお仕置きが必要だろう。人手が増えるのはとても有り難かったが、学園卒業生という肩書を持つ、事務処理を安心して任せられる人材じゃなくて、そいつらは規則を守れなかった落ちこぼれということになる。

 

「筆頭格はな、あのエイルとか言う英傑女じゃ。イオリ、アナスタシア、キルケも四人揃っておる」

「!? あいつ、たった二年で飛び級卒業したってことか!?」

 

 こっちのほうが驚きである。一番短い探索者基礎課程に絞ったとしても、実技と筆記で相当優秀じゃないと卒業にならないはずである。【賢者】のキルケならまだしも、阿呆三人(脳筋とドMと酒カス)には厳しかったはずである。

 ましてやあの四人には試練を課していたはず。二年でこなせるような物量とは到底言い切れない。

 

「まあ、坊とワシが追放されてから二年じゃから、正確には二年と半年じゃの」

「それにしても凄いじゃないか!」

 

 ワヤ曰く、あと数ヶ月すればこの地にやってきてくれるとのこと。この上ない朗報だった。これで勝てる。

 英傑四人さえ来てくれれば何だって出来る。森の最奥に鎮座する世界樹【原罪の木:色欲】に挑戦するための全ての手札が揃った。試練を突破した四人なら、つまり英雄にして聖騎士、剣聖にして忍者、賢者にして歌巫女(アイドル)、聖者にして美食家(ワンダーシェフ)と、新たな天恵を授かっているはずなのだ。それらがあれば、攻略できない迷宮は無いと言って過言ではない。

 原作本来の史実準拠で考えても、原作主人公(オーベル/オーベリア)が卒業するまでに全てが片付く計算になる。

 

「何もかも順調じゃないか!」

「⋯⋯⋯⋯」

 

 俺が快哉を上げると同時に、ワヤが凄い顔をした。

 

「おい、不吉なことを言うたらあかんじゃろうが。“星占いに浮かれるものは足元に泣く”じゃろうが」

「え? ああ、取らぬ狸の皮算用ってやつかな?」

「そがいな諺は聞いたことがないが⋯⋯まあ、そういうことじゃけん、決まってもないことを喜んだらいけん」

 

 いわゆる不吉の予兆(フラグ)って奴だろう。

 そういえば浮かれてばかりもいられなかった。まだ留意すべき懸念事項はあるのだ。例えば、学園の世界樹【原罪の木:傲慢】を焼き払った真犯人は誰なのか、とか。俺が弱体化に弱体化を重ねている邪教徒たちが暴走しないか、とか。

 

「まあ、諜報ならラネールやカマソッソを中心に、元情報屋のリコッタまでいるから、大まかな帝国情勢は分かるんだけどさ」

「⋯⋯気をつけとれ。ワシら【魂の在処】はな、どこにでも潜んで暗躍しとる。いかな(ボン)が千里眼とはいえ、油断してええ相手じゃないわの」

「まあね。最強格の君の計画を初手で挫くことが出来たのは、本当に僥倖だよ」

「⋯⋯ふん」

 

 改めて思い返すと。

 たった一人で何千匹もの影軍団を操り、召喚さえ成功すれば神話の奇跡を擬似的に再現できる《影の巨人》をも操れるワヤを早期に落とせたのは、本当に大きなことだったのだ。

 原作でさえ、ワヤ(≒ハーレクイン)はあの場では取り逃がし、もっと物語の終盤で最終決戦を迎えるような相手なのだ。逆に言うと、地下教団【魂の在処】はもうこの時点で半分詰んだ。ワヤ抜きで一体誰が『聖都落とし』を決行できるというのか。

 

 原作を知らない人向けに説明すると、この大陸には西方の星教国、北方の商業王国、南方の君主国、東方の帝国──という四大勢力がある。その中でワヤが『聖都落とし』を計画したのは星教国。聖都内に魔物を多数放ち、影の巨人の召喚に成功し、教皇を拉致し、聖都の聖遺骸物を簒奪した。

 だが原作史実ではその後、主人公たちに追い詰められ、計画成就まであと一歩のところで命を失う。逆に言えば、主人公たちという不確定要素さえなければ、四大勢力の一角の『聖都落とし』に成功していたのだ。本来、ハーレクインことワヤは、それほどの実力者なのだ。

 

「言うておくがの、ワシ以外の三人、博士(ドットーレ)隊長(カピターノ)富豪(パンタローネ)とて弱い訳ではない。いくら(ボン)でも、油断しとる時に三人纏めて来られたら勝ち筋は薄いぞ」

「あの三人なら大丈夫だよ、ワヤの実力を知っているから()()迂闊に手出ししてこないはずだ。あのワヤを打ち負かした俺を、過剰に恐れているはずだ」

「⋯⋯ふん」

 

 ワヤが照れたようにむっつり黙った。褒められ慣れていないらしい。

 とはいえ、彼女の言う通り油断は禁物である。いくら俺が原作知識を持っているからといって、不確定要素はどうしても排除できない。だからこそ、先手先手を打って対策を積み上げたいところだった。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

「⋯⋯やあ、博士(ドットーレ)()()()()()()に恨みはないけど、君の芸術作品の合成植物とやら、破壊させてもらうよ」

「!?」

 

 ひっそり動く影が一つ。

 赤毛の少年は、ただ黙々と、邪教を潰滅させんとその役目をこなしていた──。

 




博士(ドットーレ)
ぼさぼさピンク髪の毛+舌ピアスの厄介ガチ恋メンヘラ。邪教徒の四人衆の一人。
仮に原作主人公(オーベル/オーベリア)が【賢者】を選んだ場合、精霊に選ばれなかったキルケが闇落ちし、博士(ドットーレ)を名乗ることになる。
※四人衆は、主人公が最初に選ぶ四つの天恵と一対一で対応している。
 道化(ハーレクイン)英雄(エイル)
 隊長(カピターノ)剣聖(イオリ)
 博士(ドットーレ)賢者(キルケ)
 富豪(パンタローネ)聖者(アナスタシア)
この世界では四人ともそのままの設定。
植物博士であり、主人公たちが【天恵の儀】で最初に戦ったアルラウネを放ったのは、この博士(ドットーレ)である。
性欲が凄い。


博士(ドットーレ)の最高傑作
『来たれ、汝甘き死の時よ/Komm, du süße Todesstunde』という名前の歩くサボテン。滅茶苦茶に針を投げつけてくる。
まともに戦闘すると強いが、中二過ぎる名前をバチクソに煽りまくると博士(ドットーレ)が泣き出して戦闘終了になるという隠しギミックがある。
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