貞操逆転世界の悪徳皇子になった俺、ひたすら魔石を食べて強くなり、破滅フラグを回避します   作:ナロウ・ケイ

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※第三者視点:貞操逆転世界の悪徳皇子と、盲目で義手の狩人⑥

 

 

 

 ルーク・マギデリックは皇子である。

 尊大で臆病、我儘で卑怯な性格の持ち主で、分かりやすく嫌われ者だった。

 

(ですが、ルーク殿下はあの日を境に一変なさった。私のことをいつも大事にしてくださるようになった)

 

 侍女のロナは、作業する手を動かしながら黙々と考え込んでいた。

 

 主人であるルーク皇子は変わった。

 

 我儘はめっきり言わなくなり、召使いたちとも挨拶をよくするようになり、会話を好むようになり、思いやりが芽生えた。

 無理難題を押し付けるようなことはなくなり、人にはよく施しを与え、困っているものには積極的に声をかけ、気分を害しているものには当事者に代わってさり気なく詫びを入れ、止まってしまった話を整理しなおして円滑に進むような差配をとてもよく行った。

 

 おかげでルーク皇子は、宮中の召使いたちからの評判もとても上々となり、他の皇女、皇子たちと比べてもその聡明ぶりを褒めそやされるほどになった。

 

(私は今、とても過ごしやすい環境を与えられている。それもこれも、全てルーク皇子の取り計らいのおかげ……)

 

 手が止まる。

 胸に去来するのは、あの日の出来事。

 

 彼女の手抜かりのせいで、敬愛すべき主人は熱病に浮かされ、【天恵の儀】を欠席せざるを得なかった。

 主人の健康管理は侍女の責務。

 そして皇子の晴れ舞台を台無しにしてしまった失態は、死罪になっても仕方がないほどの咎である。

 

 しかし、当の本人であるルーク皇子は──。

 

(庶民と同じでよいと笑ってらっしゃった。私が気に病まないように。本当に、なんと寛大で優しい方だろう)

 

 ──五歳で受けられなくても、十歳で受け直せばよい。

 

 さも当たり前のように言っていたが、それがどれほど恥をかく行為なのか、ロナは知っている。

 

 周囲の貴族たちは五歳ですでに【天恵】を授かっているというのに、ルーク皇子はそれが遅れている。

 同年代の皇女皇子たちからは『天恵なし』『無能皇子』と揶揄されて嘲笑われている。

 

 貴族たちや豪商たちの中には、ルーク皇子に失望し、付き合いを控え始めるようなものたちまで現れている始末。

 然るべき義務を放棄した無責任な男。ないしは、天恵がもらえるか怖くなって逃げ出した臆病者。

 

 五歳の頃から今に至るまで、その風聞は根強く残ったままである。

 社交界におけるルーク皇子の地位は失墜したも同然だった。

 

 それにも関わらずである。

 ルーク皇子は当の侍女を責め立てようともせず、また腐ったりもせず、堂々とした態度で過ごしている。

 陰口を叩かれようとも、後ろ指をさされようとも、そんなことを気にせず明るく振る舞っている。

 

 それどころか、専属の侍女が辛い立場にいることを理解して、優しく目をかけて、周囲の召使いたちとの関係改善にまで乗り出す有り様であった。

 

(……ロナは、ルーク殿下に、どうやって恩返しすればよいのでしょうか)

 

 皇子は、見た目も変わった。

 かつてのルーク皇子といえば、肥え太った見た目、締まりの無い顔つきを揶揄されていたものだった。

 だが今は見る影もない。

 

 日頃から短剣を持って、黒アールヴ流の古武術を真似事しているおかげか、体付きは随分と締まり、年頃の少年らしくなった。

 

 陽の光をよく浴びるようになり、肌の血色は良くなった。

 よく笑うようになり、顔つきも引き締まったものになった。

 食生活についても、野菜を多く取ったり揚げ物を控えたりと、独自のこだわりを追求するようになり、顔の出来物の数が減っていった。

 

 整った顔立ち。

 快活な性格。

 困りごとを整理する聡明さ。

 大きな失態をした家臣を許す度量の広さ。

 

 たとえ社交界の宮廷貴族たちからの評価がどれほど低くとも、実際に関わりを持つ家臣たちからは、厚く信頼され、こよなく愛される。

 

 それが今のルーク皇子であった。

 

(……私は、そんな殿下の未来を台無しにしてしまった、罪人です)

 

 重い罪悪感を抱いたロナは、仄暗い決意を固めていた。

 

 正直なところ、帝国への恨みはまだ深い。故郷に理不尽な要求を課し、聖域を踏み荒らそうとし、御神木を切り倒そうとした帝国を、まだ許すつもりはない。

 しかし、殿下は別である。

 もう少しで酷い目に遭いそうだった自分を、身を挺してまで庇ってくださった殿下。晴れ舞台を台無しにしてしまったにもかかわらず、自分を許し、大事にして下さる殿下。

 

 恩義を受けた以上、忠義で返さねば、先祖に顔向けが出来ない。

 

 ――殿下のためならば、地獄でも付いていこう。

 ――殿下の影として、手を汚すことさえも厭わない。

 

 

 

 黒アールヴにとって、夜の月は神聖なる象徴である。ロナの赤い双眸は、月の光を反射して爛々と輝いていた。

 偉大なる暗夜、深き静寂、凛と輝く月輪の神に祈りを立てて。

 この日より、ロナはその身の全てをルーク皇子に捧げることを誓った。

 

 それは、ルーク皇子が十歳になる少し前のことであった。

 

 

 

 





 主人を慕う、盲目の獣が生まれた日。
 次は【天恵の儀】と探索者ギルドの話でも出せたらと思います。

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