貞操逆転世界の悪徳皇子になった俺、ひたすら魔石を食べて強くなり、破滅フラグを回避します 作:ナロウ・ケイ
「……認めましょう、我々は敗北したのです」
少女サルヴァが、憂いを帯びた表情で、幹部たちに意向を伝えた。曰く、東の森に逃げなくては、いち早く彼の意思を確かめなくては、と。
二足歩行の兎の姿をした魔獣たち──精霊の成り損ないを多数従えたサルヴァは、夢の世界を半ば掌握しつつある。
身体の右半分が寄生され、無数の鉱石の結晶が生えてきており、植物の蔦が巻き付いている。
背中には見事な蝶の羽。頭には鮮やかな花の冠。
彼女こそが、【夢の妖精女王】を名乗る資格の持ち主。
「……どこかの悪い子が、私を差し置いて、精霊の契約者を作ろうとしたのですね」
どこぞの兎が、十字架に掛けられて燃やされていた。
言いつけを破って、
身勝手な行いの結果、自ら失敗したその魔獣は、ぼこぼこに殴られて顔を変形させられていた。けたけたけた、と小さな精霊たちが嘲笑う声がした。
確かにサルヴァは、自分が死んだ時のために予備の自分を作ろうとした。自らの魂を抽出して植え付けなおすため、代替の肉体となる、空虚な少女を求めた。心に何処かぽっかりと大きな穴のある、生きていることに罪悪感を覚える少女を次の依代にしようとした。
だが、政治的中立を保つべき主要人物──件の皇子の側近に手を出すべきではなかった。やはり精霊族の生き物は、身勝手で短慮で、世の営みを理解していない。あの皇子は気が狂っている。何の理由も前触れもなく、教団の最高戦力の一角、【
そんな、気まぐれで行動しているような人物の不興を買うような蛮行は、看過できなかった。
「……すべての世界を、あらゆる人の苦しみを、優しい夢に昇華するため。どうか神々よ、お力をお貸しください」
例の
かつての仲間だった【
「……彼に出会って確かめなくては。我々の預言書の計画を妨害しながら、私の死の運命を救い続けてくれるあの彼に。彼の真意がどこにあるのか、問いたださなくては」
サルヴァという風変わりな名は、
魔を浄化せしむる聖なる鉱石、あるいは至聖そのものを騙る不遜な名前。
その少女は、小さなころから天使に憧れて、そして──天使とはかけ離れた異形の歪な翼を手に入れた。
妖精のサルヴァ。サルヴァ・ル・フェイ。
そこに存在するだけで、世界を曖昧に崩壊させていくもの。
「……私こそが、この世界を曖昧にするにふさわしいのです。すべてを優しい夢に変えましょう」
願わくば、優しさに包まれた世界を求めて。
魂の在処を求める教団は、東の森へと居を構え直すことを決断したのだった。
◇◇◇
「何だって!? 封印処理していた禁書が盗まれた? それは邪教徒が悪いなー」
「あーあ、お前、邪教徒から賄賂を受け取って密輸を行ってたんだなー。そりゃ財産没収だわ。邪教徒が悪い」
「あることないこと吹聴した恥ずかしい噂が出回ったって? うーん、これは邪教徒!」
そんな感じで邪教徒を方便に使いまくっていたのも、今となってはいい思い出。流石にこんな僻地に出向させられては、おいそれと何でもかんでも邪教徒のせいにはできない。
いきなり何の話なのか、と戸惑ったかもしれない。
実は現在、どうも邪教徒こと地下教団【魂の在処】の活動が急激に縮退しているようで気がかりなのだ。心当たりはたくさんある。なんでもかんでも邪教徒のせいにしてきたツケが回ったのだ。資金源も順調に潰していった他、邪教徒と癒着して収賄している貴族たちをどんどん摘発してきた。
これでも息の根を止めるような致命的なものは触らず、ほどよく見逃してきたつもりなのだが、匙加減を失敗してしまったかもしれない。
「邪教徒なー。あんまり活発に活動されても困るんだが、かといって滅んでしまってはもっと困る……」
地下教団【魂の在処】の活動理念は単純である。
今ある世界の在り方を変えて、もっと優しい世界に作り替えたいというもの。王侯貴族や聖職者が権威を笠に着て横暴を振るっているのを是としない、まさに地下教団らしい教義である。
ただその方法が問題で、
重要なのは、世界に
裏を返せば、獲得できる報酬が美味しい迷宮とかをじゃんじゃん作ってもらえるわけで、俺からすれば金の卵を産む雌鶏みたいなものだ。
「うーん? こんなに追い詰めた記憶ないんだけどな?」
まあ、邪教団が滅んだら滅んだで、それはそれで原作上では一つのエンディングに至る。
別に悪い終幕ではない。大陸を巻き込む戦争、その引き金になったのもこの邪教団のせいなのだから。かくして世界は少しだけ平和になる。また別の権力が野心を抱き、別の場所で争乱を繰り広げ、なんやかんやで戦乱と平和を繰り返すだけの、そんな普通の歴史を歩むのだろう。
とはいえである。
「東方の帝国内で影響力を落としているのはわかる。俺のせいで資金源をいくつか俺に召し取られて、弱体化したかもしれない。⋯⋯でも、西方の星教国、北方の商業王国、南方の君主国の三勢力の地は関係ないはず。大陸に広く薄く根を張っている地下教団全体が力を落とすことなんかあるのか?」
地下教団の連中は、夢の中で会合をする。
どこかに集会所を抱えていて、教徒が一丸になって集まっていれば分かりやすいのだが、そんなことをしなくても集会ができるのだ。だから簡単に、人々の生活の中に紛れ込むことができる。
摘発する側からすればたまったものではない。これが大陸全土に影響力を持つ最大の理由であり、邪教徒が恐れられている所以でもある。
その力をもってすれば、ゲリラ的な活動に限定すれば全然活動を続けられるのだ。まさか
(……まあ、考えていても分からんか)
それはそうと、教団も怪しければ、例の謎の人物も怪しい。
探索者学園にあった世界樹【原罪の木:傲慢】を焼き払った者。
何の理由があって、どうしてそんな凶行に及んだのか。【原罪の木】について知識がある人物なのは間違いないが、主人公たち英傑四人には
本当にどうしたものだろうか。
好き勝手やっていたら、原作展開とは全然違う方向に進みつつある世界情勢になっている。あと数年で、東方の帝国と南方の君主国の間で大規模戦争が勃発し、星教国やら邪教団が陰で糸を引く──という戦乱の時代になるはずではないのか。主人公たち四人は所属する勢力を選んで、大陸の平定のために尽力するという展開になるはずではないのか。大陸鳴動現象が起きて、凶兆の星が訪れ、魔物の活動が活発化する《大災厄》の時代に突入するはずではないのか。
皇子の名前で出来る範囲で全部対策は打ったものの。
(あんまり原作と展開が乖離しても困るんだよなあ。今の俺の先見の明って、全部、原作知識由来だからなー)
我が儘すぎる感想を抱きながら、俺は教団の少女サルヴァ宛の
■原作裏設定
教祖は魂を移し替えることができる。少女サルヴァも何代目かの教祖であり、オリジナルの少女の人格は教祖の魂と融合してしまっている。
ロナは依代候補の一人。他にも依代候補は多数いる。
■地下教団【魂の在処】の《教祖》
優しい世界を目指す壊れた存在。みんな覚めない夢の中で暮らせば幸せになれる、と本気で考えている。
誰にもすがることができない不幸な捨て子たちを拾って育てる、慈愛の精神を持つ。
その過程で、顔立ちの整った少年たちもよく拾うため、かなりの数の愛人を囲っている。しかも愛人の子を孕んでその子供を次の依代にしたりすることも平気で行う異常者。自分の心の中に皆がいれば寂しくないよね、私がみんなの
もちろん我が子を依代にするのは手段の一つでしかなく、近親婚が続くと遺伝疾患が出ることに気付いているので、定期的に外部の依代を取り込んだりしている。結果、【夢の妖精女王】なる人外の存在にまで昇華した、あまりにも罪深い存在。
シナリオ展開ではゲームのラスボスにもなるので、それに相応しいだけのド畜生な側面を備えている。多重人格というよりは全人格が融合している系。つまり倫理観を中心に色々壊れている。
性欲が凄い。