貞操逆転世界の悪徳皇子になった俺、ひたすら魔石を食べて強くなり、破滅フラグを回避します 作:ナロウ・ケイ
──白状すると、俺が初めて精通したときの相手は、ロナだった。
これは絶対まずい、夢精する、と思った瞬間に飛び起きた夜が何度が続いた。昔に夢精した時の経験則がなせる技と言ってもいい。
会社に寝坊するとか、電車で寝過ごしてるとかで、冷や汗と共に咄嗟に眠りが覚めて飛び起きる、あの感覚に近い。動悸が速くなり、寝惚けた脳が一瞬で覚醒するあれは、誰しも一度は経験があることだろう。
そんな訳で、何もないのに急に飛び起きて、隣で寝ているロナを何度もびっくりさせてしまったものだ。
その度に必死に根元を握って堪えている俺を見て、顔を赤くしていたが。
ただ、さすがに毎回は抗えなかった。
両手で根っこを握り締めて頑張ったものの。
びきびきに張っていて、限界寸前で、何かがせり上がってる感覚が止まらなくて、これはもう観念しないとだめか──となったのだ。
流石の俺も「ごめん、ロナ」と助けを求めるしか無かった。
焦ったのは彼女である。
顔を赤くしてあたふたした彼女は、何を思ったのか、大きく口を開けた。
あむ、と。
「ちょ」
半分しか咥えられてなくて可愛い、と。
そんな感想が。
「ろ、ロナ⋯⋯っ」
「⋯⋯⋯⋯ん」
自分のことを慕う忠義の侍女に対して、明らかに言い訳できないぐらいに。
何なら失礼過ぎるほどの量で。こみ上げるもの全てを放って。
俺が初めて、血筋を存続させるという意味で、大人の仲間入りを果たしたのはそんな夜のことだった。
⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯。
⋯⋯⋯⋯。
原作では、性行為は「魔力を高めるためのお互いの秘密の儀式!」とかいうアホ設定が存在する。
男が放つのは生命力の源、魔力増強などにうってつけで最高の依代──とか何とか解説されている。エロゲじゃないか、と思ってしまうほどのご都合設定。
実際にエロゲなので何ら問題はない。
ただ、明らかにロナとの距離が変わってしまった気がする。
当然である。自分で言うのもあれだが、天使みたいな見た目の少年がやっていいことではない。
『魔力が伸びるから毎回飲み込んで』
とか、真顔で言える気がしない。最悪すぎる提案だ。それも結構きつそうな量をだ。
だがしかし、ロナは必ずこの役目を毎回行い、決して誰にも譲らなかった。しかも、魔力の件についても納得し、毎回口に含んで嚥下した。凄まじい忠義と覚悟。優しい奉仕を受け続ける俺は、何も言えなかった。
『⋯⋯お労しや、殿下。私は貴方の右腕です。人一倍ご不満を溜め込んでおられて、苦悶されている殿下のためならば、私は、あらゆる物を捧げます』
言葉こそ美麗な言い回しだったが、どことなく、ちょっとした自負と誇りがあるように聞こえた。
何というか、今までは無様な姿を晒しっぱなしだった少女が、今回ちょっと自信を取り戻したような気配。敬愛する人に満足してもらっている、という自己承認。絶対に他の人には頼れない、そんな秘密を共有してもらっている特別感と、ほんの少しの背徳感。
それらが絡み合った、蕩けるような妖しい気配が、ロナから漂っていた。
『大いなる暗夜、深き静寂、輝く月輪の神に誓います。我が尊き殿下、このロナが、殿下を苦悶させる夜だけを、安らげて差し上げます』
少女の赤き双眸は、盲目の人のそれに近い、見通せない仄暗さを帯びていた。
◇◇◇
ロナとの魔石浄化は毎日あったが、俺がどうしても耐えられなさそうな夜は、そっとロナの奉仕で安らげてもらっていた。
こんな優しい娘、責任取るしかないのでは? ⋯⋯と、俺は思いを強くしていた。これで責任を取らないという選択肢があるはずない。
原作では、復讐心に駆られて俺を焼き殺す役回りだったロナだったが、そんなのは些事に過ぎない。どうでもいいのだ。
だがしかし、である。
俺からすると、もう絶対にこの娘を嫁にしたいと思っているのだが、本人の意志は尊重したかった。そして彼女本人は頑なに、『殿下にはふさわしい人がいる』と一点張りだった。
つまり、今はなぜか脈がない。
もちろん俺個人の思いは伝えていない(そんなもの微塵でも匂わせると忖度されてしまう)。俺の配偶者の話をして、どんな人がいいかなと話を振って、それとなく頑なに断られている、という次第であった。
(⋯⋯いーや、変にうじうじして諦めたら駄目だね、こういうのは。この娘を絶対に幸せにしてやるんだ、ぐらいに腹くくったほうがいいんだよな)
もっと稼いで、強くなって、格好良くなって、頼れるようになったら惚れてくれるかね? ⋯⋯と。
何だか遠回りしてるような気もしなくもない、そんな方向に俺の努力が始まって。
そう決めたなら行動あるのみ。領地経営で忙しい日も、俺は常に高みを目指した。
どんなことがあっても守ってみせると。絶対に俺が頂点に上りつめてみせると。
努力を続けているのだが。
(⋯⋯まだまだもっと、男振りを磨く必要があるのかもな)
惚れてもらえるように頑張っているものの、柳に風というやつなのか、手応えはなかった。
天使みたいな少年とか、美しい彫刻みたいな青年とか、そういう社交辞令は聞き飽きた。
多分、まだ何かが足りないのだ。声だろうか。立ち振る舞いだろうか。気遣いだろうか。
影で領民たちに『生娘を勘違いさせる人誑し』『みんなの初恋』『尊さの塊』と噂されているのは知っている。あと、何故か『あんな顔して鬼畜』『尊厳以外は大事にしてくれる君主』『触られただけで腹上死しそう』『命を刈り取る形(下ネタ)』とか言われているのも知っている。そこまで行ったら流石に風評被害だと思う。
だが、それでも足りないのだ。
(⋯⋯こうなりゃあ、絶対に惚れさせてやろうじゃないの)
もう既に惚れてくれていたら嬉しいのだが。
原作知識を使った内政活動とか、小さい頃からやってきている自己鍛錬とかとは違って、やっぱり恋愛は一筋縄では上手く行かないもんだな──と俺は痛感していた。
◇◇◇
普段あれだけ溌剌とした美少年が、性欲を堪えきれずにおねだりしてくる──そんな
あの端正な顔立ちの殿下に頼み込まれたら、諸手を挙げてでもご奉仕したい女性が押し寄せてくること間違いなしであった。
(殿下をお守りし、支えねば。私が強くあらねば、殿下にご満足いただけないのだから)
誰よりも近い存在であるロナは、固く誓った。
ルーク殿下は、もはや常識に当てはまる御方ではない。
ただでさえ、憧れの君とか、高貴なるお方とか、一番星の生まれ変わりとか、推しとか、色々言われているような皇子なのだ。
それが、限界だから抜いてくれと頼んでくる──?
あまりに都合が良いというか、話が旨すぎるというか、洒落にならないというか、ドスケベが過ぎるというか、現実味のないことである。
はい喜んで、以外の答えがない。よほど偏屈な女でない限り、乗らないはずがない。
強いて難点を挙げるならば、竜か何かかと思うぐらい本当に洒落にならないほど放精なさることが問題だったが、裏を返せばそれだけ本当に欲情なさっていた証拠である。心底ドスケベが過ぎる。
少なくとも、優美な皇子には到底似つかわしくない所業である。
あんな色気のある首筋や鎖骨、逞しさの見え隠れする腰元のくびれ、甘く痺れる声、氷の彫刻を思わせる涼しい横顔をしておきながら、こんな実態を知られたら、間違いなく他の侍女たちの性癖が壊れる。
殿下の指先が長くてメロつきそうとか、あの意地悪っぽい細い目がたまらないとか、そんな話題できゃっきゃしてるところに、こんな火力強めの剥き出しのスケベを放り込んだら、死人が出てもおかしくない。
さもありなん。
鼻立ちとかまつ毛に官能を感じている連中に「勃起が一番エロい」とか言い出そうものなら、それはもはや宣戦布告である。口でご奉仕したことがあるなんて喋った日には国が割れる。それを口にしたら戦争だろうが、と有名な言葉があるが、殿下のそれは冗談にならない。
だというのにあの殿下、下手すると両手の平から溢れそうなぐらいに吐精するのだ。
頭がおかしくなりそうだった。容赦がない。そんなに溜め込んでいらっしゃるなんて。全部自分に曝け出してくれるなんて。常日頃から殿下のことを、外道の殿下、畜生、鬼、人でなしと思っているが、自分にぶつけてくる欲情の強さもまた人外のそれに近い。
人を壊すつもりかと思った。
そんなルーク殿下を全部独り占め。
今の自分は、きっと殿下に最も近く――。
(⋯⋯なりません。殿下は、王に相応しき御方。相応しき伴侶がいなくては)
忠実なる第一の侍女、ロナは、憧憬の念をはみ出そうになる想いを、深く押し殺していた。
陽の輝きが強ければ、影の深さもまた強い。夜の月の光は、輝きの強さで他者を焼き焦がすことはない。ただ、夜を往く旅人を導くのみ。
日輪と月輪が、空を共にすることはない。
天恵四つによる精力ボーナス(約三倍)と、諸々の称号獲得による精力ボーナス(約三倍)の弊害です。まだまだレベルアップするし称号かき集めする予定です。正気か?
なお、ロナ以外にこのことを知っているのはラネールとカマソッソの二人だけです。