貞操逆転世界の悪徳皇子になった俺、ひたすら魔石を食べて強くなり、破滅フラグを回避します 作:ナロウ・ケイ
◇◇◇
物語の舞台は、東方の未開拓地、ジャヴァリ森林地域にて繰り広げられる。
──各地に立ち込める、薄い毒霧。
──肉食の獰猛な魚が住まう、危険な川。
──獰猛で小賢しい
森の管理人を自称する
純普人族の帝国貴族からすれば、唾棄すべきであり忌むべきである、穢らわしい場所。
神話によると、『争いの女神』がこの地で血を多く流したため、その血が今もなお土地を呪って瘴気を生み出しているのだと説明されている。
そのような過酷な環境ゆえに、この地は、独自の生態系を作り上げていた。
『やあ、ここはジャヴァリ森林地域の駐屯地だ。見ての通り、簡易な物見櫓と土塁しかないが、治安はこれで十分に守られている。探索者ギルドの支援を受けて、この地方の魔物に対する防衛は何の問題もなく機能している』
義勇軍団長のシェス・リューデリッツ護民官(※リューデリッツ伯爵という貴族の親戚らしい、名前は特に覚えなくてもいい)の案内で、主人公たち一行は駐屯地に足を踏み入れる。
駐屯地は、いかにも開拓をここから始めようという活気があった。
この地の義勇軍と探索者ギルドの傭兵は、定期的に協力し合って、森の魔物を一掃しているという。その際、この地域の森深部に住む蛮族──【黒き森の氏族】を始めとする少数部族たちの力も借りているらしい。
『安心したまえ。この地を脅かす魔物たちは、我々辺境義勇団が全て成敗してみせよう。ふふふ、それでも心配かね。心配なら私の傍にいるといいぞ──』
さしたる苦労を知らなさそうな、外見だけはいい女団長、シェスの自慢話のその裏で。
上辺だけ取り繕ったこの軍、実は裏で邪教団と繋がっており、物資の横流しや策謀が裏で蠢いているのだが──そんなことなど、四人の英傑たちの知る由もない。
『──貴様ら黒虫どもが大事にしているその巨木、それを竜骨とした大きな船を建造させてもらおう。さすれば、帝国の海洋交易の商圏はより広がり、飢える民が減るのだ!』
帝国の愚かな貴族の暴走。
この一帯の森を保護する世界樹を切り倒そうとする蛮行。
一度は敗北した【黒き森の氏族】たちだったが、あまりにもひどい帝国のやり口に耐え兼ね、再び反旗を翻すことを決意する。
その影には、叛乱を焚きつけながら、
『あはは、見て! 人が、
世界樹、もとい
集う
星教団とは異なる教義を持つ異端者、地下教団【魂の在処】の邪教徒。
破られる【生命の不文律】。
──空に浮かぶ≪天空の森≫。邪教団が設立を目指した、迷宮国家の一つ。
その頂上に佇むは、本編ではあまり背景を深く掘り下げられなかった登場人物、盲目の狩人ロナ。
それが『大いなる実りのジャヴァリ・ランド編』。
どこかの皇子が危険な森を大規模開拓し、一万人規模の都市を作り上げ、現地民を焚きつけた叛乱も何も起こるきっかけがなく、土地を巡る魔力の循環も根っこから改造されてしまい、早くも計画が跡形もなく木端微塵になっていたはずだったが──その計画を陰で進めている者がいた。
そう、ジャヴァリ森林地域に滞留し循環する魔力を利用して、≪天空の森≫を再現しようとする者がいたのである。
◇◇◇
あのルーク皇子が、今までのジャヴァリの森の繁栄を振り返って、宣誓式典を行うらしい──。
内容の詳細は不明瞭だったが、民は喜びに沸いた。
きっとあの破天荒な皇子のことだから、今回も凄いことをなさるのだろうと、まだ終わってもいない式典を飲めや騒げやで祝っていた。
呑気なものである。一体ご領主様が何を宣言なさるのか、内容さえも知らないうちから、吉報なのだと決めつけているのだ。
街の中は出店の屋台で賑わい、まるで祝祭が催されているかのような有様だった。
(この機であれば、ルーク皇子の声を直接聞くことができる。必ず真意を問いたださねば)
──と、どこかに潜む赤毛の少年と、地下教団の教祖が奇しくも同じことを考えていた。
精霊たちだけが、その奇妙な一致を知っていた。そして精霊たちだけが、これから起きるあまりにもひどい喜劇を知っていた。
それでも彼女らは、ただ愉快なことを見守って愉しむだけ。今日のこの日にあっても、精霊たちはけらけらと笑うだけだった。
『今日、私は諸君らと! 大いなる喜びを分かち合えることを誇りに思う! 我らが領土、ジャヴァリの地は、これより、新たなる栄光の地へと生まれ変わるのだ!』
魔力により拡声された大演説は、とても力強い声音だった。
大きな決定事項は、事前に領民に向けて周知を行う必要がある。そうでないと混乱が生じたり、暴動に巻き込まれて怪我人が発生したりしかねない。
そうした意味でも、皇子による演説は効果的だった。意志の強さを感じる声音は、いかにも頼りがいのある果断な指導者を彷彿とさせた。
一体あの皇子はこれから何を宣言なさるのか、と。
領民たちが期待を膨らませているのがひしひしと伝わってくる。
そう、今日は宣誓式典の日。
領主権限によって、この日は独自の祝日として関係者たちに通達されている。要するに為政者側から、今日はお祭りの日だから騒げと認可をもらったようなものなのだ。
住民たちが皆浮かれているのは、おめでたいことだから楽しく騒ごうとしているだけのことだった。
皇子は、少しだけ間を置いてから、高らかに宣言なさった。
『この地、ジャヴァリの森一帯は、≪天空の森≫として空を目指す! 天空の庭と言い換えてもいい! 我々の居住地は、一か月後には、空の上だ!』
≪天空の森≫。
鎮まる声。
理解が追いつかないのか、沈黙がしばらく続く。
やがて、数巡ほど遅れて、歓声が爆発した。
よく分からないけど凄いことだ、と領民たちは理解したのだ。
そしてその一方で。
頭が真っ白になるほど、衝撃に貫かれている者たちがちらほらと。
きっとこれから凄いことが起こるんだ、と騒いで踊る熱狂の中で、雷に打たれたように愕然としている影があった。
◇◇◇
「殿下、演説お疲れ様でした。とても素晴らしい演説でした」
「? 浮かない顔してるけど⋯⋯何かあったのか?」
領地内の見張り台に急遽作られた演説台から、民に向けての演説を行った俺は、着替えながら簡単にロナからの報告を受けていた。
着替えというのは、演説用の豪華な服装から、普段の執務着への衣装替えのことだ。服の重さが全然違うし、なくしてはいけない装飾品もたくさんあるので、こうやって一旦脱いでおくのだ。
少しばかり当惑しているロナは、何だか言葉に迷っているらしかった。
「あの⋯⋯ルーク殿下、広場にいた住民たちは熱狂の中にいました。演説も非の打ち所がございませんでした。ですが⋯⋯その、打ちひしがれているものがおりまして」
「? 何かあったのかな」
「何というか、≪天空の森≫の話で、尋常ならざるほどに泣き崩れておりました⋯⋯。今にも暴れそうだったので、警邏のものが捕縛しております」
衛兵たちが捕縛してるって。どういうことだ。
相当危ない泣き崩れ方だったのだろう。今にも暴れそうと言うことは凶器でも振りかざしていたのだろうか。
「⋯⋯面会したほうがいい?」
「えー⋯⋯と、あの、はい。本来はお勧めしませんが、ラネールがそう判断しております。あの子の判断なら、信頼がおけるかと」
「ふーむ」
演説中に泣き崩れる怪しい人物。
常識的に考えたら、絶対に面会したらいけない人だろう。危険思想の持ち主とか、まだ身体に凶器を隠し持っている人とか、そういう手合いの可能性がある。
だが、ラネールの判断も気になる。確かにあの子は賢い。《花園》上がりの優秀な密偵であり、暗殺者であり、うちの臣下たちの中でも一際優秀な参謀役なのだ。彼女の判断に間違いはほぼない。
しかし≪天空の森≫の計画、そんな泣き崩れるような話ではないはずなのだが。
そんなことを考えているうちに、秘密の小屋(普通の牢屋とは違って、思想犯や政治犯を捕まえて拷問するための隠し部屋)にたどり着いた俺は、そこで絶句した。
全て理解した。
(まじかよ)
確かにこれは、面会して正解だった。
そこには、二組の者たちが捕まえられていた。
一組は、薄汚い格好をした、赤髪の少年だった。
心を砕かれたような虚ろな表情で「な、なんで、なんでなの⋯⋯ひどい、ひどいよ⋯⋯うそだよ⋯⋯ぼく⋯⋯しんじてたのに⋯⋯」とぐすぐずに泣いていた。
一組は、
後ろに侍っている集団たちは「ククク⋯⋯皇子は逆鱗に触れたな」「越えてはいけない一線を越えたのだ」「もう立ち直れんぞ⋯⋯? 我らが猊下がな」と何やら話し合っていた。三人とも顔が死んでいた。
そして話題の猊下は、「ひどい⋯⋯ひどいです⋯⋯。なんで⋯⋯私の計画⋯⋯横取りするのですか⋯⋯?」とこちらもぐすぐずに泣いていた。
空気が沈んでいた。凄く重い。
「────────やば」
この二組の周りで、精霊たちがきゃーきゃー、いひいひ笑っていた。大爆笑だった。
俺も俺で、事の重大さに直面して、死にそうな顔になっていたかも知れない。
俺には分かる。
赤髪の子は、多分オーベリア。
もう一つの猊下は、多分サルヴァ。地下教団の教祖であり、まだどこかに潜んでいるはずの原作ラスボスの一人である。
何でここに居るねん。と。
最悪の出会いが起こっていた。
「⋯⋯犠牲者は? 捕縛は問題なかったのか?」
「はい⋯⋯。その、殿下と面会できることを条件に、穏便に身柄を預けていただきました⋯⋯」
まじかよ、と俺は内心で毒づいた。
ロナもまだ多分、状況を見誤っている。圧倒的多数で囲っている俺たちが有利──と誰もが思い込むこの状況。
俺だけが、いまだかつてないほどに命の危機を感じていた。俺の命の危機ではない。ロナとか、ラネールとかカマソッソとか、守りたい人の命の危機を、である。
※ちょっと勢いで更新しているため、あとから修正するかもです。
■よくわかる解説:
◎地下教団の教祖サルヴァ → ルーク皇子
自分の計画を滅茶苦茶にされたかと思ったら、計画横取りされてて激怒、頭おかしくなりそう。
◎謎の赤毛の少年オーベル(オーベリア) → ルーク皇子
邪教徒の計画をくじいてくれる味方だと思ってたら、≪天空の森≫計画を遂行してて激怒、頭おかしくなりそう。
◎ルーク皇子 → 二人
何でおるねん。