貞操逆転世界の悪徳皇子になった俺、ひたすら魔石を食べて強くなり、破滅フラグを回避します   作:ナロウ・ケイ

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貞操逆転世界の悪徳皇子と、輪廻の英傑と、転生の教祖①

 遠くの未開地へと向かう馬車の中にて。

 

「あの顔がいい皇子、マジで人遣いが荒いな、ちくしょう……!」

 

 賢者(キルケ)は心の底から腹が立っていた。例の皇子もそうだが、ほいほいと乗ってしまった自分にも苛立っている。

 何せあの皇子、顔がいい。自分たち英傑四人衆は、残念なことに天然ドSイケメン皇子が大好物な面々であった。他ならぬ賢者(キルケ)自身もそうだった。庶民の自分だったらそもそもお目にかかることさえ不可能なほどの殿上人なのに「俺と遊ぼうよ」とか誘ってくれるクソイケメンなんて、絵にかいたような理想像の王子様過ぎて笑いが出る。自分がお姫様になったのではないかと勘違いするぐらいの大盤振る舞いだった。鬼畜な無茶振りもご褒美だった。

 正直、剣聖のイオリ(ドМ忍者)と同類だと思われたくはないのだが、あの皇子に強く迫られたら断る自信がない。多分陥落する。

 

「でもあの皇子と離れてから二年間と半年、私たちは見違えるほどに強くなりましたわ。そうではなくて?」

「辛く険しい修行でござった。されど、手に入れた力は本物にござる」

 

 前向き全力脳筋少女二人(エイルとイオリ)が得意げに胸を張る傍ら、賢者(キルケ)はどうしても眉間にしわが寄るのを隠せなかった。

 

 よく言う。あの皇子には恨みが山ほどある。おしっこ我慢ド根性一〇〇〇枚競技かるたとかいうふざけた試練によって、合計千パターンの呪術詠唱の暗記──祝詞(のりと)祓詞(はらえことば)などの独特な典礼言語を身に着けたのは認めるが、尊厳を台無しにされてしまった。

 その上さらに、詠唱術式(テーマ曲)舞踊術式(ダンス)礼装概念(コーデ)をばちっと決めた、歌って踊れる可憐な魔法少女(アイドル)(※うわキツ)にまでなってしまった彼女は、陰キャのくせに前向き全力脳筋キラキラ少女二人(エイルとイオリ)と並んで立たされる羽目になっていた。死にたいと思ったことは数えきれない。隣にだらしなさMAX酒クズ聖女(アナスタシア)がいなかったら精神的負傷で血反吐を吐いていただろう。仲間がいたおかげで、かろうじて致命傷で済んだ。引き換えに、『アホ丸出し四人組のうち、だらしない体つきの二人』と認知されてしまったが。本当に死にたい。

 それでいてあの皇子ときたら、手紙で『早く会いたいね』とか平気で抜かすのだ。戯言もいい加減にしてほしい。人のことを弄びすぎである。許せない。自分じゃなければ絶対許してないからな、と賢者(キルケ)は内心で臍を噛んだ。

 

「ですが、素敵な果実酒(ブランデー)を送ってくれました手前……ねぇ?」

「ねぇ、じゃねえよ」

「過ちは人の常、赦すは神の御業、ですよ」

 

 もう一人の相方、だらしない聖女(アナスタシア)がほにゃりと柔らかい口調で諭した。この女は、顔としゃべり方だけで得をしているが、中身はまごうことなき酒クズである。何も考えてない能天気女。こんなの(※能天気と脳筋)しかいないのが我が英傑四人パーティである。最悪だった。馬車の窓から外を眺めて、賢者(キルケ)は溜息を吐き出した。

 

「でも、ルーク皇子の助言のおかげで私たちは強くなったのですわ。以前より遥かに強く」

「⋯⋯⋯⋯まぁ」

 

 屈託ない英雄(エイル)の言葉。こうも言われてしまうと、真っ向から否定するのは気が引ける。

 

 この二年間と半年。濃密な思い出が色々と。

 あの皇子に「一緒の学校に行こうよ」と約束したというのに、たった一年でなぜか向こうは学校を追放されてしまって。

 そのまま勝手に魔物の蔓延る危険な未開地の領主になっていて、これはもう命も危ないのではないかと冷や冷やしていたら、なんか知らないうちに一万人規模の都市が出来ていて。

 鼻が腐った病人や、手足を戦で失ったりした退役兵士、歪んだ思想を持って追放された政治犯や宗教犯、二度と贖えぬほどの罪を犯した死罪人がわんさかと押し寄せて、絶対に治安が悪化して滅茶苦茶なことになるだろうと心配していたのに、傷病人は癒されて罪人は更生して。

 人の心配を一体なんだと思っているのか。

 あと手紙がひどい。無理難題をこなせとか平気で言ってくる。鬼である。

 

「……強くなったな。心が」

「心? んー、まあ、いざというときの度胸はついた気がしますわね!」

 

 なんというか、根っから前向き脳筋少女の英雄(エイル)らしい答えだった。

 英傑四人のうち格闘派二人(エイルとイオリ)は、最初から心が鋼で出来ている。残る聖人(アナスタシア)は心臓に毛が生えている。心がぼろぼろなのは賢者(キルケ)ただ一人である。

 そうじゃないのだが。賢者(キルケ)は口をへの字に歪めた。

 

「旧図書館の迷宮、閉じ込められたときは大変でしたわね!」

「きつかったでござるなあ。見たこともない古代言語の解析から、仕組まれた魔法陣の謎解き(リドル)まで、全部賢者(キルケ)の助けあってのことでござったな」

「そうですねー。夜中に暖を取ろうと本に火をつけようとしたらしばかれましたねー」

 

「旧音楽室の倉庫、楽器と楽譜が魔物になって襲ってきたの凄かったですわよね!」

「拙者、音符に合わせて歌うのが辛かったでござる」

「あー、確か私が太鼓の革を煮込んで食べたら皆にドン引きされたやつですよねー?」

 

「そういえば旧生物室の踊る生物標本! 何度倒しても復活するのが厳しかったですわねー!」

「そうでござるか? 拙者は旧生物室の踊るキノコたちが厄介でござった」

「んー、上手に踊ったら許してくれるやつですよね? 運動音痴の私と賢者(キルケ)がひどい目にあった気が」

 

 やんややんやと盛り上がる馬車内の会話。

 全部覚えている。立ち入り禁止区域として学院側が封鎖している場所にも、何度も足を踏み入れた。

 魔物を狩って、中央の迷宮核が成長していたら削り取って、学院に持ち帰って……という過酷な任務。

 教育施設になぜそんな危険な場所が、と文句を言いたかった賢者(キルケ)だが、肝心の皇子からは「そういう世界なんだって」とか意味の分からない宥められ方をされたことを覚えている。そういう世界ってどういう意味なのだろうか。

 

 あと、《勇猛の獅子》寮では、いろんな不良娘に喧嘩を売られて戦って、叩きのめしたら()()になった。

 あと、《節制の羆》寮では、仙人みたいな服装の小さいドワーフの老婆から、ドMしか喜ばないようなキツい修行を押し付けられて、達成したら巻物を授かった。

 あと、《正義の双蛇》寮では、「ふーん、おもしれー女」とか言ってくる金持ち御曹司(理事長の息子らしい)に、錬金料理大会の出場を命じられて、古今東西の錬金術レシピを叩き込まれた。

 あと、《知恵の大鷲》寮では、詠唱術式(テーマ曲)P、舞踊術式(ダンス)P、礼装概念(コーデ)P、とそれぞれ教授(※ProfessorだからPと呼べと言われた)にみっちり鍛えられて、査読会(オーディション)を突破して学会発表(アイドルステージ)に立たされた。

 

 二年と半年。

 本当に長かった。

 

「本当、ふざけた毎日だったな……」

「早く皇子に会いたいですわね!」

「ご馳走でおもてなしと手紙にはござった。楽しみでござるな!」

「ですねー。あの皇子様、金払いだけは本当にいいですものねー」

 

 さらっと毒舌をこぼす聖人(アナスタシア)だったが、まあ、賢者(キルケ)も異論はなかった。

 学費は全部免除、教科書類から制服類は全部皇子が手配、行きと帰りの馬車代に、学院内での飲食代に宿泊費まで全部皇子持ちだった。破格の待遇である。大学を卒業すれば、聖職者にもなれるし、どこかの領主の政務官として士官できるというこのご時世、金銭的負担を全部引き受けて大学に通わせてくれるのだから、ありがたい話である。本当に皇子には頭が上がらなかった。

 人でなしだが。

 

「まー、流石に再会したら、しばらくはゆっくりできるだろうなー」

「今まで忙しすぎましたわね」

「骨休めも必要にござる」

「うふふ、そんな都合よく災難が降ってくるなんてないですねー」

 

 いくらあの皇子が忙しい身分だからといって、いきなり賓客である自分たちが厄介ごとに巻き込まれるとは考えにくい。

 流石にそんなことはないだろう。間違いない。そんなことがあってはたまらない。

 

 道すがら、馬車はがたんと大きく跳ねた。すわ一体何事か、と先行きが不安になるほどの衝撃だったが、特に止まることなく馬車は進んだ。そういうものだ。人生もそうなのだ。道中に障害があっても、なんだかんだで乗り越えてのらりくらりと前に進むのだから。

 賢者(キルケ)は勝手に自分一人で納得した。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

「なっ、何をふざけたことを! 許せませんな! 私が恐れ多くもランカスター公シェリル2世閣下の使節であることを知っての狼藉か!?」

「どうか、どうか、落ち着いてほしいっス! 本当に大事な賓客をお招きしているっス、どうか、どうか……!」

「無礼者! 余はランカスター公シェリル2世閣下の代理、正式なる使節であるぞ! 公爵閣下の言葉にまさる本当に大事な賓客などいるはずがない! かの聡明な皇子殿下かそんな無礼を命ずるはずがなかろう! 通せ!」

「殿下の勅命っス、署名がこちらっス! どうか、どうか……!」

「なんと……!?」

 

 大きな村落があるなあ、と間抜けな感想を抱いていたのもつかの間のこと。

 近づけば近づくほど、本当に大きくてどこが終わりなのかぱっと見ではわからないほどの規模の集落ができていて。

 賓客用の関所が別場所に設けてあるということでそこまでわざわざ丁寧に案内してもらって。

 いやはやこれはもはや独立都市なのではないか、とかぼんやりと考えていた賢者(キルケ)の目に、何かが飛び込んできた。

 

 すごく偉そうな女性が、とんでもなく揉めていたのだ。

 

(うわあ……。嘘だろ、公爵閣下の使節をお断りするなんて死罪もありうるほどの無礼だぞ……)

 

 関わりたくない、と思った賢者(キルケ)は他三人にこっそり耳打ちをしようとした。

 その矢先だった。

 

「あっ! いたいた! この四人っス! 早くお通しして!」

 

 声がした。砕けた口調の蓮っ葉少女が、部下の侍女たちに何かを指示していた。

 理解が追い付かなかった。背筋が凍った。

 

「どもっス。アタシはリコッタって言うっス。皇子がお待ちっス!」

「──────」

 

 砕けた口調の蓮っ葉少女がやってきて、背後にいるすごく偉そうな使節の女性が憤懣やるかたない顔つきでこちらを睨んだ。

 賢者(キルケ)は、少し前までの自分を殴ってやりたい気持ちになった。

 使節をお断りするほどの事態になっているらしい。胃が凍るような感覚が遅れてやってきた。




 なんかこの場に、『宿業の騎士』になれる器のものたちが集結しているらしいです。

 次回、「全員パニック」
 こうご期待!

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 この度「貞操逆転世界の悪徳皇子になった俺、ひたすら魔石を食べて強くなり、破滅フラグを回避します」がオーバーラップ文庫様より書籍化いたします!

 ここまで来れたのも、ひとえに皆様の応援のおかげでございます。この場をお借りして厚くお礼申し上げます。

 イラストはさぼてん定食様(https://x.com/Cactus0130)です!
 登場する女性陣に美麗なイラスト(かつエロ注文をアホほど付けてしまったやつ)を描いていただきました。
https://over-lap.co.jp/%E8%B2%9E%E6%93%8D%E9%80%86%E8%BB%A2%E4%B8%96%E7%95%8C%E3%81%AE%E6%82%AA%E5%BE%B3%E7%9A%87%E5%AD%90%E3%81%AB%E3%81%AA%E3%81%A3%E3%81%9F%E4%BF%BA%E3%80%81%E3%81%B2%E3%81%9F%E3%81%99%E3%82%89%E9%AD%94%E7%9F%B3%E3%82%92%E9%A3%9F%E3%81%B9%E3%81%A6%E5%BC%B7%E3%81%8F%E3%81%AA%E3%82%8A%E3%80%81%E7%A0%B4%E6%BB%85%E3%83%95%E3%83%A9%E3%82%B0%E3%82%92%E5%9B%9E%E9%81%BF%E3%81%97%E3%81%BE%E3%81%99+1/product/0/9784824014375/?cat=BNK&swrd=
 魔石浄化(意味深)のイラストまで、本当に頭が上がりません……!

 2025年12月25日に文庫サイズで発売いたします。
 本作品には店舗別で特典SSが付いており、それぞれ違うSSを書き下ろしでご用意させていただきました!
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 引き続き本作をよろしくお願いいたします。
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