貞操逆転世界の悪徳皇子になった俺、ひたすら魔石を食べて強くなり、破滅フラグを回避します 作:ナロウ・ケイ
帝国の貴族たちは、一枚岩ではない。領地拡大と植民地獲得に野心を燃やす武断派もいれば、経済圏の拡大と資本による支配こそ絶対正義と見做す富国派もいる。
その両派閥から嫌われながらも恐れられていたのが、ルーク皇子である。
『俺はただの皇子だから、何の決定権もないけどね……』
ルーク皇子はどちらかといえば、皇室派閥に所属し、富国派に近い考えを持っていた。だが周囲の貴族とは一線を画するほどの富国論過激派であり、尚且つ既存の法制度への改革派とさえ見られていた。
要するに「領地拡大する暇あるなら絶対資本経済回すマン」だったのだ。
地政学的観点から要所とされてきた場所がいくつかある。武断派──いわゆる軍閥所属の貴族筋からは、長年の間熱望されてきた領地だ。
相手方との兵力差も十分にあり、そこさえ抑えたら次なる領地拡大にも繋がる理想的地形。その侵略戦争を妨害したのがルーク皇子だったのだ。
『まだまだ放置していいよ。相手方も、あの領地は莫大な出費をして何とか維持してるだけなんだから、そのまま出血させ続けたらいいんだよ。今狙う必要はない』
帝国領を広げて功績につなげたい、あわよくば自分の領地を拡大したい、という軍閥貴族の焦りをなだめるようなルーク皇子の声。
実際のところ、その領地には経済的な旨味はない。有用な資源もなければ商売販路の開拓にもつながらない。ただ次の侵略戦争がやりやすくなるだけ。
もちろんその侵略戦争を警戒されて、他の三勢力(西方の星教国、北方の商業王国、南方の君主国など)から兵力の援助を受けて何とか維持されている場所なのだが。
そういった場所へ侵攻したいという声が高まる中、ルーク皇子は毅然とそれを断っていた。感情論ではなく理屈で。
『兵力の援助なんて無限には続かないさ。向こうも帝国を過剰に恐れて無理しているんだからね。それより、向こう十年は攻め込まない不可侵条約でも締結したほうがいいんじゃないかな』
不可侵条約には、一部商品の関税撤廃、帝国通貨の両替所の設置、行商用の馬車路の整備費用の共同出資を条件に。
平たく言えば、戦争せずに経済的な植民地にするというもの。功績が欲しいから攻め込みたいという軍閥貴族も大概だが、ルーク皇子の提案も外道だった。
確かに不可侵条約を結べば、兵力の援助にかかる莫大な負担が減る。なので相手から見れば不可侵条約を締結したほうが経済的負担や兵站の負担の観点から得ではある。だが一方で、帝国は何もせず濡れ手に粟の得をかすめ取っただけ。向こう十年と期間が限定されているのも、次の交渉材料にうってつけである。
もちろん、その十年間の間に世界情勢が変わる可能性もある。広げられるうちに勢力圏を広げてしまおうという軍閥貴族たちの声も、一定の理がないわけではない。ただ単純にルーク皇子の考えが理路整然としていて、それを覆すほどの強い論拠を提示できないだけであった。
……………………。
…………。
ジャヴァリの僻地で現実を見るがいい、とせせら笑っていた宮廷雀の官僚貴族たちが、唖然とするばかりか顔色をなくしてしまって久しく。
二年半ほどの月日の中で、
魔物と蛮族が跋扈し、農業も、工業も、商業もおぼつかなく、地方領主の管理さえも行き届かず、自警団もどきの連中が盗難品やら違法品やらを横流しするのに使われていた僻地、ジャヴァリの森が、あっという間に生まれ変わって。
「どうして どうして こうなった」
ルーク皇子を疎んでいた、とある貴族派閥の一派は、僻地に飛ばされたにもかかわらず活き活きしているあの忌々しい畜生皇子のせいで、未だに肩身の狭い思いをする羽目になっていた。
皇子の思いついた複式簿記による新会計法、これが会計官に思いの外よく広まっていた。そして有用なものと認められてしまい、覆すことはとうとうできなくなってしまった。帳簿を弄って裏金を作っていた地方諸侯や宮廷貴族たちにはこれが痛打となり、逆に会計をつかさどる監査組織の一派が政治的な発言力を増すことになった。(ルーク皇子は会計官たちが政治力を強めることに否定的ではあったものの、結果としてはそうなっていた)
さらに、話はそれでおしまいではなかった。
何もない僻地に飛ばしたというのに、なぜかそこには川ができており(?)、なぜかそこの蛮族たちは皇子に忠誠を誓い(?)、なぜかそこの領地には小国家と呼んでも差し支えないほどの都市機能が完成していた(?)という。
帝国内に突如、一万人規模の内需を作り出し、雇用を創出し、経済活動を生み出したのだから、ルーク皇子の功績は誠に大なりと言えよう。
そんなルーク皇子の足を引っ張ろうとした連中は当然、冷笑されることになる。
あの破天荒な皇子にはそれなりに人望があった。そしてルーク皇子を疎んでいた貴族派閥のいくつかは、対抗勢力に『あの報国の功労者ルーク殿下になんと失礼なことを……皇族への敬意はないのかね』と揶揄された。貴様らもかのルーク皇子の賛同者ではなかっただろう、ただの傍観者だったろうが、という反論もむなしく、これ見よがしに権力抗争のネタとして当てこすられてきた。
結果が、『先見の明もなければ後進の若者を導く気概もない、薄情で無能な宮廷雀』という悪評の流布である。
「なぜ金銭的援助も人的援助もなしに、あそこまで大規模な都市運営をできるというのだ……!」
そういった声は、幾度となく上がった。実際、そういった質問をルーク皇子本人に問い合わせる向きも少なくなかった。
ルーク皇子本人からの手紙の回答も、強烈だが要領を得なかった。川があって食料があって住民に厚く慕われていたら普通に発展しました、では話にならない。全部なかったのに。どうやって。
ランカスター公シェリル2世も、ルーク皇子にまんまと一杯食わされた方の貴族である。血筋だけ立派な古い貴族と揶揄されてきたランカスター家だが、ルーク皇子がジャヴァリの地に赴任する際の名義上の寄り親貴族にあたる。名義上あの森を所有していた名ばかり領主だったリューデリッツ伯爵、近隣を所領しているものの特にジャヴァリを統治するでもなく放置していたモロー伯爵とガスターデン子爵、それらを従えているランカスター家は、いうなれば皇族も無視できないほどの大貴族。
それが、大領主たる自分に許可なく、河川整備や道路整備、軍備まで行っているという噂が流れている。誇大解釈すればこれは国家反逆罪。ルーク皇子の無礼千万は問い改めねばならない──というのが建前である。
本音は、何とかいちゃもんをつけて、過去に金銭的援助や人的援助をしたということにして、多大な上前をせしめたいというところにあったのだが──。
「まさか本当に、帝国から独立する気だというのか……あの気違い皇子め……!」
最低限必要な行政上手続きと手紙上での丁寧なやりとり(※つまりコケにされている)で、二年もの間あしらわれ続けてきたランカスター公は、この上なく頭にきていた。形式上は皇子なのであちらのほうが身分が上なのだが、普通は向こうからランカスター家に挨拶に訪問するのが筋合いである。
それをしなかったまま二年。
しかも、勝手にランカスター領では類を見ないほどの大都市が出来上がっているのだから、社交界での面子丸つぶれもいいところである。ふらりとやってきたよそ者の方が領地経営が上手いなど、この上ない屈辱である。
確かにランカスター公は、過去にルーク皇子と対立したことがあった。領地拡大と植民地確保を是とするランカスター公の考えとルーク皇子の軟弱な考えは、相容れないところがあった。あの皇子に潰された儲け話もいくつかある。憎い相手である。
別段仲のいい間柄ではない。こういう慇懃無礼な対応を取られても、仕方がないというものの見方はできる。
とはいえ、物事には限度というものがある。
「はッ! もう、もう許せん! 使節を送り付けて、あの若造の真意を問いただしてやろうではないか!」
そうして、ランカスター公は使節を送り込むことにしたのだった。
そこでもコケにされることを全く知らぬままに。
◇◇◇
(
たとえこの世に並ぶもののない至尊の方、皇帝陛下の勅令であっても、俺は
この二人を無視するわけにはいかないのだ。
摂理を歪めかねない異物。
世界にとってあまりにも危険な存在なのだ。
「…………あの」
「…………ええと」
だが、当の二人は完全に顔色を失って、焦りのような表情さえも浮かべている有り様だった。
二人は、この俺ルーク皇子自らによる丁寧な案内によって、上屋敷までの道を人力車で運んでもらっている最中だった。つまり最上級の賓客に対するおもてなしである。
公爵の使節を差し置いて。
仮にも公爵から権限を委譲された公的な代理人を、放っておいて。
今、この人力車の中には、俺、ロナ、
精霊たちは、ぎゃはは、いひひ、と大爆笑している。これでいい。
「……どういうつもりかな、皇子。僕はただ、君とお話をしたくて」
「どういうつもりですか。貴方は計画を台無しにするばかりでなく、こんなことまで……!」
勝手に死刑にされてもおかしくない状況に巻き込まれている
「話は後! まずは屋敷に向かって、身を清め、晩餐を楽しみ、長旅の疲れを癒されるといい!」
ほら、あれが我が領地自慢の共同水車で、等とどうでもいい解説を続けながら、隣のロナに目配せを送る。
多分ロナが一番動揺していない。肝が据わっている。流石は俺の右腕である。この状況に強烈な違和感を覚えているのは目に見えてわかったが、全幅の信頼を寄せている
ちなみに人力車を引っ張っているのは《
「あ、サルヴァ? 後でお付きの三人も来るから安心してね」
「そんなのは当たり前です!」
物事には優先順位がある。
原作の黒幕、教団の指導者、【夢の妖精女王】サルヴァの配下には
そのうち【道化師】ハーレクイン=ワヤは俺の部下になったので、残るは三人である。例に漏れず、彼女たちも非常に強力な術士であり、油断ならない強敵である。
お目目ぐるぐるで食い気味の
「あ、えっと、大丈夫、大丈夫、あのお付きの三人の命は保証する、きちんともてなすとも、だから」
「脅しのつもりですか!?」
「いや、全然! そんな!」
多分大丈夫である。こんな時のために、英傑四人がいるのだ。ここにいる誰が暴れようとも、何とか武力で鎮圧できる。
二日ほど日程にずれはあったものの、本当にちょうど運よく、あの四人がここに来てくれるというのだ。
逆に言うと教祖様や主人公様には二日ほど関所の寝室で寝泊まりしてもらう羽目になっていたのだが、これでようやく本当にきちんと丁寧におもてなしができるというもの。もう謝り倒すほかない。ここにいる面々の機嫌を損ねてしまったら、大陸全土に甚大な被害がもたらされかねない。過剰評価かもしれないが、原作を知っている俺からするとそのぐらい深刻な評価になっていた。
会話の傍らで、小さな精霊たちが、ぎゃひひ、ひーひー、と抱腹絶倒とばかりに笑い転げていたが。何か俺が勘違いしているのだろうか。
「……どういう状況なんだ、僕の知らない歴史だ」
はー……、と深い溜息をついたのは赤髪のオーベルの方である。声が若干高かったので女性版主人公=オーベリアのほうかな、と思ったが、精霊が「この子は女の子じゃないよ」とにたにた笑いながら教えてくれたので、多分男性版主人公=オーベルのほうである。一人称も僕だし間違いないだろう。
小さな精霊たちは相変わらず、いひひひ、きゃははは、と大爆笑だったが。
それにしても気になる発言である。知らない歴史とは。まるで知っている歴史があるかのような言い回しである。
やはり物語の鍵を握る主人公、オーベルである。非常に危険な相手でもあるが、極めて重要な人物と言っていい。
とにかくうまく懐柔しなくてはならないだろう。場合によっては
「まずは屋敷で沐浴! そうしよう!」
半ば強引に話を打ち切った俺は、念のため屋敷についてからの算段をロナに問い合わせた。
「沐浴の準備は?」
「はい、抜かりなく」
「ありがとう、流石はロナ!」
それにしても川があるのはいいことである。きれいな水資源をこうやって潤沢に利用することができるのだから。
「じゃあ俺は、オーベルと一緒に沐浴するから、
「はい」
その瞬間、がらん、という音が聞こえた。
見れば、オーベルが豆鉄砲を食らった鳩のような顔をして、何かの宝飾具を落っことして固まっていた。
反皇子派「【朗報】ド畜生皇子、自ら田舎に左遷される模様wwwwww」
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反皇子派「どうしてこうなった」
ルーク皇子「ゲームでも聞いたことないモブ公爵なんかより、ラスボス優先するやで^^」
サルヴァ「きが くるっとる」
ルーク皇子「歴史って言い回し、なんか知ってそうやな……。せや!裸の付き合いで仲良くなるやで^^」
オーベリア「ファッ!?」