貞操逆転世界の悪徳皇子になった俺、ひたすら魔石を食べて強くなり、破滅フラグを回避します   作:ナロウ・ケイ

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貞操逆転世界の悪徳皇子と、輪廻の英傑と、転生の教祖④

「……なるほど、盗み聞きは失敗しましたか」

「…………」

 

 教祖の少女は、仮面の三人に静かに問うた。仮面の三人は、ただ首を垂れて沈黙するばかりだった。

 ろうそくが揺れる影の部屋。誰もいない隠れ家。空間の狭間。夢の中。

 夢の中でわらわらと群れるウサギたちが、その赤い瞳をただ一点、教祖に向ける。

 夢の世界をいつでも自由に作り出せる能力──それが夢の世界の女王の異能。

 

「問題ありません。このような失敗で、貴方たちを処罰するつもりもありません。私は忠臣には、厚く報いるのです」

「…………」

 

 どこぞの皇子とは違って、と、小さな皮肉を口にして。

 

「聞くところによると、自分の側近衆を夜な夜な集めて、ひとしきり虐げることが趣味だそうですね。……凡俗な男だったことに少しだけ失望しましたが、まあいいです」

「…………」

 

 偵察に放ったウサギの魔獣たちの噂を総合すると、ルーク皇子の人物像が浮かび上がってくる。

 統治に目立った不安はなく、民への施しも厚く、そして支持も力強い。だが、自らを神格化して、奇跡の御子とか巨人を従える麗しの君だとか呼ばせているのは、流石にやりすぎである。

 その上、力こそ正義といわれるこの森林の地で、剛力で鳴らしていた荒くれ怪力女を一方的に蹂躙するほどの性のケダモノとも噂されている。

 このウサギどもは、頭の程度は信用ならないが──ある程度盛られた風聞を差っ引いたとしても、警戒心を高めるに越したことはない。

 

 なぜならばあの皇子は、例の赤毛の()()が男装であることを見抜いて、()()()とぼけて沐浴の同伴を言いつけるような外道である。

 そしてあの皇子は、またもやこちらの与り知らぬうちに計略を巡らせて、臣下三人の家族をも人質に取っていると、脅しの言葉で釘を刺してきた。

 警戒すべき人物であることに間違いはない。

 

 あの透き通るような美貌で、罪深いほどの強欲さで、切れるような深謀の青年。

 どことなく危険な香りのする、誠に悪趣味な男──。

 

「……あくどい皇子だこと。やはり直接対話するしかありませんね」

 

 小さな精霊たちがくすくすと笑うのが耳に障ったものの、教祖の少女の結論は変わらなかった。

 かの邪智暴虐のルーク皇子とは、やはり原罪の木を巡った対話が必要になる、と。

 

「あの皇子の正体はわかります。そこの子が持ち帰ってくれた情報が──史実を知っているという情報が、私に真相をもたらしてくれました」

 

 盗み聞きの成果は、なかったわけではない。断片的ではあるが、重要な情報があった。

 すなわち原罪の木。すなわち史実。

 今までの予言めいた手紙。先回りされて潰されていく教団の策。意味することは一つにつながる。

 

「そう、あの皇子の正体は──」

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

「ルーク皇子ったら、本っ当に根っからの鬼畜ですわね!?」

「そうかなあ」

 

 英雄のエイルが、本当に命がいくつあっても足りないと言わんばかりの勢いで噛みついてきたのがつい先ほど。

 お酒を渡せばいい聖人アナスタシアとか、根性入れろと喝を飛ばせばいい剣聖イオリとは違って、ちょっと最近知恵がついてきたような気がする。賢者キルケの入れ知恵かもしれない。

 ちょっと見やれば、肝心の賢者キルケも、白け半分、怒り半分のしかめっ面をしていた。他三人とは違ってこの子は中々騙されてくれないので苦労している。

 

「全くですわ、あの公爵様の使節の方をこんなにないがしろにして、どうなさるおつもりですの!?」

「まあ、そっちは最悪どうとでもなるよ」

「どうとでも!? どうとでも!? 

 

 あんぐりしている英雄エイルをよそに、俺は軽い答え方をした。

 俺皇子なんだが、という言葉はあえて言わない。

 確かにどうとでも、というのは誇張気味である。帝位継承権のほぼ末席に過ぎない俺と、由緒正しい大貴族の公爵家とでは、微妙に格が違う。

 俺のほうが現皇帝との血統は近いが、公爵家の血筋のほうが歴史的にも幾度となく皇帝を輩出してきたわけで、規範的な貴族の考え方では向こうを立てるべきとなるだろう。

 だがまあ、今は事態が事態である。

 こっちは原作ラスボスと対峙してるのだ。しかも居ないと思っていた原作主人公付き。選択肢を一つ間違えたら詰む……かもしれない。

 

「てわけで頼むキルケ」

「やめろやめろやめろ」

 

 話の水を向けたらこれである。死んでも嫌だとばかりに猛烈な拒否。まあ当然である。

 

「まだ何も言ってないんだが」

「何も言うな頼む殿上人の言葉を聞いてしまったら最後庶民は選択肢がなくなるんだよこんちくしょう」

「あのさ」

「わーっ! わーっ!」

 

 キルケに口を塞がれてしまった。手が細い。

 不敬といえば不敬だが、まあ、このぐらいはじゃれ合いの範疇である。俺は眉をぴくりとさせた《蝙蝠(カマソッソ)》を片手で制した。

 こんなの大したことはない。

 

「ほふぁ」

「ひゃあああああああっ!?」

 

 ちょっとしたいたずらで薬指を甘噛みしたら、キルケに尻餅つくぐらいに飛び退かれてしまった。顔が真っ赤である。ほあ、ほああ!? と意味をなさない台詞をのたまっているが、そんなに痛くなかったと思う。

 

「はい俺の勝ち」

「ひひひ人を弄ぶな!」

「で、今回は武力衝突があり得ると思っている」

「話の落差! 情緒イカれてんのか!?」

 

 情緒イカれてるのは絶対にキルケの方である。

 うええもうやだよう、とか半泣きになってる彼女には悪いが、どうにか四人の英傑たちには味方になってもらうしかない。

 

「簡単に説明すると、俺はこの領地を空に飛ばそうと思っている」

「あかん冷静に聞いてんのに話が耳に入ってこねえ畜生」

「本気なんだ、この計画は嘘じゃない」

「冷静に聞いて領地が空を飛ぶ訳ないんだよなァ! (半ギレ)」

 

 確かにそうなのだが、それはそれでまた時間を作って説明でいい。今はもっと大事な話がある。

 

「じゃああれか、近隣地の公爵と喧嘩になるから武力行使ってか」

「いや公爵は本当に関係ない」

「んなことあるか!? なんか話聞いてるだけで熱出そう」

「大陸を転覆しようとしている邪教団の教祖がこの地に殴り込みに来てて、ぶち切れてるんだ」

「あかん本当に熱出そう」

 

 ドンマイでござる、頑張ってくださいね、と背後の剣聖(イオリ)聖人(アナスタシア)が励ましていた。てめえらも頑張るんだよ! と一蹴されたが。

 

「あーもー謝っとけよ皇子……、今まであれこれ邪教徒のせいにしてごめんなさいって」

「いやそれは関係ない」

「絶対あるって! 絶対あるってば!」

「領地を空に飛ばす計画のほうで向こうはお冠なんだよ」

「知らねーよもう勝手にやってくれ……」

「元々は領地を空に飛ばす計画は、邪教徒の連中の計画だったんだけど、俺が横取りしちゃってさ」

ぬわああん! 疲れたもおおおおおおん! (半ギレ)

 

 そらぶち切れるわ、とキルケが頭をがりがりと搔きむしった。

 正直俺も、多少は邪教徒に怒られるだろうなとは思っていた。

 

「はあ、じゃあ何すか、悪い奴らをやっつけるんじゃなくて、悪いことしたのこっちだけどこのまま押し切るってことすか」

「うーん、まあ、俺は悪いことしてないんだけど、そうなるかなあ」

「人のもの横取りしたらあかんの、皇子……」

「考えは所有物じゃないし、早い者勝ちだからな。それと、俺は公権力で向こうは非認可団体、俺のほうが国際法的にも帝国法的にも正当だ」

「うわぁ……」

 

 非認可団体が、他人の所領地を好き勝手できるはずがない。況してや俺は、帝国全土を統治せしむる皇帝の血を引く正統後継者である(※末席)。

 この領地を天空に飛ばしていいのは俺。赤子でもわかる理屈である。法解釈上の正当性と、統治者としての実績と、民からの信任もない奴が文句を言う筋合いはない。

 

「だから先方には、丁重に謝り倒して事を収めてもらうしかなくてだな」

「急に弱気だねえ!?」

「多分竜を相手にするのと同じぐらいまずい、それも幻想種に近い竜」

「国滅ぶじゃねーか」

 

 さっきからキルケの瞳に光がないなと思っていたが、本当に光がなくなってしまった。生気がないというか、虚無である。

 

「そこでお前たちに頼みがある」

「もうお腹痛いよぉ……」

 

 さっと聖人(アナスタシア)が調合薬を差し出していた。多分胃薬か何かだろう。話を聞くキルケの顔色はどんどん悪くなっていっている。

 

「あの赤毛のオーベル……いやオーベリアか? とにかく赤毛の少女がいるんだが、その子と力を合わせて、教祖を抑え込む。力を貸してほしい」

「碌に名前も知らない相手が頼れる仲間ってわけなくない? オレおかしいかな? どうしよう本当に話が耳に入ってこない」

「大丈夫、さっき一緒に沐浴したときに敵ではないことは確認した」

「待って少女と沐浴したの!? さっき赤毛の少女って言ったよな!? 混浴!? え、え、え!?」

 

 先ほどから情報の量を処理しきれていないのか、賢者キルケは色々と狼狽していた。賢い彼女にしては中々珍しい光景である。英雄エイルからの話を聞くに、彼女は頼れる頭脳役だったはずだが。

 そんなことを考えていると、剣聖イオリが、あ、と思い出したように口を挟んだ。

 

「そういえば股間を痛そうに抑えていた子が遠目から見えたでござるな」

「皇子……! お、お、お前、()()()()をぶち込んだのか!? 死ぬぞ!?」

「違う違う! 俺はまだ童貞だって!」

 

 失礼な感想である。そもそも死ぬはずがない。別にオークより大きいわけではないのだから。

 

「大丈夫、なるべく戦いは回避するから。だから力を貸してくれ」

「信用ならねえんだよなあ……」

 

 賢者キルケは両手で顔を覆っていた。

 

 





そりゃもちろん、いきなり戦うより、会話で解決ですよね(フラグ)
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